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オミクロン株の特徴やいかに 専門家や研究機関の知見から見る 

 日本国内では、今年初めから急激に新型コロナウイルスの感染が拡大している。昨年夏頃から猛威を振るったデルタ株を凌ぐ感染力を持つ新変異株の「オミクロン株」による感染がすでに9割以上を占めているといわれており、置き換わりも進んでいる。オミクロン株については、新たな変異株として初確認されてから感染拡大まで時間が短かったことから、判断材料が少ないといわれてきた。日本全国で感染がピークに達し、さらに増加傾向にあるなかで「弱毒化している」「感染力が強い」「終息に向かっている」などの情報も飛び交うなか、少しずつ見え始めてきたオミクロン株の特徴について、国内外の専門家や研究機関等の知見をもとに調べてみた。

 

 まず、日本国内における現時点での感染状況を見てみる【図1】。

 

 全国の感染者は19日に4万1377人と初めて4万人台を突破し、過去最多を更新。さらに20日には4万6012人と、2日連続で過去最多を上回った。1月1日時点の全国の感染者数は454人だったが、わずか20日間のうちに一気にピークに達し、なおも増加を続けている。厚労省は13日時点で国内の感染者のうち8割がオミクロン株への感染疑い例としており、感染拡大が続いている現時点においてはさらに置き換わりが進んでいるものと見られている。

 

 全国の感染者数が過去最多を更新する一方で、重症者数はかなり少ない。デルタ株が大流行した9月には、多いときで2200人の重症者がいたが、19日は287人となっている。

 

 一方で、たとえ重症化率が低くても、感染者数が多い分入院する感染者はデルタ株流行時に迫る勢いで増加している。19日時点で入院治療等を要する者は18万3162人となっており、前日比2万8871人増加している。そのため、デルタ株流行時同様、今後の病床逼迫が懸念されると同時に、感染者が多いが故に感染者や濃厚接触者として休職をよぎなくされる医療従事者が多いこともあり、現場の人員不足による診療制限などの影響も各地で発生している。

 

オミクロン株 潜伏期間は3日程度

 

 オミクロン株は、昨年11月に南アフリカで新たな変異株として急激に感染が広がり、世界保健機関(WHO)が正式に「オミクロン株」と命名した。この発表を受け各国が南アフリカ発の航空便を停止するなどの措置をとり、警戒を強めていた。日本国内でも11月28日には国立感染症研究所が「懸念される変異株」と位置付け、警戒を強めるよう呼びかけた。その後国内では、同月30日に最初の患者が確認されている。

 

 オミクロン株の特徴として、確認された当初から「感染力が強い可能性がある」といわれていた。既存の変異株よりも多い30カ所以上もの変異が見つかっており、その結果、人の体内にある細胞の受容体に結合しやすいことが、感染力が強い原因といわれている。また、気道の上部にあたる鼻やのどなどの「上気道」に付着しやすく、そこで増えやすいといわれている。そのためくしゃみやせきによってウイルスがより周辺に飛散しやすいことも急速な感染拡大の一因と考えられているようだ。

 

 また、査読前の論文ではあるが、オミクロン株は鼻や副鼻腔を含む上気道で、デルタ株の100倍以上の速さで複製されることも示唆されている。一方でほかの変異ウイルスと比べて肺の細胞に効率よく感染できないとの見方が強い。その結果、人体へのダメージが少なく、症状も重くなりにくいため重症化しにくい。実際にオミクロン株に感染したげっ歯類では肺のウイルス量が著しく少ないことが、いくつかの研究からわかっている。

 

 日本国内では、ほぼ沈静化していた年末から1カ月経たないうちに全国の自治体で過去最多の新規感染者数を記録している。オミクロン株の感染力はデルタ株の2~4倍とされており、置き換わりも急速に進んでいる。デルタ株が最初に国内で確認されてから感染者のうちの7割を占めるまでに2カ月半かかったのに対し、オミクロン株は1カ月もかからないうちに7割にまで達している。

 

 オミクロン株の感染経路は、従来の株と同様に、飛まつや「マイクロ飛まつ」と呼ばれる密閉された室内を漂う小さな飛まつが主で、ウイルスがついた手で鼻や口などを触ることによる接触感染も報告されている。国立感染症研究所などによると、オミクロン株の潜伏期間は平均3日程度で、従来株の5日より短い。

 

 オミクロン株の症状は、鼻やのどといった上気道の炎症を引き起こしやすいことが大きな特徴だ。その他にも37・5度以上の発熱、せき、倦怠感、頭痛など一般の風邪に似た症状が目立つ。一方でこれまで主な症状とされてきた味覚障害などは極端に減っている。また、基礎疾患のある人や免疫力が低下している人、ワクチン未接種の人などは感染しやすいという。

 

他の変異株との違い 免疫持つ人でも再感染

 

 オミクロン株には、既存のワクチンでできた抗体がウイルスにくっつきにくくなるような新しい変異がいくつもある。オミクロン株は「免疫逃避型変異株」といわれ、デルタ株などに一度かかって免疫を獲得したはずの人が再感染したり、ワクチンを2回接種したのに感染する「ブレイクスルー感染」がこれまでの変異株よりも高い確率で起きることもわかっている。

 

 オミクロン株の感染力が高く重症化率が低いことについて、アメリカのワイル・コーネル医科大学のワクチン研究者でウイルス学者のジョン・ムーア氏はメディアのインタビューで以下のように説明する。

 

 「ウイルスにとっては、自分の複製を作って次の宿主に感染できさえすれば、感染した相手が生きようが死のうが、どうでもいいことだ。上気道に感染しやすく、免疫をより回避し、感染力が強いといったオミクロン株が遂げた変化は、感染した相手を重症化させることなく自分のゲノムを複製するように進化したことで、ウイルスがみずからの未来を確かなものにしようとしている兆候だ」。

 

 免疫を回避するオミクロンの特徴についてWHOは「ワクチンや過去の感染によって免疫を持つ人でも再感染しやすくなる変異がある」としている。

 

 また、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドン(大学)は、オミクロン株の再感染のリスクは、デルタ株に比べて5・41倍高いとの報告を出している。他の変異株によって得た抗体がオミクロン株には効かないということは、逆にいうと、オミクロン株に感染した人の抗体は、デルタなど他の変異株には効きが悪いという可能性もあり、研究者からも今後「注意が必要」との指摘がある。

 

 一部SNSなどでは「重症化しにくいオミクロン株に感染して免疫力を得るのが得策だ」などの情報も出回ったりもしているが、同じ新型コロナウイルスでも変異株ごとに特徴があり、既存の株が次の変異株に対応した免疫があるとは限らないということのようだ。

 

 こうしたことからも「抗体」という観点から見ると、オミクロンは他の変異株と異なる部分が多いといわれている。「弱毒化して終息に向かう」という声があるが、オミクロン株の特徴だけを見て、新型コロナウイルスによるパンデミックそのものの長期見通しの根拠とすることは時期尚早との見方もある。

 

 むしろ、これまでの変異株と大きく異なるオミクロン株の出現は、コロナウイルスの変異の「振れ幅」が予想以上に大きくなり、今後さらに別の変異ウイルスが猛威を振るう可能性も示唆しているとして、多くの研究者らが「楽観視はできない」と警鐘を鳴らしている。

 

ワクチンの有効性 重症化予防の効果は大

 

 オミクロン株に対するワクチンの有効性についても、さまざまな検証が進められている。現在流通しているファイザー社、モデルナ社のmRNAワクチンは、もともと変異が起きる前の従来株に対して作られたもので、2回接種することによって約九割の予防効果を得られていた。その効果は、感染予防と重症化予防の二つがあった。

 

 しかしその後の変異株の出現により、とくにデルタ株に対しては、感染予防よりも、重症化を予防する効果で意味合いが大きくなった。現在流行しているオミクロン株においても、2回目の接種から半年以上過ぎた人では、感染予防効果は2~3割ほどまで落ちるが、重症化予防効果は7割ほどの水準を維持していることがわかっている。

 

 最近、報道等でも呼びかけられている「ブースター接種(追加接種)」とは、2~3割ほどまで落ちた感染予防効果を一時的に7割程度まで回復させるというものだ。それと同時に重症化予防効果も九割ほどに戻るとされている。

 

 イギリスの保健当局が示したデータ【図2】では、オミクロン株に対しては、ファイザーやモデルナのmRNAワクチンで、2回の接種から2~4週間後には発症を防ぐ効果が65~70%だったが、20週をこえると10%程度に低下した。

 

 ファイザーのワクチンを2回接種した人が3回目にファイザーかモデルナの追加接種をすると、2~4週間後には発症を防ぐ効果は再び65~75%に上がった。ただ、5~9週間後では55~70%に、10週をこえると40~50%に下がるなど、オミクロン株の場合、ワクチン効果が持続する期間はデルタ株に比べて短くなっていることがわかる。

 

 イギリスの保健当局は、「オミクロン株は重症化リスクが低いといっても、感染拡大のスピードの速さや免疫から逃れる性質があるため、必ずしも医療機関への負荷が減ることを意味しない」と強調している。イギリスの保健安全庁(HSA)の報告によれば、ワクチンのブースター接種を終えた人は、未接種の人に比べてオミクロン株感染による入院率が88%も低いことがわかっている。英国各地の病院からの報告では、現在、集中治療室に入っている人の大半がワクチン未接種の人だという。

 

 WHOは、2022年半ばまでに全世界の人口の70%にワクチンを接種するという目標を掲げている。しかし、米国のような富裕国では人口の60%以上がすでに接種を済ませている一方で、低所得国では遅れている。世界で初めてオミクロン株が確認された南アフリカでは、規定の接種を終えているのは人口の27%にとどまり、ナイジェリア、パプアニューギニア、スーダンでは、3%にも満たない。低所得国でワクチン接種が遅れるのは供給の不足だけではなく、ワクチンを迅速かつ広範囲に配布するための大規模なインフラ整備が進んでいないことも課題だ。

 

 新型コロナウイルスは、一人の人間の体内で少なくとも数千回、自身のゲノムを複製している可能性があるといわれている。その複製の過程で遺伝子コードに間違いが入り込みエラーが生じるなかで変異が起きる。細胞への感染とその内部での複製が目的であるウイルスにとって、変異を起こすことはごく当たり前のことだとされる。その変異がウイルスにとって有利に働くことがあるのは10万分の1程度の確率といわれているが、体内でウイルスの複製回数が増えるほど、そのリスクは高くなる。

 

 新たな変異株を登場させない最善の方法は、ウイルスが拡散・複製する余地を与えないことだとされている。そのためにも世界的にワクチンを公平に供給することは重要な課題だといえる。ワクチンには重症化を防いで命を救うほかにも、ウイルスの複製を抑えるという利点があるからだ。

 

 ワクチンを接種した人のブレイクスルー感染は症状が軽くなる傾向にあるということは、世界中のさまざまな症例のなかから明らかにされてきたことである。つまり、ワクチンを接種していない人が感染した場合に比べて、ワクチン接種者の感染時はウイルスを排出する期間が短くなると同時に、ウイルスが体内で複製する時間も短くなり、ほかの人の体内で複製する機会も減少する。

 

 感染力が強く、日本国内で急速に拡大を続けるオミクロン株だが、年末から同株が大流行していたアメリカやイギリス、新たな変異株として初めて発見された南アフリカなど、「オミクロン先進国」では、すでにほとんどの地域で減少傾向にさしかかっており、オミクロン株の流行は終息に向かっていると見られている。次にどの国でどのような変異株が発生するかは誰にもわからないことであり、このままオミクロン株による感染が沈静化したとしても新型コロナウイルスそのものが終息するとは限らない。情報を発信している研究者の多くが「楽観視できない」という厳しい見方を示している。

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