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破壊し大混乱作って略奪 米欧・リビアでもショックドクトリン  石油狙いカダフィ政府潰す

 アメリカ主導のNATO(北大西洋条約機構)軍が3月19日からアフリカ北部のリビアを空爆し反政府軍に武器を提供、手先にしておこなった侵略戦争は20日、最大の標的だった最高指導者カダフィを射殺した。それは、民衆の力で親米独裁者を打倒したエジプトやチュニジアとまったく異なるもので、この戦争は米欧支配勢力に対抗するものを殺害し、一国の政治も経済も破壊し尽くして、国家を大混乱に陥れ、そのどさくさにまぎれて石油など資源利権を米欧資本が好き勝手に略奪することを目的としたものであった。米欧支配者によるイラクやアフガニスタンへの侵略戦争と同質のものだった。

 難題山積みでイラクの二の舞い

 リビアは石油埋蔵量世界第8位の産油国で、米欧資本は早くからその利権の強奪を狙ってきた。カダフィ政府が反米欧の姿勢をとっていた時期には、「テロ支援国家」に指定し、カダフィ殺害を狙った空爆をやって屈服を迫った。「9・11事件」後カダフィ政府が核兵器の廃棄を宣言、米欧に融和姿勢をとるようになってからは、米欧の石油メジャーなどが利権確保に乗り出したが、石油国有化を放棄しなかったために好き放題ができず、いつの日かこの政府をつぶそうとしてきた。
 今年1月、チュニジアやエジプトで民衆蜂起が起きて、親米独裁政府が打倒された。米欧はそれに便乗した。あたかも独裁反対の民衆デモが起こったかのように見せかけて、米中央情報局とつながる「リビア救国戦線」に反政府派を標ぼうさせ、東部のベンガジで政府軍に内戦を仕掛けた。
 待っていましたとばかり、米英仏伊をはじめとするNATOは、「(カダフィ軍の)殺害から国民を守る」と称して、国連安保理決議をとり、3月19日に武力侵略を開始した。地中海に配備した空母など艦船から戦斗機などを飛ばして、軍事施設や政府軍に対し、また平和な住民に対し、空爆をおこなった。
 NATO連合軍はこの6カ月間にのべ2万6000機が出撃し、約8000回の空爆をおこなった。アメリカは3月末に空爆の主力から引き、仏英が主体となった。だが、戦争の主導権はアメリカが握って、決定的役割を果たした。アメリカは情報や武器、ミサイルなどの提供、空中給油などをおこなったとされるが、実は戦争の全過程で背後で指揮をとった。
 オバマは「地上軍を出さずに目的を達した」といったが、実はカダフィの政府や軍の動向はアメリカの無人偵察機や変装した特殊部隊員によっておおかたつかまれ、その指示に従って空爆がおこなわれた。アメリカの指揮のもとイギリスの特殊部隊も、カダフィの隠れ場所、レーダー基地、空軍基地、対空砲兵部隊などの情報を収集し、NATO軍機にピンポイント爆撃をおこなわせた。
 クリントン米国務長官がこの18日、米高官としてはじめて突如リビアを訪問、その2日後にカダフィの車列が襲われ、射殺されたことが話題となっている。その目的は、カダフィの車列が20日にシルトから移動することを伝え、NATO軍機の空爆にあわせて反政府軍が攻撃する、カダフィを殺してもよいということを英仏や反政府派の高官に指示したという。カダフィを殺害したのは、イラクのサダム・フセインのように裁判など法的な面倒を省くためだったといわれる。

 米欧企業との矛盾激化 反米意識は強く 

 42年もの長期にわたってリビアを支配してきた最高指導者を殺してしまえば、国内の政治・経済などが大混乱に陥ることは必至である。米欧のメディアでさえ、リビアには難題が山積しており、米欧の願望するような政府ができる保証はないし、あるいは内戦が起こるかも知れないとしている。
 まず、「国民評議会」を名乗る反政府勢力の指導部は、雑多な勢力の寄り合い所帯である。米欧帰り、カダフィ政府の寝返り組、それに140余りもある部族の頭目、各派の宗教勢力が混在し、この間暫定政府の樹立すらできないでいる。多くの部落とりわけカダフィの出身地の部落は、反政府勢力に敵意を抱いており、和解は難しい。リビア国民を一つにまとめて再建方向を示す指導勢力をつくることは、もっと困難である。
 経済の再建についてみても、この間の戦争でストップ状態である石油の生産、輸出を復活すること、とくに国内の東部と南部の辺境地帯が北部沿海地方に立ち遅れている不均衡を解決することは歴史的に残された難問である。
 さらに、この間の戦争で武器が大量に流出している。1人1挺といわれるほどに護身用の武器が持たれており、政情が不安定ななか回収はたやすくない。一万発の地対空ミサイルが行方不明といわれる。そればかりか、部族間や宗教間の矛盾が激化すればすぐ内戦に突っ込むこととなる。
 しかし最大の問題は、リビア人民のあいだで反米意識が強いことだ。リビア国民の8割がアラブ民族であり、ここ40年以上にわたってカダフィの反米姿勢が支持されてきた歴史がある。それに今後、米欧資本が大挙してリビアの石油利権の強奪に乗り出せば、反米欧感情を噴出させることとなろう。
 オバマは「リビア人の長い痛苦の時代は終わった」「革命だった」といい、クリントンも「新しい時代の幕開けだ」などといっている。だが、多くの専門家は「新しい痛苦の時代が始まった。恐るべきパンドラの箱が開き始めた」と指摘し、まさにイラクの二の舞いになると断言もしている。
 アメリカのイラク侵略戦争は、既存の政治秩序や国民経済を徹底的に破壊して白紙にし、アメリカなどの石油メジャーやハリバートンなど「復興」事業を手がける会社に利権を保証する新自由主義の経済構造を植えつける狙いだった。彼らにはイラク国民の自由や民主主義、とりわけ生活の向上などまったく眼中になく、戦火で更地となったイラクの大地で、自分らの利潤をむさぼることだけだった。まさしく「ショック・ドクトリン」と呼ばれる災害便乗型の資本主義であった。
 リビアでも同じことが始まっている。フランスの呼びかけで9月1日、米欧の参戦国のほか中国、ロシア、ブラジルなどオブザーバーを含めて60の国や国際機関の代表が集まった。リビアの反政府勢力に対して、石油利権の確保や復興需要の獲得のための工作に乗り出した。
 リビアの石油埋蔵量は約460億で、アフリカではトップ。戦前の原油産出高は日量約160万、輸出高は130万で、リビアの輸出収入の95%を占めた。リビアの原油は硫黄分が少なく、製錬コストが低いとあって、欧州各国が角逐の先頭に立ってきた。
 フランスは戦争前、リビアに数十億㌦の投資をおこない、毎日13万をこす石油を輸入していた。サルコジ大統領は、原油採掘の優先権を求めた。ジュペ外相は「リビア介入は将来への投資でもあった」と、本音を語った。「評議会」側とリビアの新規の石油権益の35%を取得する合意をかわすと伝えられる。また軍事介入の見返りとして鉄道網や造船施設の建設、航空機など各分野で商機をものにしようと懸命である。
 イギリスの石油独占体BPは戦前すでにリビアに投資していたが、さらに投資拡大について「評議会」側との協議を始めた。また、医薬品や病院再建の分野でも商機を得るため、代表団を送っている。
 イタリアは戦前、リビアの石油輸出の2割をこす石油を輸入しており、石油採掘と生産で西側諸国のトップに立っていた。石油・天然ガス大手のENIの最高責任者は8月に、「評議会」と石油、ガス開発再開について覚書を結び、戦前の巨大権益を確保した。
 アメリカのこれまでの石油取引は、リビアの輸出の1%に満たなかったが、今後は今回の戦争での手柄を元手にリビア石油資源の再分配をリードしようとしている。
 このほか、戦前リビアで操業していた英・蘭のロイヤル・ダッチ・シェル、米コンチネンタル、スペインのレプソルYPF、オーストリアのOMVなども石油施設修復に着手している。
 他方、中国は戦前、リビアに企業数十社、労働者約3万人を送り込み、インフラ建設などをしていた。ロシアはこれまでリビア政府とのあいだで高速鉄道建設や油田開発契約を結んでいた。中ロとも当初のリビア軍事攻撃批判の姿勢を変えて、今では、過去の契約順守を要求している。欧米企業との各分野での利権争奪は、激化する一方である。

 アフリカ市場狙う米国 中東も国内も窮地 

 米欧のリビア侵略戦争のもう一つの目的は、アフリカでの市場・勢力圏の拡大において障害となっていたカダフィ政府を除去することだった。今回のリビア軍事攻撃や「評議会」承認問題で、アフリカ連合(AU)が長期に反対姿勢をとったことにはわけがあった。
 アフリカが歴史的に欧州諸国の植民地支配に苦しめられたという背景があり、リビア戦争をアメリカ主導の侵略と受け止める素地があった。AU設立宣言には「アフリカ人自身でアフリカの問題を解決し、他の大陸の介入を避ける」という項目があるが、AU創立の中心となったのがカダフィ政府であった。
 カダフィ政府は石油収入による年間300億㌦にのぼる貿易黒字を使ってAUの発展に力を入れた。AUの年間予算の15%を負担するとともに、一部の貧困国の負担金の肩代わりをした。AUのもとでのアフリカ統合推進への支持を得るために、加盟各国への資金援助もした。
 また、カダフィ政府がアフリカ統合、米欧の支配からの脱却で重視したのが金融面であった。AUはアフリカ通貨基金、アフリカ中央銀行、アフリカ投資銀行などを設立し、IMF(国際通貨基金)や世界銀行などを通じた米欧の干渉を絶とうとした。カダフィ政府は昨年、「欧米からアフリカを解放する」として、総額970億㌦の対アフリカ投資を表明していた。また今後の目標として、ドルからの脱却、統一通貨の導入をあげていた。
 アメリカはイラク戦争の失敗などによって、例えば石油の輸入を中東アラブ諸国からアフリカに移さざるをえなくなっている。その経済利権を維持・拡大するために、アフリカへの軍事プレゼンス(存在)を強め、アフリカ軍司令部を設置した。だが、アフリカで司令部の受け入れ先がなくまだドイツの米軍基地に置いている状況である。アフリカに反米的な風潮が強いことは、イラクやアフガン戦争でのアメリカの侵略を目の当たりにしたこともあるが、リビアの影響も小さくなかった。
 今度のリビア侵略戦争は、アメリカの衰退もさらけ出した。オバマは地上軍を出さずにカダフィを倒した、これは新戦法だといっているが、なんのことはない、イラクやアフガンで3兆㌦も使って債務不履行の瀬戸際まで衰弱し、地上軍を出せなかっただけである。また支配層のなかにさえ今度のリビア戦争に反対論が出るほどに、アメリカ国内世論は反戦に傾き、オバマ政府は英仏などに空爆の主力を担わせ、みずからは指導権を維持するのがやっとであった。

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