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スパイ防止法案を提出 参政党と国民民主党が歩調揃え 国民監視の強化狙う自民・維新連立政権を援護

 参政党と国民民主党があいついでスパイ防止法案を単独で提出した。スパイ防止法は「国家機密を流出した」という「スパイ罪」で厳罰に処す法律で、旧統一教会と自民党が結託して1985年に法案を国会に提出したときは廃案になっている。だが自民・維新連立政府が「連立政権合意書」に「インテリジェンス(諜報)・スパイ防止関連法の検討開始」を明記し、国家情報局創設にむけた動きを加速するなか参政党と国民民主党が援護射撃を開始。気脈を通じる与野党が役割分担もしながら国民弾圧体制の強化を目指す動きが顕在化している。

 

40年前に廃案になったゾンビ法案

 

 参政党は11月25日、スパイ防止関連2法案を参院に提出した。2法案のうち「防諜に関する施策の推進に関する法律案」はスパイ防止法制定のスケジュールを規定した法案で「外国による活動の透明性確保のための制度創設(外国からの指示を受けた者がおこなう活動は事前届出や定期的な報告を義務付け、違反すれば処罰)」「外国による公職の選挙などに不当な影響を及ぼす行為に関する罰則の整備」「内閣情報調査局の設置(内閣情報調査室を内閣情報調査局に格上げ)」等を列記。あわせて「特定秘密保護法・重要経済安保情報保護活用法の一部改正法案」では「適性評価の在り方の見直し(調査事項に国籍や外国渡航・居住歴等を明記)」「外国への漏洩の罰則創設」「特定秘密記録文書を毀棄した者への罰則創設」などを盛りこんだ。

 

 加えて参政党の神谷代表は11月26日の党首討論で「国民は政治と金の問題や議員の定数より、国力が落ちて生活が苦しいことに不満を持っている。その一因である国民の情報や富を奪って国に損害を与えている行為を止めたいと思い、スパイ防止法案を提出した。総理のスパイ防止法に対する構想や思いを聞かせてほしい」と発言。それを受けて高市首相は「インテリジェンス・スパイ防止関連法制は自民党の参議院公約にも書いた。まず基本法的なもの、そして外国代理人登録法、それからロビー活動公開法等も今年、検討を開始し速やかに法案を策定したい」と応じた。

 

 国民民主党も26日に「スパイ防止」を軸にした「インテリジェンスに係る態勢整備推進法案」を衆院に提出した。国民民主党は「国際情勢の複雑化、インターネットその他の高度情報通信ネットワークの整備、情報通信技術の活用の進展等に伴い、外国による我が国に対する不当な影響力の行使の脅威(いわゆるスパイ行為を含む)が増大している」と主張。そのうえで基本的施策として、①外国による不当な影響力の行使の防止のための措置等、②行政組織の整備等、③情報収集等に係る手法の拡充等、④インテリジェンスに係る職務に従事する者等の安全及び適切な処遇の確保、⑤人材の確保等、⑥検証・調査研究の推進等、⑦国民の理解の増進及び信頼の向上、の7点を列記した。内閣にインテリジェンス態勢整備推進本部(本部長=内閣総理大臣、副本部長=内閣官房長官・インテリジェンス態勢整備推進担当大臣、本部員=本部長や副本部長以外の全国務大臣)を新設することも明記した。

 

 ただ「この法律が目指すのは、罰則で縛る社会ではなく、信頼と強靱さを持った社会」と主張し、罰則規定は盛りこまなかった。

 

米国の要求受け具体化

 

 「スパイ防止法」を巡っては旧統一教会が40年以上前から全国で成立に向けた運動を展開。その全面支援を受けていた「スパイ防止のための法律制定促進議員・有識者懇談会」(会長=岸信介元首相)が主導し、自民党が1985年6月にスパイ防止関連法案(議員立法)を国会に提出している。だが当時の法案は、防衛や外交に関する機密情報を外国に漏らした場合の最高刑を死刑と規定したうえ、「国家秘密」の内容が不明確。行為類型も「探知・収集」「外国に通報」「他人に漏らす」という曖昧なものだった。それは調査・取材活動、言論・報道活動、日常的会話等も「スパイ防止」と称して監視・摘発できる内容であり「言論・表現の自由を侵す」と批判が噴出。一度も審議には入れないまま廃案に追いこまれた経緯がある。

 

 ところが米国が昨年4月、第6次アーミテージ・ナイレポートで「日米のインテリジェンスの共有関係をファイブ・アイズ・パートナーシップ同等に高めるためのロードマップを設定すべき」と記載し日本にスパイ対策の強化を要求。それを受けて自民党の「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」(会長=高市早苗)が5月、石破首相(当時)にスパイ防止法制定の検討を求める提言書を提出した。提言では「諸外国と同水準」(最高刑が死刑か無期懲役)のスパイ防止法導入を求めた。そして高市政府発足に向けて自民・維新が締結した連立政権合意書に「インテリジェンス・スパイ防止関連法制(基本法、外国代理人登録法およびロビー活動公開法など)について2025年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立させる」と明記した。

 

 だがスパイ防止法は、国家権力が国民や外国人を容易に「スパイ」にでっちあげ抹殺・拘束することもできる法律だ。それは「スパイから国を守る」どころか国民を徹底的に国家権力の監視下に縛りつける危険な内容であることは明白で、高市自民党がもし法案を提出すれば「軍国主義復活の動き」とアジア諸国で反発が噴出し、ますます日中関係が冷えこみ経済的にも大打撃を受けるのは避けられない力関係だった。そのため自民党は「インテリジェンス(諜報)戦略本部」(本部長・小林鷹之政務調査会長)を立ち上げ、国家情報局創設や「対外情報庁」(日本版CIA)設置の具体化を先行する動きを見せていた。こうしたなか自民党に変わって「野党」の立場からスパイ防止法案を提出し、参院と衆院で国会論議に道筋をつけたのが参政党と国民民主党だった。

 

 このようなスパイ防止法提出に関する動きは、与野党が影で結託した国会内の構造を抜本的に変革しなければ、日本の国政を変えることができない現実を改めて示している。

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