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米軍下請で戦争やる防衛大綱 単独で戦争できぬ米国

 朝鮮半島や中国周辺海域で一触即発の戦争の危機が迫るなか、民主党政府が年内の策定を目指す新防衛大綱(2011年~15年度)最終案を明らかにした。「中国の軍拡」や「北朝鮮の核、ミサイル開発」に米軍とともに対処するとし「日米同盟の深化」を強調。国内治安優先の「基盤的防衛力構想」を脱却し「動的防衛力を構築する」ことを明記し、対外戦争重視体制へ転換する意図を表明した。中国に近い南西諸島に自衛隊を重点配備し、中国や朝鮮、さらには世界的規模で自衛隊が米軍の下請軍として戦争をやる態勢である。民主党政府が対米盲従の戦争遂行政府であることを暴露している。
 新大綱は中国について「東シナ海周辺海域において主権的権利に関する独自の主張を強めながら活動を拡大、活発化させている」「国防費を毎年増やし核・ミサイル戦力や海・空軍を急速に近代化させている」とのべ「国際社会の懸念事項」とした。04年策定の現防衛大綱は「動向に注意していく必要がある」としたが今回は明確に抑止対象と位置づけた。北朝鮮については前回と同様、地域の安全に対する「重大な不安定要因」「日本の安全保障にとって脅威」とした。尖閣諸島沖の漁船衝突や延坪島砲撃を契機に大規模な日米「韓」軍事演習が連続して行われたが、こうした軍事挑発も中国や朝鮮を仮想敵と位置づける新防衛大綱の先取りであることを浮き彫りにした。
 この態勢を確立するため、自衛隊を全国に均衡配備する根拠だった「基盤的防衛力構想」からの脱却を要求。「多機能で実効性のある防衛力」の整備や「動的防衛力の構築」を求めた。必要最小限の防衛力を均衡配備するという従来の体制では、南西諸島周辺の離島に陸海空自衛隊部隊を重点配備したり、朝鮮や台湾海峡有事のさい、東北や北海道など全国から自衛隊の総兵力を投入して応戦することなどできないからである。
 そして中国大陸の玄関口である鹿児島、沖縄両県にまたがる南西諸島の「防衛強化」を打ち出した。沖縄の宮古島以西の島嶼防衛について「自衛隊の空白地」と位置づけ「機動運用可能な部隊を強化し、侵略を阻止・排除する」「巡航ミサイル対処もふくむ防空体制を確立し、海上輸送路を確保する」と強調した。今年3月、那覇の陸自第一混成団(約1800人)は約300人増やして第15旅団に格上げしたが、さらに与那国島に100人規模の「沿岸監視隊」を配置する方向。2020年までに南西諸島や沖縄で2万人規模に拡大する構想が具体化されている。
 装備面は航空自衛隊と海上自衛隊部隊の増強が著しい。空自部隊では那覇基地所属の戦斗機を現行の24機から36機に増やし、最強の戦斗機とされる「F15改」を配備する。新田原基地(宮崎県)などに配備されたF4戦斗機(現在約70機配備)を次期戦斗機(FX)にかえることも打ち出した。「防空体制強化」を口実に戦斗機の増強を重視しているのが特徴だ。地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の全国配備も具体化するとした。海自所属の潜水艦は04年大綱で定めた16隻から6隻増の22隻体制にする。護衛艦は04年大綱から1隻増の48隻体制にしたほか、4隻だった迎撃ミサイル搭載イージス艦を6隻に増やす方向となっている。
 陸自部隊の装備も「戦車数を現在の600両態勢から400両に削減」と発表したが、別の形で増強がはかられている。特殊部隊攻撃対処能力の高い戦車砲搭載のタイヤ式装甲車「機動戦斗車」100両超を新たに調達。火砲も現在の600門を400門に削るが、約100基の地対艦誘導弾ミサイル(SSM)の配備が計画されている。
 そして「日米同盟の深化」を明記した。具体的には弾道ミサイル防衛(BMD)や共同訓練、施設の共同使用などの協力強化が盛り込まれたが「必要な場合は法的枠組みを見直す」とした。日本全国の自衛隊基地の増強はすべて米軍のためであり、自衛隊兵力は下請軍隊であり、日本全土を米軍の出撃拠点とするものである。
 さらにアジア周辺のみならず、世界的規模での自衛隊派遣を活発化させるため、PKO参加五原則の「あり方を検討する」と明記し変更を要求。参加五原則には「紛争当事者間で停戦合意が成立」「武器使用は要員の生命防護のため必要最小限に限る」などの制約があるが、日米同盟最優先で自衛隊を戦斗のまっただ中に派遣するものである。
 武器輸出三原則の緩和は大綱に「見直し」と明記しなかったが「防衛装備品や生産に関する装備品の国際共同開発、生産に関する装備品の海外移転の円滑化」をはかるとし、今後具体化する課題として残した。これは83年に武器技術を対米供与できると方針を修正し、その後もことあるごとに軍需産業が見直しを要求。戦争の危機が迫るなかで、三菱など日米の軍需産業が、それをビジネスチャンスと見て、戦争で大もうけする体制を執拗に要求していることも露呈している。
 「防衛大綱」は1976年から具体化された。76年から1995年までの大綱は米ソ二極構造のもとで「日本が力の空白となって地域の不安定要因にならないよう必要最小限の“基盤的防衛力を保有”」と規定した。米ソ二極構造崩壊後の九五年防衛大綱で「安全保障環境の構築への貢献を防衛力の役割に追加する」とし、PKO(国際平和維持活動)など「国際貢献」を掲げた自衛隊海外派兵へ道を開いた。NYテロ事件後の04年大綱には「対テロの脅威」を盛り込み「多様な事態に対応」と対処範囲をさらに拡大した。これに基づき07年1月に防衛庁を「防衛省」に昇格させ、自衛隊の「付随的任務」だった「海外活動」を「本来任務」へ格上げした。
 このなかで陸上自衛隊は「着上陸の可能性が減ったので戦車、火砲を削減し、普通科(歩兵)を中心に強化を図る」とした。「対テロ戦」と海外派兵を中心任務とする秘密部隊「中央即応集団」も発足した。海上自衛隊も艦艇部隊で主導的位置をしめていた内戦部隊(沿岸や近海警備)の位置が低下。08年4月から外戦部隊(海外派兵が任務)が全艦隊の配置を掌握し、海外派兵中心の部隊編成に変わった。訓練も海上における他国船舶への臨検拿捕作戦、「対テロ戦」での地上特殊任務などが主となった。航空自衛隊も従来の偵察・監視任務は二の次にされ、長距離輸送機能、対地攻撃機能の強化、無人攻撃機の開発、弾道ミサイル防衛の実用化など後方支援・攻撃力強化が進行した。訓練も空中戦やカメラミッション(標的を爆撃してすぐ飛び去る訓練)など戦争を想定した訓練が頻繁に繰り返されている。
 この過程は、自衛隊が米軍の指揮下に入って戦斗をする態勢として進行した。2005年2月の日米安全保障協議委員会(2+2)で「日米共通の戦略目標」に「テロリスト・ネットワークのせん滅」を追加して以後、「在日米軍再編」計画を本格化。日本に米陸軍第一軍団司令部を移転させて、陸海空自衛隊の全司令部を米軍が指揮すること、日本の自衛隊基地をすべて米軍基地化する動きを活発化させた。
 そして新自由主義・金融博打経済が破綻し、アメリカの衰退が歴然とするなかで米中を軸とした軍事緊張が激化。アメリカは今年2月、「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)を発表し中国を「潜在的仮想敵国」と規定。この時に「ジョイント・エア・シーバトル構想」(JASB構想)を打ち出し「海・空軍を一体的に運用し、国際公共財(海、空、宇宙など)を脅威にさらす敵に対抗する」と対中戦争を想定した露骨な軍事戦略を示していた。このなかで「韓国」哨戒艦沈没事件が発生し、中国漁船の衝突事件が起きた。黄海近辺で連続的な軍事演習や挑発が繰り返されるなか延坪島砲撃事件も引き起こされている。
 そして今月、4万5000人を動員した過去最大規模の日米共同統合演習を実施。陸・海・空自衛隊が米軍指揮下で初の「離島奪回訓練」を沖縄・南西諸島周辺で実施した。この「島を奪い返す」訓練こそ他国の領土を奪う訓練と同じであり、自衛隊が米軍の指揮下に入って侵略軍として戦斗をする訓練であることをまざまざと見せつけた。
 民主党政府の新防衛大綱はアメリカが要求する内容である。米軍の指揮下で朝鮮、中国をはじめ、世界中で米軍の下請軍隊として戦斗にかり出し、日本の若者をアメリカの国益のため肉弾にし、日本全土をアメリカの核戦争の盾にするものである。
 アメリカが日本を下請戦争に動員するということは、凶暴性をあらわすとともに、ぜい弱性をあらわしている。アメリカは衰退して単独で戦争をやる力を失っている。したがって、日本が協力しないなら世界中で悪事は働けず、戦争ができないことを意味している。世界平和にとって日本民族がはたす役割は大きい。

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