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変異株「オミクロン」が突きつける世界的矛盾 ワクチン・医薬品格差をなくす取り組みを 国際支援団体が緊急報告

 コロナ新変異株「オミクロン」が発見され、各国が入国制限や渡航制限を発出するなど再び大慌てしている。南アフリカで分離されたとされるオミクロン株がなぜ出現したのか、その背景にあるワクチンや医療格差の問題の解決に向け、新型コロナへの公正な医療アクセスをすべての人に!連絡会(事務局アフリカ日本協議会)が11月30日、「世界を揺るがすコロナ新変異株『オミクロン』―ただちに世界のワクチン・医薬品格差をなくす取り組みを!」と題して緊急にメディアや市民向けの広報をおこなった。同連絡会の事務局でもあるアフリカ日本協議会の稲場雅紀氏と、アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表の内田聖子氏による報告の要旨を紹介する(一部、質疑応答の内容を含む)。なお、この報告は同連絡会および所属団体の公式見解を表明するものではない。

 

オミクロン株を生み出した世界のワクチン・医薬品格差=世界の論調と今求められる行動

 

    アフリカ日本協議会  稲場 雅紀     

 

 もともとHIVにかんするとりくみを90年代からしている。とくにアフリカのHIV問題が深刻になり、2002年以降はアフリカ日本協議会でとくに途上国における医薬品アクセスについて政策の面からとりくんできた。コロナで問題が再燃しており、私たちもワクチン・ギャップ、医薬品ギャップをどのような政策提言で解決していくのかというところでとりくんでいるところだ。

 

 論点は三つ。
 ①オミクロン株をつくり出したのは、先進国と途上国の「ワクチン・医薬品格差」=ワクチン・アパルトヘイトである。

 

 ②オミクロン株が検出されたのは南アフリカ共和国ということになっているが、同国はコロナになってから検査能力や遺伝子解析能力を高め、今回新たな変異株が検出されたことについても遺伝子解析したうえでWHOの「国際保健規則」(国際保健上、脅威となり得るものについては検出して24時間以内に通知しなければならない)を忠実に守り、世界に通知した。ところが世界は渡航制限のみで応え、オミクロン株への対処についてはまったく明確にしていない。忠実に守って通知した国に対してある種、処罰するような状況になっている。皮肉なことに現在、「パンデミック条約」が討議されるWHO臨時世界保健総会が開催されているが、これでは各国のモラル・ハザードを生み出しかねない。

 

 ③オミクロン株はいわばブーメラン現象である。途上国をないがしろにした結果、先進国に戻ってきている。「誰もが安全にならない限り、誰も安全でない」という緊急重篤化感染症の原則を踏まえ、知的財産権保護の免除、地域での生産能力拡大で、世界の公衆衛生ニーズに応えていく安全保障体制をつくっていかない限り、世界は危険なままになってしまう。

 

検査も治療も格差拡大

 

 論点①について。変異株は大量に感染が生じ、ウイルスが大量に複製されるプロセスのなかで変異が生じ、それがある程度固定されたものである。感染力が強ければ置き換わり、感染を広げる。

 

 デルタ株は今年3月にインドで確認されたが、ちょうど1、2月にインドで感染爆発が生じる状況があり、結果としてデルタ株が増長した。3、4カ月のあいだに他の株を抑え、今や新型コロナの99%を占めている。変異株を生じさせないようにするためには、さまざまな方法でウイルスの感染を抑えることが大事だ。ワクチンの供給徹底、感染者に対する治療や治療薬、その他の予防手段をしっかりとることなどによって、全体として感染を抑制することで変異株が生まれない状況になっていくということだ。総合的な政策が重要だ。

 

 だが、ワクチン・ギャップの問題が指摘され、解消していこうといわれて何カ月もたっているが、11月23日段階の数字を見ると、先進国では5人に3人が少なくとも1回はワクチン接種をしている一方、低所得国では13人に1人、7・46%しかワクチン接種ができていない【図①参照】。この間にアメリカのバイデン大統領や日本の菅首相が主宰するサミットも開かれ「ワクチンギャップを減らす」と何度もいってきたが、いまだにこの状況だ。

 

 検査について見ると、高所得国では一日平均で1000人当り6・79回おこなわれているのに対し、低所得国では0・09回しかおこなわれていない。検査についてもいまだに大きな格差がある【図②参照】。検査はワクチン以上に注目されておらず、その結果、資金の投入が非常に薄い。

 

 さらに治療面でも、デルタ株で問われた酸素へのアクセスが、インドだけでなく南部アフリカやインドネシアでも大きな問題となった。治療でもっとも厳しい問題になっているのが酸素へのアクセスだ。また、中等症より深刻な状況となった患者を処置する集中治療室のアクセスも、先進国と低所得国では雲泥の差がある。

 

 あらゆる面で格差が生じ、それが全世界における感染抑制に大きなマイナスになっている。

 

 こうしたギャップがなぜ生み出されたのか。残念ながら、市場の失敗があるといえる。ワクチンの配分は市場中心でおこなわれた。なおかつワクチンナショナリズムがあり、先進国は多額の公的資金を投入して自国民が何度も打てるよう大量のワクチンを確保した【表①参照】。知的財産権はもともと、一生懸命資金を投じて発明したものについて、その利益を発明した人にある程度独占させてあげるというものだが、ワクチンについてはまったく異なった論理にもとづいて知的財産権が行使されている。

 

 ワクチンの開発にあたっては膨大な公的資金がこれらの製薬企業に投入されている。モデルナに対しては57・5億㌦(6500億円)以上の資金がアメリカ合衆国から投入され、できたワクチンを公的資金で買いとっている。基礎研究は30年も前からずっとされており、基本的にこれらの製薬企業は実用化することをコーディネートしているわけだ。そのうえで独占権を得ており、これは果たしてよいのか、しかもこの緊急事態に、という問題がある。

 

 もう一つの問題は、ワクチンナショナリズムのなかで先進国が買い占めに走り、その結果、上位中所得国のような、それなりに所得のある国でもワクチンへのアクセスが非常に難しくなったことがある。今年の前半ごろまで、所得別のワクチンの種類はかなりくっきりわかれており、先進国をはじめとする高所得国ではmRNAワクチンを中心に、ウイルスベクターワクチンが入っている。ここがかなり買い占めてしまった結果、上位中所得国(北アフリカ、東欧、中南米など)においてさえ、mRNAワクチンにほとんどアクセスできず、今年中盤ごろまでは中国の不活化ワクチンしかない状況になった。

 

 結局のところ、上位中所得国のワクチンニーズを埋めたのは中国の不活化ワクチンだったということだ。下位中所得国はCOVAX(コバックス)に依存することになった。だが、コバックスが生産を依存していたインドで感染が拡大し、インドで生産したものを自国で使用せざるを得ない状況となり供給不足が生じた。こうした形で世界が非常に階層化される状況になった。上位中所得国、下位中所得国のワクチン配分状況を見ると、中国とインドが自国民に供給したため、一定のボリュームとなっているが、この2国をのぞくとかなり厳しい状況だ。

 

 世界も、ワクチン・ギャップが生まれることは想定しており、パンデミック宣言から一カ月もたたない昨年4月24日に、「ACTアクセラレーター」という枠組みをつくった。これはワクチン、治療、診断、保健システムに関して一手にたくさんの国際機関がかかわる枠組みだ。だが、結果としてここにお金が集まらなかった。また、ACTアクセラレーターの購買力よりも、各国とくに先進国の購買力の方が大きかったため、ACTアクセラレーターは、これまでと同じくジェネリック薬品産業が発達しているインドにつくってもらい、途上国に供給するという体制に帰結してしまった。だがインドが感染爆発してワクチン輸出を停止してしまったので、ここで行き詰った。どのような問題が起こるかわかっていて、一応枠組みはつくっていたが、それよりもワクチンナショナリズムの力が強かったということだ。

 

 この対策として、昨年10月から知的財産権の免除がWTOで議論されている。すでに六四カ国が共同提案国になり、100カ国以上がサポートしており、アメリカ合衆国も5月5日、歴年の知的財産権至上主義政策を改めて、とくにコロナのワクチンに関しては知的財産権を免除すべきということで限定的にサポートしている。ところが、ヨーロッパの一部の国が反対の立場を堅持しているため、通らない現状にある。これをなんとか通さなければならない。

 

支援なく渡航制限のみ

 

 論点②について。オミクロン株はボツワナで11月11日に外国のミッションの外交官からコロナウイルスが検出され、遺伝子解析をしているとおかしいということで、南アフリカ共和国が遺伝子解析をすることになった。同国はスピーディーに遺伝子解析をし、国際保健規則を忠実に守って保健上の脅威についてWHOに報告した。ところが各国は「渡航制限」のみで応えた。これは非常に残念なことだ。南部アフリカでオミクロン株が分離されたのは南ア・ボツワナのみである。欧州や香港、エジプトでも検出されており、アフリカとかかわりのない人もいる状況だ。南部アフリカを特定して渡航禁止政策が多くの国でとられたことは不公平といわざるをえない。

 

 皮肉なことに昨日(11月29日)からWHOでは「パンデミック条約」についての臨時世界保健総会を開催している。国際保健規則だけではコロナのような巨大パンデミックに対応できないので、新たなパンデミック条約という秩序をつくろうというビジョンだ。WHOがいっているように、脊髄反射のような形で渡航制限だけで応えることになると、いくら立派な条約をつくっても各国はそれに応じられないということになる。

 

供給や技術移転が不可欠

 

 論点③について。「だれもが安全にならない限り、誰も安全でない」。この標語をしっかり掲げ、世界の公衆衛生ニーズに沿って、ワクチン・医薬品を供給できるようになることが非常に大切だ。それによって感染を抑制し、変異株の出現を抑え、「ポスト・コロナ」にソフトランディングしていくことが大事だ。

 

 そのために必要なのは、WTOで議論されている「知的財産権保護の免除」を実現し、各地でワクチン・医薬品の生産能力を高めることだ。その動きは、昨年から積み重ねられてきたWTOの議論のなかで、途上国が強く要請したことで実際に始まっている。WHOは「mRNAワクチン製造ハブ」構想をうち出しており、南アフリカのワクチン企業がいくつか手をあげている。やろうとなったところで、ファイザー、ビオンテックがこのまま進むとまずいということで、南アフリカ共和国の会社にmRNAワクチンをつくらせる動きになっている。治療薬についてはメルク社のモルヌピラビルやファイザーの新しい薬にしても、「医薬品特許プール」を活用しようということになっている。残念ながらコロナにおいて一番被害を受けている中南米の多くの国がここから除外されていることは非常に大きな問題だ。いずれにしても医薬品特許プールを使って治療薬を途上国にも供給するという動きができてきている。

 

 先進国の側にある「途上国の企業に製造能力がない」という主張は必ずしも本当ではないといわれている。典型的な例がインド、パキスタン、バングラデシュにおけるジェネリック薬品企業がこれだけ力を持って供給されていることだ。アストラゼネカのウイルスベクターワクチンに関してもコバックスのワクチン供給のほとんどをインド企業が担い、世界に供給する形になった。また、ジョンソン&ジョンソンのワクチンも包装・充填プロセスは南アフリカ共和国の企業がおこなっている。ファイザーとビオンテックのmRNAワクチンは別の南アフリカの企業が包装・充填する話がついているところもある。知的財産権の免除は、免除だけでなくどのように対等な立場で技術移転するのかが大事になっていく。技術移転をしっかりすることで各地域でさまざまな製造能力を強化したうえで、今後のパンデミック対策に適応していく方向へ向かう動きが出てきている。

 

 実は、それを昨秋ごろからきっちりやっているのが中国だ。中国の不活化ワクチンはエジプト、アルジェリア、モロッコの製薬企業で委託生産をして各国の国民に供給されている。インドネシアでもそうだ。こうした形で中国の不活化ワクチンはとくに上位中所得国における製薬企業と契約を結び、すでに各国で製造し供給する段階になっている。

 

 逆にいうと、アメリカが態度を変更せざるを得なくなった理由として、上位中所得国におけるワクチン市場が中国にとられ、生産の委託のようなことすらどんどん進めている。これをほったらかしていいのかというのがアメリカのポジションとしてもある。ここに関しても多国間ということでしっかりやっていかなければいけないと考えている。世の中をよりフラットな形に持っていくためには途上国の製薬企業への技術移転は不可欠だ。

 

 また最近、スペインの抗体検査技術について、WHOが技術や特許の無償提供を受けることが決まった。COVID-19テクノロジー・アクセス・プール(C-TAP)を初めて活用するケースだ。このように知的財産権保護をどう乗りこえてやっていくのかという動きはすでに大きく出てきている。ここをしっかりレバレッジしていくことが大事だ。

 

 最後に、ACTアクセラレーターは資金不足と政治的意識が不足して厳しい状況に置かれてきたが、10月から新戦略計画を起動している。ここに必要な予算(234億㌦)を先進国がしっかり充てていくことが大事だ。包括的なとりくみをすることで、だれもが安全という状況をなるべく来年の9月、10月ごろまでつくっていくことが大事だと思っている。

 

コロナ関連知的財産権の一次免除を! 延期となったWTO閣僚会議をめぐる市民社会の動きと日本

 

アジア太平洋資料センター  内田 聖子    

 

 今日(11月30日)から始まる予定だったWTO閣僚会議がオミクロンによって延期になった。これを受けて改めて国際市民社会はコロナのワクチンや医療格差の問題を問い、解決に向けて進めようとしている。

 

 まず、なぜ公衆衛生がWTOに関係があるのかというと、知的財産権の課題だ。WTOは世界164カ国が参加している唯一の多国間交渉の場だ。このなかの一つとして知的財産権の貿易の側面に関する協定(TRIPS協定)が1995年に設置された。この協定をめぐる攻防が今まさにおこなわれている。WTOは国際条約であり、TRIPS協定で決められた内容は各国の国内法より優先される。つまりTRIPS協定に反する保護措置、独自政策はとれない。日本もこれにもとづいて知的財産権、著作権、商標、特許などの国内法を整備している。これが95年以降、延々と制度として機能しているということだ。

 

 知っていただきたいのは、医療分野における知的財産権は薬の特許だけでなく、非常に幅広い製品に適用されているということだ。

 

 たとえば人工呼吸器や医療機器のソフトウェアや、今盛んに導入されているAIのアルゴリズムなどには「著作権」が適用される。医療器具の手術用のハサミやカテーテルなどは工業製品のデザインということで「意匠」という知的財産が適用され、開発企業が申請して特許をとれば独占的に使えるものとなる。「特許」はまさに医薬品で、薬を研究開発して世に出すと、10~15年は独占できるので特許料が入ってくる。開発企業はつねに、特許期間は長く、保護は強くすることを求めてきている。一方、ジェネリック薬が浸透してきて、途上国は貧しい人たちに安い薬を供給できているが、WTOのなかではこの対立が長年ある。特許は検査キットやマスク、ワクチンにもかけられる。さらに今日的に重要なのが「開示されていない情報の保護」だ。治験のデータや開発するためのレシピなどのようなデータの価値が非常に高まっている。こうしたものもいわゆる企業秘密のような形で知的財産権の適用がなされる。このように医療関係と知的財産権は非常に密接にかかわっている。

 

知財権手放さぬ先進国

 

 2020年10月に、WTOのTRIPS理事会で、インドと南アフリカがコロナに関連するTRIPS協定の義務の免除を一時的に求める提案をした。この1年間、途上国は特許があるためにワクチンや医薬品が供給できないことをずっと訴えてきて、これはかなりの国の支持を得てきたが、WTOのなかでも力を持つ先進国(アメリカ、欧州連合、日本、オーストラリア、スイス、ノルウェー、カナダ、ブラジル、イスラエル、エクアドル、エルサルバドル)が反対してきた。

 

 そのさいにさまざまな点が議論になってきた。たとえば、途上国側は「特許や知的財産権を一時緩和せよ」というが、先進国側は「特許や知財が製品供給の障壁になっていない」と反駁する。途上国の側はさまざまなエビデンスを示してきたが、平行線だった。そして資金の問題として、提案国・途上国は「医薬品・ワクチンには多大な公的資金が大規模に投入されており、新しいワクチンなどは十分に公的な性格を持っていて、一つの医薬品製薬企業が独占的に抱え込むのはおかしい」と主張するが、先進国側は「知財は産業上重要なものであり、イノベーションの原動力だ。これを公的に開放することなどできない」などという。ほとんど一年間議論は進まなかった。

 

 重要なことは、この議論に1年間費やしてきたなかで、国際的には十分な資金やイニシアティブをとれる可能性があったにもかかわらず、十分できなかった。そのことがオミクロンのような新しい変異株出現の背景にあるということだ。

 

独自性のない日本政府

 

 議論が進まないなかで、途上国・先進国ともに国際的な市民社会はこの一年間集中して、医薬品・ワクチンの知的財産権の一時免除を求める大きな運動を起こしてきた。さまざまな国際団体、途上国政府、労働組合、元大統領などの政治家、研究者などが賛同し、パンデミックで利益を得る企業の行動を厳しく批判してきた。日本ではなかなか厳しいが、欧米では一応主要メディアもこの論争を平等な形でとりあげ、それなりに社会的にも広がっている。さまざまなアクションを展開するなかでアメリカも態度を変えた。市民社会の行動がバイデン政権の方針を大きく動かしたといえる。

 

 日本では「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!」連絡会を立ち上げ、途上国の提案に反対の立場をとり続けてきた日本政府に対し、支持するよう政策転換を促すとりくみをしてきた。日本政府は明確に賛成しておらず、むしろ反対の立場をとっている。連絡会は今年2月と6月に申し入れをおこない、最近もWTO閣僚会合がある前提で、改めて政府に対し、賛成を求める申し入れをするなどのとりくみをしてきた。

 

 現状、一番強く反対しているのはEUとイギリス、スイスだ。EUのなかでもっとも力を持っているドイツがまったく賛成しない。ドイツは人権などでは意識が高い国だが、国内に製薬企業があり、産業政策という点で企業のロビーも強いため、メルケル政権ですら市民社会が求める一時免除に「イエス」といわなかった。今回はWTO閣僚会合がスイスのジュネーブであるということで、ヨーロッパが焦点にもなっている。イギリスもEUを離脱したがビッグファーマを有している国なので、「知的財産権を手放すなんてとんでもない」という態度は変わらない。最新の情報ではノルウェーがほぼ賛成に回ったということだ。そういうタイミングでWTOの閣僚会合が延期になった。

 

 日本の態度を改めて確認すると、日本は先進国の一員として、「知財免除反対」という立場だったが、アメリカのバイデン政権が一部免除の支持を表明後、ある意味情けないが、それに続くような形で反対姿勢を少し緩め、茂木大臣(当時)が国会で「(知財免除の議論に)水を差すようなことはしない」と答弁した。だが、一時免除の提案に明確に賛成の態度を表明しておらず、客観的にはまだまだ反対国の一つだ。途上国や新興国からすると、いまだに知的財産権という企業の独占を握ったまま離さない先進国の一つだ。

 

 WTO閣僚会合が延期になったことは致し方ないし、実際に途上国の国々には今回の閣僚会合に足を運べない政府関係者や市民社会の人々が多数いた。なぜならスイス政府が求めているワクチン接種やいろんな規律に満たないということで、入国できない状況が起きていたからだ。これは一国一票制を標榜しているWTOの原則からすれば非常に公正性にも欠けるし、会合に行けるのがワクチンを打った先進国の関係者だけということになれば、そこで先進国優先の議論がおこなわれてしまうので、延期はとりあえずよかったと思う。

 

 ただ、知財の免除を含むさまざまな公衆衛生上の課題は残り続けており、格差もある。さらに運動を強め、改めて知的財産権の一時免除を今すぐ解決して実行に移してほしいと求めている。
 これは国際市民社会の大きなうねりであり、要望であることを理解いただきたい。「すべての人が安全になるまで、誰もが安全ではない!」これに尽きる。私たちは日本政府に対して第一義的にきちんとこの問題に向き合い、公正な医療アクセスを実現してほしいと求め続けていく。

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