いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

記者座談会 安倍政府が持ち込んだ安岡洋上風力

住民から風力建設反対の要望書を受ける前田市長(4月5日・下関市役所)

 

森友問題以上の忖度政治

 東京の準ゼネコン・前田建設工業が出した安岡沖洋上風力発電の環境アセス準備書をめぐり、前田晋太郎下関市長が7日に県知事に上げる市長意見を発表したが、風力発電に反対する態度表明がなく、両論併記で県知事に判断を丸投げするものであったことに地元住民から怒りの声が上がっている。これを受けて県知事が6月8日までに経済産業大臣に対する意見をのべる予定で、13日には反対する会が県知事への要望書を提出した。安岡沖風力発電計画が明らかになったのが2013年4月で、その年の10月には住民たちが反対する会を立ち上げ、反対署名を開始した。以来、足かけ5年目となるが、洋上風力問題はいよいよ正念場を迎えている。記者座談会をもって状況を分析した。


「太いパイプ」で中止させよ

 A 前田市長が出した市長意見に対して、住民の失望と怒りの声が広がっている。選挙中にあれだけ約束しておきながら、態度表明を避けたからだ。市長意見では「再生可能エネルギーを推進することの必要性や重要性について、市民の理解は得られている」としつつ、「低周波の健康被害など住民の不安については払拭するまでには至っていない」という両論併記で、後は「しかるべき対応を県知事にお願いしたい」といって判断を県知事に丸投げした。前田を応援した住民のなかでも怒っている人が多い。ある住民は「前田建設は説明会で、低周波の健康被害は100人に1人でたいしたことはないといったが、環境審議会で鷲尾先生はたとえ1人でも住民の犠牲者を出してはいけないといい、そこから“受け入れられる環境が整っていない”という結論になった。市長はなぜこれをそのままいわないのか。環境審議会答申にもとづくというなら、“現状の計画では受け入れられません”とか“反対せざるをえない”といって当然だ」と疑問を語っていた。


  2月はじめ、安倍事務所の秘書が安岡地区の支持者のところに「(風力については)市長になったら相談に乗る」という約束を持ってきて前田への支持をとりつけようとしたのが事の発端だ。それでも市長選前に前田が安岡公民館で演説したさいには、「中央との太いパイプで頑張る」「賛成、反対はいえない」といっただけだったので、参加した住民から「なぜはっきり反対をいわないのか」「総理は何といっているのか」と追及された。すると、選挙戦に突入して風力が重要な争点の一つになるなかで、前田は再び安岡公民館で演説会を持ち、前日の参院予算委員会で安倍首相が「風力発電については各地で住民の反対運動が起こっている。紙の上の計画どおりにはいかない」とのべたビデオを見せて「これは安岡のみなさんへの総理のメッセージですよ」といい、続けて「地元の賛同が得られていない以上、風力発電を絶対に推進するわけにはいかない」とのべた。別の場所では「風力反対。安岡の海を守ろう」ともいった。


 このことは住民がみな自分の目で見て、耳で聞いている。これをどう判断するかが反対運動のなかに亀裂を生む原因にもなったが、その公約を市長になってわずか10日余りで覆すのだから住民が頭にくるのも当然だ。ある住民は「両論併記、県知事に丸投げなら中尾と同じではないか」と語っていた。


  ここにきて「環境アセスに対しては市長は賛成も反対もいえないのだ」とか「陸地から1000㍍をこえる海は県の管轄で、市長の意見は通らない」という人がいる。それなら前田はそれを知ったうえで、選挙で住民をだましたことになる。市長選では最終段階まで中尾に数ポイントほどリードされていた。それで慌てまくして風力票をもぎとりにいったのが実態なのだとしたら、相当に選挙民を愚弄している。たぶらかされて怒りがない人人については、やはり支持者であってもケジメのある態度が求められる。是是非非で対応することが必要だ。曖昧にすることによって、ずるい形で手続きが進んでしまうからだ。また、「公約の進化だ!」などといって嘘ぶいた中尾にしてもそうだが、ケジメのない政治風土をはびこらせてしまう。支持者だからこそ、厳密に立場を問うて政治家を縛らなければならないはずだ。


  原発建設の場合、立地自治体の首長と知事の地元同意がかならず必要になるが、それと比べても風力建設の場合そうした規制がないこと自体が異常だ。風力発電は周辺住民に低周波による頭痛や吐き気、不眠など健康被害をもたらす危険性が指摘され、転居以外に解決策はないといわれている。本来なら住民の生命や財産、健康を守るという地方自治の精神に立って、市長が毅然とした態度をとらなければならない問題だ。ある住民は「住民の同意なく、突然私たちの目の前に金もうけのための塔がつくられ、代代何百年と生活してきた住民が土地を追われるということになれば、日本は民主主義の国ではなく独裁国家だ」と強く訴えていた。生活を脅かす迷惑施設が何の規制もなく野放しに設置されるなど、近代国家以前の問題だ。


  市長意見が出された後、次は6月7日を期限に村岡県知事が経済産業大臣に対して意見を出すというので、反対する会のメンバーが県庁に行って要望書を提出した。対応した県の環境生活部は「県知事意見を出した後、7月28日を期限に経済産業大臣が事業者に勧告を出し、それを受けて事業者が評価書を出す。最終的判断は経済産業大臣がおこなう」と答えた。手続きのみを伝える第三者的態度だが、3月に県がおこなった公聴会は多くの住民が知らず、公述人の3人が3人とも利害関係者で賛成の意見をのべたので、「ヤラセ公聴会」との批判が噴出していた。住民の批判の前に、県は例外的に公聴会後の意見も受けつけるとしたが、3年前に反対する会が申し入れをしたときも県は6万5000人の反対署名を受けとろうとせず、「署名を持ってくるなら会わない」とまでいっていた。


  安岡沖風力については、県漁協自体も当事者として身を乗り出している印象だ。県の公聴会で風力賛成の発言をした1人は山口県漁協の参与(信漁連出身)で、仁保専務もその場に来ていた。下関外海漁業共励会の廣田弘光(県漁協副組合長)が2月、風力発電反対の決議をあげた安岡のひびき支店に対して、何十年と暗黙の了解の下でおこなってきたナマコ漁を禁止する脅しを突きつけ、これに対してひびき支店が県の指導を求めたところ、直後に廣田と同じ趣旨の通告をしてきたのが県漁協組合長の森友信だ。森友や廣田はひびき支店など関係7支店が風力建設同意の3分の2決議をあげる1年以上も前に、勝手に前田建設工業と契約書を結び、1000万円の手付け金を受けとっていたことが暴露されている。その後地元住民の反対運動が盛り上がり、ひびき支店も反対に立ち上がって目算が狂ったからなのか、以後は脅しや懐柔のオンパレードだ。3月には森友がひびき支店の全組合員に対して「前田建設工業の海のボーリング調査を妨害するな」という文書を送りつけてきたが、本紙が県に調査はいつからか確認すると、前田建設工業の海面使用許可申請は昨年11月以降出ていなかった。県漁協に見解を聞きに行っても誰も出てこない対応だった。前田建設工業よりも前のめりになっている印象だ。


  しかし、やり口がことごとく鞭一色というか、安岡の漁師たちが生産活動できないような力ばかり加えており、果たしてこれが漁協幹部なり協同組合責任者の振舞として社会通念上許容されるものなのか否か、全市民的な視線にさらして評価を加えることが重要だ。アマ漁禁止やナマコ漁禁止、さらに洋上風力を巡って起きたさまざまな困難について、具体的な事実や経過、その動機について整理して、安岡の漁師たちが社会問題として提起すればどうかと思う。水協法上も認められるのか否か、県当局があてにならないので、飛び越えて水産庁の指導すら必要な段階にきていると思う。本紙もそのための資料提供や専門家への応援依頼などは協力できると思う。県内の漁協関係者や水協法を熟知した強者たちも安岡の行方には目を光らせている。知恵袋になるような人物たちは相当数いる。あまり安岡の漁師たちを後方支援している人人の存在を侮ってはならないと思う。一線を越えた振舞や根拠のない制裁は、逆にすべて動かぬ証拠となる。その正当性を主張する場合、「洋上風力にオマエたちが反対するからだ」では話にならない。裁判でも何でもとことん己の正当性を主張して、正正堂堂とやり合うことが必要だろう。

推進する側が最終判断 ゴリ押しの背後関係

  ここまできて風力発電建設阻止という住民の総意を実現するためにはどうすればいいかが問われている。はっきりさせないといけないのは、風力を推進している本丸は誰かということだ。それは前田市長でも村岡県知事でもない。県知事への要望書提出のさい、県の環境生活部次長が「最終的には経済産業大臣の判断だ」といったが、当初から安岡沖洋上風力にお墨付きを与え、前のめりになって推進してきたのは経済産業省と安倍政府だ。そうして自分がお墨付きを与えた計画の最終判断も経産大臣自身がおこなうというのだから、自作自演もいいところだ。市や県は第三者を装いつつ、実際には森友学園問題のようにお上の意向を忖度しながら推進している関係にすぎない。前田晋太郎が当初、風力反対をいえば市長選で有利になるのはわかりきっているのにいわなかったのは、まさに忖度が働いていることを証明している。中尾も同じだ。つまり、市長すら力の及ばない上層部が推進していることを示した。安岡沖洋上風力ははじめから経産省主導の国策であり、首相のお膝元が全国的な突破口になっている。


  「菅直人が首相のとき風力推進を決めた」という話があったが、固定価格買取制度をつくったのは菅直人だが、洋上風力の買取価格を1㌔㍗時あたり22円から36円に引き上げたのは2014年4月、安倍政府の下の経産省だ。2013年末に前田建設工業が下関で環境アセスの調査を開始すると、翌年4月に経産省は洋上風力の買取価格を引き上げた。こうして首相のお膝元で、首相官邸で隠然たる力を振るっているという経産省が買取価格を上げてくれたおかげで、業者が利益を保証されて事業を動かし始めたわけだ。関連業者には、安倍代議士の有力な後援者として知られるマリコンの関門港湾建設などもいる。当初、関係者が試算したところ、安岡沖の最大出力6万㌔㍗の洋上風力発電は、300億円の初期投資によって20年間で670億円もの利益が上がるという。20年間の固定収入を欲しがっているのは誰ですか? という話だ。企業だけとは限らない。ブローカーがいたら飛びつくような話だ。


  安倍首相の側近は秘書官の今井尚哉など経産省出身で固めていると報道されてきた。そして経産大臣は「お友達」で知られる世耕弘成だ。県知事意見も丸投げになった場合、果たしてどのような対応をするのかだ。前田晋太郎は選挙で「中央との太いパイプ」を叫んでいた。それなら夫人付で経産省出身の谷査恵子さんに依頼して、風力を止めさせてもらえないものか? と話している人もいる。安倍首相が「やめろ」といったら、経産省にしても首相の意向に逆らってまでごり押しする役人はいないし、前田建設工業も選挙地盤を荒らすような真似はできないはずだ。「やめろ!」とはいわないのだろう。


  ちょうど2年前の4月、「住民が環境調査の機器を壊した」という前田建設工業の刑事告訴を受けただけで、双方から事情を聞くわけでもなく、一方的に「疑いのない業務妨害であり犯罪である」といって反対する会の4人の住民に家宅捜索や尋問をくり返したのが山口県警だった。県警本部主導の大掛かりな捜査だった。これはよっぽど上層部を動かす政治的な力が働いているに違いない、やっぱり風力は国策だったと、そのとき住民が大話題にしていた。だがその後、前田建設工業が4人に対して1000万円以上の損害賠償を求めた民事訴訟では、前田側弁護士は裁判所が求めた証拠をいまだに出すことができていない。他方、刑事訴訟は前田側が「器物損壊」を取り下げ、「威力業務妨害」についても10カ所のうち9カ所で証拠がなく、立件は困難といわれている。強引すぎた捜査の行き詰まりは明らかだ。

5月14日に再度1000人デモ 全市民の思い束ね



  風力発電は国策だが、だからといってあきらめる必要はまったくない。事業者の計画に経産大臣がゴーサインを出したところで勇み足となる。その順序を間違えると祝島の漁業権問題のように塩漬けになるほかない。県が公有水面埋立許可を出したとしても、風車建設予定海域に漁業権を持つ下関ひびき支店の漁師たちが反対を貫き、地元住民の粘り強い反対運動がそれを支えているかぎり、建設をごり押しすることなどできないからだ。ひびき支店の漁師たちは一昨年7月の総会で、平成25年の風力建設同意決議を撤回し、風力反対と調査反対を参加者全員の書面同意で決定した。漁師たちが漁業権を放棄してもいないのに、勝手に工事を始めることなどできない。この関係を隠匿して、まるで為す術がないかのような言説を「反対」面して振りまく輩については要注意だ。祝島の場合、補償金を受けとらないことで受領関係が成立せず、漁業権消滅が棚上げになっている。県が超法規的に公有水面埋立許可を出したが、その前提となる漁業権交渉が成立していないわけだ。従って、漁業権を巡る攻防は最大の焦点になる。


  一方で、反対運動の内部で市長選をめぐって多少の亀裂が生じていることが、住民のなかで危惧(ぐ)されている。選挙が終わったらノーサイドで大同団結できないものかとみんなが望んでいる。双方に信頼はあるし、もともとが敵でも何でもないじゃないかと。団結できるすべての者が団結して立ち向かっていかないと国策には勝てない。市長すらが忖度する者に向かっていかないといけないわけだ。住民同士がバラバラになっていれば、それこそ相手の思うつぼだ。運動内部では当然厳密な批判もしながら誤りや疑問を正すという過程が必要だが、それは反対運動を敗北させないためという一点に集約されないといけない。したがって、いいたいことははっきりとのべるが、淡泊に次に進むという立場がいると思う。好き嫌いでは太刀打ちできない。住民の団結した行動が国策をうち破るもっとも大きな力なのだから、そこにみんなが奉仕する関係ができることを望む。


  前田晋太郎が市長選の最中には「風力反対」をいいながら選挙後の市長意見で覆した。県会議員の西本にしても、選挙前には「風力反対」を叫ぶが、当選してから地元住民の声を県政に反映させる努力がまるで見えない。参議院議員の江島潔にしてもそうだ。そのような安倍派の面面のたぶらかしが次期国政選挙に跳ね返ることになる。派内でケジメをつけられないなら、有権者がケジメをつけさせないといけない。


  原発輸出や再稼働を推進している経済産業省が、首相お膝元の下関で全国最大級の洋上風力発電の実験をおこなおうとしている。それによって住民がモルモットにされようとしている。反対署名は10万筆をこえたが、今後15万でも20万でも集めてプレッシャーをかけていくことが重要だ。5月14日に予定されている1000人デモ(下関市川中公民館前に午後3時集合)には今まで以上の市民が集まって風力反対の意志を表明することが切望されている。県知事意見に向けての県の技術審査会が今月20日と5月18日におこなわれる予定で、これに対するプレッシャーになるし、前田晋太郎もしびれさせないといけない。就任早早、トルコ旅行などに行っている場合ではない。住民の総意が踏みにじられるような政治構造をはびこらせてはならないし、民主主義要求の一つの発露としてもこの運動は全国的注目を集めている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。