いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

コロナパニックで生活に深刻な打撃 閑散とする商店街や歓楽街

 新型コロナウイルスの感染拡大によって経済的な打撃が広がっている。最初に一斉休校で働く親や祖父母たち、学校現場は大騒ぎとなり、学校給食に食品を納入する業者などに衝撃が走った。それに加え政府の自粛要請で大小問わずほとんどのイベントが中止・延期となり、飲食店にもショッピングモールにも飲み屋街にも人が出てこない。非常事態宣言以前に全国で自粛が広がって、売上が大幅に減少している事業者は多く、「確定申告後、税金を納める時期が大変だ」「消費税の見込み納税時期に支払いができるだろうか」「うちの影響はリーマン・ショック時以上だ」など、深刻な状況が語られている。地方経済は長く不景気が続いており、消費税増税でさらに冷え込んでいたところに新型コロナ騒動が追い打ちをかけている。安倍政府は10日、第二弾の緊急対策を発表したが、第一弾と合わせて1兆6000億円(政府支出分は782億円)と、リーマン・ショック時の総額36兆円と比較しても微々たる金額だ。中小零細企業に届く支援策を求める声が高まっている。

 

 下関市では3日、初の感染者が確認されたことで、自粛ムードがさらに広がっている。

 

 市内でも有数の観光地となっていた唐戸市場では、この間、日韓関係の影響で韓国人観光客が激減していたが、新型コロナウイルスが発生し、中国人やアジアからの観光客もほとんど訪れなくなっている。

 

 22店舗が参加する週末と祝日の握り寿司イベント「活きいき唐戸市場馬関街」は市のイベント自粛要請を受けて6~15日まで中止し、4日から唐戸市場横の大型バス駐車場も封鎖されている。市は12日、唐戸市場業者連合協同組合と活きいき唐戸市場馬関街に対し、イベント自粛延長の要請をおこなっており、今後の対応は検討中だ。だが週末の握り寿司イベントでの売上が経営を支えている業者も多く、売上の減少は深刻だ。

 

 関係者の一人は、「もともと魚屋で、魚で勝負するつもりでやってきたが、それが成り立たないので当面稼げる寿司をやり始めた。店によってもうけは違うが、多いときは1日数十万円からあったのではないか」と話す。自粛ムードが広がるなかで、平日の客もさらに減少しており、菓子や干物、土産物などを売る店舗にもほとんど客が来ない状態が続いている。ある商店主は「市場にこれほど客が来なくなるとは思わなかった。平常の1割くらいだ。このままいけば従業員もいるので大変なことになる」と話す。

 

 別の業者も、「納入業者や従業員にも手当を支払えていないので、延長期間が長引くと経営が持たなくなる。今のところ業者が融資を申し込むしか支援を受ける方法はないが、年明けからずっと客が減り続けてきて3月がこの状況。4月、5月の連休までこの状態が続くかもしれないのに、融資を受けても返済する目途がなく、怖くて手を出せない」と話した。「大型設備を設置して金融機関への返済が続いているので、そのうえに融資などとてもではないが受けられない。加工品も売れず、痛みそうなものを家族で食べている。売上は平時の一割どころではなく、もっと少ない」という事業者もいる。

 

 同じく観光地である長府地区も影響が大きい。同地区の観光施設は、中国や韓国、台湾など海外からの観光客が参加するツアーに組み込まれており、ツアー客が店舗で土産物を買ったり、レストランで食事をとれるようにしていた。しかし、客が来ないため3月に入りレストランは閉鎖している。「日韓の衝突で日本製品の不買運動が騒がれ始めたころから、韓国からの観光客は急激に減っていたが、今回のコロナ騒動で中国方面からの客もほぼゼロになった。日本人客のツアーもほとんどキャンセルで、個人的に観光で訪れる客くらいしか来ない」という。

 

客足が途絶えた居酒屋 年度末のかき入れ時に…

 

 飲食店にとって年度末のこの時期は、卒業式や入学式、送別会などさまざまな団体の集まりがあり、もっとも人が動くかき入れ時だ。しかし、卒業式・卒園式後の謝恩会はほとんどの学校、幼・保育園が中止しており、市役所も学校も退職者の送別会を中止、金融機関や企業などの送別会や会合なども軒並み中止になって、人の動きが止まっている。

 

 和菓子屋の店員は、「寺の行事や学校の卒業式や送別会、集まりごとの土産にお菓子の注文を受けることが多く、本来なら忙しい時期だ。しかしコロナによるイベント自粛要請によってみなキャンセルになり、製造量は例年に比べて半分以下になっている。このまま長引けば4月の歓迎会や入学式関係の行事もキャンセルになるのではないか」と危惧していた。あるカラオケ店は、幼稚園や保育園の卒業記念パーティーのキャンセルラッシュに頭を抱えているという。

 

 歓楽街・豊前田商店街も、下関市内で感染者が発生した3月3日以降、客足がぱったり途絶えている。「下関で感染者が出たらしい」という噂が流れ始めた2月26、27日頃から客が減り始め、3月に入ってからは通りを人が歩かない状況が続いている。

 

 飲み屋の店主は、「今月に入ってから数えるほどしか客が来ていない。とにかく出費を減らすしかないので、今はほとんど仕入れをしていない状態だ。葉物など足がはやいものは予約があったときだけ買うようにして、あとは揚げ物や冷凍物、酒類だけにしている」と話す。冷蔵庫を2台、食材用に備えているが、業務用冷蔵庫は電気代が高い。経費節約のため1台を片付けて電源を抜くつもりだという。

 

 別の居酒屋は、2月末からすでに20~30件、人数にして100人以上のキャンセルが出ているという。卒業式や卒園式などの謝恩会のキャンセルも多く、16~22日の1週間は予約ゼロだ。今のところその翌週のキャンセルの連絡はないが、自粛期間の延長を受け、キャンセルが出ることを覚悟しているという。仕出し業者で、3日間ある大型会合の弁当(1日300食×朝・昼・晩、計2700食)を受注していたが、キャンセルになったケースもあるという。

 

 下関市内の旅館の女性は、「政府の自粛要請が出てから、宿泊のキャンセルはずっと続いている。座敷での食事でも“席を隣から1㍍以上離して設置してほしい”など、これまでになかった要望もある。そもそも客数が減っているので、普段は対応していない送迎もサービスでおこなっている。それでも割にあわないので、パートの職員を休ませたり、土日に駐車場に配備していた警備員を休ませたりしなければ資金繰りができない状態だ。これから歓送迎会シーズンだが、このままでは商売にならない。どの業界もこのままでは厳しいのではないか」と危惧していた。

 

 学校給食に食材を納入していた業者は、給食のキャンセルに飲食店の仕入れ減少が重なり二重の打撃を受けている。150万~200万円の損害が出たという業者もある。ある業者は「2月の給食分の食材は返却できたものの、3月は仕事が丸ごとなくなったので打撃が大きい。学校給食もあるので配達するために運転手をたくさん抱えていたが、その人件費をどうするかも問題だ。休ませれば休業補償があるのだろうが、学校専属ではないので、“休んでくれ”ということもできない。だが、通常通り仕事がないので休憩時間が多い状態だ」と話した。宴会などの中止で、飲食関係に卸していた食材も売れなくなっているという。複数の学校に納入していた豆腐店も、学校給食の収入がゼロになるため痛手を受けている。

 

美容室でもキャンセル相次ぐ 卒業式の中止が影響

 

 美容室を経営する男性は「2月、3月は卒業式や入学式に備えて来店する人が増えるため、1年のなかでも一番忙しい時期だ。しかし小中学校の卒業式が開催されるかどうかわからなかったので、2月の後半から例年の半分近くまで客足が減った。さらに3月の第1週の土曜日はもっとも忙しくなるはずだったが、客が1人も来なかった。下関で店を構えて客が1人も来なかった日はこれが初めてだ。卒業式はやるようだが、保護者も子どもを家に置いたまま仕事に通い、さらに休日に髪を切りに来るような余裕がないのではないか。個人経営の店舗でもこれほどの変化が出ているということは、みんなかなり混乱しているはずだ」と話す。

 

 大学近辺で営業する美容室も、女子学生から卒業式当日の髪のセットと着付けを頼まれていたが、卒業式が中止になり、キャンセルがあいついだという。「ほかの大学近辺の美容室も影響があると思う。うちは1人なのでまだいいが、人を雇っている美容室は大変だろう。国がコロナ対策で融資をするというが、仕事がなければ借りても返せない」と話した。

 

 1人でも感染者を出せば営業停止になることを危惧した自粛もあいつぐ。「親戚の子が春に予定していた結婚式を秋に延期した。結婚式場はキャンセル続きだという」「友人の孫が小倉のホテルで結婚式をする予定にしていたが、会場のホテルからキャンセルの話があった。1人でも感染症患者が出ると営業停止になるからだろう」などと語られている。延期できない葬儀も規模を縮小するケースが増えており、こうした業界にかかわる花屋や飲食業者にも影響が広がっている。

 

対応苦慮する介護施設 厚労省の面会制限で

 

 神経をとがらせているのが医療機関や介護施設だ。安倍首相が一斉休校を発表した2月27日、下関市内の病院や介護施設は「面会禁止」の貼り紙を貼り出した。

 

 同24日に、厚労省が全国の自治体に「介護施設での家族の面会は緊急でやむを得ない場合以外は制限すること」を要請しており、各病院や介護施設で判断して対応したものだが、「1人でも感染症患者を出したら市から休業を求められる。そうするとたくさんの入所者や家族に迷惑をかけるので、みんなピリピリしている」「うちは面会禁止といっても特例は認めている。入所者の体を心配して面会しに来る家族をむげに断るわけにはいかない」と苦労している様子が語られている。名古屋市では2カ所のデイサービスで感染者が出たため、市が緑区と南区のデイサービス126施設に2週間の休業を要請。影響が出る高齢者は約5800人にのぼった。高齢者の重症化リスクを心配するのは当然としても、一斉休業となれば、利用者とその家族に負担が大きすぎると論議になっている。

 

 下関市内に住む高齢者Aさんは、妻が特養に入所している。介護士の人手が足りず、食事介助もままならないなか、毎回の食事も本人が時間通りに食べなければすぐに下げてしまう。そこでAさんが毎日、施設に通って食事を食べさせていた。それが面会禁止になってできなくなり、このままでは食事ができず身体が弱ってしまうのではないかと心配している。「感染者が出た施設で一斉休業することは意味があると思う。しかし感染者が出ていない施設も含めて一律に制限をかけてしまうと負担が大きすぎる。出入りの業者も入れなくなったそうだ。面会禁止が2週間から3週間に延びたので、施設と相談して、週に2回でも食事介助に入れてもらおうかと思っている」と話した。

 

 

 金融機関には飲食店とともに、建設業者からの相談も寄せられている。トイレや風呂など水回りの設備備品の多くが中国で製造されており、部品が入ってこないため、建築中の物件の納期が延びて資金繰りに困っている建築業者が出ているという。部品が入る見通しが立たないため、多くの建築業者が新規の受注を中止しているという。アベノミクスでさんざんに疲弊してきた日本の経済が、コロナウイルスでとどめをさされている。

 

 目に見えないウイルスであるからこそ、その特性を知り、冷静に対処しないことには社会的パニックの方が深刻になる。対応の遅れと一斉休校をはじめとする科学的知見に基づかない対策が、混乱に拍車をかけている。

 

 日本のPCR検査数の少なさは世界的に見ても突出している。8割が軽症であるからこそ、感染が拡大するというウイルスの特性からして、早期に検査をして陽性か否かを判断することが感染防止にとって重要だといわれるが、日本より遅く発生した韓国が18万人以上、イタリアが4万人以上検査している段階で、日本は7000人超だ。

 

 「帰国者・接触者相談センター」に相談する基準として専門家会議が示していた「風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続いている」とした条件も、PCR検査体制のキャパシティに配慮したものであることを尾身茂副座長が明らかにするなど、その体制整備が遅れていることが浮き彫りになっており、そのもとで、たらい回しにされた挙句、重症化するケースがあいついでいる。ようやく検査体制の整備が始まり、山口県でも1日30件だった検査が最大60件できるようになったところだ。

 

 下関市内の鮮魚店主の男性は、「ニュースでは“マスクが足りない”“国内で何人感染”“何人死亡”など、いかにコロナウイルスが恐ろしいかというイメージが先行する報道の仕方が目立つ。これほど時間がたっていていまだにウイルスの全容がつかめていないのならそれも問題だし、わかっているならどういう対応をとるべきなのか、専門家による正しい情報を徹底的に国民に知らせなければならない。店に来る客も“市内の○○に感染者がいるらしい”など、本当かどうかもわからない噂ばかりを話している。こんな混乱がいつまで続くのか。市民の行動を正しく導く国や行政、報道の役割が機能していないことが重大な原因だと思う」と危機感を語っていた。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。