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ロックダウンは補償が常識 オーストリア在住者に聞く 日本政府と対応に大きな差

 新型コロナ感染が爆発的に拡大するなか、首都圏の1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)を対象に7日、再び緊急事態宣言が発出された。飲食店などに的を絞った今回の緊急事態宣言は、その効果が疑問視される一方で、政令改正によって知事が協力要請に従わない店舗名を公表でき、罰則(罰金等)などより強制力を付与する特措法改定案の国会提出が検討されている。しかし一貫して補償は乏しく、廃業・倒産が続出し、「これ以上時短要請に応じられない」と飲食店等から悲鳴が上がっている。世界的にみると、各国それぞれに事情は違うものの、少なくともロックダウンは国民への政府補償とセットでうち出されている。なかでも補償が充実しているといわれるオーストリアの支援策について、現地在住の画家・前田晴子氏と、ウィーンでカフェとバーの2店舗を営む飲食店店主に聞いた。

 

 オーストリアの人口は約890万人。1月7日現在で、新型コロナ感染者は37万3046人(うち死亡6568人、治癒34万6901人)となっている。
 昨年3~4月に最初のハード・ロックダウン、同4~5月に2回目のライト・ロックダウンがおこなわれ、6月からは通常に戻っていたが、10月以降に感染者が再び増加し、現在は11月から連続で続いている3度目のロックダウンの最中だ。店舗、レストラン、劇場、博物館、学校は1月18日の週に再開する予定。大規模な集団検査がおこなわれ、陰性者は早期に封鎖解除となり、検査を受けなかった人は24日まで封鎖が継続されるという。

 

 ロックダウンという厳しい規制が課される一方、オーストリア政府はコロナが収束するまでのあいだ、ベーシックインカム式給付金、企業持続化給付金、家賃補助、消費税減税、所得税減税、年金配給額の増加などをうち出している。アーティスト、飲食店、商店、フリーランス・個人事業主、従業員、失業者、年金生活者、医師・看護師、子ども、会社・企業など幅広い業種に対して手厚い支援がおこなわれており、コロナ禍でも安心して生活ができているという。

 

 アーティストへの補償は、
 ①国から月1000ユーロ(約12万円)×12カ月で総額約150万円
 ②州からのアーティスト補助金3000ユーロ(約38万円)
 ③ロックダウンボーナス1回目1300ユーロ(約16万円)、2回目700ユーロ(約8万8000円)、3回目500ユーロ(約6万5000円、1月15日送金開始予定)
 と、総額で200万円をこえる金額が給付されている。

 

給付金の振込を知らせるメール。㊧最初の給付金(昨年5月)㊨ベーシックインカム式給付金(昨年7月に5ヶ月分まとめて振り込まれた)

 画家である前田晴子氏が受けとったのは、この3つの給付金(3回目のロックダウンボーナスはこれから)だ。昨年3月に最初のロックダウンが発令されたとき、「補償が出る」と発表されたものの、当初はどの程度か不明だったという。同4月に申請があり、翌5月に最初の500ユーロ(約6万円)が、6月には申請なしで追加の500ユーロの振り込みがあった。春の時点で収入源である展覧会やアートフェアのキャンセルなどあいついだ。この時点ではまだ職業別の具体的な補償額が決まっておらず、補償額も少ないと思っていたというが、6月末ごろにはアーティスト用の補償が毎月1000ユーロ(約12万円)受給できることがわかり、ほっとしたという。

 

 前田氏は、「作品も今年から売れ行きはかなり厳しくなるだろうなと覚悟していたが、7月からアート作品にかかる消費税が13%から一気に5%に減税になり、今年の作品売上がそのおかげかかなり好調だ。そして秋になり再びロックダウンになったときも、毎月のベーシックインカム式給付金とロックダウンボーナスが追加でもらえ、経済的不安はまったくなく、収入を心配せずに作品制作に集中できる時間が増えたことがよかった」と話す。

 

 一時的にベーシックインカム式給付金をもらって感じたことは、①焦りなく、仕事に集中できる、②収入面での心配がなくなり、新しい研究や実験ができる時間を持てた、③今まで我慢していたほしい物を買え、高い画材も買え、生活も仕事も充実した、④少し嫌なことがあっても心に余裕が生まれ基本幸せ、ということだった。

 

飲食店には売上補償や固定費補助も

 

コロナ陽性者を迎えにきた救助隊。ロックダウン中、食料の買い出しと散歩は許可されている(前田晴子氏提供)

 日本国内でも「夜間の外出自粛」でもっとも影響を受けているのが飲食店だが、こちらもオーストリアではロックダウンを開始した昨年3月から8月まで、毎月1000ユーロ(約12万円)の補償が支給された。飲食店に向けた補償策は、


 ①毎月1000ユーロ(約12万円)を3~8月に支給。
 ②11、12月のロックダウン時の売上補償。11月は前年度比で損失の80%、12月は前年度比で損失の50%を補償(11月はクリスマスボーナスを従業員に支払うため、その分補償割合が高い)。
 ③固定費(家賃、光熱費など)を売上の損失割合に応じて支払う(前年比50%減であれば固定費補償も50%)。条件は売上が30%以上減少した店舗で、上限は1店舗当り80万ユーロ(約1億円)。
 ④従業員の休業・時短補償。40時間の労働時間が20時間になった場合、実質労働時間の20時間分を会社が負担し、失われた20時間分の給与の80~90%を政府が負担。
 ⑤従業員のチップ代を一人100ユーロ(約1万2500円)支給。
 ⑥ロックダウン中に従業員バイトの解雇を禁止する解雇禁止令発令。
 ⑦2020年9月~2021年6月までの損失を70~90%補償。売上が30%以上減少した店舗が受給対象(12月に新たに導入された補償)。

 

 ウィーン市内でカフェとバーを経営する個人事業主の女性の場合、2つの店舗の家賃が月額で4872・58ユーロ(税抜き)で、正社員1人、パートタイマー2人、アルバイト4人の人件費も家賃と同程度だという。
 昨年3月のロックダウンは突然のことでショックを受けたが、WKO(オーストリア経済商工会議所)からすぐにサポートのメールが入り、週末の2日間で電話とインターネットのシステムをつくりあげたという。当初は、無収入になった者に月額500ユーロを支給するという話だった。財源は国とWKOがプールしていたもので、事業の実施を国がWKOに委託した。その後、500ユーロ追加されることが決まり、月額1000ユーロになったという。昨年、政務局に報告した売上高の50%以上の収益損失がある月に1000ユーロが支給されるとのことで、女性の場合、3カ月分の支給を受けた。

 

 固定費(家賃、光熱費など)の補償は昨年5月20日から申請が開始された。公認会計士を通じて申請する仕組みのため、会計士が多忙で新規顧客をひき受けることができず申請が遅れるなどの状況はあったようだが、この補償で家主も未納だった家賃をカバーすることができたという。

 

 経営者の女性によると、当初、行政の腰は重かったが、WKOが事業者の代弁者として国に対し力強く交渉したことで、この支援策が勝ちとられたという。日本のハローワークに当たる雇用支援機関(AMS)からは、「給与の90%を支給するので従業員を解雇しないように」という連絡があったが、給与補償90%という話から女性は申請せず自腹を切って全額給与を支払い続けることができたという。また、社会保険費や電気代、電話代は12月末まで未払いでも強制執行をしないという連絡があったほか、家賃について国が「12月末まで未払いでも待ってほしい」という声明を出した(法律にはならなかった)。

 

 当初、ハローワークに当たる機関の給与補償はうまく機能せず、苦労した事業者も多かったというが、その後に組織全体を大掛かりに改善し、現在は機能しているといわれている。

 

 こうした補償が次々うち出されたことで、オーストリアの大手紙の報道によると2020年の破産は前年と比べて3分の1に減少している。このまま政府が補償し続けられるかどうかが鍵となるが、現在オーストリア政府は国民を守るという方針のもとで、必要な施策をうち出していることが住んでいて実感できるという。「オーストリアは弱者に優しい国だ」と両氏ともに話していた。

 

業種や世代に応じて直接給付や減税措置

 

 オーストリアのその他の業種に対する支援策を見てみると、

 

■フリーランス・個人事業者・10人以下の従業員を抱える零細企業の雇用主
 ・毎月1000~2500ユーロ(約12万~約31万円)を支給。
 毎月500ユーロ(約6万円)は無条件に支給され、500~2000ユーロは毎月または3カ月に一度申請し、条件に該当する場合に支給される。条件は、①事業家がランニングコストをカバーできない場合、②国のコロナ対策で立ち入り禁止の状態になっている場合(店舗、仕事場、現場など)、③50%の減収があった場合、など。(注:一部訂正しました)


■商店
 ・固定費(家賃、光熱費など)の補償。売上損失の割合に応じて支払い。
 ・前年度同月の売上を20~80%補償(飲食店と違い、商品が長期間保存でき、破棄する必要がなく、ネット販売も普段から盛んな大型店などは補償が少ない)。
 ・従業員の休業・時短補償(飲食店と同じ)。
 ・新たな損失補償を昨年12月から導入(飲食店と同じ)。


■会社・企業(ロックダウン中も影響なく経営)
 ・従業員の時短補償。


■医療従事者
 ・医師、看護師にコロナ・ボーナス500ユーロ(約6万円)。
 ・その他医療関係者に500ユーロ(約6万円)。
 (補償のなかで、医療従事者へのボーナスについては少なすぎるとの批判があるという。各病院で独自にボーナスを出すなどしており、それらについて3000ユーロまで非課税としている)


■子育て世帯
 ・子ども1人につき360ユーロのコロナ・ボーナス+勉強費用100ユーロ(計約5万6000円/子ども1人)。


■大学生
 ・学費を手数料のみに減免(学生連合Hの支援)。1学期20ユーロ(約2400円)で年間40ユーロ(約4800円)に。
 ※通常の学費はオーストリア国民・EU加盟国人…1学期約5万円、その他の外国人…1学期約10万円。


■コロナ期失業者
 ・失業保険料とは別に450ユーロ(約5万5000円)支給。
 1回目…5~6月 60日以上失業の場合450ユーロ
 2回目…45日以上失業の場合450ユーロ、30日以上失業の場合300ユーロ、15日失業の場合150ユーロ


■年金受給者
 ・年金受給額が2333ユーロ(約29万円)以下の年金受給者に、毎月受給額の3・5%を上乗せして支給。
 ・年金受給額が2333ユーロ(約29万円)以上の年金受給者には毎月35ユーロを上乗せして支給。


■高齢者
 ・ロックダウン中に使えるタクシー券を50ユーロ(約6000円分)支給。ウィーン州から公共交通機関を使用すると感染の可能性があるため、高齢者感染防止の配慮。
 ・65歳以上にFFP2マスク10枚を配布(普通のマスクは一部のスーパーで無料配布されている)。


■消費税の減税
 ・2021年末まで、芸術文化、飲食、ホテル、観光業の消費税10~20%を5%に減税(飲食店の場合、食事は10%→5%、飲料は20%→5%)。


■イベント補償
 ・2021年1月より新たに導入。イベント中止や人数制限、規模の制限による損失を補償。1イベントにつき最高1億2000万円までを補償する。期間は2022年末まで。


■その他
 ・ロックダウン中の駐車料金全国無料。
 ・ウィーン州から市民へ、飲食店の食事券1人25ユーロ(約3000円分)。ロックダウンの制限解除後の夏2カ月間限定。
 と多岐にわたっている。オーストリアの通貨はユーロであり、同国政府は通貨発行権を持っていない。にもかかわらず、これだけの施策をうち出し、政府として国民生活を支える姿勢を鮮明にしているわけで、自国で通貨発行権を持つ日本政府にできないはずはないといえる。

 

誰でも無料で 封鎖中に大規模検査も

 

コロナ国民大規模検査の会場入り口。ロックダウン解除前に実施(昨年12月、ウィーン、前田晴子氏提供)

 また、オーストリアは国をあげた一大プロジェクトとして昨年11月に「コロナ大規模検査」を発表した。ロックダウンが解除され、学校や商店が再開して多くの人々の行動が活発になる前に感染者を見つけ出し、感染拡大を抑え込むためだ。

 

 これまでも、マスク着用義務や濃厚接触者の追跡などのほか、全国に検査所を設置し、いつでもだれでも何度でも無料で検査を受けることができる体制をとっていた。新たな施策である「大規模検査」は昨年12月5日に導入されている。全国各地のホールや体育館に検査所を設置し、オーストリア軍兵士が検査員として派遣されているという。

 

 最初の大規模検査で、全国の教員からコロナ陽性者が300人発見され、学校が再開する直前に隔離された事例もあったという。かりに大規模検査をしないまま学校を再開していたら、クラスターが発生した可能性も高い。1月半ばから2回目の大規模検査がおこなわれる予定で、前田晴子氏は、教師は週1回の検査が義務になったと発信している。

 

 当初は登録のサイトにアクセスが集中してサーバーダウンし、ネット上でもメディア報道でも批判があいついだ。しかしながら、日本政府の対応と比較したとき、少なくとも感染拡大を抑え込むため、政府として本気で政策を決定していることが伝わってくるという。

 

通貨発行権持ちながら支援策乏しい日本

 

 各国それぞれに問題を抱え、補償が行き届いていない業種、雇用形態などは異なっており、簡単に比較することはできない。しかし、ロックダウンをおこなっている国の多くは、こうした補償策や検査体制などを同時にうち出しており、ドイツやイギリス、フランスなど各国の日本人在住者から、「毎月補償を受けとれている」といった発信がおこなわれている。ドイツでは政府の雇用プログラムによって、昨年12月の失業者は減少したと報じられている。

 

 日本では、基本的に当初から「補償はしない」という姿勢で、国民からの突き上げによって後手後手ながら、持続化給付金(100万~200万円)、家賃支援給付金(6カ月分)、雇用調整助成金(休業手当分を国が補てん)、全国民への10万円定額給付などの支援策がおこなわれてきた。しかし不十分なため倒産・廃業が続出しており、社会福祉協議会が窓口となっている緊急小口(貸付)の申請なども急増している。今回、1都3県(今後、関西や東海地方にも拡大予定)の緊急事態宣言を受けて、時短要請に応じた店舗への協力金を1日あたり6万円とすることなどが決まったが、固定費の高い首都圏の飲食店では一日6万円では協力できないという声があいついでいるのが現状だ。

 

 国民に我慢をお願いするだけの「勝負の3週間」など、日本政府の新型コロナ対応が「政策」といえない現状にあることが、各国の対応との比較から改めて浮かび上がっている。国が動かないのなら、国民の側から大規模な財政出動を求める声を上げていくことが必須だ。やる気があればできることをオーストリアの実例は示している。

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロ- says:

    いつもマスコミが報道しない情報を載せていただきありがとうございます。励みになります。日本でコロナ補償が少ないのは中小企業を弱体化させ外資に手軽に売り渡すのが目的でしょうか?国民に特別給付金を手厚く配らないのは貧富の格差を拡大させるためでしょうか?あまりにも政治家の無責任な対応にあきれます。欧州が手厚い補償ができるのはEUが通貨発行して各国に配っているのでしょうか?財源の元が気になります。また、隣国の中国、韓国や米国のコロナ経済対策事情(補償と消費税減税と財源など)是非、教えてください。日本がどれほど無能、無策で国民を殺しにかかっているか各国と対比して日本の無慈悲ぶりが浮き上がります。国民はもっと政治に怒りを持って監視しなければなりません
                                                 SNSを通してこちらの記事を拡散させていただきました。
    一人でも多くの方に知ってもらいたいです。

  2. 小田義人 says:

    わたしも、同意見です。菅首相が、対応して欲しいです。今の日本は、地獄に、走っている。山本太郎さんを、政治家に、戻そう!

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