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安岡洋上風力巡る記者座談会 焦り反映する漁師への攻撃 国策バックに踊る漁協幹部

 東京の準ゼネコン・前田建設工業が経産省のお墨付きを得て、下関市安岡沖に全国最大規模の洋上風力発電を持ち込んできたことに対し、この3年間、一私企業の儲けのために住民をモルモットにするなと大規模な反対運動が発展し、計画を立ち往生させている。このなかで建設予定海域に漁業権を持つ県漁協下関ひびき支店(旧安岡漁協)の漁師たちが昨年7月の総会で風力反対・環境調査反対を決議したことが工事着工をさせない大きな力になっていると同時に、執拗な攻撃にもさらされている。攻防の最先端で何が起きているのか、記者座談会を持って論議した。
 
 指図する経産省が本丸 アマ漁禁止に続き紳士協定破棄

  先月19日に下関外海統括支店の連絡協議会が開かれ、8支店(ひびき、伊崎、南風泊、彦島、六連、吉見、吉母、蓋井)の運営委員長が参加した。その会議の議題の一つに、底曳き網漁業と他種漁業との協定書の問題があがった。底曳き網漁業といういわば力の強い漁法が各浜の地先でおこなう建網やタコツボ、イカカゴ、アマ漁などを侵さないようにと数十年前から漁協間で結ばれてきた協定で、それが10年間更新されていないので結び直そうということで議題に上がったらしい。ところがその場で、下関外海漁業共励会会長の廣田弘光(県漁協副組合長)が「10年間更新がないというのはないのと同じ。安岡は風力発電に一度賛成したのにひっくり返して好き放題している。だからうちも好きにする。今後は安岡の鼻の先まで曳いてやるぞ」と参加していたひびき支店の運営委員長を脅して問題になっている。底曳き網は8支店のなかでは廣田が運営委員長をしている海士郷が主にやっている。「もしそんなことをしたら漁師同士の大ゲンカになる」と浜で大話題になっている。


 また、これまで吉見・吉母支店のアマが安岡の来留見ノ瀬周辺で操業する見返りに、安岡の建網やタコツボ漁業者が吉見・吉母の地先で操業できるよう入会を設定していた。ところが最近、その解消を吉見・吉母支店がひびき支店に通告してきた。1日のウニ漁の口開け(解禁日)で話題になり、「本来なら支店同士のもめごとがあったら共励会会長が共存共栄でやるよう治めるはずだが、なぜそうしないのか」と漁師たちは話している。


  安岡のある漁師は、「30年前のことだが、彦島の底曳きに定置網が根こそぎ曳かれ、200㍍ある網が全部引き裂かれたことがある。彦島のある船が修理に出されていたことで犯人がわかり、漁協を通じて抗議し、網の修理代や休業補償を要求した。それ以前だったらなぐりあいの大ゲンカになっていたと思う。協定書を破棄したら昔に戻る。安岡だけでなく他の組合も困るはずだ」といっていた。


 吉見の元漁師は、「底曳きの協定は何十年も昔に、彦島の2人乗りの底曳きが荒らして困るというので安岡が提案し、全組合長の一致で保護区域を設定したものだ。あの頃は漁師同士いいたいことをいうが、しけの日にはたき火を囲んで飲んだりとお互いをよく知っており、協定を結べばそんなに悪いことはできない。それは漁船が故障したときなど海の上では助けあわないといけないからだ。それに子どもに漁師を継がせるため海をかわいがっていた。しかし今頃は各浜の漁師はバラバラで、声の大きい者の脅しがまかり通っている」と話していた。


  他の支店の漁師も「底曳きの協定は結び直さないといけない。自由にやられたらとんでもないことになる」といっている。年配の漁師は「昔からこういう問題は、力の強い漁法である底曳きが他の浜に侵入して迷惑をかけないように、自分の地先でしかできない力の弱い建網やアマを守るというのが水協法の精神だ。勝手に他の浜を侵すというのはとんでもない話で、現実に通用するはずがない」という。


  放置すれば海士郷と安岡の対立が激化しかねない。安岡のなかでもアマと建網が対立しかねない状況がつくられている。昔から漁場をめぐる紛争は激烈で、海域によっては死人が出るような激しさを伴ってきた。だからこそ、武力ではなく話しあいで落としどころを見つけようと共励会ができた。海域のボスは威張るだけではダメで共存共栄の知恵をひねり出してきた。腕力だけでなく説得力や心配りも求められた。本来なら共励会会長はみなを納得させ、海域を丸くおさめて平和をつくり出すのが使命なはずなのに、あえて武力紛争地帯にしてどうするのか、原始時代に引き戻してどうするのかだ。こんなことが平然とまかり通ること自体が異常だが、それほど水協法精神が踏みにじられている。


  今回の問題について山口県庁の水産振興課に聞いてみた。すると、「底曳き網漁業は県知事の許可漁業で、3年に1回許可が下りる。底曳き網漁業の操業区域はここ数十年ほぼ固定しており、下関外海の場合、蓋井島の北から、沖は福岡県境に沿い、そこから許可上は陸地までできる。しかし実際には建網漁など他種漁業が操業しているので、そこは話しあいで漁協同士が紳士協定を結び、操業調整をしてきた歴史がある。底曳き網漁業が他の浜を荒らした場合、法令違反ではないので行政が罰則を科すことはできないが、紳士協定違反であり話しあいで解決すべきだ」という。


 県が強調していたのは、「そもそも共励会をつくった趣旨が、漁師同士のもめごとが起こった場合、お互いの話しあいで解決しトラブルなく漁業を発展させていくというものであり、その趣旨にのっとってやってもらいたい」ということだった。県はあくまで第三者というのはお決まりのスタンスだが、仮に底曳きが勝手に他の浜を侵すと漁師同士の大ゲンカに発展する場合もあり得るし、県の指導責任も問われるのでは? と聞くと、「一般的にもめごとが起こったときに話しあいを促すことはやるべき。県の責任はある。相談があればそうする」という態度だった。


  よその海域の共励会関係者に聞いても、「またそんなことやっているのか?」と唖然としている。常識的には考えられないからだ。歴史的に見てみると、海士郷と安岡はあまり仲が良いとはいえないが、紳士協定によって互いの漁場については基本的に相互不可侵で、漁種の違いも尊重しながらやってきた。


 風力に賛成させるため脅しや買収の数々 

  ひびき支店の漁師たちが陸の住民と一緒になって風力反対に立ち上がって以来、ひびき支店の漁師に対する脅しやハッタリは目に余る。それが前田建設工業ならまだしも、県漁協副組合長がムキになって攻撃を加えているから、みんなが困っている。金の饅頭でも食わされたのかと思うほど熱心だ。昨年5月には、「安岡のアマ漁は他の支店の承認を受けない違法操業であり、禁止する」「従わない場合は海上保安庁への通告や告訴など、厳正なる対応をとる」という文書を送りつけて問題になったが、実は何の法的効力もないハッタリだった。


  ひびき支店が風力反対の決議を上げた翌日に安岡に来て、「前田建設の調査を妨害しないと約束してくれれば、安岡さんに4000万円、組合員1人につき100万円出してもいい」と買収を試みた。その後も安岡の3人に「賛成に回れば1人100万円、ボーリングがやれたら追加で300万円出すから、賛成の同意書面を集めて回れ」とけしかけた。しかしひびき支店の漁師から一蹴された。何をやっているんだろうかと思わせるようなエピソードだ。


 あと、昨年10月にも共励会の会議で、「このままではひびき支店のために、県漁協も共励会も訴えられてみんながとばっちりを受ける。ひびき支店は共励会を脱退しろ。これから案内も出さない」と大きな声を出していた。


  今年4月にはひびき支店以外の運営委員長をひき連れて「風力発電推進要望書」を市長に提出し記者会見した。「下関港は戦後、漁業者が漁場としている海域を埋め立てることで発展してきた」というものだった。埋め立てによって発展してきたのは海域ボスの懐だろうに…と思った人も少なくなかった。海を切り売りすることで海域ボスが繁栄するというのは何とも皮肉だ。それで響灘は砂取りの餌食になり、海底はクレーターのようにボコボコになってしまった。D産業にお世話になったボスたちは正直に白状しなさい! と思う。盆正月に自宅に行ったら、山のようなお届け物があって驚かされるほど、海域ボスに対する企業からの買収はひどいものがある。それで海を守る側から売る側に転倒していく。響灘では砂取りに加えて人工島のおかげで潮流が変貌し、ヘドロが堆積するようにもなった。そして漁場破壊が進行するのとセットで漁師は激減して漁業は衰退した。漁協も搾取の源泉となる漁師がいなくなってしまい、経常赤字を埋めるために一層海を売り飛ばす悪循環に陥っている。洋上風力を巡る攻防は、ある意味この売り飛ばし体質を一掃する契機にもなる。このあたりで向きを変えなければ響灘沿岸は壊滅してしまう。


  これほど前田建設工業のために情熱を注ぐ根拠は何なのか、どうして安岡の漁師たちをそこまで目の敵にしなければならないのかだ。安岡の漁師たちが漁業をできないように追い込む目的は、洋上風力建設に賛成させたいというだけだ。「アマ漁禁止」「紳士協定破棄」「共励会追い出し」などみなそのための手段であって、本来ならまともに取りあえるものではない。しかし攻撃が加えられる以上、それを撃退しなければ生業を奪われかねない。

 住民同士対立さす手口 国策打破る力結集を 

  廣田の振る舞いは確かにひどいが、本丸の前田建設工業、経産省の存在を引きずり出さないといけない。当然、目前の対処を迫られるわけだが、これほどのデタラメが横行するのもバックが黙認してできることだ。国策なら何でもありというのは上関でも共通する。恫喝やハッタリで人人を揺さぶっていくし、県水産部が黙認するだけでなく知恵を振り絞って加担する。そして祝島の漁業権剥奪でも、前面に乗り出して恫喝を加えているのが山口県漁協だ。その組合長が室津漁協(上関町)の森友で、副組合長は響灘で海を売り飛ばそうとしている。大企業の準社員みたいなのが協同組合を乗っとっている。


  前田建設工業も住民を訴えたりなりふり構わないやり方で進めてきた。海域の調査にしても強引で、廣田の恫喝とセットで攻め込んでくる。しかし安岡の漁師たちはひるむことなく、2カ月間にもわたって毎日調査船を出してくる前田に対して連日船を出して抗議し、調査をストップさせた。サザエやアワビ、ウニを獲って1日の売上が10万円以上にもなるアマ漁の最盛期に、そっちに労力をさかれる。稼ぎが奪われる死活問題だとして、昨年8月、安岡の漁師たちは操業妨害を訴えて調査差し止めを求める仮処分申請を山口地裁下関支部に申し立てた。すると今度は前田の代理人弁護士であるべーカー&マッケンジー法律事務所がひびき支店に対し、「妨害行為を中止しないなら数千万円以上の損害賠償を請求する」とスラップ訴訟の脅しを送りつけてきた。


  漁業権を巡る攻防の背後に控えている本丸は経済産業省だ。その経済産業省が前田建設工業をたき付け、最先端で廣田なり県漁協が無茶をしながら踊っているというのが実際の姿だ。響灘は県漁協幹部の持ち物でもないが、前田なり経産省の持ち物でもない。


  海は誰のものか。安岡の漁師にしろ他の浜の漁師にしろ、海域ボスのおかげで漁ができているのではない。先祖代々地先の海を守ってきた実績のうえに、10年に1度県から漁業権を免許されて漁業をやっている。漁師が先祖代々受け継いできた響灘だ。それは誰彼の恣意で「アマ漁禁止」「紳士協定破棄」などとできるものではない。


 C 風力問題と関わってもう一つ悪質だと思うのは、昔から木山光夫の配下で働いていた安岡漁協の幹部職員だろう。この間の騒動で安岡を去って彦島海士郷に職場を移し、今度は廣田の右腕になってしまった。その息子が前田建設に社員として雇ってもらったと安岡中のうわさになっている。BMWを乗り回したり、「やけに羽振りがいいじゃないか」というのも話題だ。ひびき支店の組合員をだますようにして賛成決議を上げさせたり、人工島二期工事の補償金について、配分委員会にかけず基準も明らかにしないまま一人で分けたとか、人工島の水質調査も10年以上にわたって安岡の漁師が年間数十万円で請け負って他の漁協と交替で行っていたのに、彦島に行ったとたん勝手にとりあげて説明もしないとか、手のひらを返したような裏切りに漁師たちは怒っている。洋上風力が持ち込まれたばっかりに、様々な人間模様が変わってしまった。枝葉の問題はその他にも様々ある。前田建設工業のために連合自治会を賛成に誘導しようとして自治会費使い込み事件が摘発された者がいたり、みな洋上風力のために経産省の手のひらで踊らされ、挙げ句に地域で信頼を失って失脚していった。見たくないものを見てしまった…という思いを抱いている人も少なくないが、避けて通れない矛盾だった。


 D 住民同士を対立させ、分裂させていくのは国策の常套手段だ。このなかで、目の前にあらわれる敵すなわち経産省や前田建設工業の回し者を撃退しても、必ず次なる駒が出てくる。嫌がらせであれ、いびりであれ、正々堂々とかわしながら、あまりにもひどい場合には徹底的に社会的制裁を加え、本丸に向けて毅然として斗争を挑んでいくことが必要だ。


  安岡の漁師たちの風力反対の行動は、大多数の地域住民の立ち上がりに支えられている。1000人をこす風力反対デモが2度おこなわれ、反対署名は10万筆まであと1万1500余に迫っており、中尾市長や村岡県知事を縛って風力反対を表明させようと意欲が増している。横野の会が呼びかける月1回のアピール行動には寒い日も暑い日も300人以上が参加し、萩、長門にまで反響を広げている。


  山口県ではかつて、国策であった豊北原発建設計画を中止に追い込んだ。東でも上関原発を立ち腐れ状態に追い込んでいる。安岡沖の洋上風力発電計画がいかに国策であろうと団結を全市・全県・全国に広げるなら、計画を必ず頓挫させることができる。漁業権を奪えば後は好きにできると思って攻撃が集中しているが、裏返すと断固はねつけるなら洋上風力は前に進まないことを示している。やり方が無謀すぎるし道理が通らないことばかりが続いているが、その攻撃は客観的に見て相手の焦りをあらわしている。他に手がないから、廣田を使って無茶をやらせているわけだ。ここは踏ん張りどころで、漁師を孤立させるのではなく、全市民的な世論に訴えて支えることが重要だ。問題が大きくなればなるほど、引っ込めざるを得ないのが経産省で、国策のトップにいるのは安倍晋三だ。衆議院山口4区の得票が激減するような事態にならなければ青ざめないのかだ。


 C 郷土の売り飛ばしもいい加減にしろよ! の世論を強めることだ。

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