
参加者に見送られて進む「令和の百姓一揆」トラクター&軽トラパレード(3月29日、東京)
米価の急激な下落を受け、今年7月に新潟市で農家への所得補償の充実などを求めるデモ行進をおこなった農家らでつくる「百姓一揆inにいがた」は8月末、「政府備蓄米の機動的運用および早期買い入れを求める緊急声明」と題した文書を高市早苗首相と鈴木憲和農水相(当時)に郵送している。声明は以下の通り。
政府備蓄米の機動的運用および早期買い入れを求める緊急声明
■要望事項
2026年産米の収穫期が近づく現在、2025年産米の過剰在庫と2026年産米の豊作見込みが重なり、米価が暴落する危機が迫っています。米価の暴落は、生産者の経営を直撃するだけではありません。農家が米を作り続けることができなくなれば、国内の米生産基盤が損なわれ、将来の安定的な米供給が困難となります。これは、消費者・国民の食料安全保障に直結する重大な問題です。
他方、政府備蓄米は、食料安全保障上必要とされる水準を大きく下回っています。したがって、私たちは政府に対し、以下の措置を直ちに講じることを強く要望します。
1、政府備蓄米を早急に買い入れ、適正水準まで回復すること
米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(以下、基本指針と略記)が定める「100万㌧程度」の適正備蓄水準を早急に確保するため、2026年産米を含む政府備蓄米の買入れを機動的に実施すること。
2、過剰となっている民間在庫米を市場から隔離すること
政府備蓄米の買入れを直ちに実施できない場合には、空いている政府備蓄米倉庫を活用し、民間在庫米を移送・保管すること。2026年7月に改訂された食糧法によって創設された「民間備蓄米」制度を今すぐ始動し、市場からの隔離、倉敷料等の費用を政府負担とすること。
3、米価暴落による農家の経営悪化を防ぐこと
米価の急激な下落によって農家が赤字経営に陥ることを防ぐため、所得保障等の措置を講じること。現行の担い手経営安定法や多面的機能促進法に基づく補助事業を充実させ、必要な予算を確保すること。
4、過剰時・価格暴落時にも対応できるよう食糧法もしくは担い手経営安定法を改訂すること
現在の食糧法に不足時だけでなく、過剰時・価格暴落時の政府の対応を明確に位置づけること。米価を一定の範囲に安定させる仕組み、あるいは価格低下を補う所得保障制度を充実化すること。
■要望の理由
1、異常量の民間在庫が発生している
2026年産米の収穫期を迎える一方で、2025年産米を中心とする民間在庫が異常な水準に達しています。基本指針によれば、2026年6月末の民間在庫量は243万㌧に達する見込みです。7月から9月までの3か月間に月60万㌧、合計180万㌧が消費されるとしても、2026年産の新米が本格的に出回る秋の時点で、なお約63万㌧の販売残・在庫が残ることになります。
この量は、2025年に政府が売り渡した政府備蓄米59万㌧にほぼ匹敵します。現在の民間在庫の膨張は、2025年中の政府備蓄米売り渡しによって、民間流通米の販売機会が直接的・間接的(玉突き的)に失われたことが大きく影響しています。つまり、政府備蓄米の大量放出が、現在の過剰な民間在庫発生の主因です。
2、2026年産米の豊作が価格暴落を招き食料安全保障を脅かすおそれがある
現時点では、2026年産米について一定水準の豊作が見込まれています。そのため、過剰な2025年産米を抱えたまま新米が市場に出廻れば、過剰在庫と新米の供給が重なり、米価が大幅に下落する可能性があります。また、基本指針では、2027年6月末の民間在庫量を242万~260万㌧と見込み、需給が緩和する一年間を見込んでいます。これは、現在すでに基本指針がいう「買戻し及び買入れ」を行うべき「供給不足が生じる見込みが低い環境下」に入っていることを示します。政府が買入れを行うことは、単に現在の米価を支えるためだけではありません。政府備蓄量を適正水準に回復し、将来の供給不足に備える食料安全保障を担保できます。
米価の暴落を放置すれば、生産者は再び経営収支の赤字に陥ります。その結果、離農者が増え、農村の維持が困難化し、国内の米生産基盤が弱体化するおそれがあります。国内の生産基盤が失われれば、いざというときに国内で米を供給する能力そのものが失われます。したがって、農家が持続的に米を生産できる経営条件を整備することは、単なる農家支援ではなく、国民の食料安全保障を担保する仕組みです。消費者にとっても、目先の米価が安くなることだけが利益ではありません。将来にわたって国産米を安定的に食べられることこそが、消費者・国民にとって重要な利益です。
3、政府備蓄米そのものが不足している
基本指針では、6月末時点の政府備蓄米について「適正備蓄水準は100万㌧程度」としています。ところが、2026年6月末現在の備蓄量は32万㌧にすぎません(日本全体の米消費量の約2週間分)。本年予定されている21万㌧の買入れを加えても47万㌧と、適正水準の100万㌧には大きく不足しています。政府備蓄米は、凶作、災害、国際情勢の変化などによって米の供給が不足する事態に備えるための、食料安全保障上の要です。現在のように民間在庫が過剰となっている時期に政府が買入れを行えば、市場の過剰在庫を吸収すると同時に、政府備蓄を適正水準に戻すことができます。現在は、まさに政府が備蓄を回復する好機です。
4、新米を受け入れるためにも、過剰在庫を市場から隔離する必要がある
2025年産米が捌けないまま新米の収穫期を迎えるため、産地の米倉庫では、新米を収穫しても入庫させるスペースが不足する状況です。2026年7月に改訂された食糧法では、「民間備蓄米」制度の創設が決まりました。政府備蓄米の買入れを遅らせるのであれば、代替措置として、現在45万㌧分が空いている政府備蓄米倉庫を活用し、民間在庫の過剰分を移送・保管することを求めます。その米を民間備蓄米として指定し、市場から隔離するとともに、倉敷料等の費用を政府の責任で負担すべきです。これは米価を維持するためだけでなく、新米を受け入れるための物流・保管能力を確保し、2026年産米の生産と流通を円滑にするため必要な措置です。
5、不足時だけでなく、過剰時にも政府は責任を負うべきである
政府は米が不足した際、政府備蓄米を市場に放出し、需給や価格に影響を与えてきました。それにもかかわらず、過剰時・価格下落時に政府が何もしないのであれば、公平・公正な行政とはいえません。特に今回の過剰在庫は、政府自身による2025年中の政府備蓄米59万㌧の売渡しが主因です。不足時には市場に介入して価格を冷やし、過剰時には市場に任せるという政策運用では、生産者に一方的な負担を負わせることになります。政府が自ら市場に介入した結果生じた問題については、政府自身がその影響を是正する責任を負うべきです。特に、売り渡し時に「買い戻しを条件とした」備蓄米は、約束通り買い戻し、市場へ与えた影響を回収すべきです。
6、食料安全保障の観点から、制度そのものを改める必要がある
今回の問題は、政府備蓄米を一時的に買い入れるだけで解決するものではありません。食糧法において、供給不足時だけでなく、過剰時・価格暴落時についても政府が適切な措置を講じることを明確に位置づける必要があります。米価を一定幅に収める仕組み、あるいは担い手経営安定法や多面的機能促進法を充実させ、価格低下を補う所得保障を食糧制度として組み込むべきです。また、予算を拡充することによって、農家の収支悪化を補填する制度運用も求めます。これらは農家のためだけの制度ではありません。国内の米生産を持続可能なものとし、将来の国民への安定供給を確保するための食料安全保障政策の一環です。
7、政府が責務を果たさなければ、生産者は減産を選択せざるを得ない
政府が必要な措置を講じなければ、われわれ生産者の日本農政に対する不信はさらに深刻化します。このままでは、食糧法に新たに加わった「主体的に需要に応じた生産を行う」という生産者の努力義務に基づき、2027年産米の生産量を需要量に合わせて減産(生産量610万㌧程度、作付面積14%減)する運動を全国の農家に呼びかけざるを得ません。これは、いたずらに減産によって供給不足を起こし、市場や国民生活を混乱させることを目的とするものではありません。しかし、稲作によって継続的に生計を立てられる条件が失われれば、生産者は生産を続けることができません。背に腹はかえられません。減産は、将来にわたる稲作の持続性を確保するための、やむを得ない対応です。
8、政府には食料安全保障を守る義務がある
改めて、政府備蓄米の機動的運用および早期買入れを求めます。農林水産大臣が米価格の下落を危惧し、買戻しを提案したにもかかわらず、高市総理大臣が拒否したとの報道(テレビ朝日ニュース・七月一四日等)がされています。これが事実であれば、政府が必要な措置を講じない「不作為」について、その法的責任が問われます。総理大臣による行政権の濫用(不作為)は、日本国憲法29条(財産権)の侵害であり、また、憲法第73条「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。1法律を誠実に執行し、国務を総理すること」にも抵触します。このままでは、われわれは、国家賠償請求に向かわねばなりません。政府には、将来にわたって国民が安定して米を確保できる生産基盤と備蓄を維持するという、食料安全保障上の責任があります。
その責任を果たすためにも、政府備蓄米の機動的運用と早期買入れを直ちに実施することを強く求めます。
以上
2026年8月26日
百姓一揆inにいがた実行委員会一同
呼びかけ人代表 鶴巻純一 秋山ひとみ 天明伸浩





















