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京都・紙芝居屋ヤッサン一座の挑戦 人の温もりつなぎつづけたい

コロナで中断、そして再開

 

一座の師匠・ヤッサンこと安野侑志氏の人生をつづった本

 「紙芝居が始まるぞー!!」。腹の底から発せられた大きな声と拍子木の音が館内外に響きわたる。その声に引き寄せられるように子どもも大人も紙芝居の前に集まってくる。ここは京都国際マンガミュージアムの一角。ここには紙芝居屋「ヤッサン一座」がある。「ヤッサン一座」とは紙芝居一筋40年の紙芝居師・ヤッサンこと安野侑志氏(1943~2012)と、ヤッサンの紙芝居を学び活動する紙芝居屋集団のことだ。ヤッサン一座は、この紙芝居小屋を拠点に全国、世界を紙芝居で巡演してきた。日常的には大きな木の箱を乗せた自転車の街頭紙芝居をおこない、昔ながらの水飴やクイズをとり入れながら、演じ手と見る人が双方に熱量を共有してつくる昔懐かしいスタイルにこだわってきた(コロナ以前は清水寺でも毎月数回口演。現在は一時お休み)。そして紙芝居小屋もいつも80人がぎゅうぎゅう詰めになって、子どもも大人も海外の人も一緒に笑い合う、会場中が一つのちゃぶ台を囲むような空間をつくっていた。

 

 ところが今年はコロナの影響でこれまでの紙芝居を中断せざるをえなくなった。そして今、これまでのスタイルを一旦“捨てる”ことを決断し、オンラインやズームも始めたばかりだ。7月から“新しい生活様式”を楽しく守るための遊び心ある空間を創出して京都国際マンガミュージアム内で「注文の多い紙芝居屋」として活動を再開した。定員は15人に限定した。紙芝居を見たいお客は、竹や古い建具でできた小屋の扉を開けて中に入ると「マスクはしていますか」「手洗いはしましたか」などの指示通りに準備したうえで、ようやく紙芝居の部屋に入ることができる。マスク装着や人との距離など、なにやら注文の多い時代になってしまったが、それもユーモアで楽しさに変えてしまうのがヤッサン一座流。

 

 再開して初めての紙芝居が宮沢賢治の「注文の多い料理店」をアレンジしたオリジナルの作品。2代目座長のだんまるさんは、ブログで「この注文の多い時代、僕らの受ける注文を子ども達、子ども心にも、注文ぶつけてやろう。ただし、口うるさいくらいに言われてる守るべきルールを楽しく。宮沢賢治の2人の紳士は愛犬が亡くなっても知らん顔。猟銃で命を奪うことに慣れてしまった2人が吸い込まれていく不思議なレストラン。 僕も命を肉として食べている。これはいつか取り組みたいテーマ。……この時代、僕らは何を受け止めなくてはならないのだろう。それを物語に」と記している。

 

 「コロナ以前から人と人との距離はすごく開いていた。飲食店に行くと家族で食事に来ていてもそれぞれがスマホやタブレットをのぞき込みバラバラにされている。コロナでこれまで以上に人と人とがバラバラになるのであれば、注文の多い料理店の家主はきっと、もっと人間をバラバラにしてやろう、そう思うのではないか。そこで人間は何に気づくのだろうか」とだんまる座長は語る。紙芝居をとおして人の心に語りかけ、対話して笑い合うスタイルは、コロナ下でも形を変えて進化しつづける。

 

子供の笑顔が一番大事

 

 ヤッサン一座は口演だけでなく、子どもたちが紙芝居を描くとりくみをしている。子どもたちが自分の心に耳をすまし、嬉しかったこと、楽しかったこと、悲しかったことを葉書サイズの絵を描いて紙芝居にする。それをお客の前で発表する。そうすると偏差値であらわされない子どもの才能がピカッと出てくるという。子どもの心をそっとすくい上げるのも紙芝居屋の醍醐味だとか。「たくさん色があるなかで、黒しか使わない子どもは何かしら心配。白枠がなくなるぐらいたくさんの色を全体に塗る子は間違いなく愛情に満ちあふれている。そこから出てくる子どものSOSがある。子どもの居場所は今、学校と家だけだ。どちらかでつまずいたら息苦しいと思う。そういうなかで紙芝居屋であったり地域の人であったり、お寺のお坊さんであったり、そういう第三の大人がいてもいいのでは。どんな状況でも一番守らなければいけないのは子どもの笑顔だ」との思いはずっと変わらない。

 

コロナ以前は自転車に紙芝居を乗せて各地を訪問していた

 

 だんまる座長曰く「今の子どもたちにそう接したいと思うのは、そう接してもらってたから。偏差値だけで評価されない光を紡ぎ育ててもらえた。認めてもらえたその光一つを大切に磨き続けていきたい。一人一人が輝き放ち、照らし照らしあって、この星を照らすのだ☆」と。

 

今は工夫と挑戦の時代

 

 コロナ禍でオンラインが一般化したけれど、やはりデジタルでは伝わらないものがある。それはリアルな人の体温、温かさだ。だんまる座長は、人のぬくもりを炎に例えた。

 

 「炎を起こすにはたくさんの薪がいる。でも今は、薪がバラバラにされている状態だ。一本がどれだけ強く燃えていても煙たがられて消されてしまう。中途半端に頑張っていたら煙たがられて静かに消すしかなくなる。それが今、ニュースには多くとりあげられていない、自分の命を自分で絶っている人たちだと思う。だからこそ人と人との距離をいかに近づけられるかが紙芝居屋の勝負どころ。デジタルではなくアナログでできること、会場中が一つのちゃぶ台を囲んでいる感じを、ぼくは紙芝居でつくりたい。人は自分では感じていないかもしれないけれど、求めているものは人のぬくもり、温かさだと思う」。

 

 何もかもが予定どおりにいかない世の中になり、普通とか常識という概念がコロナ禍で一気に呑み込まれた。「誰もが直面している逆境の時代。いつかこういう時代がくるだろうなとは思っていたが、工夫と挑戦の時代だ」と語る座長の目はキラキラしていた。

 

 混沌とした時代だからこそ、人のぬくもりをつなぐ紙芝居屋ヤッサン一座にしかできない何かを模索し続けている。

 

口演依頼・お問い合わせ先

kamishibai8 8 8@gmail.com

 

ヤッサン一座の紙芝居 公式ホームページ

 

ヤッサン一座のメンバー。左から4人目がだんまる座長

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