(2025年12月8日付掲載)

タンチョウの飛来地として知られる釧路湿原(2025年11月15日、猛禽類医学研究所提供)
北海道釧路市の釧路湿原周辺でのメガソーラー建設ラッシュに対して、釧路自然保護協会などが三月末に開始した「メガソーラーの駆け込み建設中止」を求める署名は17万5000筆をこえ、全国的な注目が集まっている。釧路市議会は9月、太陽光発電施設の建設に市長の許可を必要とする規制条例を全会一致で採択し、今月1日には北海道の鈴木直道知事が記者会見で「中止命令の発出も辞さない」と発言した。しかし、それでも事業者の日本エコロジー(本社・大阪)は工事をやめようとしない。その背景には、FIT(再エネの固定価格買取制度)にかわる新しいビジネスモデルを駆使して、環境アセスも住民説明会もスルーして、行政にも住民にも知らせないまま工事着工に突き進む、「今だけ金だけ自分だけ」の事業者と投資家の動きがあった。北海道風力発電ネットワーク代表で北海道自然保護協会常務理事の佐々木邦夫氏へのインタビューをもとに、問題点を浮き彫りにしてみた。
自然保護協会・佐々木邦夫氏に聞く

釧路市北斗のメガソーラー造成地の入口付近(佐々木邦夫氏提供)
佐々木氏は8月、釧路湿原のそばにある北斗地区のメガソーラー造成地を調査のために訪れた。ここが「釧路湿原メガソーラー」として全国的に注目を集めている現場だ。道路の向かい側ではすでに別のメガソーラーが稼働していた。釧路湿原周辺では、住宅地との間にあるバッファゾーン(緩衝地帯)にすでに数多くの太陽光発電が建設されている。
環境省によると、釧路市内の太陽光発電施設は2014年に96施設(うちメガソーラーは一カ所)だったが、今年3月には636施設(メガソーラーは25カ所)と急増している。
問題になっている北斗地区のメガソーラー造成現場入り口には、工事関係の書類は「建設業の許可票」など3枚しか貼られていない。必須の「労災保険関係成立票」もない。
佐々木氏は、「3枚のうちの1枚、“太陽光発電施設変更届”を見ると、事業者である日本エコロジーが市のガイドラインにもとづいて提出したものと思われるが、それを市の環境保全課が受けとったら即座に認め印を押している(今年4月21日付)ようだった。通常なら各自治体の開発指導要領などにもとづいて、書類を審査したうえで認可を出すはずが、そうした行政側のチェックがまったく効いてない印象だ」とのべている。
驚いたのは、日本エコロジーがいつ北斗地区の工事を始めたのか、行政も知らなければ市民も知らなかった。「今年4月中だろう」といわれているだけであり、釧路市が工事着工を確認したのは6月になってからだった。
建築基準法の適用除外
釧路湿原は、東西25㌔、南北36㌔、総面積約2・6万㌶の日本最大の湿原であり、1980年には日本で最初のラムサール条約湿地として登録され、1987年には国立公園に指定されるなど、関係者のたゆまぬ努力で保護されてきた。そして、毎年国内外から多くの人々が訪れている。国指定特別天然記念物のタンチョウの世界最大の繁殖地であり、氷河期の遺存種であるキタサンショウウオ(釧路市指定天然記念物)など、数多くの貴重な動植物が生息している。
ところがおよそ10年前から、この釧路湿原周辺で太陽光発電の建設ラッシュが続いてきた。しかもその大半が非FITで、FIT法や環境影響評価法の対象事業でないことから、事前に市民が計画について知らないまま大規模な土地改変をともなう工事が開始されていた。
そこで2023年3月、釧路自然保護協会や猛禽類医学研究所、北海道自然保護協会など9団体が、蝦名大也・釧路市長(当時)に対し、太陽光発電を規制する条例の制定を求める要望書を提出した。
これについて佐々木氏は、「湿原という重要な地域にかかる計画だったので、危機感を覚えた。現在が見えていたといおうか…」という。
そもそも太陽光発電は、建築基準法の対象でないので開発規制がかからない。国交省は2011年3月の通達で、太陽光発電について建築基準法の適用から除外することを明らかにした(後に風力発電も除外)。太陽光発電を普及するための規制緩和だが、これによって事業者は都道府県への建築確認申請をしなくてよくなり、行政側はこの申請を審査して許可を出す負担がなくなった。しかしそれは、周辺住民の安全な生活を損なうものとなっている。
また、市が制定するガイドラインでは開発への抑制効果がない。条例にすれば違反者の氏名公表措置などの罰則がある。さらに、FIT認定要件の一つに条例の遵守がある。
そうしたことから9団体が出した要望書だったが、市議会ではほとんどの議員が「国にガイドラインがあるから」という理由で反対し、条例の制定は見送られた。
2023年7月、釧路市は「自然と共生する太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」を制定した。しかしその効果は乏しかったことが、その後の事態の進展のなかで明らかになっていく。
日本エコロジーは2024年7月、このガイドラインにもとづいて釧路湿原国立公園そばの北斗地区でのメガソーラー計画を届け出、同年12月、同じく昭和地区でのメガソーラー計画を届け出た。
住民たちがこの計画を知ったのは、昨年11月のことだ。日本エコロジーは昨年12月に住民説明会を開き、国立公園のすぐそばの27㌶の土地に、太陽光パネル3万6579枚を敷き詰め、出力は2万1000㌔㍗強であると説明した。
説明の過程で日本エコロジーは、「昭和地区には希少生物のタンチョウ、オジロワシ、キタサンショウウオの巣はない」と説明していたが、事業地内にオジロワシの巣が複数あることが判明。虚偽報告をくり返す同社の無責任な姿勢に住民の怒りが高まり、計画は4・2㌶、6600枚に変更された。そして、日本エコロジーは今年4月に北斗地区のメガソーラー建設工事に着工したと見られる。
しかしその後の過程で、日本エコロジーが森林法、土壌汚染対策法、盛土規制法という三つの法令に違反していることが発覚した。
①森林法違反について
森林法にもとづく林地開発許可制度は、開発行為が一㌶以上の場合、都道府県知事の認可が必要としている。2023年4月1日以降は、太陽光発電施設の設置を目的とするものについては、0・5㌶以上の開発行為が新たに対象となった。
日本エコロジーは当初、開発予定地約4・2㌶のうち森林開発面積を0・3㌶とする事業計画を提出していた。しかし、実際の森林開発面積は0・86㌶あったことが、今年8月の道と釧路市の調査で発覚した。この面積では森林法にもとづく林地開発許可が必要だが、同社は知事の許可を得ないまま工事を進めていた。北海道知事は9月2日、これを森林法違反とし、一部地域の工事中止を勧告した。
②土壌汚染対策法違反について
土壌汚染対策法では、盛土をして土地改変する場合、着工の30日前までに道に届け出をして土壌調査をしなければならないと定めている。
しかし、日本エコロジーは着工前の届け出をせずに工事を始め、届け出を出したのは遅れに遅れて9月になってからだった。また、道は土壌汚染の恐れがあるとして調査するよう再三にわたって指導したが、同社が11月に提出した調査計画書では調査する日や場所が明確でなく、調査を請け負う会社との契約関係を示す書類もなかったため、道は再提出を求めた。12月に入って同社は土壌調査計画書を再提出し、来年1月から調査に着手するとした。道はこれを受理し、1月の調査に職員が同行するとしている。
③盛土規制法違反について
静岡県熱海市伊豆山の土石流災害を受け、政府は盛土規制法をつくり、2023年5月施行となった。規制をおこなう主体は都道府県知事だ。
釧路市にも今年4月から盛土規制法が適用されており、北斗地区は規制区域に指定されている。日本エコロジーは4月21日までに届け出が必要だったが、それをしていなかった。これも今年8月の調査で発覚した。これに対して日本エコロジーは「工事着工は3月17日」といいはったが確たる証拠がなく、規制逃れのための言い訳だと指摘されている。結局、道の指導で9月に届け出を提出した。
こうして3つの法令違反が発覚したが、それによって工事の中止には至らず、日本エコロジーはあくまでメガソーラー建設をおし進める姿勢だ。これについて佐々木氏は、「日本エコロジーは法律が定める届け出をしていなかったが、後から出したことを行政が認めている。この行政の対応自体どうかと思う。後から出せばよいということになれば、それが悪しき例になり、そうした事業者があいつぐのではないか」とのべている。
そのほか文化財保護法にもとづいて、釧路市は希少生物の調査不足を指摘し、11月には文化庁の職員による現地調査もおこなわれたが、日本エコロジーは「調査は適切にやっている」といいはっている。
結局、3つの法令違反をめぐって道は27回の行政指導をおこなっているが、日本エコロジーはそれに従わない状況が続いている。
規制条例できたものの…
その後、メガソーラー建設反対の全国的世論が高まるなか、9月17日に釧路市議会が「自然と太陽光発電施設の調和に関する条例」を全会一致で可決した。これによって太陽光発電施設を建設する場合、市長に申請し市長の許可を得なければならなくなった。従わない場合は企業名の公表などの罰則規定ももうけた。しかし、市長が計画の中止を求めることはできない。
また、この条例は10月1日に施行され、来年1月以降に建設が始まる施設から適用となる。したがってそれ以前に建設を始めた事業者には遡及適用できない。
さらに北海道の鈴木直道知事は12月1日、東京で記者会見をおこない、「行政指導に従わない状況もあり、悪質性がある。法令違反が発覚するなか、道としては中止勧告を出しているが、従わない場合は中止命令を発出する厳しい対応をとっていきたい」とのべた。そして、石原宏高環境大臣のもとを訪れ、「地域と共生しないメガソーラーに対して早急な法整備をおこなうとともに、法律の改正前に国としてガイドラインを示してほしい」と要望した。
しかし、日本エコロジーは工事を強行する姿勢を崩していない。釧路市内15カ所でメガソーラー建設を計画している同社は、三つの法令違反で中断していた工事のうち、北斗地区などをのぞく12カ所の工事を12月1日から順次再開すると発表した。そのうち8カ所は希少生物の調査が不十分だとして釧路市が再調査を求めている場所だ。しかし、松井政憲社長は「その要請には応じない」といっている。
また、ごく最近の動きとして、12月中にも工事を再開しようとする同社が昭和地区で開いた住民説明会で、町内会に対して「美化協力金」という名目で200万円を支払う提案をしたが、町内会はこれを断固拒否したことも明らかになっている。
非FIT、 PPAとは

釧路市に隣接する厚岸町尾幌のメガソーラー(今井亨氏提供)
そして、以上のような事業者の横暴がまかり通る背景に、これまでのようにFIT(再エネの固定価格買取制度)を使わない非FITの、PPA(電力購入計画)という新方式がある。
佐々木氏によれば、「釧路市北斗のメガソーラーをはじめ、釧路市内で計画されている太陽光発電所は非FITがほとんどで、多くがPPAという新方式をとっている。それが去年あたりから急増している印象だ。それによって、行政も住民も知らないうちにいきなり工事が始まるが、それは違法ではない――という事態が起こっている」。
では、それはどういう仕組みなのか?
FITでは、太陽光発電や風力発電の発電事業者が発電した電力を、国が定めた固定価格で20年間買いとることを電力会社に義務づけている。その原資は、一般家庭の電気料金に上乗せされる再エネ賦課金だ。
一方、FITのかわりに採用されているPPAは、太陽光発電や風力発電などの発電事業者が需要家(企業や自治体など)に、発電した電力を直接売る契約を結ぶもので、その契約は長期売買契約(10~20年)となる。PPAは、大別すると、企業や自治体が所有する施設の屋根や土地に再エネ発電設備を設置し、発電した電力を自家消費するオンサイトPPAと、遠隔地に建設した発電設備からの再エネ電力を購入するオフサイトPPAの2種類がある。
ここでは、今北海道で多く使われている、オフサイトPPAのなかのフィジカルPPA(電力会社の送電線を通じて電力を購入するもの)の仕組みを見てみたい【図参照】。

太陽光の発電事業者が、北海道の太陽光発電所で発電した再エネの電力を、北海道の大口需要家(大企業)に売る場合を考えてみよう。
発電事業者は、再エネの電気に非化石証書(後述)という付加価値をつけてセットで売る。大口需要家は北海道電力の送電線を通じて電力を受けとるとともに、小売電気事業者から非化石証書(後述)を受けとる。そして、大口需要者は小売電気事業者に、固定価格の電気代と託送量と手数料を支払う。小売電気事業者は、そこから託送料(送電線使用料)を北海道電力に支払い、自分は手数料を受けとって、電気代を太陽光の発電事業者に渡す。
ところで、再エネの電力といっても特別に色がついているわけではないし、別に送電線を引っ張るわけでもなく、北海道電力の送電線に乗せるわけだから、そこでは火力や水力など他の発電所の電力と混ざることになる。そこで非化石証書の出番となる。非化石証書とは、太陽光や風力など化石燃料を使わない電源で発電された電力の「環境価値」を証明する証書のことだ。これを購入することで、その企業が使っている電力の○○%が「環境に優しい再エネ由来である」と証明できる仕組みだ。
そして今、各企業はこの非化石証書をのどから手が出るほど欲しがっている。なぜか?
政府が2050年までのカーボン・ニュートラル(脱炭素)を打ち出すなかで、地球温暖化対策法は、大企業にCO2排出量を算定して国に報告することを義務づけ、地方自治体にCO2削減実行計画の策定を要請している。
佐々木氏は、「今後、地球温暖化対策法によって各企業に、それぞれが使っている電源の30~40%を再エネ由来にせよという縛りがかかってくる。そうなると自社で使う再エネの比率を上げなければ、今後、その企業は課税対象になる可能性もある」とのべた。
また、機関投資家や金融機関が投資先の企業価値を判断するさい、CO2削減のとりくみをおこなっているかどうかに注目している。これをESG投資という。非化石証書を購入すると、その分の電力はCO2排出量ゼロとみなされるため、投資家にアピールできる。
こうして発電事業者は、再エネの電力をFIT価格よりも高く売ることができ、他方の大口需要家は、20年間固定価格の電力と環境価値をセットで買うことができて、ウィンウィンの関係になる。悲惨なのは、初めから蚊帳の外に置かれ、ツケが回される住民や自治体の側だ。
脅かされる住民の生活
事業者が非FITを選択すると、再エネ特措法やFIT法の適用外となる。再エネ特措法やFIT法では、4万㌔㍗以上の太陽光発電所には環境アセスが義務づけられ、定期的な保守点検の義務も課される。また事業者は計画の進捗を国に報告する義務があり、虚偽報告には罰金が課される(2027年度以降)。事業者が変更になる場合にも、住民説明会が義務づけられる。
ところがこれがはずれるため、事業者は環境アセスをしなくてよいし、アセスのための行政への届け出やアセス図書の縦覧も、住民説明会もしなくてよいことになる。FIT法で2022年7月から義務づけられた太陽光パネル撤去費用の積み立てもしなくてよいことになるし、発電開始後の認定IDや電話番号の掲示もしなくてよいことになる。住民の反対運動を恐れる事業者にとっては願ったり叶ったりだが、これではメガソーラー建設の無法地帯となり、子々孫々に多大なツケを回すことになりかねない。
佐々木氏は、「最近ではPPAを使って、都会の大消費地の企業や自治体が田舎の再エネの電気を買うということが起こっている。青森県の横浜町と神奈川県の横浜市が再エネ連携協定を結び、青森県でつくった再エネの電気を横浜市が買うという例がそうだ」とのべた。
大企業や大都会の利益のために、北海道や東北をはじめ全国の地方が再エネ事業者に狙われ、無法地帯になってしまう。しかもわずか20年間の発電のために――そんな未来に対し、釧路湿原メガソーラー問題は警鐘を鳴らしているように見える。
背後に米投資会社「ブラックロック」
さて、北斗地区メガソーラーの土地の所有権を調べてみると、日本エコロジー→エネテク→ピーク・エナジー・ジャパン・ランド合同会社と次々に転売されていた。そして、ピーク・エナジー・ジャパン・ランドの親会社がシンガポールの再エネファンドであり、そのバックには世界最大の投資ファンド、アメリカのブラックロックがいた。現在はまた別の会社に転売されているが、メガソーラーや大規模風力というものが、安定した売電収入を得られる、手堅い利回りの優良な投資案件になっており、それを内外の投資家がターゲットにしているということだ。
その他、北海道の安平町(千歳空港の東側)で進んでいるメガソーラー建設は、バイソン・エナジー(東京)がおこなっているものだが、これは香港の投資会社につながっている。北海道の遠軽町で突然浮上したメガソーラーの事業者は東京に事務所を構えているが、代表者はポルトガル国籍で、それも投資会社につながっている。だが多くの場合、こうした背後勢力は隠されている。
では、こうした動きをどうやって止めるか。
佐々木氏は、「自然環境や人間生活を脅かす再エネの問題点が広く知られるなかで、太陽光発電を規制する条例が全国236の自治体でつくられている。現行では規制区域をもうけることはできないが、国が権限委譲して自治体が規制区域をもうけられるようにして、強制力をもって違法な乱開発をやめさせるようにすべきだ。そして、今起こっている新しい問題について全国の人々に知ってもらい、住民運動を広げていってほしい」とのべた。






















釧路の問題では苦労をしてきましたし、また今もしております。
私が考えてる事を昨日2025/12/21に自民党宛に申し出ましたが、
佐々木邦夫氏ものべてましたが、先ずは環境アセスの厳格化
そして
1.2回違反・違法した事業者は事業者取り消し処分にする
2. 廃棄等費用の一括預け入れ制度を自治体へ質権設定契約とする
これを法改正又は再エネ取締法みたいなのを新設して厳格に取り締まる
旨を要求いたしました。
これは1は皆さまわかるかと存じますが
2で、事業者取り消し処分にされても、最初に自治体にある民間の金融機関の当座預金に廃棄の費用を最初に預け入れして頂き、それに自治体が質権を設ける事で事業者に最後まで責任をもって後片付けして頂くというものです
釧路市では令和7年6月定例会にて請願しまし採択されており、現在条例に早急に盛り込むために調整中です
これを国として義務付けを全国的にしてしまうというものになります
実際に動くか否かはわかりかねますが、なんとか法律にして頂きたいと思っております。