いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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記者座談会 米大統領選が示したこと

資本主義揺さぶる大衆の反撃

 

 アメリカ大統領選の結果を受け、今後の世界と日本の進路について強い関心が注がれている。大統領選は、候補者個人の資質や共和党民主党という争いの範疇をこえて、アメリカ国内において新自由主義・グローバリズム路線への怒りが充満しきっており、階級矛盾がかつてなく激化していることを示した。同時に、資本主義の総本山で足下から瓦解が始まり、いまや米国支配階級の側は「世界の警察」どころか国内統治だけでも手一杯であること、第2次大戦から70年以上を経てその一極支配が終わりを告げようとしていることも示した。「反グローバリズム」「パクスアメリカーナの終焉」「多極化する世界」「保護主義やポピュリズムの台頭」等等、さまざまな評価が飛び交うなかで、いったい世界はどこへ向かうのか、日本社会の展望はどこにあるのか、記者座談会をもって論議した。
 
 「まともな社会にせよ」の世論

  アメリカ大統領選でのトランプ勝利をどう捉えるのかが世界的に問われている。日本社会でも「これからどうなるのか?」と政治家もメディアも先が読めずに大騒ぎしている。安倍晋三は大慌てで就任前にトランプ詣でをした。大統領選の結果をどのように見て、今後の情勢をどう捉えていくかが重要だ。


  トランプに決まった直後、「今から戦争になるのだろうか?」と不安を口にする人もいた。「民主主義がなくなる」「保護主義が台頭して国際秩序が崩れる」等等、メディアもさかんに危機感を煽っている。ヒラリー推しだったアメリカの支配層に右へ習えで、日本の大手メディアも米国内の矛盾や政策的な争点にはほとんど触れず、「暴言王VS史上初の女性大統領」という調子一色で、ヒラリーが穏健派・進歩派の代表であり、トランプになれば野蛮で無秩序な時代が到来するかのようなイメージ報道に撤してきた。マスコミがつくってきた「トランプよりはヒラリーの方が人間的にマシ」という扇動が一定の影響力を持っているが、それを真に受けて物事を見ても理解できない。


  政府もメディアもヒラリーの勝利を確実視していたが、実際にはアメリカのこれまでの政治をあからさまに批判してきたトランプが勝った。「番狂わせ」という表現がされたが、米国でも財界やメディアのコントロールが効かなくなっているし、国民感情が理解できないまでに支配の側の意識が人人から遊離していることを突きつけた。メディアも含めて国内世論を捉えきっていない。むしろいかに世論とか国民感情などお構いなしに統治をやってきたかを示した。それが「番狂わせ」という表現に集中的にあらわれている。


  ある大学教授と話になった際に「トランプの勝利は、アメリカの国内矛盾のあらわれ」といっていた。「今までは共和党が自由競争や自由貿易を唱え、民主党は社会保障重視で資本の再分配路線を掲げてきたが、いまや両方とも新自由主義の推進、大企業や富裕層の擁護になっている。金融資本に富が集中して貧富の格差が拡大したことへの反発が、国内産業保護やウォール街規制などを主張したトランプを押し上げた。日本でもアベノミクスの失敗が明らかになり、野党も含めて政治勢力の崩壊ぶりは同じだ。アベノミクス、TPP、原発などの対抗軸を鮮明にして新しい政治勢力が登場すれば変化は起こってくるのではないか」と期待していた。一方で、「どう見ていいのかわからない。イスラムの人で絶望している人もいる。このままでは排外主義がアメリカ、ヨーロッパから日本に広がるのでは」という混迷もあるようだ。何がこのような結果をもたらしたのか、そして世界はどうなっていくのか、本質に迫ることが求められていると思う。


  この間、本紙に掲載した寺島隆吉氏の「ヒラリーとは誰か」論文への反響も大きかった。アメリカの国内矛盾や戦争狂ヒラリーの正体を知り、結果を冷静に受け止めている。「ヒラリーかトランプか」という候補者個人だけを見ていたらまったく説明できない。


 アメリカ大統領選といえば選挙コンサル会社やロビイストが暗躍し、謀略やメディア操作など金力・権力を駆使して操る世界だが、それ以上に大きな地殻変動が突き動かした。これまでメディアが報じてきた支持率も世論調査も大嘘で、ニューヨーク・タイムズは「今後は公正な報道を心がける」と紙面上で謝罪するなど赤っ恥をさらしている。その根底には「1%の富豪と99%の貧困層」といわれるアメリカ国内のすさまじい格差社会の現実があり、それが予備選での「サンダース旋風」も含めて下からの強烈な変革の力となって選挙戦全体を揺さぶった。トランプの勝利という以上に、ヒラリーとそれを本命としていたアメリカ支配層の敗北だ。

 民主主義の欺瞞剥れる グローバリズム破綻

  8年前、初の黒人大統領を標榜するオバマが「チェンジ」といって登場し、なにか世の中が180度転換するかのような印象だけ振りまいて当選したが、フタを開けてみれば巨額の政治献金を受けとり、多国籍企業とウォール街のための政策をせっせと実行した。「核なき世界」というのも核兵器の削減数は歴代最低で、小型の使える核兵器の開発にも着手して世界の不信を買った。この口先だけの「チェンジ」への失望が強まったなかでの選挙だった。たぶらかした分、反動は大きなものになった。2大政党の外側からサンダースやトランプがあらわれ、金融資本からの選挙献金を受けとらず、金権政治とグローバリズムに反旗を翻したことで台風の目になった。2大政党制の範疇に収まらない国内の大衆的な怒りが根底から突き動かしていった。そしてブッシュ一家などの重鎮を退場させ、財界の本命だったヒラリーも敗北に追い込んだ。


 C 選挙結果について、知識人はどんな見方をしているだろうか。


  ある元大学教授は、「戦後、アメリカンドリームに象徴されるようにアメリカは誰でも努力すれば報われる自由な民主主義社会と宣伝されてきたが、いまや1%の金持ちに富が集中し、圧倒的多数はそのために抜け出すことのできない貧困を強いられている。アメリカ民主主義の破たんだ」と強調していた。


  フランスの歴史学者エマニュエル・トッドは、イギリスのEU離脱も含めて、移民排斥のポピュリズム(大衆迎合主義)というものではなく、グローバリズムでさんざん勤労大衆を収奪してきたことへの反乱だと指摘している。1980年代からレーガン、サッチャーの米英が先導して新自由主義をやってきたが、それが米英で破たんし、1%と99%という階級矛盾が激化した。マルクス主義の時代に戻ったと発言している。


  日総研の寺島実郎は「第1次大戦後のアメリカの世界支配の時代が終焉した」といっている。筑波大学の国際政治学者の進藤栄一も「ローマ帝国と同じように、米国もまた版図を広げ、多様な人種を内に抱え込んで帝国の終わりの時を刻んでいる」といい、「民主、共和という2大政党が民主主義をつくる」というアメリカ民主主義の理念の崩壊を指摘している。


 『貧困大国アメリカ』の著者で知られる堤未果は、「勝利したのはトランプ個人ではなく、彼が選挙キャンペーンですくいとった有権者の金権政治への怒りに、ヒラリーが癒着しすぎたワシントンの支配体制が負けた」のだと指摘している。NAFTAなどで推進した自由貿易で、生産拠点が海外に移り国内の2次産業が疲弊し、かつて中流層が得ていた利益も1%の株主が吸収し、国内に還元される税金の大半がタックスヘイブンへと消えてゆく。これらの1%の資金で政治を買収し、アメリカの政治は金で買える投資商品となり、この「株式会社国家」が足下から崩れている。今後、敗北した1%からの反撃にトランプが飲まれていく可能性もあるが、国民の中で火が付いた「トランプ・サンダース現象」は今後も消えることなく、他国に飛び火していくと指摘している。

 米国の一極支配の終焉 いまや社会の桎梏に

  イギリスのEU離脱にせよ、大統領選にせよ、資本主義の総本山で地殻変動が起こっている。アメリカは第2次大戦後の70年、西側最強の存在として絶対的な地位を築いてきた。第1次大戦で戦場にならず、軍需投資でボロ儲けしたことで第2次大戦を有利に勝ち抜け、戦後はNATOや「日米安保」を含めて40をこえる軍事ブロックをつくり、200万~300万の軍隊を世界に派兵して、ことあるごとに軍事介入をくり返した。世界の金準備の8割を占有したことでドルを基軸通貨にしてIMFと世界銀行を押し立てて固定相場制を押しつけてきたが、60年代のベトナム戦争によるドル垂れ流しで行き詰まり、71年には金ドル交換停止のニクソン・ショックによってブレトンウッズ体制は破たんした。そこから金融・IT技術の優位性を武器にして新自由主義に舵を切り、金本位制から管理通貨制度によるドル体制で延命していった。新自由主義で各国の市場をこじ開けていく裏付けになったのが核兵器を軸にした軍事力だったが、いまやその金融資本主義もリーマン・ショックで破たんし、国家財政は火の車で軍事力が世界展開できない。アメリカ国内でも相当な厭戦気分が強まって軍人が反発するし、中東を治めるどころか国内で警察が黒人を撃ち殺して暴動が起きるなど、想像以上にひどいことになっている。


  リーマン・ショック後、巨大銀行が7000億㌦(70兆円)もの公的資金を注入されて救済される一方で、国民の7人に1人が貧困ライン(年収2万3000㌦=約233万円以下)の生活水準になり、実質的な失業者は20%をこえるといわれる。16歳から29歳までの若年層では45%が失業状態だ。医療保険に入れず、盲腸手術に500万円、虫歯治療は1本につき13万円、出産費用は140万円など高額の医療費で自己破産者が急増し、頼みの綱だったはずのオバマケアも逆に薬価と保険料が上昇した。フードスタンプ(食料援助)の受給者は4300万人で、国民の7人に1人が依存している。学資ローン債務は1兆㌦をこえ、ホームレスシェルターには人があふれ、全米で家のない子どものホームレスが250万人もいる。数字だけみても凄まじい実態がある。


  アメリカ国内の崩壊状況は、小手先の欺瞞でごまかせないほど進行してきた。貧困率は15%だという。テント村が各地にでき、一般のサラリーマンでもホームレスで働きに行っているとかだ。「アメリカの国内がすごいことになっている。銃乱射事件とかも含めて、どうして銃規制をやるのかといえば、その銃が自分たちに向いてくるから刀狩りをしているのだ」という専門家もいる。50年代、60年代のアメリカのイメージとはまったく違う局面にある。


  多国籍企業の独占化が想像をこえたものになっている。中小企業も農民も商店も全滅しウォルマートとか大企業だけが残り、個人経営を壊滅させている。それが労働者や失業者になるが、一方で移民は入れるし低賃金が強いられて貧困層が増えている。多国籍企業が金融資本と結びついて政治も動かして好き勝手をやったおかげで社会が成り立たない。


  早くから乗り込んだ中南米からはたたき出されたが、中南米では次の社会としてベネズエラのように社会主義へ向かった。社会化が求められている。世界の99%が団結する方向、99%が生きていける社会にせよという要求が強まっている。だから、あのアメリカでサンダースが社会主義を標榜しても浮かずに支持される。時代の変わり目にみんなの意識がいっているのではないか。一切の欺瞞やプロパガンダが通用しないほど為政者やメディアが信頼を失い、統治力を失い、「もう、こんな世の中ではダメだ」というのが根底に流れているのだろう。


  GATTとかWTOを軸にして自由貿易体制を押し広げてきたが、TPPも国内矛盾から破たんに追い込まれた。資本主義の終焉過程でのアメリカの崩壊をあらわしている。いわゆる「ソ連にやられた」とかの外的要因ではなく、極限まで行き着いた資本主義体制によってみずからを退場に追い込んだ格好だ。ブルジョアジー自身が資本主義の墓堀人を生み出すという指摘がピッタリと当てはまる。強欲に利潤を貪りすぎて最終的には社会の桎梏になって駆逐されていく。

 進む労働者の国際連帯 今の時代どう見るか

 D 大統領選の結果を受けて、1930年代の世界恐慌を契機にして保護主義、経済のブロック化が進み、第2次世界大戦に突入した構図と重ねる見方もある。


 B 知識人の混迷にあるのは、アメリカの一極体制が崩れることで世界が多極化し、ナショナリズムや移民排斥のポピュリズムが台頭して戦争になるのではないかというものだ。だが、今後実際にどのような政策をやるかは別として、選挙過程でトランプが主張してきたことは、イラク戦争に明け暮れて国内を疲弊させた歴代政府への批判、移民を入れることによる低賃金政策で国内の貧困化を推進してきた政策への批判だった。ヒラリーがイラク戦争を支持し、ウクライナ問題への介入やシリア、アラブ諸国に「反テロ」を掲げた軍事的介入を推進、主張していることとは対照的に、中国やロシアなどこれまで「仮想敵」としてきた国との協調路線を打ち出している。


  まだまだその背後勢力の動向も含めて見てみないと分からない面も多いが、一極支配の終わりという点は疑いないし、歴史的な転換期を迎えていることだけは確かだ。相対的にアメリカは没落してきたし、「自由で民主主義のアメリカ」「夢のあるアメリカ」の虚像ははぎとられた。実際はそれこそ「貧困大国アメリカ」だったことが露呈した。こんな国になったらダメだぞ、というのをアメリカ国民が世界に教えた。


 C トランプの外交戦略の指南役として共和党の重鎮キッシンジャーの名前が取り沙汰されていて驚いた。まだ生きているのか? と。ニクソン時代の大統領補佐官で、アメリカの世界戦略の重要局面で暗躍してきた人物だ。歴史的には70年代にアメリカが中国を取り込むうえでの中心人物だった。中国との直接衝突は避けて一時的に関係を改善するように見せかけ、ニクソンドクトリンで「アジア人同士を戦わせる」という新たな戦略でアジアで主導権を握ろうとした。「強固な日米同盟」といいながら、その頭越しに米中国交回復をやって日本の為政者をうろたえさせたことが思い出される。


 その後の東欧政変、中国での天安門事件、最近では「アラブの春」など、民主化要求を逆手にとって社会主義国や反米国家の政権転覆をはかり、そこにアメリカの資本が介入して新自由主義の市場を創出する。投資家のジョージ・ソロスや、「ショック・ドクトリン」を説いたフリードマンなどを直接中国に送り、中国共産党幹部を教育して解放特区など資本主義化を進める改革開放路線をやらせていった。その路線は今も生きており、中国国内での貧富の格差、農村と都市の格差を激化させ、「社会主義」体制でありながら帝国主義的な覇権を追い求める独特の形で今に至っている。


  自衛隊が派遣された南スーダンでも、中心にあるのは米中の覇権争奪だ。この実態はあまり知られていない。第2次大戦後の1950年代に、欧米の植民地からの独立運動がアフリカ諸国で発展したが、当時の社会主義中国による対外協力援助が、現在の中国のアフリカ利権の基礎になっている。この独立機運は、イギリス、アメリカ、オランダなど植民地下にあったインドやインドネシアなど29カ国がバンドン会議(アジア・アフリカ会議)で平和共存10原則をつくり、欧米列強に対する非同盟諸国の独立の力を主導した。エジプトやエチオピアなどの独立と社会主義化にも繋がった。


 だが、70年代以降、中国がこれらの信頼を裏切る形でアメリカと野合して変質し、「改革・開放」路線が破たんすると、さらに強力な新自由主義に舵を切った。国内では全土の農村の貧困化が進んで一億人の農民が出稼ぎで都市に大移動する状況にまでなっているが、アフリカにも大量の労働者を送り込んで石油資源の略奪をめぐる奪いあいをやっている。


  アメリカをどう見るか、一方でその覇権主義と矛盾関係もあった現在の中国やロシアをどう見るかは、旧いイデオロギー世界の物差しから捉えるのは根本的に誤っている。世界中ではじめて労働者の国家を出現させたのは100年前のロシア革命だった。しかし、現在のロシア及び中国が労働者の国で貧しい人人がいないだろうか? 99%の人間のために運営されている国だろうか?すっかり変質してしまって、反グローバリズムでたたかう現在の世界各国の人民がめざそうとしている社会ではないのも事実だ。


  今回の大統領選の結果は、アメリカ支配層だけでなく1%の資本の側を震撼させている。資本主義社会を先導してきたアメリカの破たんは、それを手本にしてきた資本主義国の統治者側からすれば、明日は我が身なわけだ。各国人民の側からすれば、グローバリズムで生活基盤そのものが成り立たないところまで社会が破壊されてきたことへの自覚が急速に高まり、「1%VS99%」で国際的な連帯が強まる条件が広がっている。


  まさに「万国の労働者団結せよ!」の時代だ。各国人民の要求は、グローバル経済による富の収奪を終わらせて、まともに暮らせる社会をつくれという点で一致している。株が急落しようが、資本主義経済が破たんしようが、富の源泉を生み出す労働者がいるなら社会は成り立つ。ブルジョアジーが倒れたら一緒に倒れるというものではないし、富や社会を私物化する強欲な連中には退場してもらい、公共性、公益性を第一にした共同労働によって、まともな社会にせよというあたりまえの要求だ。まだまだ自然発生的な形ではあるが、何か打ちあわせをした訳でもないのに共通の思いが国境をこえて強まっているのも特徴だ。下からの抵抗が呼応し合いながら資本主義世界を揺さぶっている。

 対米従属からの脱却へ 問われる日本の進路

  なによりも日本の為政者に激震が走っている。日米関係の今後の進路についても関心が高い。TPPは、ベトナムとかマレーシアが次次と離脱し、トランプも離脱を明言している。それを成長戦略の柱に据えていたアベノミクスは完全に破たんだ。「競争原理だ」「トリクルダウンだ」といって突っ走ってきた安倍は後ろ盾を失った。だから大慌てで、まだ就任していないトランプのもとに駆けつけていった。


 E 外務省をはじめ霞ヶ関のレベルも暴露した。どっちが当選するか分からないのに、米メディアの情報を信じ込んで安倍がヒラリーに会いに行き、当てが外れたら慌てて新しいご主人様のご機嫌をとりに行く。主体性がないし、とても独立国とはいえない。それこそ戦後レジームからの脱却どころではなく、どこまでもすり寄っていく姿をさらした。


  フィリピンのドゥテルテがオバマを批判したり、先を読んで中国やロシアと独自外交で関係を切り結んでいくのと対照的だ。アジアを見ても、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナムも体制が変わって対米従属を修正している。ペルーなどがアメリカ抜きでのTPP批准を提案して、安倍が「それはダメだ!」と猛烈に反対していたら、トランプ本人が就任初日に離脱すると表明するなど完全に孤立している。世界情勢からとり残されている印象だ。この混迷ぶりも際だったものがある。


 E 外務省がまるで機能せず、独自外交をなにもやりきらないから、対中、対ロ関係だけでなく、世界的な流動情勢から置き去りにされかねない。トランプがTPPなどの「中国包囲網」のブロック経済化路線をやめて中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加すら口にするなかで、日本は独自に中国、ロシアも含めたアジアの近隣諸国との関係をつくっていかなければ立ち位置を失ってしまう。カネをばらまいてどうにかなる代物ではない。世界的にバカ扱いされかねない。それが安倍晋三だけの評価になるならどうでも良いが、日本社会全体の進路にかかわっている以上、重大な問題だ。


  核問題をみても、アメリカから求められたというだけで国連で核兵器禁止条約に反対するなど、世界から「それでも被爆国か?」と侮辱される体たらくを演じた。日本独自の主張というものを投げ捨てて媚びていく。広島や長崎の被爆者を含めて国民がすごく怒っている問題だ。寄らば大樹の陰で米国追従一辺倒できたが、それも破たんしていくということだ。


  多国籍企業や金融資本が暴利を貪る社会で、世界的に1%への反撃が始まっている。総本山でその矛盾が噴き上がっているが、日本社会も似たようなものだ。独占企業は海外に出て行って国内を捨て、税金をとりあげるだけで医療・福祉や教育、行政サービスへの責任を投げ捨てて、社会運営は一%のために機能する。国家が彼らの道具になって、国民が生活するために役割を果たさない。そして富はみなアメリカに吸い上げられてきた。TPPも、要するにアメリカ本国で蛇蝎の如く嫌われた多国籍企業が日本市場を食い物にするという性質のものだった。


 第2次大戦を経てアメリカに単独占領され、為政者がみな民族的利益を明け渡して売国をやってきた結果が、日本社会の惨憺たる状況をつくってきた。世界的に見て、第2次大戦後の米国覇権という戦後レジームが崩壊している下で、まさに対米従属からの脱却が問われている。日本人民にとっての諸悪の根源が本国で打倒されつつある。そして情けない話だが、おんぶにだっこできた日本の統治機構や財界もオロオロしている。世の中を突き動かしている原動力は何か、階級矛盾をしっかり捉えて情勢を見極めていくこと、崩壊しつつある資本主義に成り代わる次の社会への展望をもって、各国人民の連帯と団結を強めることが求められている。米国が力を失ったら、今度は中国やロシアにすり寄っていくか否かという問題ではない。

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