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改定国民投票法審議入り 解散前の駆け込み成立狙う菅政府

 菅政府が11月26日、改定国民投票法案を国会で審議入りさせた。改定国民投票法案は改憲に直結する手続きの一つで2018年6月に自民・公明・維新・希望等の4党が議員発議で提出した法案だ。しかし改憲に対する全国的な批判世論は強く、2年以上審議入りできなかった経緯がある。ところがこれまで審議入り拒否の姿勢を見せていた野党がそろって、衆院憲法審査会の質疑に応じた。同審査会での採決は見送りとなったが、事実上の審議入りであり、審議手続きを一歩進める動きとなった。継続審議中の法案は、国会解散になればすべて廃案になるため、菅政府は国会解散前に改定国民投票法案を何が何でも成立させようとしている。

 


 衆院憲法審査会(細田博之会長)は26日に、改定国民投票法案を巡る「質疑」をおこなった。改定国民投票法案をめぐっては議案提出以後、2018年7月に趣旨説明聴取をしているが、法案審議はストップしたままだった。自民党はこれまで5回、国会閉会中におこなう閉会中審査で審議入りさせようとしたが、すべて「継続審査」で審議入りできず焦燥感を募らせていた。こうしたなかで自民党は衆院憲法審査会で質疑と採決をおこなうことを野党側に提案した。


 ところが与野党の協議で野党側は、26日の衆院憲法審査会で質疑に応じることで合意した。ツイッターなどで批判意見が広がったため採決は見送っているが、野党の協力によって改定国民投票法の審議は停止状態から前に動き始めることになった。そのため憲法審査会では「八国会にわたって継続審議だった七項目案(法案)が、本日質疑できるようになったことは歓迎したい」(自民・新藤義孝衆院議員)、「質疑に至ったことについて本当に喜ばしく与野党の幹事の皆様、関係者に敬意を表したい」(自民・中谷元衆院議員)との発言もあった。


 憲法審査会では、終了直前に馬場伸幸衆議院議員(維新)が動議を提出し「質疑を終局し、討論を省略し、ただちに採決されることを望む」と主張した。憲法審査会の細田会長が「幹事会で協議する」と確認し、採決しないまま散会した。


 ただ憲法審査会内の論議は「国民投票に参加する人の投票権を確保するため、ルールは速やかに決めるべきだ」「国民投票法の改定と改憲は別の問題」という見解で与野党は一致しており、時期を見計らっていつでも採決に踏み切ることが可能な状態にあることを伺わせた。


 現在、問題になっている改定国民投票法は、国の最高法規である憲法の「改定案」の賛否を問う投票行動について規定した法律である。現行の国民投票法を2016年の改定公職選挙法(18歳以上の選挙権を認めた)に見合った内容に変えるもので、主な変更点は7項目ある。それは


①「選挙人名簿の閲覧制度」への一本化
②「出国時申請制度」の創設
③「共通投票所制度」の創設
④「期日前投票」の事由追加・弾力化
⑤「洋上投票」の対象拡大
⑥「繰延投票」の期日の告示期限見直し
⑦投票所へ入場可能な子供の範囲拡大


 等である。具体的には駅や商業施設への「共通投票所」の設置を認める、水産高校実習生に洋上投票を認める、投票所に同伴できる子どもの範囲を「幼児」から「児童、生徒その他の18歳未満の者」に拡大する、というような公職選挙法ではすでに改定している内容だ。


 したがって国民投票法自体に改憲内容に言及する規定はない。だが国民投票法を成立させ、改憲手続きの整備を完了していなければ、その次の改憲発議に進むことができない。そのため菅政府は改憲に向けた最初のステップとして改定国民投票法の成立を急いでいる。自民党は国民投票法の成立が目的ではない。その後の改憲発議、そして改憲案の賛否を問う国民投票へ進むことを目指している。


 改定国民投票法を成立させた後に、国民に提示する改憲の内容は、自民党が2018年3月に決定した改憲に向けた「条文イメージ」(たたき台素案)を見ればよく分かる。そこで提示したのは、①九条改正、②緊急事態条項導入、③合区解消、④教育の充実からなる「優先4項目」だった。


 「九条改正」では「戦力不保持」や「交戦権の否認」などの文面は残すが、その条文のあとに「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と追加する内容を示した。それは日本の国是である「戦争放棄」や「戦力の不保持」の規定を「自衛のため」と称して容認するもので、「自衛」のためなら参戦も戦力保持も認める内容だった。「緊急事態条項」関連では、緊急時は内閣が緊急政令(法律と同等の意味を持つ)を制定できるようにすることを「立憲主義にもかなう」と明記した。それは国会に諮らず一部閣僚で法律をつくることを「合憲」とし、憲法の基本原則(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)の覆しに直結する内容である。したがって改定国民投票法案は、「民主主義のシステムとして整備する」というような一般的な制度整備が目的ではない。改憲によって日本の国是である「戦争放棄」や「戦力不保持」を覆すことが狙いである。


 なお、国会で審議中の法律は国会が解散するとすべて廃案になってしまう。また、どの法案も一会期で、衆議院(委員会と本会議)と参議院(委員会と本会議)の採決で可決されなければ成立できない(前の会期の国会において衆院で可決していても、会期が変わるともう一度採決が必要になる)。改定国民投票法案を今国会(会期末は12月5日)で成立させるためには、来月3日の衆院憲法審査会で採決し、来月5日までに衆院本会議、参院憲法審査会、参院本会議での採決が必要で、今国会での成立は困難と見られている。今後の改定国民投票法案成立の勝負所は次の国会以後に持ちこされることになる。だが「継続審議」という形でも、国会解散までの成立を阻むことができれば、改定国民投票法のみならず、さまざまな悪法をみな廃案に追い込むことができる力関係になっている。

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