(2026年9月21日付掲載)

稲刈りをする農家(山口県)
新米の収穫時期を迎えるなか、米価暴落が全国の生産地で大問題になっている。コメを収穫して出荷した生産者に支払われる「概算金」が、昨年は大幅に高騰して3万円近かったが、わずか1年で全国平均約4割も値下がりしているのだ。7月中旬頃からすでに早期米の価格が暴落していた状況から予測されていたにもかかわらず、政府は過去最大に膨れあがった民間在庫を放置し続けてきた。メディアでは在庫余りが取り沙汰されるものの、その主因は買い戻しをする約束で放出した59万㌧の政府備蓄米を、政府自身が意図的に市場に滞留させたことにある。9月になり21万㌧のみ買い戻しを決めたが、「焼け石に水だ」といわれている。米価暴落の一方で、円安や中東情勢の悪化により農家の生産費負担は増え続けており、この状況を放置し続ければコメ農家の廃業や離農がいっそう加速し、主食であるコメの安定供給を揺るがしかねないとの危惧が広がっている。
JA概算金は平均4割値下がり
コメを生産する農家には、収穫したコメを出荷したさいに支払われる「概算金(仮渡し金)」と、その後の販売終了後に最終的な精算をおこない、差額として追加で支払われる「清算金」がある。今年もコメの収穫時期を迎えるにあたり、全国の生産地では26年産米の概算金が発表されているが、大幅に値上がりした昨年の価格から一気に値下がりし、全国平均約4割安となっている。農家の間では「だいたい一昨年の価格に戻ったくらい」といわれるが、2年前に比べて円安や中東情勢の悪化にともない肥料や種苗、燃料、資材等、あらゆる生産コストが大幅に高騰しており、いっそう利益が出なくなっている。
宮城県のコメ農家の男性は「おもにササニシキを9町(一般的な田んぼ約90枚分)の田でつくっている。稲作をやめる農家が多く、ここ数年で2~3倍になった。宮城県では昨年概算金が3万円をこえ、もち米は4万円だった。それが今年は半分以下、四割くらいまで値下がりしている」と語る。この農家は、3人の息子とともに旧式の機械5台を使って一斉に稲刈りをおこなうという。男性は「稲刈りだけで1週間から10日かかる。うちは旧式の機械を使っているが、最新式の大きなコンバインは数千万円はするので、これだけコメの値段が下がると返済のめどがたたない。規模が大きい農家ほど今年の米価暴落による打撃が大きいのではないか」と話していた。
日本国内における「主食用うるち米」の主な産地の概算金は、今月14日に青森・福島の両県が公表されたことでほぼ出そろった【表参照】。表にある概算金は、全農県本部・経済連・ホクレンがJAへ払う「JA概算金」と、ここから農協などが手数料を差し引いて生産者に支払う「生産者概算金」の2種類が混ざっている(各地域ごとに発表や報道のしかたが異なるため)。また、概算金はコメの品種や等級によっても細かく定められている。そのため米価や前年との差額については厳密にいえば微妙な差が出るものの、昨年に比べて生産者に支払われる米価が大幅に下落することに変わりはない。

これまでに判明している各産地の概算金を見てみると、前年に比べて3割から品種によっては5割以上の下落率を記録している。また、提示が遅い産地ほど下げ幅が大きくなる傾向があり、実際に青森の下落率は47%、福島も同48%と他の東北3県に比べて3000円も安くなっている。18日に概算金が判明した佐賀でも、主力の「さがびより」が1万6000円で、前年の2万9500円から45・8%下落。また、24年産よりも600円下落した。
主な産地のなかでは岡山県で県内JAが全国的なコメ余りや価格下落、販売見通しが立たないことを理由に概算金の提示を10月下旬~11月へ延期している。また、長野も9月末の提示の予定で遅れが出ており、こうした産地ではさらに下振れる可能性もある。
農協以外に出荷すればコメを高く買ってもらえるとも限らない。青森県では、県内のコメ集荷業者でつくる県米穀集荷協同組合が出荷した農家に支払う「前渡し金」が今年は1万円となった。昨年産当初と比べて6割以上も値下がりしており、全農あおもりの目安額1万3800円を大きく下回っている。
円安でコストは増大 中東情勢悪化も
下関市のあるコメ農家は「概算金は昨年の半分近くまで値下がりしており、2年前に戻ったくらいの水準だと思う。ただ、当時よりも生産コストが大幅に上がっており、肥料や種苗代、燃料費、資材費などあらゆる経費が上がっている。2年前でさえ“作れば作るほど赤字”といわれていたが、今年はそれよりもはるかに厳しい。稲作以外の稼ぎから赤字分を自分で補填しながらコメを作るしかない。年金農家や兼業農家にしかコメは作れなくなった」と話していた。
島根県のコメ農家は「島根でも概算金はほぼ昨年の半分になる。来週から稲刈りが始まるが、今年は晴れの日が多すぎて稲もよく育ったが雑草もよく育ち、見た感じでは収量が少なくなりそうだ。10月の終わりごろに経費の支払いが始まるが、農家の間では“コメ代だけでは足りないのではないか”という話になっている」と語る。
米穀安定供給確保支援機構(米穀機構)は4月7日、同月時点の生産段階のコスト指標について玄米60㌔㌘当り2万535円と発表した。米のコスト指標とは、米の生産から流通までにかかる費用を示し、取引の参考として用いられる指標であり、単純に生産にかかった費用を示す「生産コスト」ではない。とはいえ小規模農家のデータを基に算出されるため、現場の実情に近い指標ともいわれている。
これまでに判明している各産地の概算金とコスト指標2万535円を比較してみると、概算金の価格が上回っているのは魚沼コシヒカリ(2万1000円)と富山の富富富(2万800円)のみとなっている。「高級ブランド米」と呼ばれる秋田のサキホコレ(2万300円)や山形のつや姫(2万円)でさえもコスト指標に届いておらず、一般的に流通する各県の主要銘柄は軒並み大幅に下回っている。
また、コスト指標が決定した4月以降もホルムズ海峡の封鎖など中東情勢の悪化にともない農業資材の高騰は続いている。さらに10月から来年の水稲農家の春肥の予約が始まるが、すでに農協には予約価格を30%値上げするという通知が来ている所もある。暴落する米価に逆行して生産コストは増すばかりとなっており、農家経営をさらに圧迫している。
なぜ米価が暴落したか 政府の対応を追及
一昨年の「令和の米騒動」を経た昨年は、集荷競争が過熱して全国各地の農協で1俵3万円をこえるような概算金の提示があいついだが、今年はなぜこれほどまで大幅な下落となっているのか。
米価が下落している要因は、25年産米の在庫が増加していることだ。農水省が7月28日の「食料・農業・農村政策審議会食糧部会」で示した6月末の民間在庫量は243万㌧(玄米)で過去最大となった。さらに今月2日に開いた同部会では、来年6月末時点のコメの民間在庫量が最大で283万㌧まで増える見通しを示している。このなかには、政府が放出していまだに買い戻されないまま放置されている大量の備蓄米が含まれている。
部会のなかで示された基本方針では、これまでに売り渡されている全59万㌧の備蓄米について、「令和7年産米21万㌧(昨年度買入を中止した数量)」を買い戻すことを決定。残りについても今後の需給状況を見極めたうえで対応することとしている。
東京大学大学院の鈴木宣弘教授は、積み上がる民間在庫と現在の価格の暴落について「在庫が急増して、高値で買い付けたコメを安く売れないと我慢比べしていたが、限界になってきた。早く換金しなければ新たな融資を受けて新米を買い付けることができないので、大幅な損切りでも売らざるを得ない状況となり、米価の大幅下落が起こりそうな状況になっている」と以前から指摘していたが、現在の新米収穫時期にさしかかるなかで、危惧されていた問題が現実のものとなっている。
全国最大の水稲作付面積を誇るコメどころである新潟県の「百姓一揆inにいがた実行委員会」は8月26日、高市首相と鈴木農水相(当時)に「政府備蓄米の機動的運用および早期買い入れを求める緊急声明」を送付した【別掲】。
声明では、今年の収穫期が近づくなかで昨年産米の過剰在庫と今年の豊作見込みが重なり、米価が暴落し生産者の経営を直撃すること、米の安定供給が困難となり国民の食料安全保障を脅かす問題を指摘。一方で政府備蓄米が必要とされる水準を大きく下回っているなか、政府備蓄米を早急に買い入れ適正水準に回復させるとともに、米価暴落による農家の経営悪化を防ぐために所得補償等の措置を講じることなどを求めている。
また、現在の価格暴落の背景についても詳しく指摘し、現在の農政の問題点や課題を浮き彫りにする内容となっている。声明の「要望の理由」のなかでは民間在庫が六月時点で過去最高の243万㌧と異常に積み上がるなか、26年産の新米が本格的に出回る秋までの3カ月間で毎月60万㌧、計180万㌧が消費されたとしてもなお、63万㌧が残ることになる点に触れ、この量は25年に政府が売り渡した政府備蓄米の59万㌧とほぼ同じであることを指摘。備蓄米の放出が民間流通米の販売機会の損失を招いており「政府備蓄米の大量放出が、現在の過剰な民間在庫発生の主因」だと指摘している。
さらに政府備蓄米の適正備蓄水準は100万㌧程度と定められているにもかかわらず、26年6月時点備蓄量はわずか32万㌧で、今年予定されている21万㌧の買い入れ分を加えても47万㌧と適正水準には遠く及ばない。そのため「現在のように民間在庫が過剰になっている時期に政府が買い入れをおこなえば、市場の過剰在庫を吸収すると同時に、政府備蓄を適正水準に戻すことができる」とし、現在はまさに政府が備蓄を回復する好機だと訴えている。
ちなみに、現在ある政府備蓄米32万㌧のうち、備蓄期間が経過する令和2年産の15万㌧は、今後飼料用米等の非主食用に順次販売予定。さらに令和3年産12万㌧も今年備蓄期間が過ぎるため順次販売され、備蓄米はさらに減ることとなる。
声明では「不足時には市場に介入して価格を冷やし、過剰時には市場に任せるという政策運用では、生産者に一方的な負担を負わせることになる」と指摘し、当初の約束通り政府自身が市場へ与えた影響を回収すべきだと訴えている。さらに政府に対して、米価を一定に収める仕組みや担い手経営安定法や多面的機能促進法を充実させ、価格低下を補う所得補償を食糧制度として組み込むこと、農家の収支悪化を補填する制度運用を求めている。
米価下落を防ぐための早急な備蓄米買い戻しを求める声は全国に拡大している。8月3日には、JAグループ佐賀が農水省に対し、在庫量を適正な値に近づけて大幅な価格下落を防ぐため、早期の備蓄米買戻しをおこなうことなどを盛り込んだ要請をおこなっている。
コメの民間輸入も急増 市場まかせの政府
島根県の米農家の男性は「小泉元農林水産大臣が“ジャブジャブにする”といって備蓄米を放出したから、今その通りにジャブジャブになっている。政府が21万㌧を買い戻したくらいでは足りない。昨年より今年の新米の方が安いような状況になっているのだから、100万㌧くらい備蓄するようなことが必要だ。このまま米価下落を放置していてはさらにやめていく農家が増えてしまうが、今の高市政府は食料自給率が下がることに対してまったく慌てていない。米価が下がり、生産者が減ると食料にどういう影響が出るのかということをわかっていない。政策が完全に消費者目線だけになってしまっているから生産者に負担が押しつけられ、やっていけなくなっている。だんだんみんなの怒りが頂点に達している」と話していた。
民間在庫の異常な増加の背景には、米価高騰のなかで業務用を中心により安価な輸入米へ移行する動きが増えたことも影響している。もともと23、24年が不作と品質低下により供給は減っていたにもかかわらず、政府はコメ不足を認めず、頑なに備蓄米を放出しなかった。だが25年産も不作になるとの予測から、春先に集荷競争が加熱して米価が大幅に高騰。そのリスクを回避するように、25年のコメの民間輸入は前年の95倍にまで膨れあがった【グラフ参照】。
一方で、政府が備蓄米の放出に踏み切ったのは25年3月。さらに「人手不足」などの理由で小売り店にはその後も備蓄米は一向に届かなかった。すでにコメの価格は2倍近くまで高騰しきったタイミングでの放出に、「令和の米騒動が起きた24年夏に備蓄米を十分な量放出していればここまで高騰することはなかったはずだ」との批判も多かった。
「意図的ではないか」といわれるほど後手後手の対応を続けた結果、民間在庫は過去最大にまで膨れあがって米価は急落。こうした状況は何カ月も前から予測され、政府備蓄米の買い戻しを求める声が生産者や農協から上がっていたにもかかわらず、今回も政府は対応を遅らせ、26年産の米価が暴落した後になってようやく備蓄米の買い戻しを決定。それも全量ではなくわずか21万㌧だ。
宮城県のコメ農家は「政府や全農は“コメが200万㌧をこえて大幅に余っているからコメの値段を下げる”というが、実際に北海道と東北地方では在庫量を公表していない県も少なくない。個人的な意見としては、(今の価格暴落は)政府によって仕組まれているのではないかという疑いを持ってしまう」と話していた。
農家は30年で4分の1 放置すれば離農は急増
農水省は18日、全国のスーパー約1000店舗で9月7~13日に販売されたコメの5㌔当り平均価格が、前週よりも32円安い2971円だったと発表した。下落は5週連続で、2024年9月上旬以来、約2年ぶりに3000円を下回った。
国民の主食であるコメの価格が年によって不安定に乱高下し、そのたびに消費者や生産者が振り回されている。その原因は政府が対応を怠っているからに他ならない。消費者が安心して購入できる価格を維持しながら、主食の安定供給体制を維持するために農家の経営を支えることこそが政府の役目だ。そのためには政府が農家に対する所得補償をおこない、価格差を埋め合わせる必要がある。だが現在はすべてのしわ寄せが生産者に集中している。
政府が5年に1回おこなっている農林業版の国勢調査「農林業センサス」の2025年版では、販売目的で水稲を作付けした農業経営体数は53万3000経営体で、5年前に比べ18万1000経営体(25・3%)減少している。1995年と比較すると、この30年間で4分の1にまで減少していることになる【グラフ参照】。この間、小規模農家が集約されて大規模化が進んできたことも多少は影響しているものの、多くの小規模農家が離農していることに変わりはない。

そして、農地を集約して作付け面積維持の受け皿となってきた大規模農家にも「限界」が見え始めている。東京大学の安藤光義教授がおこなった分析によると、2010年の段階で、放棄された面積287万㌶に対して、大規模層が224万㌶(78%)を吸収して受け皿となっていた。しかし、これが2015年には37%に低下し、2025年には放棄面積291万㌶に対して、大規模層の受け入れはわずか58万㌶(20%)まで減少している。大規模化では農地と農業は守れない。
ちなみに2025年農林業センサスでは、山口県の農家の平均年齢は72・5歳(全国平均67・7歳)で全国トップ。農業経営体数も5年間で28・6%減少している。
日本はすでにFAO(国連食糧農業機関)の飢餓マップでも、先進国で唯一、飢餓国の仲間入りを果たしている(2022年)。主食のコメでさえその年ごとの条件次第で価格が高騰したり暴落したりと供給体制が不安定化しており、生産者の高齢化や担い手不足、離農の加速によって問題はより深刻になっている。目前では過去最大にまで膨れあがった民間在庫から政府備蓄米への買い戻しを進めるとともに、国民の食の安定供給を守るためにも生産者が必要な価格と消費者が買える価格の差を補填する制度の実現が急務となっている。




















