(2026年2月6日付掲載)

遺骨収容プロジェクトの開始にあたり記者会見をおこなう伊左治氏(右から3人目)と5人の海外ダイバーたち(5日、宇部市)
山口県宇部市の長生炭鉱の遺骨収容をめざす「潜水プロジェクト2026」が、3日から11日の日程で始まった。5日にはプロジェクトリーダーの伊左治佳孝氏と、フィンランド、タイ、インドネシア、台湾の海外ダイバー5人を加えた6人が記者会見にのぞみ、6日間にわたる潜水調査に向けて思いを語った。
伊左治氏は、「明日から6日間、大規模な遺骨収容作業ができるところに到達できたことを嬉しく思う。私と潜水チームの最大の目標は、今見つかっている遺骨を収容することだ。大人数で作業をすることで効率化しやすくなり、リスクが下がることに注力したい」とのべた。
6人が2チームに分かれて2日に一度ずつ潜る計画で、6日は伊左治氏とミッコ・パーシ氏、アウディタ・ハルソノ氏の3人が潜水することになる。「私以外は、長生炭鉱に初めて潜るのでタスク達成を最優先するのではなく、環境に慣れてもらうことを最優先にしたい。初日は翌日以降の収容をやりやすくするために作業をおこないたい」とのべた。
長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会の井上洋子代表は、会見の最後に「世界からダイバーのみなさんが長生炭鉱にお集まりいただき、私たちが目的としている遺骨の収容に向けて力を貸していただけることに心から感謝を申し上げたい。記者会見を聞いて、伊左治さんが“悲しい遺骨を悲しいままにしておけない。僕の持っているスキルでできることは貢献したい”といわれた気持ちと同じように、伊左治さんの呼びかけにこうして集まっていただいたことがわかった。なによりこのことを本当に歓迎しているのは韓国のご遺族のみなさま方、日本のご遺族のみなさま方だと思う。なんとかダイバーのみなさんの力でご遺骨を地上に上げていただき、遺族のみなさまと犠牲者のみなさまの対面が叶うよう、ぜひぜひよろしくお願いしたい」とのべた。
そして、ダイバーらとかたい握手を交わした。以下、長生炭鉱水没事故の遺骨収容プロジェクトのために集まった海外ダイバーの経歴と会見での発言要旨を紹介する。名前に続くカッコ内はニックネーム。
◆ウェイ・スー(ビクター)台湾

1968年5月21日生まれ。国際的なダイビング・コミュニティで活動する台湾出身のダイバー。各地での水中洞窟探索・専門的な潜水調査の経験を有し、国際チームとしての探検活動に参加。撮影・調査プロジェクトでの協力実績あり。
私は今回、佳孝さんと南大東島でダイブのプロジェクトに参加したさいに長生炭鉱のプロジェクトについて聞かされ、ぜひとも貢献したいということで今回実現した。今回来られなくなったポー(別のダイバー)に、このチームを編成するにあたってかなり相談に乗ってもらったり、力を貸していただいて今回のチーム編成となっている。このような機会に貢献させていただくことができ、非常に光栄だ。
私は佳孝さんと個人的にメキシコでも一緒に、このような別のプロジェクトに参加させていただいたりしている。ほかにもトレーニングなどもおこなっている。今回、長生炭鉱のプロジェクトについて佳孝さんから話を聞いたとき、これはまさに私たちのような専門的な分野を得意とするプロフェッショナルなダイバーのスキルが活用されるべきところではないかといった点で非常に感銘を受け、参加するに至った。
今回私たちは完全ボランティアでダイバーとして長生炭鉱のプロジェクトに参加させていただいている。私たちには今回達成しないといけないミッションがあると信じており、それを成し遂げることを目的にボランティアとして参加させていただいた。ダイブするたびに命にかかわる危険をともなっていることは認識している。それを踏まえたうえで、ダイブに課した目的を安全な形で達成することに集中してミッションを達成させたい。
◆ミッコ・パーシ(ミッコ) フィンランド

1974年11月27日生まれ。フィンランド出身のテクニカルダイバー・洞窟・沈没船探索家。1998年にプロのダイビングキャリアを開始し、タイを拠点に多数の技術潜水コースを運営・指導。KISS Sidewinder、SF2 eCCRなどリブリーザー装置(吐いた息を再利用する循環式潜水器)のインストラクター。過去のドキュメンタリー作品や著作にも携わり、2018年タイ洞窟救出活動にも重要な役割で参加した経歴を持つ。探検・撮影・教育の三者を結ぶ国際的なダイビングリーダー。
公式サイト:https://www.mikkopaasi.com/
Instagram: https://www.instagram.com/mikkopaasi/
私も長生炭鉱のこのようなプロジェクトに参加させていただくことを光栄に思っている。30年以上の自分の経験から何か佳孝さんやみなさんに貢献できることがあればと思い、今回参加させていただいた。もしかしたら、3Dのフォトグラメトリーで実際にどういう状況かを分析するための面でも貢献できるかもしれない。タイでの経験を踏まえて、とくに安全対策の面などにおいて当時のプロジェクトも参考にしながらみなさんに貢献できたらと思っている。
今回のレベルはかなり高いと思っている。私を含め今回同席しているダイバーはさまざまな経験を持っているが、そのなかでも難しい現場を集約したような非常に過酷な現場だ。私個人では生涯において初めてのようなプロジェクトになる。視界が悪く、水が非常に冷たく、、閉鎖空間である。そのうえにご遺骨を収容するという非常にドラマチックなミッションでもある。高度な技術を要するうえ、最終的に4時間という長時間のダイブになるという難しさがある。
ダイバーとして、ご遺体と直面するシーンになると予期していないような心理的リアクションが起きることも考えられる。とても危険な環境であるので、心と感情は一時的にスイッチオフしてダイブに集中することを徹底する。トレーニングを経たうえで、特別なスキルを持つ立場にある人間としては、それを社会のために活用するとなると必ずリスクをともなう。逆にいうとリスクを負わなければ特別な、ほかの人にはなかなかできない役割を果たすことができないといえる。
このチームに参加しているダイバーを信頼しているので、万が一何かあったときにはお互いに頼れることを信じている。
◆アウディタ・ハルソノ(ディタ) インドネシア

1982年4月24日生まれ。インドネシア出身のダイバー。SNSを通じて海洋の魅力や潜水活動の様子を発信。国際的な探査チームの一員として、共同潜水プロジェクトへの参加歴あり。探索・調査技術を有し、地域横断の調査活動に貢献。
Instagram:https://www.instagram.com/auditaharsono/
今回、日本でこのような活動に参加させてもらうことを光栄に思っている。私の目的は、今回みなさんと協力して、ぜひともご遺骨の収容まで、そしてそれを持ってご遺族の方々にお見せすることができるところまで持って行く、次の段階まで進む力になることだ。
私は初めてこのことを聞いたとき、普通のダイブではないと思った。遺骨収集といっても海底の下にある。そして、それは潰れてしまったトンネルの下に埋葬されている。トンネルもかつてあったときは土と木でできていたということだ。それから何十年も経っている。そしてほとんど見渡せないような状況なので、リブリーザーがなければとてもではないが、決行できないことがわかった。
アジアではリブリーザーを使いこなせるトレーニングを受けた人がきわめて少ない。自分はそのトレーニングを受けてきた数少ない一人だ。それがこのプロジェクトには必要とされている。それを聞いたときに自分が行くべきだと強く感じた。
明日(6日)、ミッコさんと佳孝さんがカメラを抱えて潜ってくれるので、私がボックスを持ち、大切なご遺骨を収集し、抱えて戻る役割をいただいた。明日の状況では視界が10㌢という撮影しても何も残らないような状況だ。そんななかでご遺骨を収集させていただく。人骨といえど、だれかのおじいちゃんであったり、だれかの大切な家族の一人だ。謙虚さと尊重の気持ちを持って携わることを心得ているが、同時に感情はさておいて、目的に集中しなければならないと心得ている。
◆ナルチット・キアットマニーシリ(ビール) タイ

1982年10月5日生まれ。タイを拠点に活動するダイバー。SNS上では深海・深度潜水など高度な潜水記録や成果を共有。探査チームの一員として、水中洞窟や技術潜水プロジェクトに参加している。父的存在のベテランダイバーとの協働も多数あり、水中探検の専門性を高めている。
Instagram: https://www.instagram.com/naruchit_k/
今回私はこのようなプロジェクトがあることを聞かされて、ぜひとも佳孝さんに協力したいという思いから参加させていただいた。
◆ソーンウィット・シンラパラット(ガイド) タイ

1993年4月29日生まれ。タイ出身のダイバー。国際的な探査チームの一員として活動し、技術潜水や水中探検プロジェクトに参加。若手ながら高度な潜水スキルを有し、経験豊富なメンバーと協働しながら専門性を高めている。今後の成長が期待される新世代ダイバー。
Instagram:https://www.instagram.com/slprsw/
みなさんの役に立てば光栄だ。(昨年6月、8月に撮影した長生炭鉱内の動画を見て)悲しく思う。全員を連れて帰ることはできないかもしれないが、できるだけ連れて帰りたい。

刻む会の井上代表らと握手する海外ダイバーたち(5日、宇部市)
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長生炭鉱水没事故から84年目となった2月3日、「遺骨収容プロジェクト2026」が始まった。3日の午前10時には、伊左治氏と台湾のウェイ・スー氏、インドネシアのアウディタ・ハルソノ氏の3人が浜辺に並んで挨拶し、海外の2人は「このプロジェクトに参加できて光栄だ」と語った。長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会(井上洋子代表)は、「今日が1942年2月3日に事故が起きてから84年目であり、犠牲になった方々の命日となる」とのべた。
午前10時30分から伊左治氏が沖のピーヤからの潜水調査に出発し、午後1時50分ごろに帰還。この日の目的は坑道内の全体像の撮影をすることと、頭蓋骨の収容を目指していたが、目的地にたどり着くまでの坑道が想像以上に濁っていたことと、潜水機材に不具合が生じたことなどから目的は達成できなかったが、安全第一を優先したとのべた。伊左治氏は、「6日から世界のダイバーが参加して遺骨収容が始まるため、現状を踏まえて潜水計画を立てていく」とした。
厚労省が初の現地調査を実施
伊左治氏の帰還を待つ時間帯に、1月30日におこなわれた厚労省と専門家による初の現地視察についての説明もおこなわれた。
井上代表は、厚労省人道調査室から刻む会に連絡があったのは、日韓首脳会談の翌日の14日だったといい、「30日に5人の専門家の方がこの現場に立って、人として何かを感じていただくということの意味が一番重要なことだった。今回の厚労省の動きは、首脳会談での発言(日韓での遺骨DNA鑑定実施に言及)があり、昨年11月に韓国政府の行政安全部が現地視察をおこなったことから、日本側が何もしないのはまずいといった思惑が働いたのだろうが、たとえアリバイづくりであろうとも、専門家を連れて厚労省の方が来られたことを今後の交渉に有利な方向に生かしていきたい」とのべた。その意味で「13日の日韓首脳会談でのDNA鑑定発言に続き、30日の厚労省と専門家の現地視察、意見交換会は大変有意義なものだった」と評価した。
また昨年9月16日から地元ダイバーらによって始まったピーヤ内の鉄骨や障害物除去は、1月18日に完全に達成されたことも報告された。
高まる遺族や市民の期待
長生炭鉱の遺骨収容事業への市民の関心は高まっており、山口市小郡から夫婦で来た女性は「今日は遺骨が出ましたか?テレビなどを通して長生炭鉱の行方にとても関心を持っている。けっして他人事ではないから」と話していた。
宇部市在住で祖父を長生炭鉱で亡くした女性は、炭鉱夫たちが坑口に入る前に拝んだという山の神や、炭鉱労働者たちの死を悼む石碑を清掃し、花を手向けていた。女性は「母から“おじいちゃんが炭鉱で亡くなったんだよ”という話を聞いていた。母も長生炭鉱で父親を亡くして、とても苦労して生きてきた。日々の生活を送るのが精一杯だったのもあって振り返ることができなかった。84年がたって刻む会の井上さんたちの力によって海底から遺骨が出てきたことに本当に頭が下がる。せめて何かできることはないかと思っている」と話し、世界のダイバーが参加する潜水調査に期待をこめた。




















