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縫いぐるみ相手の獣医学

 同じお友達でも、加計学園の加計孝太郎は大学設置認可までもらったのに、一方の籠池夫妻は詐欺師呼ばわりされたうえに逮捕拘留され、手紙や面会も禁止され、家族さえも会うことができない状態が続いているのだという。扱いがあまりにも違いすぎるし、口封じにも程があると思わずにはいられない。

 

 加計学園は「男たちの悪巧み」通りに事が動いているのか、かずかずの疑惑を残したまま文科相が認可を下ろした。目下、林芳正が犬馬の労をとっているのは、恐らく見返りに衆議院議員鞍替えを願望しているからだろう。山口県人にとっては林派の商人根性など慣れっこで、それぐらいのディール外交をしていてもおかしくないとつい穿(うが)って見てしまう。

 

 問題は、そうやって完成していく加計学園の獣医学部の実態が、実は空っぽな恐れがあることだ。教授の体制もそうだが、定員の穴埋めみたく韓国で留学生を募集していることも取り沙汰されている。さらに驚かせたのは、目玉だったはずの狂犬病や結核菌などの病原体を扱う実験室「バイオセーフティーレベル3(BSL3)」の研究施設について、動物は使わず「シミュレーション動物(縫いぐるみ)を用いる」と加計学園側が設置審に回答していたことだ。シミュレーション動物、すなわち縫いぐるみなり動物ではない他の仮想物体を相手にして研究するのだという。こうなると、もう「大学」とか「研究」を冠するレベルの話なのかも怪しいが、本当に縫いぐるみ相手に獣医学を学ぶのだとしたら、日本の獣医学の質低下は避けられないものがある。

 

 今時は国公立大学でも運営費交付金を減らされて悲鳴を上げているところが少なくない。成果主義で追い回され、目先の事務作業に翻弄されて研究に打ち込めず、そのことによって大学の質低下を招いてしまったというような話は枚挙に暇がない。結果、世界的に見ても日本の学術論文発表の数は減ってしまい、「日本の科学の失速」が科学誌『ネイチャー』に取り上げられるほどになった。こうした失速や停滞をもたらしているのは、政府の研究投資が異常に少ないことが原因だ。

 

 貧乏臭い損得勘定によって大学が汚染され、安心して基礎学問を究めたり、物事を探求したり、真理真実を追い求める営みが犯されている。研究に傾けるべき脳味噌が、目前の書類実務や報告事務を処理するために費やされ、余裕を失っているのが昨今の大学の実態だ。こうして本気で学術と向き合っている人人の自由や実力を発揮する環境が奪われているのとは裏腹に、縫いぐるみ相手の私学には膨大な補助金が注がれるというのである。このあまりの落差に、正気か? と思わずにはおれない。

 

 縫いぐるみと向かい合ったおままごとは、「大学」とか「獣医学」を名乗るのではなく、社会にとって害のない場所でやりたい者だけがやるべきだろう。そこに身銭を払って通いたい者がいるのであれば、趣味の範囲で好きにすればよい。一国の首相や首相夫人が関与し、官僚たちが忖度して税金を注ぐ対象ではないはずだ。加計学園を巡る国会審議がこの「縫いぐるみ」問題に発展するなら、それこそ世界の笑いものである。                                 吉田充春

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