(2025年9月17日付掲載)

世代や国籍をこえて多くの人々が参観している「原爆と戦争展」(9月13日、広島市平和公園)
原爆展全国キャラバン隊(本紙後援)は13日と14日に、広島市の平和公園内(原爆の子の像横)で街頭「原爆と戦争展」をおこなった。80年目の原爆記念日を過ぎてもなお、平和公園には全国、世界から多くの人々が足を運んでおり、展示にはさまざまな国籍、世代の人々が足を止め、午前から夕方まで途切れることなく来場者が押し寄せた。平和公園を訪れる人の多くが、「実際に被爆地広島を訪れ、直接自分の目で見て学びたい」と戦争や平和について真剣に考えており、過去の歴史に学ぼうとする人々の問題意識と響き合って、国内外から展示の内容に対する衝撃や共感が多数寄せられている。
原爆投下から続く殺戮正当化
全国キャラバン隊は6~8月にも平和公園での展示をおこなってきたが、9月以降も広島への訪問者の勢いは衰えることはなく、街頭展示ではとくに10~20代の若い世代、教員などの真剣な参観が多いのが特徴となっている。戦争体験者が高齢化し、原爆や空襲などの戦争体験を直接聞き、記憶や思いを受け継いでいくことが難しくなるなかで、次の戦争を止めるために「どう学べば良いか」「どう伝えていけば良いか」という問題意識が強く語られている。
国際的な緊張の高まりや戦争・紛争の勃発など不安定な情勢が加速するなかで、国籍をこえて「次の戦争を止めなければいけない」という共通した思いが語られている。現在に続く民間人虐殺正当化の根源となっているアメリカによる原爆投下の犯罪性を真正面から訴え、あの戦争で多くの人々が受けた苦しみと怒りを世界に発信することの重要性が高まっているなかで、展示に対する参観者の反応も鋭いものとなっている。
三重県から友人たちとともに訪れた20代の小学校教師の男性は「被爆のことについても詳しく展示してあったが、戦前から日本が貧しくなり、戦争に進んでいった背景や、戦地での兵士の体験なども展示してあったのがとてもよかった」と語った。男性は、学校の授業を通じて戦争のことをどう伝えていけば良いか悩んでいるといい、「私たちが子どもの頃に比べ、今の日本をとり巻く情勢はさらに戦争に近づいているという危機感がある。貧困問題や、近隣国との緊張関係など、“一歩間違えれば…”というところまで来ていると思う。当時の若者たちも、国に従って招集され、何が何だか分からないまま戦地へ送られて犠牲になったのだと思う。教え子を戦争に送りたくないという気持ちと、今の緊張感を、自分の言葉で、どこまで踏み込んで伝えればいいのかという葛藤がある。原爆の悲惨さを語り継いでいくことはもちろん大切だ。さらに、ほとんど語られないが、戦争に行った兵士たちがどんな目にあったのかを、もっと子どもたちに伝えないといけないと思う。戦争のことについて、授業のなかで教師の思いも織り交ぜながら教育に落とし込めるのは小中学校までだ。だからこそ自分にとってもかつての戦争が単なる歴史上の出来事で、他人事になってしまわないようにと、意識して広島を訪れるようにしている。この展示を見ることができてよかった」と話した。
また、男性はアンケートに「戦争がいかに愚かで残酷なものかということがよくわかる展示だ。日本が原爆で受けた傷はとても大きいものであると同時に、日本もまた中国やフィリピンなどのアジアに大きな傷を負わせた立場であることを知っておかなければいけないと改めて考えさせられる展示だった。また、今現在も世界で起こっている戦争を他人事にせず世界から戦争をなくす為にどう行動していけばいいのかを、子どもたちに考えさせたいと思った。今何事もなく送ることができているこの生活も、いきなり奪われてしまうかもしれないということをしっかりと考え、一人一人が政治に関心を向けて戦争を起こさない国にしていかなければいけないと思う。“教え子を戦場に送るな”。この言葉を胸に刻み子ども達に関わっていきたい」と記した。
一緒に参観した友人も「平和公園のように、足を踏み入れるだけで戦争の歴史を振り返ることができる場所があることの大切さがよく分かった。一方で、この展示にもあるように戦後、GHQをはじめとする上層部は戦争の歴史を風化させるために、記念碑などを建立させないよう意図的に市民を抑圧してきたことも知った。戦争体験者がどんどん高齢化していくなかで、日本人の歴史を継承していくことの大切さを考えさせられた」と語った。
愛知県から訪れた60代の中学校教員の男性は、「私たちが子どもの頃は、あの戦争は日本が起こした戦争であり、殺されても仕方がない無謀な戦いを挑んだ日本人が悪いと教えられ、私もそう思っていた。だが、この展示を見るととてもそうは思えない。アメリカは原爆や空襲で明らかに民間人を狙って殺戮をおこない、一方で占領後を見据えて皇居周辺や三菱などの財閥は無傷で残した。“自衛”などではなく、明らかな侵略戦争だ。今、ウクライナ戦争やガザ虐殺で戦争犯罪という言葉を耳にするが、アメリカがおこなったこともまったく同じだ」と語った。
また、アンケートに「多くの人にゆっくり足を止めて読んでもらいたい展示だった。60歳を過ぎているが、子どもたちに話してやりたいと思えた。戦前教育の恐ろしさ、洗脳する戦い方。今の我が日本もどうだろうか? 右へ傾いた政党が躍進してきた今、日本はいや世界は再び間違いに手を染めるような気もする」と記していた。
海外からの参観者も多く、展示の内容に衝撃を受けるとともに、深い共感を示している。60代のドイツ人男性は妻や息子らとともに参観し、一時間近くかけてパネルを見ていた。その後スタッフに、「ドイツにもベルリンに博物館(反戦博物館)があり、そこでも原爆に関する展示がおこなわれていて私も訪れたことがある。だが今日見た展示は、私がベルリンの博物館で見てきたものとは比べものにならないくらい情報が豊富で、優れている。とてもよかった」と語った。そして、アンケートには「原爆投下によって生じた対外的な問題(日米間)だけでなく、日本国内における問題(例えば、戦後に慰霊碑の設置を禁じたことなど)も紹介されており、とても良い内容だった。私もそのことはまったく知らなかった。現在の戦争や紛争に目を向けると、外交は失敗することがあるとはいえ、各国政府には紛争を可能な限り透明化する努力が求められる。そして、自力で戦えない人々は必ず守らなければならない。“ソフト・ターゲット”への攻撃は、どんな犠牲を払ってでも防ぐべきだ。戦争はなくなることはないだろう。だが、残酷な行動をとるかどうかは私たち自身で決めることができる」と記していた。
戦争させぬために学ぶ 若い世代の感想から

びっしりと感想が記された原爆と戦争展のアンケート用紙
親と一緒に参観した小中高生や、友人たちと誘い合って広島を訪れた大学生など、10代、20代の若い世代が戦争のことについて考え、真剣に参観する姿も目立っている。そして、参観後には自身の感想や意見をアンケートに長文で記している。その一部を紹介する。
▼学校で教えてもらえないことを知ることができた。とくに、「被爆者はモルモットか」のパネルに関しては、そんなことが日本とアメリカの間でおこっていたなんて知らなかったし、そういうことで苦しんでいた人がいるなんて初めて知った。自分は戦争にすごく興味があるのでこういう写真の展示などでもっとよく知れてよかった。(世界で現在も続く軍事緊張について)正直いって、時間のむだだと思う。そんなことをしている間に「何かできることはあるのか」といい方向になるように考えたほうが、その国にとってもプラスになるだろうし、自分の国に精一杯になるから戦争どころではなくなると思う。(13歳・女子中学生)
▼僕はまだ15歳で今までの歴史を全然知らないが、広島に来て原爆ドームを見てまるで嘘のようだと思った。この展示を見て、まだ幼い子どもたちが黒焦げになり亡くなっている写真などを見ると心が苦しくなる。このような出来事は、今後起きてはならないことだ。戦争をせずに解決できないのか、戦争していいことは一つもない。死んでもいい人なんか一人もいないので戦争をこの世から無くしたいと思っている。戦争を含めた争い事というのは、とても愚かな行為だ。戦いに勝った方が正しいと主張し、負けた方が悪いと決めつけ、負けた方の意見なんて聞かずに弾圧や情報の隠蔽をする。そして、その問題に目を背けて取り扱おうとしない。あまりにも酷いと思った。市民への攻撃は許せない。罪のない、ただその国の人というだけで殺すのは罪になると思う。(15歳・男子高校生)
▼実際に戦争を体験した方たちの生の声が展示で見ることができ、貴重な体験ができた。特に印象深かったのは、体験者のなかでも当時の状況に対する捉え方が相当異なることである。当時は思想統制、教育が厳格になされていたと思うので、国民のほとんどは戦争ないし抗戦を支持するような考えを持っているものと考えていたのだが、そうではなく、反対的な意思や考えも多数あり、やはり国民も一枚岩ではなかったのだと感じた。また、アメリカ軍側の言葉を踏まえて原爆投下は必要なかったと分析する展示もあったが、これは興味深かった。おそらく、日本もアメリカも、すべてが一致して戦争を進めたり、利権的なことをおこなっていたのではなく、現代の人間ないし組織の中で何かしらの「綻び」のようなものがどんどん歯止めがきかなくなったという側面もあるのだと思う。このような小さな「綻び」のようなものが最終的な悲劇につながってしまうというのは、歴史を学べばわかることだと思う。だからこそ政治の中枢にいる人間はとくにそうだし、そのような政治家たちの基盤になっている国民一人一人も、この手の問題について言動をする際には慎重になる必要があり、軽率な行動、発言は絶対にするべきではないと思う。(26歳・男性・大学職員)
「狂信的少数が戦争へ誘導」 外国人アンケートより

参観後、アンケート用紙に感想を記す人々(広島平和公園)
▼非常に有益だ。展示には悲しい内容が含まれるが、決してアメリカだけの見解に偏っておらず、人々にとって必要なものだ。世界中で起きている戦争や紛争、虐殺によって民間人が被害を受けているが、本当に恐ろしいことだ。私はパレスチナ人なので、非常に身近な問題だ。パレスチナだけでなく、コンゴ、スーダン、イエメンなど、資源の盗難のために攻撃され、植民地にされているすべての国を解放しなければならない。(カナダ/パレスチナ・38歳・女性営業部員)
▼この展示によって情報を提供してくれることに感謝する。ここで何が起きたのか、そしてその後に何が起こったのかを理解することができた。アメリカ人として、私たちの国が引き起こした壊滅的な損失とトラウマを目の当たりにするのは辛いことだが、いかなる戦争も何の解決策にもならないという私の信念を改めて確信することができた。
戦争と、戦争が人々や社会に及ぼす甚大な悪影響を憎む。一方で、私たちはごく普通の一般人だ。どうすれば戦争に立ち向かえるのだろうか?後々になって戦争について語ることができるのは、ある種幸運なことなのかもしれない。私の身にも戦争が降りかかったとして、私はその物語を語り継ぐために戦う覚悟ができているつもりだ。だが、たとえ私が命がけで生き延びようとしても、次に起きる戦争には終わりは来ないのではないかと思う。(アメリカ・37歳・女性・自営業)
▼とてもリアルで痛切な内容だった。ロマンチックで英雄的な物語や、威勢の良い愛国主義ではなく、戦争の恐ろしさと、それが人々に及ぼす影響こそもっと多くの人々に広く認識される必要がある。このような展示会が、もっと簡単に利用でき、アクセスできるようになってほしい。世界は多数派ではなく、少数の狂信的な人々によって支配されているように思う。もし、彼らが世界の人々の声に耳を傾ければ、すべての戦争は即座に終わるだろう。(インド・38歳・男性)
▼ここで起こったことは恐ろしいものだ。そして、この展示会の光景は、見る者を感動させ、トラウマを植え付ける。それでも私たちは何が起こったのかを学び、どんな犠牲を払ってでもそれを防ぐために最善を尽くすことが非常に重要だ。再びファシズム派が権力を握ることを許してはならない。今でも罪のない市民が戦争の犠牲になっているが、どうすれば救えるのだろうか。
結局のところ、世界ではほんの数十人だけが、何百万人もの運命を決定づける力をもっている。そして多くの場合、その力を悪い方向に使っている。私も平和を広めるために積極的に活動しているが、時折自分の声がどこにも届いていないのではないかと感じてしまうことがある。開放性、平和、人類への愛ではなく、ナショナリズムを支持することによって、ファシズムと資本主義が加速していると感じる。(ドイツ・19歳女性・大学生)
▼この展示会を見ていると、困難な時代を体験し、まるでこの状況を生き抜かされているかのような感覚になる。壊滅的で、残酷で、衝撃的だ。とても胸が苦しくなった。学校では第二次世界大戦における日本の状況についてこれほど詳しく教わることはないので、本当に目を見張る思いだ。
なぜ、今でも人々に対して武力が行使されるのか理解できない。私たちは人間だ。戦争は解決策ではない。ロシアとウクライナ、あるいはガザでの戦争で、無害な民間人を政治問題に含めるべきではない。現在の状況は、過去のすべての戦争や紛争から、私たち人類がどう対応すべきかという深刻な警鐘をまったく無視している。私たちはもはや過去に戻っているのだと思う。すべての人々に平和を。(ドイツ・17歳女性・学生)
▼展示にある情報はとても詳しく、かつ日本側からの視点で描かれておりとても興味深かった。私たちが自国で教わった内容とは異なるものだった。とくに一人称視点での記述と、バランスのとれた議論の展開がとても優れていた。各国政府は自国の権力と金のために戦い、他国の支配権を握ろうとしており、国民(民間人)のことなど気にかけていない。そして、貧しい若者たちが軍隊に入隊し、自分たちの国のために戦っていると思いながら、戦争という現実に直面し、それでも自分が足を踏み入れた場所に責任があるので戦わざるを得ない。彼らも戦争のない平和な世界を切望しているはずだ。(フランス・40歳・女性・看護助手)
▼展示の内容を直視し、理解するのは難しいが、戦争の本当の恐ろしさと、国家指導者の権力掌握への残酷な意図を浮き彫りにしていたと思う。そしてか弱い市民が代償を払っていることを如実に示している。当時の状況を理解することはできないが、今私が抱いている感情は、すべての人々が受けた苦しみに比べれば取るに足らないものに等しいのだろう。彼らに最大限の敬意を払う。
今も世界のあちこちで戦争が続いているが、なぜ人々は過去から学ぶことができないのか。世界的な紛争の流れや現状は、第二次世界大戦終焉をめぐる土地収用のイメージと酷似している。世界的な協力と知識の共有が今以上に改善されれば、これらの戦争を止められるはずだと思う。しかし、現実はそうではないようだ。権力欲に駆られた国家指導者の暴走により、多くの民間人が命を落としている。(アイルランド・25歳・男性・農家)
▼この展示は、非常に深い悲しみを呼び起こす。感動的であり有益で、第二次世界大戦における日本の視点や、当時の体験者の声を垣間見ることができた。今も世界中で緊張状態が続いている。中国とチベット、ウクライナとロシア、イスラエル・ガザ間の戦争、そしてアメリカと中国の緊張を、私は深く憂慮している。私はこれらの戦争における民間人の犠牲に同情するとともに、さらなるエスカレーションを止め、平和が実現されることを願っている。国同士の国境は尊重されるべきであり、政治的な相違は交渉を通じて解決されるべきだ。(イギリス・26歳・男性・ミュージシャン)





















