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【インタビュー】東アジアの平和構築のための日韓協力の展望 れいわ新選組・伊勢崎賢治議員の訪韓報告

(2025年10月3日付掲載)

韓国国会本会議場での伊勢崎賢治議員(左)とキム・ジュンヒョン議員(9月18日)

 れいわ新選組の伊勢崎賢治参議院議員(東京外国語大学名誉教授、元国連上級民政官)は、9月中旬に韓国を公式訪問し、南北首脳が2018年に発表した「9・19平壌共同宣言」の7周年記念式典に出席するとともに、国会議員や研究者らと連続的にワークショップをおこなうなど、東アジアの平和構築に向けて日韓協力の展望を探る議員外交をおこなった。日本と同じく米国の軍事同盟下にある韓国では、好戦的姿勢をとっていた前政権が市民の力によって弾劾され、軍事強化による緊張対立ではなく融和を志向する世論がふたたび強まっているという。本紙は9月27日、伊勢崎議員にインタビューし、韓国訪問で得た知見について話を聞いた。(写真はすべて伊勢崎議員の提供)

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 質問 今回の韓国訪問は、どのような経緯で実現したのでしょうか?

 

伊勢崎賢治議員

 伊勢崎 今年8月9日、国会議員として初めて公式な立場で長崎原爆犠牲者慰霊式典に出席したさい、韓国のキム・ジュンヒョン議員と出会ったのがきっかけだ。

 

 キム議員は、韓国で昨年できたばかりのプログレッシブ(革新系)新党「祖国革新党」(所属議員12人)から国会議員になった人だ。彼は文在寅(ムン・ジェイン)大統領の時代に国立外交院院長を務めた経歴を持つ外交官であるとともに、平和外交、平和構築を専門とする非常に高名な国際政治学者であり、「このままではたいへんな世の中になる。学者にとどまるのではなく、政治家としてやるしかない」という強い気持ちを持つ行動派だ。現在の李在明(イ・ジェミョン)大統領とも非常に近い関係にある。彼の考え方や経歴が僕と似ていることもあり、まるで旧知の間柄のように意気投合した。一連の韓国訪問も彼がアレンジしてくれたものだ。

 

 現在、南北朝鮮の関係はかつてなく冷え切っている。2000年の金大中(キム・デジュン)政権を皮切りに、2007年には盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権、そして2018年に文在寅政権による大きく3回の南北対話がおこなわれ、一時はうまく行きかけたかに思えた南北融和の道は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の3年間で逆戻りした。

 

 一方、北朝鮮はロシアの援軍としてウクライナ戦争の前線に自国兵士を派遣し、プーチン大統領にたいへん大きな貸しを作った。先日、中国でおこなわれた「抗日戦争勝利80周年」式典での習近平、プーチン、金正恩の三氏そろい踏みの映像が象徴的だ。意を強くした金正恩氏は2月、「北と南は同族関係ではない」と敵国関係を宣言してしまった。

 

 だが韓国では、対北強硬路線で「非常戒厳」まで発令した尹前大統領が市民運動によって弾劾され、劇的に誕生した李在明政権のもとで、再び南北融和を志向する勢力が大きくなっている。それでも韓国一国だけで重い扉を開けることは難しく、日本がそこにかかわる必要がある。

 

 まずキム議員と協力し、8月23日に李大統領が来日しておこなわれた石破首相との日韓首脳会談のお膳立てをした。韓国側はキム議員、日韓関係研究の第一人者である国立ソウル大学の南基正(ナム・キジュン)教授――東京大学に留学し和田春樹先生(現名誉教授)に学んだ経歴を持ち、現在は国立ソウル大学国際大学院日本研究所所長――、日本側は僕と和田春樹先生の4人で、日韓首脳会談後に出す共同コミュニケ案をつくり、同じものをそれぞれのルートで日韓両首脳に投げかけた。

 

 そこで強調したことは、日韓関係を基軸に朝鮮半島の平和を考えること、つまり日韓が手を取り合って北朝鮮と向き合うことだ。朝鮮半島と日本を含む北東アジアを絶対に「第2のウクライナ」にさせないためだ。

 

 なぜなら当時、米アラスカ州アンカレッジで、プーチン大統領とトランプ大統領が、当事者であるウクライナ抜きでウクライナ戦争の戦後処理について話し合っていた。朝鮮半島も同じような構造になる可能性がある。今後、金正恩はトランプと関係修復に動き出す可能性がある。プーチンにも大きな貸しを作った。こうなると朝鮮半島有事が起きた時、その片を付けるのはプーチンとトランプという形になりかねず、肝心の韓国も日本も蚊帳の外に置かれる。これは非常に醜い構造だ。

 

 だからこそ、日韓が手を取り合って朝鮮半島の平和をみずから導いていく。そこにロシア、中国、米国が加わることは構わないが、あくまでも北朝鮮と向き合う主体は日韓であるという意思を示すことが重要だ。

 

 そして、日韓の絆を築くためには、日本が先に過去に向き合うこと、つまり侵略戦争と植民地支配の歴史について反省の姿勢を韓国側に示さなければ何も始まらない。だから僕たちが作った共同コミュニケ案では、歴代の首相談話に加え、まだ誰も継承を明言していない菅直人談話(民主党政権)を石破首相が引き継ぐことを明言するよう提案した。わかってはいたが、自民党はそれが簡単に出せる党ではない。紆余曲折の末、「共同プレスリリース」という形で、菅談話には触れず、歴史認識については「歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ」という表現で発表された。

 

 石破首相は、先日の国連総会で「日朝国交正常化」に言及した。これは韓国側も歓迎している。9月30日には石破首相が韓国・釜山を訪問し、李大統領と2回目の首脳会談をすることにもなった。そのような共同作業をへて、9月半ばに韓国を訪問した。

 

「平和へ再出発!」 南北交流を阻む朝鮮国連軍

 

平壌共同宣言7周年記念式典で文在寅元大統領(中央)と握手する伊勢崎議員(9月19日、韓国京畿道坡州)

 質問 韓国での議員外交はどのような内容のものだったのか、手応えも含めて聞かせていただきたい。

 

 伊勢崎 2018年の「平壌共同宣言」から7周年となる9月19日、京畿道坡州(パジュ)の旧キャンプ・グリーブスで開かれた記念式典『PEACE,START AGAIN!(平和、再出発!)』に、僕は唯一の外国人来賓として招かれた。それに出席することが主な目的だった。

 

 会場の旧キャンプ・グリーブスは朝鮮戦争以来、最前線の米軍基地だったが、2007年に韓国に返還され、現在は京畿道(キョンギド)が所有・管理する博物館的な施設になっている。おもしろいことにこの式典は韓国政府ではなく、38度線に接する広域自治体である京畿道が主催したもので、演出も含めて非常にスペクタクルな一大行事だった。

 

 韓国には、統一省(Ministry of Unification)という、南北統一に向けた政策を専門とする省庁がある。式典には、僕が個人的に尊敬する文在寅元大統領をはじめ、現在の鄭東泳氏を含む歴代の統一省大臣、元KCIA長官らが一同に列席した。李政権になってから南北国交正常化を希求する政治勢力が確実に大きくなっていることを実感した。そのような勢力が政権を握ったということだ。

 

 そこで「朝鮮国連軍(UNC)」の問題が非常に熱く語られたことは意外だった。式典会場となったキャンプ・グリーブス返還にあたっても朝鮮国連軍からいろんな妨害があり、とくに新型コロナ・パンデミックの時に、京畿道や民間団体が人道支援としてタミフルなどの医療物資を北朝鮮に送ろうとしたところ、朝鮮国連軍がそれを妨害したことが象徴的に語られていた。つまり、官民の南北交流を阻む存在になっているのだ。

 

 本紙上でもたびたび言及してきたように、朝鮮国連軍は、「国連軍」といっても、国連憲章第7章に基づいて安保理が統括する現在のPKOのような「国連軍」ではなく、米軍司令官の指揮下で活動する米韓主体の多国籍軍だ。根拠となる安保理決議は、1950年に北朝鮮が韓国に侵攻した直後にソ連欠席の下で採択されたものだけで、この決議によって「国連軍」の名称と国連旗を用いることを認められた。それ以来、この「国連軍」に対する安保理決議は一つもない。朝鮮戦争の休戦相手国は北朝鮮と当時の中国だが、いまや五大国として国連常任理事国となった中国と国連が対立することなどできるわけがないのだ。

 

 現在の国連が匙(さじ)を投げた国連軍。国連安保理が解体できない国連軍。まさに「冷戦の遺物」、ゾンビだ。地中に埋まって大人しくしているゾンビなら放っておく手もあるが、そうではない。ドイツは2024年からこのゾンビに戦闘部隊を派遣することになった。これは日本にとって大問題だが、尹前大統領は昨年8月15日の光復節記念式典で、日本の7つの在日米軍基地を「自動報復システム」、つまり、北朝鮮が南侵をおこなった場合、朝鮮国連軍が“自動的”かつ即時に報復する仕組みが、日本にあると言及した。

 

 世界で唯一、この実働するゾンビ(朝鮮国連軍)と地位協定を結ぶ、おめでたい国がわれわれ日本だ。朝鮮国連軍の後方司令部は横田基地に置かれ、7つの在日米軍基地(横田基地、キャンプ座間、横須賀基地、佐世保基地、嘉手納基地、普天間基地、ホワイトビーチ)が後方基地に指定されている。そして、朝鮮国連軍地位協定は、日米地位協定(日米合同委員会)と密接に連動している。有事のさいには、すべての在日米軍基地がこの「国連軍」に提供されることになっている。

 

 それはどういうことか? 日本は朝鮮国連軍には参加していないので、開戦の決定に一票を投じる権利はないが、ひとたび戦端が切られると、自分の意思と関係なく国際法上の交戦国になる。つまり、わが自衛隊が何もしなくても、北朝鮮、中国にとって日本は国際法上、合法的な攻撃目標になる。これが朝鮮国連軍地位協定が日本を支配する仕組みだ。

 

 僕の目標は、この冷戦の遺物である朝鮮国連軍を解体することだ。アメリカがこれを発展解消させる前に完全に解体する。そのためには日韓市民社会の協力が必要になる。

 

ゾンビの改編企む米国 「アジア版NATO」

 

議員会館で韓国の国会議員らとのワークショップをおこなう伊勢崎議員(9月18日、ソウル)

 伊勢崎 今回の韓国訪問では、韓国の政治家や学者たちと論議する機会をいただいた。そこでは右(保守)であろうと左(革新)であろうと韓国の人たちは、この問題について強い意識をもっていることを実感した。

 

 9月17日には、国立ソウル大学国際大学院で、議員になって初めての海外講演をおこなった。同大学院の南基正教授の計らいで実現し、参加者には元神戸領事館公使経験者や北朝鮮研究大学院大学の教授たちもいた。アメリカが持つ地位協定の国際比較から見た、日米と韓米のそれにおける互恵性(法的対等性)の欠如を中心に語り、東アジアの恒久的な平和のために現実的な一歩として朝鮮国連軍の解体について議論した。

 

 同18日には、開催中の韓国国会本会議を特別席から傍聴。会議冒頭で議長より経歴を含めて紹介され恐縮した。その後、議員会館で「揺らぐ停戦体制、そして国連軍司令部」と題したワークショップで基調講演をおこない、大統領諮問機関である民主平和統一諮問会議議長、ハンギョレ新聞首席論説委員らと討論をおこなった。また同日、「東北アジアの平和と韓日関係の発展のための韓日議員の役割」と題したワークショップで現役議員有志たちに講演をおこなった。

 

 前述したように、韓国保守層には、「日本が提供する在日米軍7基地を北朝鮮抑止の『自動報復システム』とみなし、それを失うことは国益を損なう」という見方が根強い。一方で、彼らは「主権の問題」として、戦時の作戦指揮権を在韓米軍最高司令官から取り戻すことを追求している。韓国軍の作戦指揮権は、朝鮮戦争勃発直後から米軍に委譲され、そのうち平時の作戦統制権については1994年に韓国に返還されたが、戦時の指揮権はそのままになっている。これを取り戻すことが保守勢力の政治目標になっている。

 

 だが、在韓米軍司令官は朝鮮国連軍司令官を兼任している。そして、韓国軍は朝鮮国連軍には入っていない(発足当時からアメリカがそれを代表している)。そのことが韓国が戦時指揮権を取り戻すうえで一つの障害になっている。これを問題視している人は保守側にもいる。

 

 革新系の人たちは、アメリカから主権を取り戻すことが必要だと考えている。韓国が北朝鮮と交流することは主権国家の意思だ。それを「国連軍」が邪魔するとは何事かということだ。韓国の法学者とも論議したが、朝鮮国連軍は現在の国連ではない70年前の国連における安保理決議によって発足した「国連軍」だが、それでも与えられた使命はあくまでも停戦監視、休戦状態の維持だ。それが韓国の主権国家としての行動を制限するというのは逸脱行為ではないかと誰でも考えるわけだ。国際法上の根拠はもうなくなっている――そのような研究がどんどん進んでいる。

 

 韓国でこのような議論が起きていることをアメリカは敏感に察知している。今回の訪韓で総合的に感じたのは、アメリカは強い意志を持って動いているということだ。

 

 くり返すが、朝鮮国連軍の存続は、韓国右派勢力にとっても「国連」の名を冠しているが実際にはアメリカ主導の多国籍軍であり、国連の直接的な指揮下になく、国連憲章に基づく正統性を欠くという批判に耐えられなくなっている。現行の朝鮮国連軍司令部(UNC)も冷戦期につくられた多国籍部隊指揮体系の名残に過ぎず、そのまま存続させる合理性は低い。

 

 そこでアメリカは、中国を念頭に「ワン・シアター(朝鮮半島―日本海―南シナ海の一体運用)」構想を協議し、朝鮮国連軍を解体するのではなく、それを改編・拡張した多国間集団安全保障体制(いわゆる「アジア版NATO」)への移行を模索している。それが石破首相のいうものと同一のものかどうかは未確認だが、少なくとも韓国ではその動きがあることが確認できた。

 

 その場合、司令部を韓国に置くとあまりにも敵国と近すぎるため、朝鮮国連軍がその創成期において東京を拠点にしていたように、司令部を日本に戻し、指揮統制構造の再編と戦時作戦統制権(OPCON)移譲の進展によって、韓国と日本を合わせた地域抑止の効率化を狙っている。

 

 朝鮮半島有事、尖閣諸島問題、台湾有事……日本では別々の問題として語られがちだが、アメリカの構想にそんな区切りはない。北東アジア一帯を一つの劇場(シアター)として捉えている。それを踏まえると、今、沖縄・南西諸島から北海道まで全国で起きている新たな軍拡は、すべて一体のものであることがわかる。決して沖縄だけの問題ではないのだ。

 

南北軍事境界線がある韓国板門店のJSA共同警備地区。青い建物の半分から奥が北朝鮮(2017年、伊勢崎氏撮影)

 質問 仮にも交戦相手国である北朝鮮からの防衛を名目に駐留する朝鮮国連軍を、中国まで見据えたものに改編・拡大することについて韓国の国内で反発はないのだろうか?

 

 伊勢崎 韓国国内でもいろんな思惑が走る。これからの敵は中国だと見なす勢力もあれば、北朝鮮と密接に結びついたロシアを含めた三国連携に対する警戒感もある。

 

 だが、中国に対する抑止力を高めるために日本への米軍拠点移転だけを志向すれば、かえって軍事的緊張を固定化し、日韓両国が「第2のウクライナ化(代理戦争の戦場化)」を招きかねない。日本とアメリカが後方にいて、韓国が第一の戦場になる構図になってしまい、それでは韓国が火の海になるリスクが高まってしまうという懸念だ。

 

 だからこそ、北朝鮮との関係正常化努力と並行して、朝鮮国連軍の適切な解体・再編を進め、日韓が共同で多国間安全保障体制を構築することこそが、この地域の安定に向けた現実的かつ持続的なアプローチだという論議になった。

 

 韓国議員会館での議員や研究者とのワークショップでは、朝鮮国連軍を再活性化・権限拡大させる動きについて、次のような指摘があった。

 

 朝鮮国連軍(UNC)は1950年の国連安全保障理事会決議第83号および第84号に基づき設立され、朝鮮戦争中の特定の状況に対応するためのものであり、現在のUNCが権限を拡大する場合、国連憲章第7章の適用範囲を逸脱する。

 

 UNCは、1953年の朝鮮戦争休戦協定に基づき、敵対行為の防止と休戦体制の維持に限定されるべきであり、権限拡大は停戦協定の趣旨にも反する。

 

 最近になって、UNCがDMZ(非武装地帯)を通じた官民の南北交流や協力事業に対して許可を出さず、これを妨害した事例が起こった。これは韓国の自主的な外交・安全保障政策を制約するもの、つまり主権侵害である。

 

 国家主権の不可侵は国連憲章の基軸であり、「国連軍」が国連憲章を侵害している。

 

 UNCの再活性化に伴い、軍事演習や新たな加盟国の受け入れを、北朝鮮がさらなる挑発行為と見なすのは当然であり、休戦協定の趣旨に反して地域の平和と安定を損なう可能性がある。

 

 以上のような指摘があるにもかかわらず、UNCの解消には至っておらず、日本の加盟をも視野に入れた権限拡大の動きが存在する。これは、推進派が「安全保障化」(脅威を強調し、大衆の恐怖を増大させる)のナラティブを発することで、朝鮮半島を「第2のウクライナ化」へと導く危険性をはらむ。この状況に対抗するためには、日韓の政治家が一体となって、安全保障上の脅威を過度に強調する言説ではなく、緊張緩和と平和構築を目指す「脱安全保障化」のナラティブを提唱し、推進することが急務である。以上を確認した。

 

主権なしには平和なし 日韓の意識の差

 

 質問 朝鮮国連軍の後方基地があり、朝鮮国連軍地位協定を結ぶ日本では、これらについての議論や研究が少ない。日韓の意識の差をどのように感じられたか?

 

 伊勢崎 強調したいのは、韓国では右側の人たちも主権の問題として、アメリカから戦時の指揮権をとり戻そうとしているということだ。だが、朝鮮国連軍と在韓米軍は司令官が兼任し、韓国が国連軍に入っていないことが障害になっており、その存在が問題視されている。日本では、右も左もそんなことが論議されるどころか、意識されることすらない。

 

 今ごろになって「韓国にいる米軍はアメリカだけのものではなく、実は世界のため、国連のためだったのだ。つい最近はドイツも加盟したし…」みたいな論調が著名な論客からも聞こえ始めた。これほど安易な考え方はない。なぜなら朝鮮国連軍は国連における正統性がない。つまり国際法上の正統性がないのだ。そのことが韓国でも問題視され、アメリカもそれに気づいて発展解消を考えている。アメリカ自身も今のままではダメだといっているのに、今ごろ日本の世論が「あれは国連だったのだ」というのでは話にならない。

 

 質問 近年、日本でも「アジア版NATO」が提唱されたり、対中国の軍拡や日米共同演習が盛んにおこなわれている。開戦決定に参加できないなら「日本も朝鮮国連軍に加われ」という方向に進む可能性があるということだろうか?

 

 伊勢崎 そうだ。だが、朝鮮国連軍(アジア版NATO)に韓国と日本が加盟してしまえば、われわれが中国を敵国と見なすことが固定化する。それはアメリカの思うつぼだ。北東アジアで有事が起きれば、アメリカはウクライナ戦争と同じように自分は戦わず、韓国と日本がアメリカの武器を使いながら戦うことになる。武器もトランプ政権はタダではくれないだろう。必ず高値で買わされる。それでいいのか? という話だ。

 

原発密集する東アジア 国防上の重大リスク

 

 質問 日韓で多国間安全保障体制を構築する具体的ビジョンについても論議されたのだろうか?

 

 伊勢崎 国立ソウル大学でのワークショップの討論者のなかには、原子力政策を専門とする同大学教授もいて、「原発が国防の脅威であることの認識の低さ」の日韓比較で盛り上がった。

 

 安全保障問題として原発の管理を考えるという点については、日韓ともに遅れていると感じた。電源喪失するだけで水素爆発を起こし、炉心溶融することを示した福島原発事故の後、世界の原発防護に対する考え方は激変した。原発を攻撃するためには、旅客機をハイジャックして突っ込む必要もないし、ミサイルを撃ち込む必要もない。軽武装の特殊部隊を数人送り込むだけでいい。最近はドローンもある。脅威に対していかに脆弱であるかということが認識され、各国で対策が大きく変化している。一番考えていないのが原発事故当事者の日本だ。

 

 国際法(ジュネーブ諸条約)上、原発への武力攻撃は戦争犯罪とみなされてはいるが、厳密にみると例外措置がある。戦争は軍事拠点を叩くことなので、それがやむを得ない場合は住民被害を最小限に抑えて慎みながらやるならよい、というような書き方になっている。

 

 そこで、ウクライナ戦争、イラン核施設への攻撃が起きた。とくにウクライナの場合は、原発施設が歩兵戦の戦場になった初めてのケースだ。これまでは、イスラエルがイラクやイランの原子炉を爆撃してきたように基本的には空爆の対象だった。だがウクライナでは原発が肉弾戦の舞台になるという恐怖を世界は味わった。この教訓を踏まえて原発のセキュリティに関する新たな規制づくりのための国際的な議論が始まると思う。

 

 実はこのたび初めて知ったのだが、韓国は国土面積当りの原子力発電設備容量密度が世界一高い。一方、日本の原発は冷却水確保の必要から海岸線沿いに50基以上も集中している。中国にも同じ問題がある。東アジアはすでに世界有数の高密度原発地域となっており、テロや戦闘下で原発が攻撃対象となるリスクが顕在化しているのだ。この地域では絶対に戦争はしてはいけない――そういう意識を原発の問題から広げていくことが必要ではないかという話になった。

 

 韓国の議員がいっていたのは、いままで原発の保全は、セーフティ(津波や地震)の問題としては考えられてきたが、セキュリティ(国防)の問題としては考えてこなかったということだ。日本は韓国よりもその認識が遅れている。セキュリティ・クリアランスという考え方があるにはあるが、たとえば原発に出入りする日雇い作業員も含めてその素性をチェックするなどの基本的な責任は、日本では東電などの企業にある。だがアメリカは国がそれをやる。商用原発であっても。それだけ国防の問題として扱われている。これについては日韓ともに遅れており、大問題ですねという議論になった。

 

 いずれにしても日韓両国が原発を国防上のリスクとして共有し、国民の安全意識を高めることは、地域的抑止力を強化し「第2のウクライナ化」を回避するための重要な一手となり得る。

 

日韓共通の課題 パレスチナの国家承認

 

パレスチナ国家承認の要望書と206議員の署名を岩屋外相に提出した超党派人道外交議連の伊勢崎賢治(右端)、阿部知子、舟山康江の各議員(9月11日、外務省)

 質問 イスラエルによるガザ攻撃が長期化し、死者は6万5000人にのぼり、親イスラエルの立場にあった欧州主要国もようやくパレスチナ国家承認の動きを見せている。一方、日本は国家承認を見送った。超党派議連として国家承認を求める署名(206人)を提出されていたが、依然として動きは鈍い。今後のアクションの方向性については?

 

 伊勢崎 パレスチナ国家承認に向けてヨーロッパの国々の態度が変化しているが、一方で「なぜもっと早くからやらないのか?」という話にもなる。これは明らかに世論が変えている。国内世論が自国の政権に圧力をかけている。他国(ガザ)の問題でこれほど人道的な世論が高まったことはかつてないことだ。それがまだ訪れていないのが日本と韓国だ。なんとかしなければならない。

 

 韓国と日本が、アメリカに忖度することなく、東アジアに自律した平和を築くためにも、今こそともにパレスチナ国家承認することが必要だ。

 

 第二次世界大戦後、ホロコーストの悲劇を教訓として、国際規範は戦争犯罪をより厳しく裁き、人道主義をサポートするものへと飛躍的に発展した。戦後80年たって、それが再び挑戦を受けている。これほどむちゃくちゃな国家(イスラエル)が現れたことに対して、国際規範が何もできない状態にある。

 

 これに対して人類は立ち上がると思う。国際条約の発効に向けて、原発施設の保全にかかわるものも含めて、新たな動きが始まっていくだろう。ウクライナ戦争についていえば集団的自衛権の悪用を許さない方向へ、ガザ・ジェノサイドについては、国際司法裁判所(ICJ)のジェノサイド判決が出るまでは数年から数十年かかるのが常だが、パレスチナにおけるイスラエルの行為は比較的早くジェノサイドとして正式に認定されるだろう。国際刑事裁判所(ICC)でも同じ動きがあるはずだ。あれほど殺戮の映像がSNSで発信され、為政者のジェノサイドの意思が明確に記録されているのだから。

 

 しかし、裁判所といえど世論に押される。そこに向かって世論をさらに盛り上げていくことが必要だ。パレスチナ国家承認は、イスラエルの暴力を止める外交圧力になるとともに、裁判所の裁定を後押しするものになる。また、たとえ司法的な決着がつかなくても、次世代に引き継ぐべき世論(歴史の解釈)として、これがジェノサイドであるという考え方が定着していくはずだ。司法的な決着とともに、これを一つの史実として残す営みを続けなければいけない。

 

 なによりも日本は、アメリカ、ロシア、中国、北朝鮮、イスラエルも締約しているジェノサイド条約に批准していない、世界でも珍しい国だ。パレスチナ国家承認も含めて、超党派で動かしていきたい。

 

(聞き手・本紙編集部)

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この記事へのコメント

  1. 伊勢﨑さんが議員であることの期待感安心感力強さは半端ない!日本にとっては最高の人材。外交安全保障分野では、党派問わず伊勢﨑さんを大臣に任命すべき!

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