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原発で私腹を肥やす 原子力村の汚染は醜悪

 関西電力の岩根茂樹社長(電気事業連合会会長)は9月27日の臨時記者会見で、福井県高浜町の森山栄治元助役(今年3月死去)から、役員・社員20人が総額3億2000万円にのぼる多額の金品を受けとっていたことは認めたものの、詳しい内容についてはいっさい明らかにせずに追及を逃れようとした。だが巨額の原発マネーの還流に対する批判世論は全国的に沸騰し、再度2日に記者会見をおこない、一定の詳細を公表した。原発建設をめぐっては政官財の癒着をはじめさまざまな不正や買収、不法行為が横行してきた。今回は関電の高浜原発をめぐる「原発マネー」還流の構図の一端が明るみに出た。「原発マネー」は関電だけでなく原発を建設した全電力会社、官僚機構や地方自治体、政治家、司法、御用学者やマスコミなどに流れ、原発推進の陣営を構成してきた。狭い日本列島に54基もの原発を建設し、福島原発事故後も反省もなく再稼働をおこなうという無謀な原発政策強行の背後に「原発マネー」の存在がある。関電の事例は氷山の一角にすぎないが、これを契機に原発建設の反社会性を徹底的に明らかにすることが求められている。

 

謝罪して見せる関電経営陣

 まず2日の記者会見で関電が明らかにした事実関係から見てみる。

 

 高浜町の元助役から2011~18年の7年間に約3億2000万円相当の金品を受けとったのは20人で、そのうち12人について指名を公表した。()内は受けとった当時の主な役職。

 

 八木誠会長(原子力事業本部長)=859万円

 岩根茂樹社長(社長)=150万円

 豊松秀己元副社長(原子力事業本部長)=1億1057万円

 森中郁雄副社長(同本部長代理)=4060万円

 鈴木聡常務執行役員(同本部副事業本部長)=1億2367万円

 大塚茂樹常務執行役員(同本部副事業本部長)=720万円

 白井良平関電エネルギーソリューション社長(同本部事業本部長)=790万円

 長谷泰行元日本原燃常務執行委員(高浜発電所長)=230万円

 

 などで、20人の合計で現金が1億4501万円、商品券6322万円、米ドル15万5000㌦、金貨365枚、小判3枚、金杯8セット、金500㌘、スーツ75着で、総額が3億1845万円となっている。

 

 森山元助役は、高浜町の建設会社「吉田開発」から工事受注に関連する手数料として約3億円を受けとっていた。その金が関電の役員らに渡った。

 

 吉田開発の2018年度の売上高22億円のうち、関電からの直接発注額は2億5000万円、ゼネコンなどをとおした間接発注は10億6000万円で合計13億1000万円となり、売上高の半分以上が関電関連の受注となっている。

 

 岩根社長は会見で、吉田開発に対する過去5年間の直接・間接発注額について、2014年の6億8000万円から翌年には9億3900万円となり、16年には11億2000万円に増加、17年には22億4000万円と前年の倍以上になったと説明した。

 

 関電から吉田開発に流れた金が森山元助役に渡り、それが関電の役員らにキックバックされたことは歴然としている。

 

 今回の件は昨年1月に金沢国税庁が吉田開発の税務調査をおこない、森山元助役に3億円が渡っていたことが明らかになったことから判明した。森山元助役は3億円について国税局から申告漏れを指摘され、追徴課税された。そうした国税局の動きをつかんだ関電側は役員らが慌てて金品を返却したり修正申告し、公にはしないままで幕引きを図ろうとしていた。関電は国税庁幹部にも働きかけてこの事実を公表しないように要請していたとも語られている。

 

 関電が吉田開発に発注した工事費の原資は電気料金だ。関電は再稼働に向けた安全対策費用などが経営を圧迫し、高浜原発3号機を再稼働(2018年11月)するまでに2度にわたって家庭向け電気料金を値上げした。この値上げした電気料金が原資となった原発マネーが吉田開発から森山元助役に流れ、関電役員らに還流するという構図だ。

 

 しかも電力会社の電気料金は統括原価方式によって決められる。発電・送電・電力販売費、人件費等、すべての費用を「総括原価」としてコストに反映させ、さらにそのうえに一定の報酬を上乗せして電気料金を決めることができる。原発建設費や建設のための工作費用がどれだけふくらもうとすべてを電気料金に転嫁できるという方式だ。

 

 森山元助役に渡った3億円は関電が利用者から徴収した電気料金を原資とする原発発注工事費から出ており、その一部が発注者である関電幹部の懐に還流したのであり、明確な背任行為といえる。

 

 しかも国税局が問題にした2011年から2018年の7年間以外にも「原発マネー」の環流があったと多くが見ている。八木会長自身が「2006~10年に受領した」とのべているのをはじめ、1987年に助役を辞めてから亡くなるまでに30年以上の期間がある。実際には受領者の人数も総額もその数倍に及ぶのではないかとの見方もある。

 

稲田朋美は献金を受領 全電力に共通の問題

 

 だが関電の八木会長や岩根社長は今回の件で「原発マネー」の環流を認めず、「吉田開発から森山氏に資金が流れたかどうかはわからないが、工事発注のプロセスなどは社内ルールにのっとっている」「問題はあったが違法ではない」と開き直り、責任をとって辞任もせず、「膿を出し切ることが私の務め」などとうそぶいて反省の色はない。それどころか、これ以上この件での追及はなされないと高をくくっている様子だ。

 

 その「自信」の根拠なのか、この問題が発覚したあと中西経団連会長は「八木さんも岩根さんもお友だちなのでうっかり変な悪口もいえないし……」とコメントしている。中西会長は同じ原発企業である日立製作所の会長だ。また、菅原経産相は「言語道断だ」とはいうものの、「関電以外の電力会社については調査の必要はない」と問題を波及させることを阻止している。それもそのはずで、選挙では「脱原発」を唱えて当選したのに、経産相に就任した途端に「将来的に考えても(脱原発は)現実的ではない」と裏切った人物だ。

 

 関電の不正を暴く機関であるべき検察は捜査に動く気配を見せない。司法と電力会社の癒着も甚だしい。最近では検察は東電の福島原発事故の責任を問わず経営陣を不起訴にし、東京地裁は東電経営陣に無罪判決を出した。これまでも司法は原発関連の裁判では国を忖度する判決を連発している。

 

 その最たるものは、1992年に最高裁で原発容認の判決をくだした味村判事(故人、元検事)が原発メーカーの東芝役員に天下ったことだ。味村元最高裁判事は四国電力伊方原発と東電福島第二原発の建設許可とり消しを求めた2つの裁判で、原発の安全性にお墨付きを与える判決を下した。判決があった当時はチェルノブイリ原発事故から6年目で、脱原発の運動が高揚した時期であったが、そうした声を封じるための判決であり、その功績が認められたものだ。

 

 また、今回の件で明るみに出た一端には政治家の関与がある。

 

 会見で岩根社長は社内調査報告書について「森山氏が国会議員に広い人脈を有している」こともあって「関係を深めた」と説明した。森山氏が筆頭株主を務める警備会社「オーイング」(本社・高浜町)と、その関連会社の「アイビックス」(本社・福井市)が自民党の稲田朋美元防衛相に献金しており、アイビックスの吉田敏貢会長は稲田氏の後援会長を務めていた。アイビックスは2011、12年にそれぞれ36万円、吉田氏個人として11年に50万円を献金、オーイングも11、12年にそれぞれ12万円を献金していた。

 

 原発建設には自民党の国会議員が全国各地の立地点で関与してきた。関電の元副社長(故人)は少なくとも1972年から18年間にわたって在任中の歴代首相7人に年間2000万円ずつ献金していたと証言している。

 

 「原発マネー」の還流は関電にかぎったことではない。東電は企業献金にかわって役員の個人献金という形で、自民党の政治資金団体に95~09年の15年間でのべ448人、計5957万円を献金していた。その他にも組織的なパーティー券購入も明らかになっている。

 

 九州電力関連では、2015年の川内原発再稼働に賛成した二県議の親族企業が九電から2億9000億円の工事を受注していた。二県議や親族が経営する建設会社計4社が福島原発事故後の3年間で、川内原発や九電関連工事26件を受注、二県議は会社から報酬を受けていた。

 

 2人はいずれも自民党で、川内原発の安全対策を調べる原子力安全対策特別委員会(15人)に所属していた。同委員会は2014年11月、川内原発の再稼働推進を求める陳情を賛成11、反対3で採択した。

 

 これ以外にもまだまだある。関電以外の電力会社の「原発マネー」還流の実態にも徹底的なメスを入れる必要がある。

 

 こうした権力機関などの動向を見て、関電側は今回発覚した不正を「死人に口なし」とばかりに森山元助役や何人かの役員に責任を押しつけて幕引きをはかり、逃げ切ろうとしている。

 

 福島事故以後、国民世論は原発撤退が圧倒的であったが、安倍政府は原発再稼働と原発輸出を「成長戦略」と位置づけて強行をはかった。だが、原発輸出政策は、イギリス、ベトナム、トルコ、リトアニア、アメリカなどことごとく失敗した。原発再稼働も住民の反対を受けて政府や電力会社の思惑通りには進んでいない。福島原発事故の反省に立って、原発からの撤退を世界に先駆けておこなうべき日本政府が、あろうことか原発推進の旗振り役を買って出ていたが、その背後には薄汚い「原発マネー」の還流があったことが暴露された。

 

 福島原発事故の被災者は故郷を奪われ、家族を奪われ、8年たった今も避難生活を強いられている。福島原発の廃炉のめどもなく、汚染水処理や汚染土の問題など政府や電力会社が正面からとりくむべき課題は山積みだ。電力会社としての社会的な責任を放棄し、私腹を肥やすことに汲汲とする企業に原発を運転する資格はない。

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