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「安保」口実に住民を監視 土地規制法の注視区域第一弾を発表 600カ所以上に拡大する狙い

 岸田政府が16日、重要土地利用規制法(土地規制法)に基づく第一弾の規制対象(注視区域及び特別注視区域)として、自衛隊駐屯地や国境に近い離島等5都道県の58カ所を選定した。年内に規制対象区域を告示し、来年2月にも施行する動きを見せている。

 

 土地規制法は米軍基地や自衛隊基地、公共インフラをはじめとする重要施設の周囲1㌔範囲の区域や国境の離島を「注視区域」に指定し、所有者や利用者の行動や思想状況について調べ上げる権限を国に付与する法律だ。そのうえ「安全保障上危険」と国が評価すれば利用中止勧告や利用中止命令を出し、いうことを聞かなければ投獄も可能にしている。

 

 ただ同法が指定する「重要施設」はいくらでも拡大解釈が可能だ。表向きは「米軍施設、自衛隊施設、海上保安庁の施設が対象」としているが、同法条文では「国民生活に関連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令(国会審議を経ずに内閣が決定する)で定めるもの」も「重要施設」とみなすと規定。それは軍事施設に加えて原発、風力発電、空港、鉄道、港湾、政府・行政サービス、医療、水道などの公共施設も一部閣僚の協議で「重要施設」とし、その周辺地域をみな「注視区域」に指定できる法律である。

 

 また「注視区域」内の調査内容をめぐっては、土地利用者や関係者の氏名、住所に加え「その他政令で定めるものの提供を求めることができる」と明記し、これまた拡大解釈が可能だ。それは行政が蓄積している個人情報だけでなく、日頃の土地活用状況や交友関係の調査など、政令で「必要」と定めた内容は、無制限に「調査項目」として追加することができることを意味する。「土地所有者や利用者がどんな人か調べる」「施設の機能を阻害する恐れがあるかも知れない」と恐怖感を煽り、名前、住所、国籍、土地の利用状況にとどまらず、思想・信条、所属団体、交友関係、海外渡航歴、図書館の利用履歴の調査など調査範囲をいくらでも広げることができる内容である。

 

 こうした「注視区域」の調査によって国側が「不正利用行為(電波妨害や盗聴、電気・ガス・水道などライフラインの遮断、侵入を目的とした地下坑道の掘削等)がある」と評価すれば、即刻、土地や建物の利用中止勧告・命令を出すことができると規定している。この「利用中止勧告・命令」に従わなければ「二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金刑に処し、又はこれを併科する」と明記。なお内閣官房は参院内閣委員会で、基地や原発からおおむね1㌔圏内と規定した「注視区域」について、必要な場合には「距離の是非について検討する」と公言し、将来的に範囲を拡大する可能性にも言及していた。

 

 さらに土地規制法は「注視区域」のうち、司令部機能のある自衛隊基地など「特に重要な土地」や「国境付近の離島」については「特別注視区域」と見なし、より厳しく規制すると規定した。「特別注視区域」では新たに土地を売買する場合、内閣総理大臣に売り手も買い手も氏名や利用目的を事前に届け出なければならない。もし届け出をしなかったり、虚偽申告などの違反とみなした場合は「六月(六カ月)以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金刑に処する」と規定。しかも「国境付近の離島」は重要施設の規定と異なり「施設の周囲1㌔」という距離の制限がない。そのため島全体を「注視区域」や「特別注視区域」に指定する仕組みだ。

 

 なお政府が「特別注視区域」と「注視区域」に選定したのは五都道県10市町の計58カ所。以下の通り。

 

【特別注視区域】
 ▼北海道=根室市根室分屯基地、同市イソモシリ島・ハボマイモシリ島、松前町松前警備所、同町大島、枝幸町ゴメ島、厚岸町大黒島
 ▼青森県=大間町弁天島▼東京都=八丈町小島、鳥島
 ▼島根県=出雲市ましま、同市マ島、同市やり島、同市オノカメ、同市艫島、隠岐の島町黒島(島後の北北西)、同町沖ノ島、同町カビ島、同町黒島(島後の南東)
 ▼長崎県=対馬市対馬駐屯地、対馬海上保安部、同市上対馬警備所、海栗島分屯基地、高麗山無線中継所、同市城岳無線中継所、同市対馬防備隊、同市権現山無線中継所、同市下対馬警備所・対馬、同市豆酘崎無線中継所、同市黒島、同市内院島、五島市福江島分屯基地、同市男島

 

【注視区域】
 ▼北海道=根室市牧の内訓練場
 ▼東京都=八丈町八丈島(6カ所)
 ▼島根県=出雲市出雲駐屯地、隠岐の島町島後(3カ所)、同町隠岐海上保安署
 ▼長崎県=対馬市対馬(8カ所)、同市比田勝海上保安署、同市対馬海上保安部、五島市福江島着陸場、同市福江島(3カ所)、同市黄島、同市嵯峨ノ島、同市五島海上保安署

 

 政府はこうした規制対象地域について、自治体から意見聴取をおこなうが、最初から「同意を得る」とは規定していない。国民的な論議も経ないまま有識者会議で第一弾の規制対象を決定し、2025年秋までには600カ所以上の指定を完了させようとしている。

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