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迷惑料どこへ消えた?  安岡沖洋上風力発電  響灘の大安売り

 安岡沖洋上風力を巡る問題とかかわって、海域の漁師たちや山口県内の漁協関係者たちのなかで、前田建設工業と漁協上層部がどのような関係を切り結んでいるのかを問う声が高まっている。地元安岡では漁協組合員の九割が風力反対の意志を表明し、市長に態度表明を求める動きに発展したが、上部団体である山口県漁協やその幹部たちは響灘の売り飛ばしに邁進し、準ゼネコンの下請かアルバイトのような推進者になり果てているからである。この間、組合員が知らぬ間に1000万円の手付け金を受領していたことが明るみに出て、「いったい何のカネだろうか?」と物議を醸してきた。しかし、それ以外にも不可解な点は山ほどある。組合員が納得するように幹部たちは説明責任を果たすことが求められている。
 
 「不払い」が事実なら非常識

 浜の漁師たちが驚いたのは、風力が建つかどうかもわからず、環境影響評価の準備書すらできあがっていない現段階でなぜか下関外海共励会が1000万円を受領していたことだった。上関原発計画を見てみても、環境影響調査の段階では海底や地質調査などでボーリングを実施した関係機関(漁協や地権者)に対して迷惑料は支払われたが、漁業補償金その他の契約関係の手続きが動きはじめたのは、環境影響調査↓公開ヒアリング↓知事同意を経てからだった。それでも祝島の漁業権放棄がまとまらなかったことから、漁業補償金についても半金払いという裏技を繰り出し、「残りは公有水面埋立許可が出てから支払う」という手法を採用した。上関のやり方そのものが特異な例ではあるが、それにしても環境調査よりも前に「手付け金」が支払われたような経験はない。秘密裏にやられていたのはむしろ漁協幹部たちの買収で、往復のタクシーチケットをもらって広島流川に繰り出してタダ酒を飲まされたり、中電の接待攻勢であった。
 安岡で問題になっている「手付け金」は、20年間にわたって海面を貸付するのに対して総額8億円、年間にして4000万円を前田建設工業から受け取るもので、その4000万円のうちの1000万円が手付け金であると説明されてきた。合わせて、市長に反対表明を求める陳情をおこなえば計画が台無しになり、その場合は前田建設工業が契約不履行で山口県漁協を訴えることとなり、環境調査に費やした費用(国が補助金で全額支給)も含めて損害賠償を問われ、漁師が負担しなければならないという奇奇怪怪な説明がなされている。
 「契約不履行」「漁師が負担しなければならない」等等、他の沿岸開発では見たことも聞いたこともないような説明について、本紙は利害関係のない県内の他の漁協関係者たちに客観的な意見を求めてみた。すると、大半が「ハッタリだ」「あり得ない」と苦笑しながら断言する対応を見せていた。
 「“手付け金”といえば聞こえがいいが、要するに買収だ」「漁師は山口県漁協が発足してからこの方、負担ばかり迫られて泣いている。新しい負担といわれると“それは困る…”と条件反射的に身構える術がついてしまっている。その弱みにつけ込んで“おとなしく従え”とやったのだろう。組合員が知らない間に受け取っていた金をどうして組合員が負担しなければならないのか」と指摘されていた。
 また、「9割が署名捺印して市長に反対表明を求めた時点で、漁業権同意は無効化したに等しい。それこそ、祝島の例を逆手にとって、総会同意のやり直しを議決すればよいのではないか。県(水産行政)はそのように指導してきたし、祝島だけ認めて安岡は認めないというのもおかしな話だ」と話されていた。 

 海にうるさい人々が黙る訳 みなが疑問視 

 「手付け金」の存在と関わって不思議がられている問題の一つに、2年前に海底地質調査が実施された際の迷惑料が、漁協会計のどこにも計上されていない点があげられている。下関外海統括支店の責任者の説明によると、その年の6月、9月、10月の3カ月にわたってボーリング調査は実施され、漁協として迷惑料を前田建設工業に要求したが「8億円の使用料を払うのだから…」という意味合いの言葉で断られたといっている。ボーリング調査は前田建設工業が資金を出してISCというコンサルタント会社が実施した。やぐらを組み、海域で操業する漁師にはイカ籠や漁具をかわすよう指示が下りるなどした。前田建設工業の下関担当者にたずねたところ、「ボーリング調査はISCがやったことで、うちは知らない。(迷惑料については?)それは払っていないでしょう」という対応であった。
 3カ月もの期間をかけて何カ所も海底に杭を打ち込み、地質について調査する。「ボーリングの穴が小さかったから…」「迷惑料の対象にならなかった」(漁協の主張)というのもおかしな話で、地質を調査する際のボーリングに穴の大小があるのか? の疑問にもなっている。同じように海底ボーリングを実施した上関原発計画の例を見てみると、調査期間や規模の違いこそあれ、各漁協支店には2000万円近い迷惑料が支払われた。祝島が受け取りを拒否した金額だけでも2200万円であった。さらに陸上でのボーリングや環境調査についても借地料が支払われ、後に四代区長が横領していることが暴露された神社地の借地料だけでも中電は1500万円を支払っていた。穴を掘った分の対価である。
 さらに、長年コンビナートの企業群と渡り合ってきた瀬戸内海側の漁協関係者たちに聞くと、「油を垂れ流しただけでも企業はみずから迷惑料を持ってくる。ましてや海底に何カ所も杭を打つようなボーリング調査をして、“迷惑料は断られた”というのはあり得ない話だ」「そうした調査を実施する時、事前に企業側が漁協に話をつけに来て、迷惑料についても取り決めるのが常識。漁協が認めなければ調査などできないからだ。“断る!”という企業にたいして“それならこっちは調査を断る”といえばよいだけなのに、なぜ企業が上に立っているのか不思議だ。ひょっとして誰かが猫ばばしたのではないか?」
 「北九州の組合長が射殺されたのもそのへんの利害関係があるからだ。ゼネコンが動いてその辺りの裏世界から恫喝が加わっているというのなら、警察に保護願いを出さなければならない。しかし、本店幹部は積極的だから小遣いでももらったのかな? と思うしかないんだが…」などと語られていた。
 迷惑料もなく無料で安岡の海を奪っていくのだとしたら、前田建設工業の非常識なやり方について疑問を抱かざるを得ない。下請けがやったことだから知らないと投げるのではなく、事業者として責任ある対応をとることが求められている。
 というより、補償金や迷惑料について目がないのが響灘海域の漁協幹部衆で、何をするにも「迷惑料を寄こせ!」「礼儀を知らないのか?」等等の難癖をつけて、企業にお金をせびってきたことはよく知られている。表に計上されているかどうかは別として、「とにかくうるさい海域」と見なされてきた。彦島にし尿処理施設ができる際も、廣田副組合長が安倍事務所関係者と組んで大騒ぎしていたことは、企業関係者だけでなく行政当局も随分と頭を悩ましていた。それが今回については無償奉仕したのか? の違和感になっている。
 下関外海の共励会会長(海域ごとに構成されている)ともなると、盆正月には企業から大量に中元や歳暮が届けられ、玄関にうずたかく積まれているのは伝統で、砂取りの権益にしても歴史的に下関外海のボスが一手に握ってきた。豊浦海域、豊北海域、長門、萩と離れていくほど補償金の取り分も少ない。企業は頭を下げて機嫌をとらなければ何もできない関係でこれまできた。迷惑料とか礼儀について日頃からうるさい人人が、なぜ今回の洋上風力に限って「自由にやってくれ」といわんばかりの対応になっているのか、組合員たちは首をひねっている。
 山口県漁協の幹部たちの言動について、まるで前田建設工業と一心同体で、「下請」ないしは「アルバイト」のような印象をみなが抱いている。本来、下請やアルバイトは事業主と金銭関係を切り結んで働くのが基本であるが、どうして無償奉仕でそこまで協力者になるのだろうか? といわれている。漁協幹部がピカピカの高級外車を購入したり、羽振りがよいことについても住民はよく観察しており、何があったのかと驚いている。
 安岡洋上風力発電については、高さが海峡ゆめタワーの1・5倍、風車の直径はあるかぽーとに置かれた観覧車の3倍にもなる。15基を合計した占有海面は300~400平方㍍にもなるのに漁業権の対象外とし、安上がりな貸与ですまそうとしている。明らかな漁業権侵害であるにも関わらず、なぜ漁協幹部たちは損することばかり選択するのかも問わなければならない。いつものように「漁業権侵害にあたる!」といってゴネるわけでもなく、素直に従っているから下関外海最大の不思議といわなければならない。
 ボーリング調査の迷惑料はいったいどこへ消えたのか? 前田建設工業が支払っていないのであればなぜ無料で海を提供するに至ったのか? 漁師たちの前で疑問に答え、説明することが待ったなしとなっている。

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