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TPP大筋合意 米国に日本市場明け渡す暴挙

 環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加12カ国が5日、アメリカのアトランタで開催されていた閣僚会合で大筋合意した。TPPはアメリカのごく一握りの巨大多国籍企業の利益を守るための「自由貿易協定」であることが暴露され、参加各国で労働者や農民、医療関係者や知識人など各界各層の反対運動が高揚してきた。TPPは参加各国に「アメリカ・ルール」を押し付け、国内法を変えさせ、従わない国はISD条項で締め上げるもので、国家主権さえ奪う凶暴なものであることに警鐘が鳴らされてきた。自民党は2012年の総選挙では「TPP反対」を公約に掲げて議席を獲得し、登場した安倍政府が3カ月後には「TPP参加」を表明する詐欺的手口でアメリカのお先棒を担いできたが、その後の経過を見ても、譲歩に譲歩を重ねて国益を売り飛ばしてアメリカの要求を丸呑みし、大筋合意のために奔走するという対米従属の走狗になりはてている。安保法制の強行可決ともあいまって、日本の国益を丸ごとアメリカに差し出す売国性を見せつけている。今後TPPの国会批准阻止をめぐってさらに国民的な大運動が巻き起こることは必至である。
 
 安保法制と連動した売国政治

 TPP交渉は秘密交渉を原則としており、内容については国民には隠し通してきた。それは、公になれば国民的な反発が必至であるために考え出された措置である。大筋合意を受け12カ国は今後、議会での批准手続きに入るが、この段階ではこれまで秘密にされてきた内容が国民の前に明らかにされることになり、各国で批准阻止の運動が起こることがすでに予想されている。
 今回の閣僚会合で大筋合意した点で明らかになっているのは、農業分野でアメリカとの間で最大の焦点だった主食用コメは、7万㌧の無関税輸入枠を新設することである。また、アメリカだけに特別枠をもうけることにオーストラリアが反発し、オーストラリアに対しても年間8400㌧の無関税輸入枠を新設しなければならなくなった。合計で7万8400㌧の主食用米が無関税で流入する。
 牛肉では現在38・5%の関税を最終的に9%まで引き下げる、すなわち関税ゼロと同程度にまで譲歩した。豚肉でも現在価格の安い肉には1㌔当り最大482円の関税を50円にまで引き下げる。これもほぼ関税ゼロの水準である。乳製品ではバター、脱脂粉乳については7万㌧まで輸入枠を増やす、大麦、小麦についても関税を45%削減する。砂糖関連ではココア調製品などに一定の無関税枠をもうける。農業分野では「重要品目」についてアメリカが要求してきた「関税撤廃」をほぼ容認した。
 日本の食料自給率は現在すでに39%という先進国では最低であるが、TPP合意で10%の水準に落ちると試算も出ている。農産物分野での大幅譲歩は国民の食料生産にかかわる問題であり、農業者だけでなく全国民的な死活問題となってくる。
 自動車については、アメリカは、日本製自動車部品の80%超で関税を撤廃することで合意。また日本製自動車に課す2・5%の関税を25年かけて撤廃することでも合意した。アメリカ、メキシコ、カナダ、日本は、TPP域内で生産された部品をどの割合使えば自動車関税をゼロにするかを定める「原産地規則」でも、TPP加盟国から調達する部品の割合を「55%」程度とすることで大筋合意した。
 焦点となっていたバイオ医薬品の開発データの保護期間をめぐっては、これまでアメリカが12年を求める一方、オーストラリア、ニュージーランドなどは5年を主張してきたが、結局、最低5年に別の手続き期間として3年を加え「実質最低8年」とすることで各国が妥協した。
 また、為替政策の原則について協議することでも合意した。これはアメリカの製造業者の間での“日本が自国の自動車産業などに有利になるように円安に誘導している”との批判を代弁したものである。今回の合意には労働分野の規制緩和についても盛り込まれている。このほか各国の公共工事などの入札手続きのルールを定めた「政府調達」分野での規制緩和やISD条項を盛り込むことも合意した。
 TPPは、アメリカの中国封じ込め戦略の一環であり、貿易・投資のルールづくりをアメリカ主導で進めるものであった。そのアメリカに追従し、早期妥結の旗振り役を担ったのが日本であり、「早期妥結」「早期大筋合意」を掲げて譲歩に次ぐ譲歩を重ね、農業や医療、労働など国民生活にかかわる全分野で国益を売り渡してきた。アメリカに日本市場を明け渡し、得をすることは何もない。日本社会の秩序を破壊し、米多国籍企業の直接収奪を強めるものにほかならない。
 大筋合意後の今後の流れは、各国議会で承認・批准し、協定発効となる。アメリカは協定の発効を2017年をめどにおいている。今後、今回の閣僚会合で積み残した細かい部分を事務レベルで詰めて協定の条文を完成させ、米国は議会向けに条文案を開示する。日本政府も日本語版の解説資料を公表する。
 他の国でも同様の作業が進むが、各国が譲歩し合った内容が明らかになる今後の段階で、TPP協定がすんなり議会を通ることはきわめて困難であり、それぞれの国で国民的な反発が予想されている。

 米多国籍企業のため 国民だまし続けた政府

 この間の安倍政府のTPP対応を振り返って見ると、アメリカの多国籍企業の利益のために国民をだまし続けてきた詐欺的な手口であった。
 自民党は2012年暮れの総選挙で「TPP、交渉参加にも反対」を公約に掲げた。公約のなかには、TPPに関し「農産物の関税」「医療」「自動車」「食の安全」などが守られなければ参加しない、「主権を脅かすISDには絶対反対」などと記していた。そして圧倒的多数の自民党候補者が「TPP絶対反対」のポスターをつくって訴えた。選挙後は、「TPP交渉への参加そのものに反対」と、250人以上の自民党議員が「TPP参加の即時撤退を求める会」まで結成した。それから3カ月も経たない翌年3月に、安倍首相がTPP交渉への参加を表明した。議員たちも「TPP交渉における国益を守り抜く会」と名前を変更した。同年七月の参議院議員選挙では自民党は「TPP交渉に参加しても守るべきものは守る」と公約、「農林水産分野の重要五項目や国民皆保険制度などの聖域を最優先」とした。そしてそれができない場合は「TPP交渉から脱退も辞さない」とした。また、参議院選挙の公約では、「交渉力を駆使し守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めることにより、国益にかなう最善の道を」ともいってきた。
 そして国民をだまして参議院議員選挙に勝利した後は、アメリカの旗振りとなってTPP交渉推進に突進した。10月には、重要5項目を関税撤廃の例外とすることを否定し、麻生太郎副総理は「最悪のことを考えておくのは当然」などと公言し始めた。そのうえで2014年暮れの総選挙でも自民党は参議院選挙での公約をくり返し、国民を欺いた。
 4月の安倍首相訪米にさいしてはTPP早期妥結を手土産にするようアメリカ側からの画策があり、日本側がこれに応えた。訪米すると安倍首相はアメリカ議会にTPP交渉を促進するように働きかけるなど、オバマ政府の下働きとなった。
 4月の日米首脳会談後の記者会見で、オバマ大統領は「TPPでアメリカに市場が開かれ、アメリカは輸出を増やすことができ、アメリカの雇用が拡大する」とのべ、TPPが「アメリカのための自由貿易協定」であることを強調した。そして安倍首相は「TPPの早期妥結」のために力を尽くすことを宣言した。
 TPPは、アメリカのの多国籍企業のルールを各国に押し付けるものである。しかも交渉は秘密にされ、国民に知らされないままで大筋合意まできた。アメリカの多国籍企業は、相手国に法律変更をも要求する。その分野は、知的財産権、テレコミュニケーション、税関、労働、農産品、紛争解決、外国企業のための措置、医薬製造承認におけるデータ保護期間の変更など、実に多岐にわたる。とりわけ海外進出した企業が投資先で不利益を被った場合、賠償を求めて相手国政府を訴えることができるISD条項は、アメリカ企業がすでに各国で訴訟を起こし、非難の的になっている。
 ちなみに、TPP交渉参加国は日本、アメリカ、オーストラリア、シンガポール、チリ、カナダ、メキシコ、マレーシア、ペルー、ニュージーランド、ベトナム、ブルネイの12カ国。来年初めにも協定に署名する予定で各国での批准手続きが開始されるが、協定の全容が国民の前に明らかになることで猛烈な反発が起こることは必至である。
 安保法制の強行採決は、アメリカの戦争のために日本の若者を世界中のどこにでも肉弾として派遣するためのものであり、国会を何十万人もの人人が包囲し、反対運動はますます高揚している。それに引き続くTPP交渉の大筋合意は、アメリカの多国籍企業に国家主権を脅かされることも辞さず、日本の国益を国民生活全般にわたってアメリカに差し出すものである。対米従属の売国政治に対して、全国民的な大衆運動で包囲することが緊急の課題となっている。

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