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アベノミクスはどこへいった 急激に落ち込むGDP

 アベノミクスはいったいどこへいったのか? この間、日銀がおよそ300兆円もの国債買いによって市場に円を供給し、文字通り「異次元の金融緩和」によって大企業の業績は上向き、ヘッジファンドなど外国人投資家たちはおおいに潤った。ところがいまやアベノミクスという呼称すら耳にしなくなるほど実際の景気は低迷し、メッキが剥がれ始めている。GDP(国内総生産)は消費税増税を受けた昨年度の年率マイナス0・9%に続いて、今年4月から6月までの3カ月の伸び率も、前の3カ月と比べてマイナス0・4%、年率換算でマイナス1・6%と大幅な減退を見せるなど、経済はガタガタと音を立てて崩れているのである。

 経済も外交も内政も傾く泥船

  内閣府が発表した4~6月期のGDP速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0・4%減となった。GDPの約6割を占めている個人消費が大きく落ち込み、設備投資もマイナスに転じ、さらに中国の景気減速で輸出が低迷したことが要因としてあげられている。
 この間のGDPの落ち込みは、とりわけ個人消費が低迷していることに大きな要因がある。昨年から消費税が増税になったことを受けて家計消費支出は一気に落ち込んだが、今年4~6月期も引き続き前期比0・8%減で低迷したままだ。消費税だけでなく電気料金が値上がりし、円安政策によって意図的にインフレがもたらされたことから輸入食材も値上がりした。一方で賃金は増えなかったため、みなが財布の紐を固く締めた。「デフレ脱却」「物価の2%上昇」といってモノの値段だけが上がり、勤労家庭は懐から抜かれるばかりだった。
 ベースアップ等等と大企業が触れ回り、政府は「トリクルダウン」理論を吹聴して上部構造が潤えば下層にもおこぼれが行き渡るといっていた。ところが厚生労働省が発表している毎月勤労統計調査によると、現金給与総額はリーマン・ショック以前よりもさらに低迷し、実質賃金も前年割れが続いている。恩恵を被ったのは正社員のごく一部にすぎず、ほとんどの労働者が蚊帳の外だったこと、過去最高益を上げた大企業は社会にその利益を分配しなかったことを正直に暴露している。

 最も重要なアジア 最大の貿易相手と喧嘩

 さらにGDPを押し下げた要因として輸出が4・4%減になったことも大きな特徴だ。「中国の景気減速」をいわざるを得ないほどいまや中国の経済成長に大きく依存している関係を暴露した。景気減速のアメリカ経済があてにならないこととかかわって、この何年かは中国にシフトしていた。尖閣諸島の問題などで政治的には緊張関係を強めながら日中貿易や中国人の「爆買い」が日本経済にとって大きな存在になっている。
 貿易について見てみると、リーマン・ショックが起きる2008年までは最大の輸出相手国はアメリカだった。しかしその後はアメリカ経済が後退し、中国が最大の輸出相手国となった。2014年段階ではアメリカが再びトップに返り咲いているものの、その輸出額は財務省の貿易統計によると13兆6500億円で、13兆3800億円の中国とほぼ拮抗している。世界への輸出総額73兆1000億円のうちアメリカが占める割合は18・7%に過ぎない。一方で中国、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、インドネシアなどアジア圏が39兆5200億円(54・1%)と大半を占めている。輸出立国である日本はアジア圏をもっとも重要な市場としていることがわかる。なお、輸出総額のうちEU向けは7兆5900億円で全体の10・4%、中東は2兆9900億円(4・1%)である。
 輸入相手国になると、こちらもリーマン・ショック後は中国がダントツの位置を占めている。同じく財務省貿易統計によると、2014年の輸入総額85兆8900億円のうち、中国が19兆1700億円(22・3%)とダントツで、二番目のアメリカは7兆5400億円(8・8%)。アジア圏で38兆6200億円(45%)なのに対し、アメリカは1割にも満たず、対EUが8兆1700億円(9・5%)、石油などのエネルギーを依存している中東が15兆8300億円(18・4%)となっている。
 経済的には中国や韓国をはじめとしたアジア諸国との友好関係を強めなければ、国としての存立基盤を著しく損ない、食料獲得もままならない関係をあらわしている。国内市場を貧乏にして海外市場を求めている独占資本にしても、成長著しい13億人市場を投げ出して喧嘩腰外交をすることが如何に愚かな行為であるかは論をまたない。

 日銀がマネー供給 外資の食い物にし破綻

 2012年末に安倍政府が再登板した頃から比較すると、GDPはわずか3年にしてドルベースでおよそ4割減となり、日本円換算でも11%減という数値を叩き出している。円安で輸出が増大して景気は良くなるといっていたが、輸出も伸びていない。もうかった企業利益が一般の国民に滴(したた)り落ちてくることもなかった。「景気は緩やかな回復基調」(政府・日銀)どころか、むしろ大不況突入をうかがわせるものとなっている。「アベノミクス」の惨憺たる結末を突きつけているのである。
 この間やったことは、要するに日銀が国債を大量に購入して円安政策を実行し、FRBになり代わって市場にばらまいたマネーを海外ヘッジファンドが食い物にしただけであった。投資先を失ってさ迷っていた金融資本が「アベノミクス」という人為的にひねり出したバブルに便乗して日本市場で株式を買い上げ、みるみるうちに日経平均は急上昇した。日銀が供給するマネーで外資がドル買いしたことによって円安となり、お手頃価格になった日本株を購入したことによって株式が跳ね上がるというイカサマであった。この「好景気」で潤った国民などほとんどいない。
 「国にカネがない」といって消費税や国民負担を強めながら、多国籍企業と化した大企業は法人税減税の恩恵を受け、みな海外移転して生産拠点を移していった。国内を散散に疲弊させ、いまやTPPによって日本市場を丸ごと外資に売り飛ばすようなことにも躊躇がない。後は野となれで、日本の国益などまるで念頭にない経済政策を実行した挙げ句、短期間で破綻しているのである。
 1億2000万人の国民が消費し、経済活動が循環しないことには景気回復などあり得ない。生活するに足る満足な賃金がなければ購買意欲につながらないこともわかりきっている。ところが、引き続き非正規雇用の自由化を実行させているし、1億2000万人市場を貧乏にして「車が売れない」「モノが売れない」と嘆き、海外市場を追い求めているのが独占資本である。これらが利潤を握りしめて離さないなら不景気になるのは当然である。強欲な資本がますますもうけるための市場原理改革であり、そのための金融政策が「アベノミクス」だった。
 「アベノミクス」はわずか3年にしてその姿が暴露され、安倍晋三ともども退場間際まで追い込まれている。内政は安保関連法制で収拾がつかないほど追い詰められ、外交分野では近隣諸国と首脳会談が開けないまで関係を悪化させ、頼みの綱だった経済政策もアメリカを中心とする金融資本に食い物にされて終わろうとしている。小泉改革に輪をかけて日本社会を崩壊させてきた責任を問わないわけにはいかない。

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