いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

ただの“いいなり”

 今度はいきなり相互関税の実施を90日間停止だそうで、それを受けて株価は急騰するなど、世界経済はトランプに振り回されて大騒ぎである。相互関税の実施を発表して以後、報復措置をとらず水面下で交渉意思を伝えてきた75の国々との間では、順次貿易や為替その他について交渉していくとする一方で、「最後まで付き合ってやる」と報復措置に出た中国に対しては125%の関税をかけるという二刀流で、引き続き妥協と交渉を迫っている。結局のところ、アメリカに有利なディール(取引、商談)ができるよう、まずはでっかくアドバルーンを上げて各国を揺さぶり、恫喝し、協議の席につかせる――ということなのだろう。

 

 「90日停止」発表の3時間前にはトランプ自身がツイッターで「絶好の買い時だ!」と投稿しており、そこから株価は爆上げとなった。誰の目から見てもそれはそうなる。政権に入り込んだウォール街出身の猛者どもやトランプ界隈はさぞかしインサイダーで稼いだのだろう。日本との関税交渉を担当するベッセント財務長官なんて、もともとがウォール街のヘッジファンドマネージャー(ジョージ・ソロスが経営するソロス・ファンド・マネジメント)出身で、保有する個人資産は日本円にして822億円ともいわれるようなマネーゲームに生きてきた人物である。トランプ一味が結託して相互関税ぶち上げからの株価暴落、90日停止発表、株価急騰を仕掛けたと見なしてもなんら不自然なものではない。かなり手荒なやり方とはいえ、こうした振り幅のひどい乱高下はヘッジファンドにとって荒稼ぎをする絶好のチャンスなのである。各国に妥協を迫ると同時に副産物も得る――そんな光景に見えて仕方がない。

 

 さて、日本は一連の相互関税騒動のなかで真っ先にアメリカに交渉を申し出ていたそうで、交渉相手としては「前列」という。アメリカ政府の担当者は前述したベッセント財務長官である。今回、自動車に25%の関税がかけられるということで、貿易交渉でその引き下げの生け贄として差し出されるのは恐らく農産品とみられ、「700%の関税をかけている」(根拠不明だが、ホワイトハウス報道官が何度も強調)と名指しされるコメや乳製品の関税引き下げが遡上に上る可能性もある。

 

 歴史的に自動車をはじめとした輸出産業が海外市場で稼ぐために、その交渉材料として輸入農産品の関税率を引き下げ、大量の安い輸入農産物を日本国内に流入させてきた経緯がある。おかげで国内農業や酪農は安い海外農産物との競争を強いられて淘汰されてきた。そうして自給率はますます減り、胃袋を海外に依存する構造が出来上がってしまった。いまやなにかことあれば国民は飢え死にしなければならないような脆弱な食料事情でもある。令和のコメ騒動を見てもわかるように、コメ不足が深刻なのをもっけのさいわいにして、「足りないならカルローズ米(アメリカ産)を輸入すればいいじゃない」ともなりかねない危うさがある。主食のコメ生産まで日本国内でまかなえない状態にさせられ、海外からの輸入物に胃袋を握られるというのは、食料安全保障の放棄にほかならない。

 

 貿易交渉で本丸とされる議題とはなんなのか、関税24%に飛び上がっていったいなにを妥協するというのか、注視する必要がある。もっと米国製の武器を買えなのか、台湾有事で米軍の身代わりになって戦えなのか、量的緩和でもっとマネーをはき出せなのか、規制緩和をして多国籍金融資本のパラダイスにせよなのか、これまで年次改革要望書やアーミテージ・レポート等で丸呑みにしてきた米国の要求のかずかずを振り返りながら、煮え湯を飲まされ続ける日本の姿を思う。まるで対等でない両者の関係からして、それはディール(取引)ではなく、ただの“いいなり”である。

 

武蔵坊五郎

関連する記事

  • トランプのおんなトランプのおんな  トランプの訪日を出迎えた高市早苗のはしゃぎっぷりといったら、まるで場末の格安スナックのママとかホステスみたいで見ておれない…という知人が幾人 […]
  • 「下駄の雪」が連立離脱「下駄の雪」が連立離脱  あの与党大好き「下駄の雪」の公明党が、26年間に及んだ自公連立政権から離脱することになった。なにがあっても自民党の補完勢力として与党の座にし […]
  • 侵される熊たちの生息域侵される熊たちの生息域  連日のように日本列島のどこかで起こった熊の出没情報がニュースとなって世間を騒がせている。なかには襲われて死傷者が出るなど痛ましい事例も発生し […]
  • 姥に鞭打つ社会姥に鞭打つ社会  敬老の日にあわせて総務省が65歳以上の高齢者の推計人口を発表した。高齢者は3619万人となり、総人口に占める割合は29・4%と過去最高を更新 […]
  • 1%が決めた自民党総裁1%が決めた自民党総裁  所詮は自民党総裁選。99%の国民にとってははじめから選ぶ権利などなく、また関係もなく、悲憤慷慨して見守るほどの関心もない話である。自民党とい […]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。