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『ガザへの集団犯罪』 フランチェスカ・アルバネーゼ(著) 中村梨里、甘糟智子(訳)

 

ジェノサイド加担企業を実名で告発

 

 イタリア出身の著者は、国連人権理事会に任命された特別報告者で、パレスチナの人権状況について長年調査をおこない、イスラエルのジェノサイドについて、また偽りの「停戦」について断固として批判してきた。

 

 昨年6月には「占領経済からジェノサイド経済へ」という報告書を出し、アメリカをはじめ世界中の軍需企業やIT企業がイスラエルのジェノサイドに加担していることを、その実名を挙げて厳しく批判した。

 

 すると米トランプ政権は、著者に対して、米国への入国禁止や米国内の資産凍結などの制裁を発動した。しかし著者はそれにひるまず、自身がネタニヤフらに逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)の創設国であるイタリアの出身であり、イタリアの法律家や裁判官は「多大な犠牲を払い、ときには命をかけて正義を守ってきた」「私はその伝統を尊重し、継承するつもりだ」と発信した。

 

 そして同年10月、「ガザにおけるジェノサイド――集団犯罪」という新たな報告書を出した。この報告書は、イスラエルのジェノサイドに加担する国家を名指しで批判し、国連総会や国際司法裁判所がイスラエルによるパレスチナ占領や虐殺を国際法違反としているのだから、世界各国に対してイスラエルとの外交・軍事・貿易関係の停止、ジェノサイドに関与した政治家・公務員や企業への捜査・訴追、UNRWAをはじめとした国際機関への支援などをおこなうよう勧告した。

 

 この本は、この二つの報告書と、著者が昨年10月に南アフリカのネルソン・マンデラ財団でおこなった講演「正義よ、私たちの嵐となれ」を収録している。また、東京経済大学教授の早尾貴紀氏と中央大学大学院教授の小坂田裕子氏が解説を書いている。

 

イスラエル支える軍産複合体

 

 最初の報告書は、まず、ユダヤ人国家をパレスチナに建設しようとするシオニズム運動が、先住パレスチナ人を排除し、入植ユダヤ人と置き換える「入植者植民地主義」であると指摘する。それは土地のみならず先住民の農業・工業・商業などすべての経済活動を奪い、入植者のものに置き換えることを意味する。つまりイスラエル国家の建設は、パレスチナの民族浄化であり、それは軍隊だけでなく企業が深く関与してきた。

 

 2023年9月、ネタニヤフが国連総会で「新中東構想」を発表したが、そこで示した地図には西岸地区・ガザ地区は存在していなかった。そして同年10月以来、占領のために使われてきた武器やIT技術が、そのまま大量殺戮と破壊の道具となっている。

 

 報告によると、イスラエル国家の経済的支柱は軍産複合体で、イスラエルは世界第8位の武器輸出国であるとともに、米軍産複合体の支援も得ている。ロッキード・マーティンが主導する史上最大規模の防衛調達計画「F-35戦闘機プログラム」の恩恵も受けている。

 

 日本企業も関与している。ファナックは産業用ロボットをイスラエルの軍需大手エルビット・システムズや米軍需大手ジェネラル・ダイナミクスに販売しており、それが弾薬製造ラインで使われている。そういう形でパレスチナ人の虐殺に加担している。

 

 米IBMはイスラエルで、イスラエル軍8200部隊(サイバー攻撃専門部隊)のメンバーを対象にテクノロジー企業向けの人材育成をおこなっており、そこから起業したNOSグループはスマホを監視するために設計したスパイウェアをパレスチナ人活動家で実験し、その後、各国指導者の監視を目的に世界にライセンス供与してきた。マイクロソフト、アルファベット、アマゾンは、イスラエルにデータ処理、意志決定、監視・分析技術を提供している。

 

 また、報告書によれば、イスラエルの建築会社は、ユダヤ人がパレスチナ人の土地を奪って入植地を拡大し、住宅や道路、隔離壁を建設する「巨額公共事業」によって潤っている。皮肉なことに、そこで働いているのはパレスチナ人である。違法な入植地拡大には、米キャタピラー、韓国のHD(現代)、スウェーデンのボルボなどの掘削機や重機が使われている。入植地では、イスラエル企業の巨大な農業プランテーションや、排気・排水・産廃基準がないに等しい巨大な工場が稼働しており、そこでも低賃金のパレスチナ人が非正規労働者として働いている。

 

著者の演説 新しい世界の息吹反映

 

フランチェスカ・アルバネーゼ氏

 では、こうした状況をどうしたら変えられるのか。ネルソン・マンデラ財団での著者の演説に注目したい。著者はそこで、ジェノサイドで明らかになったこととして、3点を挙げている。

 

 第1に、アメリカの代理人としてのイスラエルの目的が、ナイル川からユーフラテス川に至る広大な地域を支配する「大イスラエル構想」にあること。第2に、戦争とジェノサイドが、世界の軍産複合体にとってもうけの多いビジネスになっていること。事実、ジェノサイドの最初の1年半だけで、テルアビブ証券取引所は213%の成長を遂げ、2260億米㌦の利益をたたき出した。

 

 そして第3として、世界のすべての国の魂に波紋を起こし、至るところで政治的目覚めをもたらしており、とくに若い世代のなかに善悪の判断力を培っている、とのべる。

 

 ここでとくに注目したいのは、著者が、ナチス・ドイツのホロコーストを「人類の歴史において唯一の過ち」ととらえてきたことを、批判的に検討していることだ。そのようにとらえることで、ヨーロッパが過去の植民地時代に犯してきた多くの犯罪や不正義を覆い隠してきた。その結果、私たちの国際社会に今なお浸透する構造的暴力の根源を見抜く力が弱まってきたのだ、と。ユダヤ人が受けた非人間的な扱いは、世界の他の植民地化された民族が受けてきた扱いと同じものだったのだ、と。

 

 そして著者は、ネルソン・マンデラの生涯が教えてくれたこととして、世界のどこかに自由を奪われている人たちがいるかぎり、私たちも決して真の意味で自由になることはできない――という言葉を掲げる。「たんに爆撃がない、停戦と呼ばれている状態を平和と呼ぶことはできません」。パレスチナの自由を求めるたたかいは、国際法が普遍的に執行され、植民地支配がもたらした犯罪がついに責任を問われる世界へと変わるまで続く運動の中心にあるのだ。普通の人々が団結し、世界各地のたたかいが一つになれば、かつて南アフリカでアパルトヘイトを終わらせたように、それを可能にする嵐を起こせるのだ、と。

 

 この訴えは、ベネズエラやイランの事態に直面する私たちにとって、切実な響きをもって伝わってくる。古い世界が没落し、新しい世界が息をしようともがいているこのとき、私たちに勇気を与えてくれる1冊。

 

 (地平社ブックレット、A5判並製・126ページ、定価1400円+税)

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