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フランスの高校生ら45万人が抗議行動 「まともな教育環境を保障せよ!」 緊縮財政のなか軍事費は膨張

(2026年10月9日付掲載)

パリのレピュブリック広場に集まって抗議の声をあげる高校生たち(6日)

 フランス国内で高校生たちを中心とした教育環境の改善を求める抗議デモが拡大している。9月にパリ郊外の高校で教師が人員不足改善を求めてとりくんだストライキに同校の生徒たちが加わり、その火種は次第に全国へと拡大し、過去最大規模の学生運動へと燃え上がっている。抗議行動が始まって3週間目に突入するなか、6日には学生労組の呼びかけで3回目の全国行動がおこなわれ、高校生や大学生、保護者、教師、労働組合など全国で45万人以上が参加した(主催者発表)。政府は警察や治安部隊を投入してかつてなく厳しい弾圧を加えているが、生徒たちの粘り強い訴えはなおも続いており、8日には4度目の全国行動も呼びかけられた。こうした事態をうけルコルニュ首相は7日、来年度の教育予算を11兆円規模へと増額すると発表。それでもまだ生徒たちの要求は止まることを知らず「もう耐えられない」という怒りの声は、労働者や一般市民の政治要求も巻き込みながらフランス全土に広がり続けている。

 

「すべての人にまともな学習環境を!」

 

 6日におこなわれた全国行動に先立ち、学生自治会(UE)と高校労働組合(USL)は連名で「すべての人にまともな学習環境を!」との呼びかけ文を発表した。そのなかでは、高校では教室の過密化、職員や教師の不足、学習環境の悪化、多くの学校で教員補助員の数が半減し、学校看護師やソーシャルワーカーの人員削減がおこなわれていること、高校最終学年ではフランス語や哲学の教師さえいなくなる場合もあると指摘している。

 

 また、高等教育においても要求が高まっている。マクロン政府は、大学進学をめぐってパルクールサップやモンマスターといった進学選抜制度を導入。これは競争原理にもとづいて年間を通した平均評定の比重を増加させるとともに、その中身は不透明かつより経済的・文化的に進路選択の戦略を展開できる裕福な層に有利な仕組みとなっている。それまで全国共通の資格(バカロレア)が保証していた平等の原理を破壊するものであり、呼びかけでは社会的・人種的選別という論理を助長していること、留学生に対しては授業料が16倍に値上がりし、住宅手当まで廃止されていることに抗議している。

 

 そして大学や高校への大規模な投資削減とあいつぐ予算削減によって、これらの教育機関が深刻な打撃を受けているとのべ、「結局、任期最終年を迎えたエマニュエル・マクロンは、極右勢力と手を組み、国民に対する社会差別と人種差別を煽るあらゆる手段を講じている。彼は公教育と大学の解体を画策し、同じ論理をあらゆる公共サービスに適用しようとしている」と批判している。

 

 さらに「マクロン大統領と極右勢力は、若者を選別し、差別することで私たち若者同士を対立させようとしている。そして若者が従順なままでいるようにするため、学生運動を暴力的に弾圧することを選んだのだ」「学生や高校生の皆さん、当局が予算削減、施設の閉鎖、老朽化した建物、選抜、弾圧などを通じて私たちを学習の場から追い出そうとしている今、彼らにそれを許してはならない。大学や高校を封鎖し、奪還しよう!」「私たちはあらゆる労働組合と政治団体に対し、私たちの組織の枠をこえた運動への支持を呼びかける。すべての人に教育を受ける権利、公共サービスへの十分な資金提供、そして数十年にわたり蔓延し、労働者が富裕層の富を増やすための代償を支払わされるような、あらゆる反社会的で人種差別的な措置に反対してたたかう」と宣言した。

 

 そして、任期最後の1年を使って公共サービスを解体し、人種差別的な攻撃で極右の政策を執拗におし進めているマクロン大統領に対する「反撃」への合流を呼びかけている。

 

教師や親たちも合流 労働者が高校生守る

 

 こうした呼びかけに応えておこなわれた6日の全国行動では、首都パリ、ストラスブール、レンヌ、トゥールーズ、リヨン、マルセイユ、ナントなど、多くの都市でデモ行進やストライキがおこなわれた。フランス国内の高校の約半数にあたる1800校で封鎖や抗議行動がとりくまれ、そのうち400校は当局によるロックアウト措置の対象となった。また、約90%の大学で予防的な行政閉鎖をはじめ抗議行動やストなど、高校生たちの運動に連帯した行動がとりくまれた。さらに教師や親、労働者たちも支援に立ち上がり、全土でデモ行進がおこなわれた。ピケやバリケードを張って学校を封鎖・占拠している学生たちに対しては、対峙する警察の頭上から支援者たちが食料を投げ込んで差し入れをおこなうなど、市民の間でも支持と共感が広がっている。

 

 マクロン政府は、約20億ユーロ(3500億円)の節約のため、来年の公務員の基本給を凍結することを提案している。これで4年連続の給与凍結となる。またフランス国内ではこれまでも教員、教員補佐、看護師、心理士などの教育スタッフ不足が長年指摘されてきたにもかかわらず、マクロン政権になってからは教員ポストが1万人削減された。さらに今年九月からの年度は4000人削減され、発表されたばかりの来年度予算でも1588人の削減となっている。こうした現場軽視の緊縮政策に労組側は反発。教師や、消防士、その他の公共部門の職員たちも、6日におこなわれた学生主導の行動に加わった。教育省によると、教師やその他の学校職員の11%以上が参加したという。

 

 パリでは、全体で5万6000人の抗議者が行動に参加し、労働者たちも高校生たちの道路封鎖に加わり、医療従事者たちも参加して彼らを支援した。パリ近郊の高校では、教師が全体集会を開いてストライキを決議し、6日の全国行動に参加した生徒たちの「欠席記録」をとらないばかりか、デモに参加する高校生たちにはストライキ基金から地下鉄切符を購入して支給した。

 

 運動の発端はパリ郊外の貧困地区にある一つの高校だったが、7日にはフランスを代表する超名門校・パリ政治学院の生徒たちも運動に加わり、生徒たちが校舎を封鎖し、サンジェルマン大通りに路上バリケードまで築くなど全国で行動する高校生たちに連帯している。

 

 労働者たちの連帯も広がっている。マルセイユでは、労働者を中心とした3万人規模のデモ行進がおこなわれ、数百人の高校生や大学生がその隊列の先頭で「国家は国民教育を殺した」などと書かれたプラカードを掲げて歩いた。トゥールーズやアーブルなどの都市でおこなわれたデモ行進では、労働者が機動隊の間に人間の鎖を作り、高校生の隊列を防衛した。

 

 デモに参加した19歳の男子大学生は「これが私にとって初めてのデモだ。今週、封鎖と警察の弾圧を見て、高校生たちに連帯を示すためにここに来た。他にも要求がある。大学、学校へのより多くの資源が必要であり、学校だけでなく病院にも必要だ。私たちは本当に資源が不足している。マクロン政権は戦争ばかりに投資するのをやめるべきだ。私たちはもううんざりだ。だからこそ、老若男女問わず、皆でこの連帯運動に参加しているのだ。私たちの求めるものは皆同じ。より良い未来だ」と語った。

 

 17歳の男子高校生は「私たちは若者を守るためにここに来ている。若いからという理由で、国は私たちの声に耳を傾けようとしていない。彼らは私たちには政治意識がなく、何を守ろうとしているのかも分かっていないと思っているだろうが、私たちはその逆であるということを示すためにここにいる。私たちは何を守ろうとしているのか、自分たちの価値観をはっきりと理解している。何も変わらなければ、私たちはもっと長く活動を続けるだろう」とのべた。

 

 パリの30代の教師は「高校生たちの運動を100%支持する。だからこそ今日、私たちは彼らとともにデモ行進する機会を得た。彼らはより多くの資源、より多くの教師、より良い教育環境を求めている。この要求は私たちが長年訴えてきたものでもあるが、国はそれをひどく無視してきた。今年の猛暑への対応も見ての通りだ。教室は35度から40度にも達したが、こんな状況は容認できない」と訴えた。

 

 17歳の女子高校生は「左派の政治家も学校まで応援に来てくれていることには感謝している。だが、これは私たち自身のたたかいだ。左派政党に利用されたり、右派の道具として使われたりするつもりはない」とのべた。

 

冷房なく教室は38度に 椅子足りず立って授業も

 

高校生たちによるデモ行進(6日、ナント)

 フランス全土に広がった抗議運動の発端は、9月17日にパリ郊外の貧困地区にあるサン=テグジュペリ高校の数名の教師が、人員不足に抗議しておこなったストライキだった。同校では、数学教師、フランス語教師、文学教師、歴史教師などが不足し、学校の看護師は病気休暇中だったという。その日の夕方には同校の生徒たちが集まってたたかいに加わり、翌日には生徒主導の抗議活動を計画した。学校の入り口前にゴミ箱をいくつか積み上げ、プラカードを掲げ、教師たちと共に立ち上がり、要求を訴えた。数日間のたたかいの後、教員と生徒の要求は受け入れられて学校への人員の追加派遣が決まりストは終結したが、そのときすでに火種はフランス全土に広がり、同じように教育環境改善を求める生徒たちのなかで大きな炎となって広がった。

 

 9月29日、10月1日、6日と立て続けに全国統一行動がおこなわれており、労働者を中心に多くの人々の共感を呼び、その規模は回を追うごとに拡大している。8日には4回目の全国統一行動が予定されており、フランス最大の高等教育労働組合である全国中等教育組合(SNES-FSU)が、労働総同盟(CGT)、フランスの主要な労組の一つ「FO」、連帯労働組合(SUD)および全国自営業者組合とともにストライキを呼びかけており、「政府への圧力を緩めるつもりはない」との姿勢を明確にしている。

 

 大学と高校の労組は5日、「若者の要求 10の緊急対策」と題するリストを発表し、改めてこの運動を通じて政府に求める対応について明記した。

 

 最優先事項の一つは、建物の改修および教員不足の問題だ。リストのなかではまず、老朽化して不衛生な学校や大学の建物を改修するための緊急計画を実施し、熱波に対応するための空調・冷房システム、寒波に耐えるための適切な断熱・暖房設備の拡充を求めている。

 

 今年フランス国内では六月から夏場にかけて各地で度重なる熱波に襲われ、教室の温度は38度にも達する危険な状態となった。全国の小・中学校、高校のうち3分の2は1970年以前に建てられており、気候変動による気温上昇に耐えられなくなっていると指摘されている。断熱不良や冷房設備の不備等、学校環境の劣悪な状態がより露呈することとなり、生徒たちの不満は高まっていた。さらに老朽化により壁が剥がれ落ちたり、排水の問題でトイレが水浸しになったり、校舎の廊下をゴキブリやネズミが走り回るなど劣悪な環境が常態化している。

 

 リストではさらに各教室に必ず教員が配置されるよう、大規模な採用活動によって契約社員ではなく正規の教員ポストを増設することを求めている。また、各教育機関において、学生500人につき少なくとも1人の看護師、心理学者、キャリアアドバイザーを配置することも要求している。

 

 フランスの公立学校職員を代表する主要な労働組合の調査によると、フランスの中学校と高校の半数以上で教師が不足している。また69%の学校では、教員と補助スタッフが少なくとも不足しており、人員不足のため生徒らは教室に詰め込まれ、過密状態となっている。設備も十分ではなく、35人の学級に椅子が25脚しかないため立って授業を受ける状況も生まれているという。

 

 また、10番目の要求には、「高校生運動と学生運動に対する弾圧と警察の暴力行為を終わらせること」を据え、この抗議行動に関連する生徒の欠席は、考慮も罰則も受けないことを保証すること、教育機関におけるあらゆる形態の弾圧を放棄し、若者の表現の自由と結社の自由を保障することを求めている。

 

 2週間以上にもわたって続く抗議行動がさらに広がりを見せるなか、運動の発端となった教育に関する当初の要求に加え、社会政策、国家予算、警察の行動、社会的不平等、現政権そのものへの批判も聞こえ始めており、参加者も生徒や教員だけでなく労働者から一般市民まで幅広い層へと広がっており、抗議活動のさらなる政治化の兆しも見えている。

 

かつてない暴力的弾圧 挑発工作員を配置し

 

抗議デモに参加した学生らに催涙スプレーを噴射する警察(パリ)

 一方で、今回の高校生や大学生を中心とした若者の抗議行動に対し、政府の暴力的弾圧は目に余るものとなっている。警官隊は催涙ガス、放水銃、警棒、拘束技術といったあらゆる手段で弾圧を加え、催涙弾やスタングレネード(閃光手榴弾)を高校生の隊列の中に打ち込み、公式に確認されているだけで約300人の学生が負傷している。

 

 そのなかにはスタングレネードの炸裂によって15歳の高校生が片腕を吹き飛ばされたり、催涙弾などの直撃によって失明や顎を砕かれるなどの重篤な被害が続出している。その他、警官が高校生を殴る蹴る、首を絞めるなどの過剰な暴行がSNSにも映像としてアップされている。

 

 フランスではこれまでも大学生や高校生の運動が定期的に起きてきたが、政府はひどい弾圧はせずに若者たちの要求を受け入れ、法案を撤回したり大幅に予算を注ぐなど、譲歩する対応が多かった。平和的なデモに紛れ込んで暴力的な行為を働く「壊し屋」と呼ばれる者たちが破壊行為に及んだとしても、無防備の高校生に対して最初から治安部隊を送るようなことはなかったといわれている。

 

 しかし今回のマクロン政府の対応は、高校生たちの運動を端から「暴力的」と決めつけて警察や治安部隊を大量に投入して弾圧を図っている。高校の前に警官の部隊が来て、あえて移民系の生徒たちに職務質問をおこない、怒って興奮してしまい警官と衝突する生徒もいるという。現地の様子を伝える日本のメディアによる報道でも「暴動」「デモ激化」「暴徒化」などの見出しが目立つ。

 

 歴史上、世界中の権力が反政府的な動きを抑圧するために用いる手法として「エージェント・プロボカトール」(挑発工作員)という常套手段がある。平和的なデモの中に権力側の人間が紛れ込み、意図的に暴動を誘発。その暴力を口実に抗議活動全体の正当性を奪い、権力側がより強行な治安出動や監視拡大を正当化するというものだが、この工作手法の起源は19世紀のフランスだといわれている。

 

 この間の抗議行動では、校舎が焼け落ちたり、教師に対する襲撃なども起きている。そうした事態の「沈静化」を名目に、高校生たちに対する異常な政府の弾圧が続いている。9月17日以来、すでに6000人以上のデモ参加者が逮捕・拘束されており、そのうち85%が18歳未満だ。

 

 政府による高校生への過剰な弾圧に対して国民的な批判が高まるなか、ヌニェス内相は7日、スタングレネードが原因である可能性が高い事案が多数あることを理由に、使用停止を指示した。

 

軍事費は10年間で2倍 財政赤字で緊縮拍車

 

 この間のデモやストライキのなかでは、「学校は権利だ。軍隊ではなく高校に予算を!」の横幕が掲げられるなど、教育や国民の福祉よりも軍事費の増額に傾倒するマクロン政府に対する批判も強まっている。マクロン大統領は、フランスの防衛予算を来年35億ユーロ(約6000億円)増やし、2027年にはさらに30億ユーロ増やすよう求めている。2017年時点でのフランスの防衛予算は320億ユーロだったが、新しい計画では2027年で640億ユーロへとこの10年で倍増する見通しだ。

 

 軍事費には膨大な予算をつぎ込む一方で、マクロン政府は1日、財政赤字削減に向けた緊縮政策が色濃く反映された来年度予算案を議会に提出している。マクロン政府は財政赤字を来年度は国内GDP比5%に縮小させることを目指している(今年度は5・4%)。そのため予算案では公務員の賃金や年金支出の一部凍結に加え、地方予算や医療費の抑制、雇用主への税制優遇措置の縮小を盛り込んでいる。

 

 フランスの政府債務残高は9月29日、対GDP比で119%に達し、第二次大戦後でもっとも高い水準となっている。債務危機前夜のギリシャが記録した水準(127%)にも近づいている。さらに中東紛争によるエネルギー価格の上昇により、農業や運送業などあらゆる産業の原動力である軽油価格が過去最高値を記録するなど、国内産業や国民生活への圧迫も続いている。そうした情勢も反映し、フランス国内では今月17日には高校生や大学生の運動に農家も合流した大規模なデモも予定されている。

 

 国民の生活費高騰やエネルギー危機に対して政府の対応が不十分であることに対する怒りも広がっており、そうした運動は欧州各国の教育現場でも大きな広がりを見せている。

 

 フランスの隣国ベルギーでも、学生たちが地元の教育改革、公共交通機関の運賃値上げ、授業料の値上げに反対して抗議行動をおこなった。ここ数日、フランスの高校生たちの運動に触発されたベルギー国内の学生たちの間で抗議の声が広がり、リエージュ市では多くの学生がデモ行進をおこない、教師たちもストライキで連帯した。

 

 ポルトガルでは、主要教員組合が労働条件をめぐって9月中旬から無期限ストライキを開始している。教員たちは法律で定められた週35時間を超える無償労働を拒否した。10月19日には、教職員以外の学校職員や運営補助員による新たなストライキも予定されており、全国各地の学校が閉鎖される恐れがあるという。

 

 スペインでも、教員組合が公立学校の労働環境に対して抗議活動をおこなっている。首都マドリードの教員たちは、労働時間の短縮、少人数制クラス、賃上げなどの要求を突きつけるため、10月14日にストライキを計画している。

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