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地方から世界へ「不戦」の意思を示すということ 平和を求め軍拡を許さない女たちの会・熊本 海北由希子

(2026年1月1日付掲載)

 

 新しい年の始まりに、私たちはあらためて「この国はどこへ向かおうとしているのか」を静かに、しかし真剣に考えてみる必要があるのではないでしょうか。

 

 現在私が暮らしている熊本市は、明治初期の「熊本鎮台」以来、軍都として続いてきた歴史があります。その熊本を拠点に「軍拡」に反対の声を上げ、「対話による平和外交」に基づく戦争抑止を求めて活動してきた一市民として、今年度内に陸上自衛隊健軍駐屯地に配備が予定されている長射程ミサイルは、決して熊本だけの問題ではなく、日本社会全体、さらには世界に向けた重大なメッセージを含む出来事だと考えています。主権者が有する「日本国憲法」の前文と照らし合わせながら、今、私たちが立たされている岐路について考えてみたいと思います。

 

 日本国憲法前文は、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」(原文より)し、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」して生きることを宣言しています。ここには、単に戦争を放棄するという消極的な意味だけでなく、過去の侵略と加害の歴史を直視し、それを二度と繰り返さないという、能動的で倫理的な決意が込められています。しかし、敵基地攻撃能力を有する長射程ミサイルが配備されるということは、その地域が「標的」となる現実を引き受けることを意味するだけでなく、日本が軍事力の強化によって安全を確保する国家へと舵を切ることを象徴しています。

 

 その選択は、近隣諸国、特にかつて日本の軍事行動によって甚大な被害を受けた人々に対し、どのようなメッセージとして発せられることになるでしょうか。私たちが憲法に違反している敵基地攻撃可能なミサイルを強行配備することに対し、絶対に看過すべきではない! と強く警告し続けている理由はそこにあります。もし、熊本の市民と地方自治体がこの配備に「ノー」を突きつけることができたなら、それは世界に向けて、日本が「過去の加害の歴史を繰り返さない」という意思を、言葉だけでなく行動で示すことになります。それはまさに「不戦」のメッセージであり、対話と外交による平和を選び取るという、日本社会の成熟を示す一歩となるはずです。

 

 しかし、現実はどうでしょうか。今日の地方自治体は、国策を追認する「下請け」のような立場に置かれ、「国民保護法」の名のもとに、十分な説明や住民合意がなされないまま、重大な決定が次々と国から地方へと降りてきています。これは極めて危険な状態と言わざるを得ません。そもそも「地方自治体」は、かつて国家権力が暴走し戦争へと突き進んだ反省の上に生まれた地方政府です。地域ごとに自治が保障されているのは、国家の判断が誤ったとき、それを食い止める「防波堤」となるためではなかったのでしょうか。

 

 憲法前文は、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」を確認しています。この理念は、国境を超えた連帯を前提とするものであり、軍事力の誇示によって他者を威圧する現政権の姿勢とは根本的に相容れません。地方から声を上げるということは、この蔑ろにされている憲法前文の精神を、現実の政治に引き戻すために必要不可欠な行為です。

 

 国会議員が全て自民党議員という「保守大国」熊本は、その状態を長年にわたって余儀なくされてきました。2022年12月16日に閣議決定され、2023年から適用された「安保三文書」に反撃能力の保有を明記した岸田政権で防衛大臣を務め、現在の高市政権下では官房長官に任命された木原稔氏は、健軍駐屯地のある熊本1区選出の議員です。枕詞となっている“わが国を取り巻く急速な安全保障環境の変化”を背景に、防衛力の抜本的強化と米軍とのシームレスな軍事同盟を急速に進めています。それらの責任の一端は、「保守大国」の国会議員を惰性で選び、既得権益から逃れられない有権者にもあるのではないでしょうか。

 

 急速な軍事拠点化と「台湾有事」という米国の対中戦略に飲み込まれ、「安保三文書」からわずか2年で改訂、「非核三原則」の見直し案まで出ています。軍事費は過去最高を更新する一方で、国力は軽石の如く脆い状態です。私たちはこの現実を直視すべきです。

 

 新しい年を迎えた今、私たちは問われています。暴力による「恐怖」に基づく安全保障を選ぶのか、それとも「信頼と対話」に基づく平和を選ぶのか。熊本から始まる市民の選択は、決して小さなものではありません。また、地方自治体が本来の役割を取り戻し、市民とともに「戦争をしない国」であり続ける意思表示をすること、それこそが、今の私たちが世界へ向けて届けるべき平和のメッセージです。

 

陸上自衛隊健軍駐屯地への長射程ミサイル配備の中止を求め住民1200人が参加した集会(2025年11月、熊本市東区健軍商店街)

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