いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

土地規制法を深夜国会で強行採決 戦時中の住民監視法の再来 周辺住民の思想・行動規制

 コロナ禍のどさくさにまぎれて軍事施設や、重要インフラ周辺の住民や土地所有者の思想や行動を国が調べ、「有害」と見なせば立ち退きや投獄も強要する「重要土地調査法」(土地規制法)を16日未明、参院本会議で可決・成立させた。同法提出を巡って菅政府は「外国資本による基地周辺の土地買収を防ぐ」と宣伝してきたが、実際の法案は基地や原発等の周辺住民を問答無用で監視・規制し立ち退きまで強要する内容だった。

 

 14日の参院内閣委員会では参考人が曖昧な条文への懸念や国民監視強化への問題点を多数指摘したが、自民党の森屋宏委員長は委員会終了後の夜に採決を提案。そのなかで野党が参院内閣委員長解任決議案を参院に提出し、15日朝には内閣不信任案を提出する動きとなった。しかしそれは選挙前のパフォーマンスにすぎず、夕方に衆院本会議で内閣不信任案を否決し、夜に参院で土地規制法案の可決・成立を強行した。自民党は2022年4月に運用を開始する構えを見せている。

 

 土地規制法は、重要施設の周囲1㌔範囲の区域や国境の離島を「注視区域」に指定し、所有者らの行動や思想状況について調べ上げる権限を国に付与する法案である。重要施設の「機能阻害行為」に対して中止勧告や命令を出し、厳罰に処すことを定めている。

 

 ところが同法が指定する「重要施設」はいくらでも拡大解釈が可能になっている。表向きは「米軍施設、自衛隊施設、海上保安庁の施設が対象」としているが、法案には「国民生活に関連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令(国会審議を経ずに内閣が決定する)で定めるもの」も「重要施設」とみなすと明記している。それは軍事施設にとどまらず、原発、風力発電、空港、鉄道、港湾、政府・行政サービス、医療、水道などの公共施設も内閣内部の協議でこっそり「重要施設」と位置づけ、その周辺地域をみな「注視区域」に指定できることを意味する。政府の恣意的な判断で日本国中のどこでも「注視区域」にできる法律である。

 

 しかも「注視区域」内の調査内容をめぐっては、土地利用者や関係者の氏名、住所に加え「その他政令で定めるものの提供を求めることができる」と明記し、これまた拡大解釈が可能だ。それは行政が蓄積している個人情報だけでなく、日頃の土地活用状況や交友関係の調査など、政令で「必要」と定めた内容は、無制限に「調査項目」として追加できる。「土地所有者や利用者がどんな人か調べる」「施設の機能を阻害する恐れがあるかも知れない」と恐怖感を煽り、名前、住所、国籍、土地の利用状況にとどまらず、思想・信条、所属団体、交友関係、海外渡航歴、図書館の利用履歴の調査など調査範囲をいくらでも広げることができる内容だ。国会審議の場でも「自衛隊の調査」について「(土地所有者や借家人の)思想信条、職歴、活動歴、交友関係などを調査することは法律上禁止されていないのか」と問われた内閣官房が「自衛隊の調査は対象も手法も何ら制限はない」と公言している。

 

 こうした「注視区域」の調査によって国側が「不正利用行為(電波妨害や盗聴、電気・ガス・水道などライフラインの遮断、侵入を目的とした地下坑道の掘削等)がある」と評価すれば、即刻、土地や建物の利用中止勧告・命令を出すことができると規定している。この「利用中止勧告・命令」に従わなければ「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金刑に処し、又はこれを併科する」と規定している。なお内閣官房は参院内閣委員会で、基地や原発からおおむね1㌔圏内と規定した「注視区域」について、必要な場合には「距離の是非について検討する」と公言し、将来的に範囲を拡大する可能性も明らかにしている。また全国に「注視区域」が広がり、政府だけで対応することを想定して「自治体、住民から土地の利用状況に関する情報提供を受け付ける窓口の設置を検討している」(内閣官房)とものべており、土地規制法成立とセットで住民内部から密告、通報、摘発を活発化させる体制作りも動き出している。

 

 さらに土地規制法は「注視区域」のうち、司令部機能のある自衛隊基地など「特に重要な土地」や「国境付近の離島」については「特別注視区域」と見なし、より厳しく規制すると規定している。この「特別注視区域」では新たに土地を売買する場合、内閣総理大臣に売り手も買い手も氏名や利用目的を事前に届け出なければならない。もし届け出をしなかったり、虚偽申告などの違反とみなした場合は「6月(6カ月)以下の懲役又は罰金100万円以下の罰金刑に処する」と規定している。しかもこの「国境付近の離島」は重要施設の規定と異なり「施設の周囲1㌔」という距離の制限がない。そのため島全体を「注視区域」や「特別注視区域」に指定できる仕組みになっている。

 

 なお衆院内閣委員会で内閣官房土地調査検討室が示した注視・特別区域の候補は次のようになっている。

 

【注視・特別区域の候補】

 

▼防衛関係施設(米軍、自衛隊基地)
▽注視区域(四百数十カ所)
①部隊等の活動拠点施設(習志野、下関、立川等)
②部隊等の機能支援施設(大和、宇治、東北町等)
③装備品の研究開発施設(下北、目黒、相模原等)
④防衛関連の研究施設(土浦、富士、江田島等)
▽特別注視区域(百数十カ所)
①指揮中枢・司令部機能施設(市ヶ谷、朝霞、横須賀、横田等)
②警戒監視・情報機能施設(与那国、対馬、稚内等)
③防空機能施設(八雲、車力、霞ヶ浦等)
④離島に所在する施設(奄美、宮古島、硫黄島等)

 

▼海上保安庁施設(合計174カ所)
①第一一管区海上保安部(那覇)
②石垣海上本部

 

▼国境離島等
▽「国境離島(合計484島)」(小島=東京都八丈町、北硫黄島、臥蛇島等)
▽「有人国境離島地域離島(148島)」(佐渡島、福江島、奄美大島、利尻島、壱岐島等)
①領海基線近傍
②領海基線を有しない島に所在する、領海警備等の活動拠点となる港湾施設及び行政機関の施設等の周辺

 

 この資料で名指しした「注視・特別区域」の具体的な候補地域は三十数カ所しか示していない。しかしすでにのべ約1300カ所にのぼる地域や離島が候補地として検討俎上にのぼっている。政府はこれまで「規制対象は計500カ所超に上る」と説明してきたが、今後さらに候補地が増えていき、日本全土で規制・調査対象が無数に増えていく可能性が現実味を帯びている。

 

 こうした土地規制法成立の動きは、戦時中の住民監視法である軍機保護法、要塞地帯法、治安維持法等の再来を想起させる危険な動きである。戦時中に軍事秘密を守るためにつくられた「軍機保護法」は軍事施設の測量、模写、撮影などをとり締まる法律で軍事秘密を収集すれば6カ月~10年以下の懲役、外国に漏洩すれば死刑か懲役(4年以上)と定めていた。また軍事施設周辺の住民を規制していた「要塞地帯法」では、軍事施設周辺の地域を「要塞地帯」と指定し、立ち入り、模写、測量、築造物の変更、地形改造、樹木伐採等を禁止し、違反すれば処罰(罰金刑や検挙)した。国家の方針に従わない者を弾圧する「治安維持法」では地域のなかで戦争について否定的な発言をする住民や戦争に批判的な住民を密告や通報によって摘発したが、この時の最高刑は死刑だった。土地規制法はこうした戦時中の住民弾圧・監視体制の再来にほかならない。

 

 戦争放棄の覆しを柱とする改憲を意図した改定国民投票法の駆け込み成立強行に続いて、土地規制法もコロナ禍のどさくさにまぎれて制定を急ぐのは、内閣支持率が低下し続け、国民の支持をまったく得られない為政者が、国民を強引に戦時動員していく意図に基づいている。国会自体は16日で閉会となる。だがコロナ対策の拡充はさぼり続け、国民の命を守るより東京五輪の開催を最優先し、国民弾圧の悪法制定に奔走した自民党、さらには改定国民投票法制定に手を貸した既存野党の性根をまざまざと見せつけた。こうした既存与野党による芝居じみた政治を突き動かすためには、次期総選挙で強烈な民意の力を突きつけることが不可欠になっている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。