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『黒い同盟 米国、サウジアラビア、イスラエル』 著・宮田律

 6月のホルムズ海峡での日本タンカーへの攻撃や、9月のサウジアラビア石油施設への攻撃をとりあげて、米国やサウジアラビア、イスラエルは「イランの犯行」だといって中東地域の緊張を煽っている。現代イスラム研究センター理事長の著者は、こうした「イランの脅威」をつくり出しているのはトランプ政府自身で、その緊張が中東で武器売却を推進する米軍産複合体にとって有利に働いていること、また、その背景には米国・サウジアラビア・イスラエルという3国の「黒い同盟」があるが、実はこの同盟はいまや国内外で孤立しており、その危機感の裏返しがイラン脅威論であることを明らかにしている。

 

 まず第一に、核合意を一方的に反故にしてイランに対する経済制裁を強化し、それによってイランが「暴発」することを期待したのは米国、トランプ政府である。核合意に参加していた英仏独中露のいずれの国もこれに反対したし、IAEA(国際原子力機関)も今年1月、イランが核合意を順守していることを確認し、トランプ政府を非難している。

 

 次に昨年10月、サウジ王室や政府への批判を英語で世界に発信していたサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で殺害され、トルコ政府によってサウジのムハンマド皇太子の関与が明らかになった。そのときトランプ政府は、巨額の武器輸出の相手国であること、原油価格安定のための役割があることを強調し、ムハンマド皇太子の責任を追及せず、サウジに制裁を科す考えは微塵もないと表明した。

 

 同時期、2015年3月からサウジは、ムハンマド皇太子の指示で「親イランのフーシ派を壊滅させる」といってイエメンへの空爆を続けていた。空爆は貯水池など水道施設も標的にしており、おかげで1600万人が深刻な水不足に見舞われ、10万人以上がコレラに感染したといわれている。昨年末には国連食糧農業機関(FAO)、国際児童基金(ユニセフ)、世界食糧計画(WFP)が、「世界最悪の人道危機のなか、2000万人ものイエメン人が満足に食べ物を手に入れられない状況にある」との緊急の共同声明を発表した。

 

 同じ12月、米国内でもサウジアラビアとの関係を批判する世論が噴き上がり、上院でサンダース議員らが中心になって、サウジによるイエメン空爆への米国の協力停止を求めることを審議する決議を、党派をこえて成立させた。米軍はサウジ軍戦闘機に対する空中給油や、爆撃の標的に関する正確な情報を提供し、「世界最大の人道危機」を引き起こすことに加担していたのだ。

 

 トランプは、サウジの記者殺害はイエメンでの市民虐殺が明らかになると、それを覆い隠すように「イランはイエメンでのサウジアラビアとの代理戦争に責任がある」とのべた。本当の敵はサウジではなくイランであり、イランが世界最大のテロ支援国家だと問題をすり替えようとした。しかし、そのウソはすでに見抜かれている。

 

国民の反発高まるサウジ

 

 一方、サウジアラビアやイスラエルの国内危機も深刻だ。

 

 サウジアラビアは議会や政権交代のない王制の独裁国家であり、イラン革命でイランの王制が崩壊した後に、アメリカが中東支配の重要拠点として米軍基地を置いてきた国である。その経済は世界一の原油輸出に頼ってきたが、核合意でイラン原油が国際市場に復活すると、イランは日産100万バレルの増産をめざすようになって石油価格が低迷し、IMFは原油安が続けばサウジの財政は5年以内に破綻するとの予測を発表した。これが核合意をサウジが疎んじる背景にある。

 

 財政危機に直面したサウジは、国営石油会社サウジアラムコの民営化・株式上場、国有地の売却、教育や医療の民営化をおこない、財政は2016年には前年の71%まで緊縮されたが、米国製の最新鋭兵器の大量購入と、ムハンマド皇太子の豪邸、ヨット、高級絵画などの無駄遣いは抑えられていない。

 

 これに対する国民の不満が、今や抑えきれなくなっている。サウジの人口は2000万人で、7割が30歳以下、失業率は12・7%。それ以外に石油産業で働く多くの外国人労働者がイエメン、エジプト、レバノン、シリア、パレスチナからやってきている。若者の政治への不満が高まる可能性があるという。

 

 これに加えてパレスチナ問題がある。サウジは今年5月、パレスチナ自治政府に、トランプの「世紀のディール」を受け入れて自治政府の首都を東エルサレムから変更するなら、10年にわたって100億㌦を与えると申し入れた。自治政府はイスラエルの不当な占領を固定化するものとして拒否した。メッカ、メディナというイスラムの聖地を抱え、イスラムの盟主を自認するサウジがイスラエルに接近し、アラブの大義を放棄することは、イスラム世界における威信を低下させ(逆にイランの威信は高まる)、サウジ国民を含むアラブ世界全体から総スカンとなりかねない、と著者は見ている。

 

 実はサウジのサルマン国王は昨年7月、息子のムハンマド皇太子に逆らい、トランプによるパレスチナ和平プログラムを拒絶する書簡をホワイトハウスに送りつけ、イスラエルの全占領地からの撤退を求めている。王制内部にも矛盾がある。

 

 米国は戦争の危機を煽って最新兵器を売りつけることはやめないものの、中東地域からは撤退続きで、すでに介入する力を失っており、サウジやイスラエルとの三国同盟も内外で孤立無援に陥っていることを、戦後の歴史的推移を含めて理解することができる。安倍政府のようにその米国やイスラエルの側に寄り添い続けることが、中東アラブ世界からの長年の信頼を失い国益を投げ捨てる、いかに愚かな選択かである。
 (平凡社新書、266ページ、定価900円+税

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