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トランプが大統領選に勝利 グローバリズム震源地の破綻示す

大統領選の勝利演説をするトランプ(16年11月9)

 注目されていた米大統領選は、蓋を開けてみると当初の「ヒラリー優勢」報道を覆してドナルド・トランプが勝利し次期大統領への就任が決まった。

 

 資本主義の総本山である米国において、支配階級が目をつけていたであろう次期大統領候補たちは、予備選で「サンダース現象」「トランプ現象」に呑み込まれて脱落し、最終的に民主党のヒラリー・クリントンを大本命にして多国籍企業や金融資本、軍産複合体やメディア、共和党重鎮も含めて総掛かりで支援したが、米国民はトランプを選択した。「世界を驚かせた番狂わせ」といって狼狽している姿は、メディアや支配階級の側の感覚が世論から遊離しきっていることと同時に、いまや欺瞞やプロパガンダが通用しないまでに米国における階級矛盾が鋭いものになっていること、エスタブリッシュメント(既成の権威的勢力や体制)への信頼が崩壊し、これらが国家や社会をまとめ上げていく力を失っていることを浮き彫りにした。

 

 この結果は、トランプ個人の是非や好き嫌い、あるいは民主党vs共和党の範疇で捉えることなどできない。新自由主義・グローバル化をもっとも強烈に推し進めてきたアメリカにおいて、足下からその支配が瓦解し始めていることを示した。今後、世界的な流動情勢をつくり出していくことは疑いなく、対米従属の鎖につながれた日本社会にとっても、各国で台頭している反グローバリズムの力とつながり、時代の変化を捉えることが重要な局面になっている。
 
 資本主義総本山で歴史的番狂わせ  共和VS民主でなく1%VS99%

 今回の選挙は予備選の過程から、いわゆる民主党共和党の2大政党制支配が崩壊している姿を露呈していた。民主党では、もともと党員でなかった自称「社会主義者」のバーニー・サンダースが登場して、オバマが後継指名したヒラリー・クリントンと互角に渡りあった。共和党も政治経験ゼロの不動産王・トランプが出馬し、こちらも共和党重鎮たちの応援を受けた候補者たちを次次と打ち負かして躍進した。従来の民主党、共和党の枠組みを超えた番狂わせで、両党ともに「サンダース現象」「トランプ現象」が台風の目となった。


 この旋風で彼らは何を訴えたのか。どのような力によって泡沫状態から躍進したのか。


 サンダースは、1%の富裕層が90%の下層国民と同額の富を独占し、技術と生産性の大幅な進歩にもかかわらず、多くのアメリカ人は低賃金労働を強いられ、子どもの貧困率はどの先進国よりも高いことなど、アメリカの不平等社会を批判した。そして、雇用を増やし、医療をすべての人人に提供できるようにするため「億万長者から政治的権力と経済的便益を剥奪する!」と宣言するなどして、若者を中心に熱烈な支持を広げた。大企業への優遇税制を停止し、タックスヘイブン(租税回避地)への税逃れの禁止、最低賃金の上昇、国民皆保険制度などの社会保障の整備充実、公立大学の授業料無償化、TPPに反対し生産活動の海外アウトソーシング(調達)をやめて国内生産にシフトさせる、インフラ再建などさまざまに政策を掲げ、「99%の国民のための政治」にするのだと訴えた。


 移民排斥やイスラム教徒の追放など排外主義的な言動ばかりがとりあげられていたトランプも、富裕層への懲罰的課税や累進課税の強化、所得格差の是正や社会福祉の充実、市場原理を否定して社会的な規制を強化すること、労働コストの安い海外に流出した製造業を米国に戻すこと、TPP反対などを訴え、ワシントンの既存勢力に媚びないという訴えが支持を受けた。単純な「保守主義の台頭」という以上に、新自由主義政策に対する国内の不満の高まりをそれとしてすくい上げるものになった。


 民主党のサンダースが予備選終盤に不可解な裏切りをやり、若者や支持者を幻滅させたもとで、本選はクリントンVSトランプの構図になったが、もはや民主党VS共和党の対決というよりは既存の政治体制の代弁者たるヒラリー・クリントンを大統領にするか否かに大きな注目が集まった。ゴールドマン・サックスから講演料名目で巨額の資金を受けとっていたことや、中東その他における国務長官時代の戦争狂いの実態暴露、軍産複合体とのつながりや第3次世界大戦を引き起こしかねない危険性など、さまざまな情報が駆け巡ることとなった。支配階級がメディアも挙げてトランプ叩きに奔走し、必死にヒラリー支援をやったが、そうした世論誘導のやり方も見透かされたことを示した。こうして「嫌われ者対決」「米国民にとって最悪の選挙」と呼ばれた選挙で、ヒラリーの方が否定される結果となった。


 予備選を含めた全過程において、予想を超えた世論の流れが選挙を揺さぶり、誰も読めない展開をつくり出した。候補者のいずれが強いか弱いかという以上に、現在の米国における国内矛盾を直接に反映したのが大きな特徴となった。財界やワシントン中枢の統治機構の思惑をことごとく突き破った原動力は、まぎれもなく国内世論であった。


 リーマン・ショックからの8年、「チェンジ」の欺瞞で登場したオバマを通じて、支配の側は金融資本主義のシステムを守るために必死で量的緩和を実施したり、ウォール街を優遇して延命を図ってきた。またアメリカが主導してTPPを進め、さらに徹底して新自由主義・グローバル化政策を推し進める方向に舵を切った。この新自由主義政策によって犠牲を被るのは、多国籍企業や金融資本によって食い物にされる他国だけでなく、アメリカ国内そのものであった。


 製造業は低賃金労働を求めて海外移転し、あるいは人・モノ・金の移動を自由にした結果、メキシコなどから低賃金のアンカーとなる移民労働力を大量に国内に招き入れてさらに貧困と失業を拡大し、アメリカ国内は窮乏化が進行した。人だましだったオバマケアも、おかげで医療を受けられない国民が増大し、保険会社が肥え太っただけだった。


 国民の7人に1人が貧困ライン(年収233万円)以下の生活水準になり、29歳までの若者の失業率になると45%とすごいものになった。サブプライムローンなど金融資本の餌食になって家を追い出されてホームレスに転落する人人が続出し、学生は学資ローンで金融資本の餌食となり、さらにカードローンなど、借金地獄にたたき込んでいく仕組みによって生活が破綻する国民が増え、低所得者層に配られるフードスタンプ(食料購入券)の利用者は4700万人にまで膨れあがった。


 一方で多国籍企業やリーマン・ショックで潰れかかっていた金融資本は膨大な公的資金によって息を吹き返し、利益はタックスヘイブンに租税回避させ、損失は国内の納税者に要求する。自治体財政は逼迫して、公立学校や公共交通、公共サービスなどの予算がことごとく削られ、道路、橋、鉄道、空港などの公共インフラが老朽化したまま放置されるような事態が深刻なものになった。1%のためだけに政治や統治機構が機能し、社会全体がそのように運営されていく。この強欲で支配的な力が公共的な利益をないがしろにして、人人の生活や生命すら脅かしていくことに対して、充満しきっていた大衆的な反撃機運が、大統領選で一気に噴き出す格好となった。

 日本も同じ課題に直面 どの様な針路とるか

 第2次大戦とその後の米ソ2極構造崩壊を経て、アメリカは新自由主義・グローバル化を唱え市場原理主義を推し進めて世界覇権を欲しいままにしてきた。国境の垣根をとり払って各国に市場開放を迫り、自由貿易、労働市場の自由化、規制緩和や行政改革などを強いてきた。それは多国籍企業や国際金融資本が世界を股にかけて暴利をむさぼるものだったが、同時に貧困と経済的不均衡を各国にもたらし、リーマン・ショックまできて破綻した。


 強烈なる搾取収奪の社会を作った結果、世界中で貧困が拡大し、アメリカでも欧州でも日本国内でも、資本と労働の矛盾、帝国主義と人民の矛盾が激化している。自由な移動、自由な貿易といったものが、労働者の自由ではなく、巨大独占企業や多国籍企業の自由であったこと、そのもとでは人民生活が破壊され、社会そのものが成り立たないことを多くの人人が実感することとなった。


 アメリカ大統領選におけるトランプやサンダースの躍進にせよ、イギリスの国民投票におけるEU離脱にせよ、欧州各国で台頭する反グローバリズムの斗争にせよ、資本主義社会の足下から、それに成り代わる次の社会の到来を求めて世論が噴き上がり始めている。資本主義が終わりを迎えていることを世界中の人人が実感し、そのなかで一方は強欲に暴れ回り、これに対して圧倒的な99%の人民の側が社会的な利益を掲げ、みんなの暮らしをまともなものにせよと願って行動を始めている。資本主義の冷酷さをもっとも実感している総本山の米国で、もはや堪えきれない力をともなって行動が広がっていることを大統領選は示した。その意味で、トランプの人物評や今後の振る舞いがどうなっていくかは別として、米国の変化を映し出す歴史的な番狂わせとなった。


 米ソ2極構造の崩壊から4半世紀が経ったが、「資本主義の永遠の勝利」を叫んでいたアメリカ及び西側資本主義こそが腐朽衰退し、体制崩壊がさまざまな形で顕在化している。1%の金融資本が牛耳る世界ではなく、社会を支え富を生産する99%が助けあい、まともに暮らしていけるあたりまえの社会運営を求める力が圧倒し、それこそ1%99%の矛盾と斗争を通じて、時代は変化していることを実感させている。


 第2次大戦後のパクスアメリカーナすなわち新自由主義・グローバル化による一極支配体制が終焉を迎えようとしている。しかし多国籍企業や金融資本がいなくなったわけではない。みずから退場するようなお人好しではないことから、引き続き階級矛盾は激化し、これとのたゆまぬ斗争に挑まなければならないことを教えている。国家を超越して一握りの多国籍企業や金融資本が直接支配・収奪に身を乗り出しているなかで、各国の政治リーダーの善し悪しで世の中が動くのではなく、政治家も含めて縛り上げるような大衆的な広い力を束ねることが、時代を前に進める最大の原動力であることは疑いない。


 アメリカ大統領選を受けて、日本社会はどのような針路をとっていくのかが問われている。打倒されつつある新自由主義政策のお先棒を担いで真似事をやるなら、一回りして同じように打倒される運命にあることを日本の為政者にも突きつけている。何につけても米国支配層の受け売りばかりやってきた政財界、統治機構、メディアが一緒になって狼狽し、なおも破綻するであろうTPPを強行採決して媚びを売っていく姿が世界に恥をさらしている。

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