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友好関係台無しにする安倍外交 下関に見る実情  中韓に輸出入の9割を依存

 民主党から自民党に至る歴代政府が、中国や北朝鮮、あるいは韓国といったアジアの近隣諸国との緊張関係ばかり激化させることに、貿易や経済活動で直接に影響を被っている人人や、人的交流を深めている人人の多くが、なぜ友好と平和の関係を築かないのかという思いを強めている。年末には安倍晋三首相が靖国神社を参拝し、ただでさえ冷え込んでいた中国や韓国との関係をさらに悪化させていることに対して、経済面、文化面など様様な方面で関係が密接な下関でも、「なぜ、あえてそのような行為をするのか」という声が高まっている。
 
 軍港化で緊張激化する港町

 下関では、地元に戻ってきた安倍晋三首相の新春の集いが4日に海峡メッセで開かれ、1枚3000円のチケットが年末にかけて企業関係をはじめとした各界を駆け巡り、およそ2700人(主催者発表)が集められた。代議士挨拶のなかでは、これまで恒例だった中国批判や北朝鮮批判が影を潜め、靖国参拝以後の各国の反応を意識したものなのか、右傾化発言を封印していたことが話題となった。出入り口では金属探知機や参加者用に配られた青バッチの所持の有無を問う徹底的な警備が実施され、SPを多数配置して厳重な警戒体制となった。
 小泉純一郎の靖国参拝、尖閣問題、北朝鮮や韓国を巡る諸諸の動きを通じて、近隣諸国との関係が悪化する度に、下関でも大小を問わずその影響が及んできた。
 下関港で貿易に関わっている人人のなかでは、輸出、輸入ともに九割近くを中国、韓国の二国に依存し、重要な貿易相手国であることが指摘されている。取扱量は博多港などには遠く及ばないものの、本州最西端で釜山港にも近く、最短距離であることなどから、地の利を生かした利用促進策に力を入れ、東京や関西方面、さらに中国や韓国に飛んでポートセールスを展開するなど、「下関港を利用してほしい」というお願いをくり返してきた。ところが政治的な対立が激化するとこれらの関係が台無しにされかねず、「われわれの努力は涙ぐましいものがあるのに、どうして政治がその関係をぶち壊していくのか」という思いが語られている。
 下関港で扱われている輸出物、輸入物はリーマンショックの影響を受けた平成21年度に、輸出物が前年比35%減の3667億円までいっきに落ち込み、輸入物は同29%減の2054億円までガタ減りした。そこから立て直してきた過程があり、余計な緊張を激化させて荷物が減るなら、輸送を担っているトラック業者も円安で燃油が高騰しているうえに仕事が減り、港湾に連なる産業全般に影響が波及すると懸念されている。「韓国が風邪を引いても下関に影響が及び、中国が傾いても同じことがいえる。依存関係で成り立っているんだ」と貿易に従事している人人は語っている。

 鮮魚は下関漁港の2倍 輸入額に見る 

 ここ数年の貿易額の推移を見てみると、輸出はリーマンショック後の激減状況から翌平成22年度には過去最高の6036億円を記録するまで持ち直し、23年度には1割減の5569億円で推移した。ところが夏に尖閣問題が騒がれた平成24年度に前年比18%減の4917億円へと落ち込んだ。精密機器や機械類が金額としても大部分を占め、韓国がそのうち約3200億円(輸出額全体の65・5%)、中国が約1000億円(21・3%)となっている。
 輸入は3000億円前後を推移していたのが、リーマンショックによって平成21年度には2054億円に落ち込み、その翌年からは2300億~2400億円で推移。こちらも24年度の実績では輸入額全体のうち中国が約1150億円(49%)、韓国が約900億円(38・9%)と大半を占めている。単価の割に量が多い鮮魚関連だけでも400億円以上が税関を通って水揚げされ、下関漁港の年間水揚高を約2倍も上回る量となっている。近隣の水産加工や、そうした物資をよそに飛ばす物流業者にとっても、きわめて依存関係が強いものとなっている。
 輸入関連企業にたずさわっている男性は、「民間レベルでは昔からの信頼関係もあるが、最近のようにもめごとばかり続いて政府レベルで対立が深まると、われわれにとってもやりにくくなる。水産物でも韓国からは海藻類など多く入っているし、震災で三陸がやられたときには、おかげで国内消費をまかなったほどだ。北朝鮮にはシジミなどの貝類を依存していたりと、国内生産では不足する部分を隣の国に依存して食生活も成り立っている。A級戦犯を奉っている靖国に参拝するということは、アジアの国国から見たら69年前の侵略を正当化して開き直っている危険人物だと見なされるのが世界的な常識で、ある種のシンボルになっている。岸信介の孫がやるからなおさらだ。あの戦争を“侵略ではなかった”などという言動はわれわれの感覚ではまったく通用しない。世界の孤児になったとき、エネルギーだけ見ても輸入依存の国が成り立つわけがない。どこの国とも友好関係を切り結ぶことが絶対だ」といった。
 そして、「小泉が靖国参拝して日中関係が悪化したとき、経団連も平謝りで中国に詫びを入れた。安倍さんも首相になって真っ先に向かった外遊先は中国と韓国で、貿易関係を立て直したはずだった。なぜわざと刺激するのか意味がわからない。円安政策でも、株価は上がるかもしれないが世界的に円の価値が低下して、日本という国がそのうち相手にされなくなるのではないかと危惧している」といった。
 観光分野では関釜フェリーや青島からの旅客船が接岸する下関駅周辺でも、商店主たちが影響を懸念している。雑貨店を経営している男性は、フェリー乗り場から多くの韓国人や中国人が市街地を散策したり買い物に来ることを語り、尖閣問題など友好関係にヒビが入る度にぱったりと足が途絶えたり、影響が出るのだといった。
 「この街には在日朝鮮人も多い。長門市場やグリーンモール界隈ではリトル釜山フェスタを毎年開催したり、文化的な交流も重ねてきた。民族的な垣根を取り払って相互に理解しあおうとやってきた。北朝鮮と戦争でもやりかねないと心配していたら、今度は中国ともケンカを始めたり、病的なまでにアジアの国と揉めている印象だ。戦争するというのなら、69年前のくり返しではないか」といった。

 民間の交流の活発化を 水産大関係者ら 

 水産大学校の関係者の男性は、韓国の釜山にある兄弟校・釜慶大学校の水産学部と毎年学術交流をおこなっていること、下関水産大学校の前身は釜山高等水産学校で、そこから戦後日本に引き揚げてきて水産大学校が設立され、現地に残った人たちがつくったのが釜慶大学校なのだと経緯を語った。そして、両校の間で毎年学術交流・研究発表などをおこなって、今年で20回目になること、1昨年は釜慶大の練習船が下関に入港し、学生72人や教職員が下関水産大学校を訪問したことや、魚の構造特性に対応したLEDの研究などを共同で進めていることなどを説明した。最近では中国の上海海洋大学とも交流を始めているという。
 「同じ魚を食べる食文化を持つ国同士であり、東アジアの海の幸を共同利用・共同管理していけば共存共栄でやっていける。それを“わが国の固有の領土”と固執しすぎると、話し合いのテーブルについて解決するのが困難になる。護衛艦を持っていくのではなく、話し合いで解決すべきことだ。韓国は福島原発事故の放射能の影響を懸念して日本の水産物はシャットアウトしていると報道されたが、先月行ってみると結構出回っていた。政府間の壁があるにしても、民間の交流はあるし、その交流を活発にしていけば良くなると思う。昭和30年代の日中漁業協定のときがそうだった。アジアとの貿易は福岡が玄関といわれているが、下関の立地条件を生かして、水産物に特化してアジアの窓口になると良いのではないか」と話した。
 下関港は近年、北朝鮮ミサイル騒動の際に臨検港に指定されたり、米軍から朝鮮有事の際の重要港湾に指定されるなど、軍港化に向けた動きが顕在化してきた。江島市政時期には官邸直結で「北朝鮮から潜水艦が攻めてきた」という想定で実働訓練を実施するなど、よその自治体が聞いて驚くような軍事熱に犯されてきた。垢田沖の人工島を中心にした響灘側の不気味な都市改造も急ピッチに進められている。軍港化を特定秘密扱いにして、人工島の完成が近づいた段になって、港湾利用計画の見直しが動きはじめていることが、コンサルタント関係者たちのなかで話題にされている。
 行政に携わってきた元公務員の男性は、歴史的にも下関は朝鮮半島や中国との関係が切っても切り離せない位置にあるとのべたうえで、「中国の青島や韓国の釜山は姉妹都市で、相互に交流も深めてきた。日中友好でも民間同士の地道な関係が今につながっている。政府間でどうにもならないような問題が発生したときでも、下関の要人がパイプ役になって果たしてきた役割は大きい。戦争を乗り越えて築いてきた友好関係が、無人島一つを巡って亀裂が入ったりするのはあまりに愚かなことだ。下関港が朝鮮有事の利用港に指定されたり、政府機関は雲の上で下関の扱いを決めている印象で、放っておいたら友好どころか戦争の出先にされかねない。特定秘密保護法ができたり、公務員にとっては唇が寒い季節が到来しているが、一連の法整備は有事への“備え”ではなく、有事にしたがっている者の行動だ。首相のお膝元でありながら、下関はよその自治体と比較しても貧困層が極端に多い街になっている。下関の暮らしを守れない者が国民の生命をどうやって守る気なのか聞きたい」と指摘した。
 国内における度外れた反動政策とも関わって、対米従属を深めてアジアにおける危険要因になったり、鉄砲玉に立候補する道へと進むのに対して、近隣諸国との友好と平和を求める世論が高まっており、戦争か平和かを巡る抜き差しならない問題として論議が広がっている。

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