いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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住民生活ないがしろの政治象徴  安岡に持ち込まれた洋上風力計画

記者座談会
 経済産業省の肝いりで下関市の安岡沖に持ち込まれた洋上風力発電建設計画を巡って、地元安岡地区や綾羅木地区で住民の反対運動が熱を帯びている。風力発電はこれまで全国でも陸上に建設されてきたが、自然エネルギー商売がたけなわになっているなかで拍車がかかっている。なかでも洋上風力は安岡が端緒を切り開く位置に置かれ、安倍首相のお膝元に国策として持ち込まれている。この間の運動を振り返りながら、記者座談会をもって論議した。
 
 首相のお膝元で反対運動高揚

  まず安岡の状況から見てみたい。


  前田建設工業(東京)が計画を発表したのが2012年10月だった。山口新聞が大きく扱い、青年会議所が「下関を自然エネルギーのメッカに!」といって青写真まで描いていた矢先だった。計画の詳細が地元住民に知られるようになったのは、昨年4月と6月に前田建設工業が開いた住民説明会だった。水面下では5年前から風況調査やボーリング調査をおこなっていたし、そのさい県漁協幹部や連合自治会とも接触していた。しかし内密にされていた。連合自治会の動きが鈍かったために、昨年10月に「安岡沖洋上風力発電建設に反対する会」が地元の住民有志によってたちあげられ、署名運動が広がっていった。


  医師や病院関係者が本気になってとりくんだ。この影響力は大きかった。地元に住んでいる患者の健康のために、医者として譲れない問題なんだと低周波の影響を熱心に訴え、説得力をもって浸透していった。初めは小さな輪だったのが次第に広がりを持ち始め、自治会にも波及していった。今年に入ってからは安岡地区だけでなく綾羅木地区にも運動が広がり、綾羅木地区の自治会が反対の会メンバーを呼んで交流を持ったりした。二月に綾羅木地区でおこなわれた前田建設の説明会の場では、住民が思いの丈をぶつけ、「建設するな!」「安岡沖に洋上風力はいらない」と力を込めて訴えていた。3月には初めて住民集会が開かれ、会場はすごい熱気に包まれていた。


  その後、下関市長と市議会に要望書と請願を提出し、3月議会では全会一致で反対請願を可決した。反対署名は3万7000人をこえ、運動が無視できない勢いで発展しているから、議会としても下手に踏みにじるような事はできない。来年2月に市議選が迫っているならなおさらだ。だから、請願文面を修正させて逃げ道を確保しつつ、保守系も公明党もみな請願に賛成した。最近の特徴では、自治会として陳情にいく動きがあいついでいる。そして13日には川中公民館で再び住民集会がおこなわれる。地域ぐるみの運動になっている。


  この間、風力発電がもたらす低周波の影響がかなり暴露されてきた。全国各地の風力立地点からも連絡が入るし、工学系の知識人にも人体への影響について取材をすすめてきた。その掲載記事を市民の会がチラシにしてまいたら反応が大きかった。住民がもっとも知りたがっていることの一つだった。


 B 運動が爆発的に進み始めたきっかけというか、牽引役になったのは地元の医師たちの存在も大きかったと思う。地元医療機関が病院あげて運動に参加している。ある病院関係者は、「患者さんが亡くなって出て行く場合もあるが、退院したり健康になって出ていくさいに、本人やその家族から“ありがとうございました”といわれるのが病院で働いている者にとって一番の喜びだ。地域の住民に被害を出しながら、自分だけ良ければいいという社会的責任のない企業には出て行ってもらわないといけない」と話していた。経済的な利害としても譲れないが、それ以上に病院や医師としての社会的使命にたって運動をとりくんでいるし、「土日もなく署名活動をやってきたがそれが楽しい」といっていた。


 C 婦人たちが署名運動を熱心にとりくんでいるのも特徴だ。1人で1000人集めたり、がんばっている人もいる。1軒1軒の戸を叩いてお願いすることが一番強いと語られている。ある婦人は当初、1回署名した漁師が署名を消しに来た経験を話していた。地域のなかにしがらみもあるし、声を出しにくい状況もあった。しかし、ある漁師が組合員50人のうち九割方の反対署名を集めてきて励まされていた。運動をとりくんでいる人人のなかでは、上関原発計画とたたかっている祝島への共感もすごく強い。


 反対の会が多数派になり、自治会が決議をあげ、陳情を出す動きになっているが、ここまできて相手は前線担当の前田建設工業だけでなく、その本丸は経済産業省であり、国策だと見なされている。下関でストップしたら全国の計画が揺らぐ関係で、その影響力は大きいから全国的にも大きな注目をあびている。


  下関の安岡沖洋上風力発電というのは、全国的にどういう位置にあるのかだ。すでに洋上風力が稼働しているところは国内に3カ所しかない。北海道せたな町(デンマーク・ヴェスタス社製、事業者・せたな町)、山形県酒田市(同社製、事業者・住友商事子会社のサミットウインドパワー)、茨城県神栖市(事業者・丸紅、ウィンドパワーエナジー)だが、いずれも陸地と至近距離にあることが問題になってきた。福島原発事故後、千葉県銚子や北九州市でNEDO・東電・電源開発がかかわって、1㌔以上沖合での稼働を目指して実証実験(いずれも一基)がおこなわれている。浮体式では福島沖18㌔で昨年、2000㌔㍗1基が稼働を始めた。事業者は経産省で、委託企業として丸紅、三菱商事、東大などもかかわった事業になっている。


 これをもっと本格的なビジネスにするといって拍車がかかっている。今後、さらに大規模に建設しようと候補地にあがっているのが下関市安岡の20基(6万㌔㍗)、青森県六ヶ所村の32基(8万㌔㍗)、茨城県鹿島港の18基(9万㌔㍗)、北九州の70基(50万㌔㍗)だ。3月上旬、経済産業省は洋上風力発電の固定買取価格を22円から36円に値上げした。陸上の風力発電は22円に据え置きしたが、洋上風力については利益率をぐんと上げて推進姿勢を打ち出した。


 その突破口になるのが安岡沖と六カ所村だ。六カ所村といえば歴史的に核のゴミ捨て場のような扱いがされているが、核燃料サイクルが行き詰まっているもとで経産省が自然エネルギーをあてがっているようだ。核のつぎは低周波で、住民にとってはたまったものではない。同列に置かれているのが安倍首相のお膝元・下関で、前田建設工業は現地事務所を大和町の安倍事務所前に構えて進めている。前回市長選で、安倍代議士お気に入りの経産省キャリア(西高出身)を市長にするといっていたが、昨年あたりから降って湧いたように自然エネルギー・ビジネスが宣伝されるようになり、色めき立っている人人が出てきている。


  「脱原発」で自然エネルギー開発が一番進んでいるのはデンマークといわれている。電力供給の50%を風力発電でまかなっている。ドイツは30%。ヨーロッパのメーカーの方が陸上での風力発電は進んでいる。発電技術はGEがもっていて、日本の大企業は入り込む隙がない。国内で一番進んでいるのは三菱だが、それにしても世界シェアに食いこんでいくほどの技術はない。そこで三菱が最も力を入れているのが洋上風力だ。


 だれも手がけていない洋上風力なら世界シェアをとることができるし、海洋国である日本の三菱はじめとした企業の造船技術も生きてくる。わざわざ浮体式洋上風力などといっているのはそのためだ。国内のゼネコンやマリコンも世界を股にかけて商売するチャンスになる。新日鉄や、神戸製鋼といった鉄鋼会社、丸紅などの商社も輸出プラントとして開発するためにかかわっている。日本で開発することで世界に売り込んでいく。その足がかりになるのが国内実績で、今後何兆円もの世界シェアを狙っていくための突破口ととらえている。


 E 前田建設がホームページに「安岡沖の洋上風力発電の成功事例をもって全国に展開する」と記しているが、前田建設のさらに上にいる大企業は世界を視野に入れている。洋上のメリットとしては、地権が発生する陸上のように1基、2基ではなく、100基とかまとまった量を一気に建てられることが上げられている。ネックになるとすれば漁業権だが、地元漁協を迷惑料でだまらせるシカケになっている。


  ヨーロッパでは民家から10㌔離さなければ建設してはならないようだ。日本国内ではそのような規制はない。洋上風力と安岡地区の住民の生活圏が近すぎることが問題視されているが、沿岸に近い方が海底ケーブルで陸の送電線まで引っ張ってくるコストが安く済む関係だ。沖に行けば行くほど膨大な建設費がかかる。企業利益で考えると、近い方が初期投資を安くあげられる。しかも水深は浅い方が都合が良い。

 エコバブルを創出 原発も行き詰まり 風力流行の背景

  なぜ今洋上風力なのかだ。原子力を「エコでクリーンなエネルギー」と推進してきた側が、今度は風力発電に目をつけて「エコエコ詐欺」をしている。二酸化炭素を悪者にすることで成り立っているビジネスだ。公明党などは「打倒CO2」などとポスターに書いて盛り上がっている。「地球温暖化をとめるためには、原発がクリーンでもっとも素晴らしいエネルギーなのだ」という扇動がやられ、原子力ルネッサンス、グリーン・ニューディール政策が世界的に推進されてきた。しかし東日本大震災で原子力の風向きがおかしくなり、風力や太陽光に投機している。


 直接には経済の都合、金融の都合で自然エネルギーが持て囃されている。リーマン・ショック以後、ブラジル、ロシア、中国などBRICsと呼ばれた新興国でバブルをつくり出すことによって、国際金融資本は延命してきた。この連中は常に投機していないと息ができない。米国でも欧州でも日本でも中央銀行が異次元の金融緩和を実行してマネーをじゃぶじゃぶの状態にして、その資金を元手に金融資本は新興国に投機して首の皮をつないできた。


 2000年代初頭のITバブル、その後のサブプライムローンはじめとした不動産バブルが破綻し、リーマン・ショックを経て鳴り物入りで登場したのがグリーン・ニューディールだった。「地球温暖化防止」「低炭素社会」を掲げて、「クリーンエネルギー」ビジネスがたけなわになった。その柱は原子力ルネッサンス(回帰)で、「地球に優しい」といいながら進めてきたが、人に優しくないのが福島で暴露されてしまった。菅直人が原発推進を打ち出した矢先の福島事故だった。


  菅直人の時期に「再生可能エネルギー特別措置法」が出され、それまでよりもさらに膨大な補助金がエネルギー産業に投じられることになった。風力発電というのは補助金事業で、買取価格が下がれば採算がとれなくなる。だから欧州でも国家財政を蝕む構造が問題になっている。財政破綻したスペインでも国家財政にとって重荷になっていた。国のさじ加減でどうにでもできる仕組みで、電力会社に売電することによって事業者の大企業がもうけていく。電力会社はその買電分ほど電力料金に転嫁して回収する。みな消費者なり国民が負担することになる。


  電力が足りないからやるのではない。原発を見ても歴然としている。54基停止しても電力は足りている。それなら五四基は何のために建設されたのか? 電力の心配ではなくて、米国の核戦略にとって必要だから日本列島にあれだけ建設した。「どの発電がいいのか」「原発も風力もいけないのなら蝋燭で暮らすのか」という論も出てくるが、要するにどのような方法でタービンを回すかが発電で、そのための方法が核戦略や自然エネルギービジネスの都合に縛られて開発されていないというだけの話だ。


  エネルギービジネスにはとにかくウソが多い。原発にしても、54基停止して停電すら起きなかった。むしろ原子力村や東電が意図的に計画停電して、「原発は必要だ」と悪用し、扇動した。足りるとわかっているのに、あのようなことを平気でやる。風力も「クリーンエネルギー」の印象が強いが、蓋を開けてみたら立地点では低周波で苦しんでいる住民がいることもわかってきた。


  ある大学教授が話していたが、蓄電技術がないことが問題なのだといっていた。せいぜい携帯電話の充電ぐらいの技術しかなく、そこをもっと研究・開発すればムダな資源消費も減らしていけるといっていた。原発が原子力によってタービンを回して生じているエネルギーは、三割くらいしか電力に転換されておらず、六割以上は温排水として海に捨てている。効率がもっとも悪いのが原発なのに、そのことはあまり触れられない。


  風力も効率の悪さなら負けてない。風速毎秒12㍍ぐらいが発電にちょうどいいというが稼働率も20~30%いったらいい方で、止まっているときの方が多い。毎秒12㍍ぴったりの風は吹き続けないし、毎秒25㍍以上になったら壊れる危険があるので横を向いて止まる。不安定であるうえに蓄電機能がないために、今の段階で風力発電を増やしたとしても、火力発電を止めることはできない。


  二酸化炭素が悪だから低周波がいいとはならない。同じように二酸化炭素がダメだから福島のように放射能をまき散らすことがいいともならない。エネルギー政策を進めている側が、人人の生活や生命をまったく心配していないのが特徴だ。人間が生活していくために電気は必要とされているのに、福島をみても爆発してしまったら14万人は棄民状態で今も避難したまま放置されている。「電気の心配」「地球の心配」というのは、電気を必要としている人間には極めて冷淡だ。だれが何のために必要としているのかが抜け落ちて、ビジネスのためには低周波であろうが放射能であろうが、「これでもくらえ!」とばかりにごり押しする。聞く耳のない横暴さともかかわっている。
 
 転倒した地方自治 運動潰し図る市役所 議会動向も要注視

  この間、安岡や綾羅木で運動を担っている人人のなかでは「地域のみんなのためにやらないといけない」「自分が被害を受けるだけでない、下関全体、全国のために」という意識が強まっている。あれほど爆発的に運動が広がったのは、単純に健康被害に対する危惧だけを根拠にしているのではない。住民がどうなっても構わないという横暴なやり方への怒りであるし、国政にせよ、市政にせよ、政治も経済もみな大企業天下で、国民生活など知ったことかという態度が貫かれていることとも重なっている。


  自分の身体の心配だけしているなら、移住すれば解決する。住民が怒っているのは、後から乗り込んできた私企業の利益のためにみんなが犠牲になることで、地域がゴーストタウンになってもかまわないというデタラメさだ。原発立地とも似ている。


  安岡沖洋上風力の場合、300億円の初期投資によって20年間稼働したとして670億円もの純利益が見込まれるようだ。仮に市長や代議士に億単位の小遣いをやったとしても痛くも痒くもない。公共事業だったら事業費に対して3%が政治家のマージンというのが定説だが、3%ルールが適用されれば九億円ということになる。安倍代理の江島市政時期に「活躍」した政治ブローカーが、5%とか法外なマージンを主張するから頻繁にもめていたが、「カネのかかる下関」を動かすために前田建設工業や事業者はどれだけの資金を必要とするのだろうか。


  下関で運動が発展していることに和歌山や福井、静岡など全国の人たちも驚いている。「運動が組織的ですね」といわれる人もいた。どこでも被害にあいながら、しかし田舎のしがらみで声を上げられなかったり、困難な状況にぶつかってきた。建設され、人体に異変が生じて初めてわかったのが低周波の影響で、後の祭りだったというのもある。まだ風力がもたらす影響がわからない時期に一気に建てられて、その後全国的に被害者がつながって運動を展開している。


  原発の安全神話と同じで、「エコでクリーンで風だけで電気が起こる」という印象は強い。下関でも豊北町や豊浦町など風力が建っている地域では低周波の影響がささやかれていたが、当事者にならなければあまり考えたり触れることもなかった。風力といえば、安倍銘柄といわれた原弘産が熱を上げていたのが知られていたくらいだ。


 低周波の影響は科学的には因果関係など解明されていない。しかしもう日本全国やヨーロッパ各地で「影響がある」という結果は出ている。因果関係の科学的な解明をしていないだけで、「影響がない」とはいえない状況だ。規制値もつくらず、国策として推進する経産省や大企業にとっては解明しない方が金もうけのために都合がいい。


 E 原発の場合は、立地自治体や知事の地元同意が必ず必要になる。しかし、風力は区長や首長の印鑑一つで進められ、住民が知らないうちに何基も建ってきた。基礎自治体は「なにも権限がありません」というスタンスで、下関市の場合も「事業者がやられることで、市には許認可の権限はありません」と第三者を装っている。実際には経産省肝いりで役所内の関係部署は相当気合いを入れられているのに、表向きは「僕たち関係ありません」をやる。現行制度で基礎自治体に発言権がないのであれば、制度そのものがおかしいと国にもの申すくらいしなければならない。


 大間原発の差し止めを函館市が訴えているが、地方自治の考え方からすれば当然だ。住民の生命・財産・暮らしを守るのが地方自治体の役目であって、低周波の影響にさらされて住民が困るようなことについては、「地元同意を求めるよう制度を変えるべきだ」と要求するのが筋だ。しかし中尾市政や議会の対応は違う。代議士とか、ゼネコンとか、経済産業省がかかわっているからなのか、協力者の側に身を置いている。田舎コンプレックスもひどくて、「洋上風力の先進地・下関」というイメージへの憧れみたいなものも持っている。安倍代議士が出世するのとセットで「全国初」の試みが頻繁に持ち込まれ、度外れた初物趣味にもなっている。


  市議会議員についても、「請願は可決しましたが、議会には何の権限もありませんよ」などといっている者がいる。そのような議員は地方自治にかかわる資格などない。現行制度がおかしいのなら、責任をもって住民の生命・安全を守るために声を上げるのが仕事だ。「私は何もできません」という者については、それなら議員として存在する意味はないから、議員辞職してしまった方がいい。


  長府の男性が、「住民がこれだけ反対しているのに、市として権限がないといって逃げるのはおかしい。署名も集まって市議会も決議をあげたが、それが効力を持たず、圧力にしかならないのなら民主主義ではない」と語っていた。


  「僕たちは関係ありません」ではなくて、実際には市役所の○○部長などは大いに関与している。何をやってきたか、本人が胸に手をあてて考えてみたらわかると思う。反対運動つぶしを画策して行政や議会がどんな振る舞いをしてきたのかは、どこかで整理して具体的に市民に暴露しないといけない。


  市議会の可決した請願も議会側から修正が加えられたもので、逃げ道がいくらでも用意されている。住民の署名運動を受けて、全会一致で反対のようなニュアンスの決議はあげたけれども、どうにでもひっくり返るような文面だ。「不安や課題が解消されない限り」建設しないようにというのも、それが解決すればOKという意味で、「科学的」数値など並べて「安全なのだ!」と賛成していくことも十分ありうる。来年2月の市議選が控えているから、おとなしくしているだけだ。議会に依存して何かが解決するわけではなく、今発展している運動との力関係ですべてが動いている。市民全体の世論と運動が強まれば、縛り付けることができる。


 E 洋上風力は国が強力に推進している。国策といったとき、そう簡単に引くものではない。上関原発計画は1982年に浮上して30年以上になる。エネルギービジネスの流行りもかわるのだろうが、今から世界シェアを狙っていこうかという政策で、国内実績の突破口に位置付けられている安岡沖もそう簡単にはあきらめない。国策をはねのける住民の力を大結集し全国でも前例がないくらいの大運動にしていけるかが勝負どころだ。


 B 市議会で請願が決議された直後に、安岡連合自治会が「賛成」「反対」「中立」を問うアンケートをやり始めている。4月中に集約するそうだが、これだけ反対署名が集まったときに何をやりたいのだろうか? という疑問意見も出ている。アンケートは1軒に1票。夫婦の意見が違っても1票、何十人と従業員を抱える事業所も一票だ。場合によってはこれが「住民同意」となって議会請願がひっくり返るという効果にもなりかねず、行方が注目されている。住民のなかでの大方の実感は反対世論が圧倒しているが、公職選挙法に縛られているわけでもなく、開票もだれが立ち会ってやるのか、本当に公正なのかと疑問をぶつける住民がいるのも事実だ。

 全市民の力大結集 大企業奉仕の国と対決

  市民の会が全市的な署名をとりくんでいる。安岡や綾羅木は反対の会が精力的にとりくんでいるので、旧市内や長府方面でチラシを配布しながら協力を訴えている。そのなかで、「私は今の今まで風力はいいと思っていたが、違うんですね」と話になって署名する人も多い。事情を知らない市民のなかでは、「原発よりはいいのではないか」という意見もある。問題意識を持ち始めた安岡・綾羅木地域の住民と、そうでない地域の温度差もあるが、どんどん論議を広げることで協力者が出てきている。安岡や綾羅木から全市にアピールを発信して、全市で世論と運動を強めていく必要がある。相手は国策で、一つの地域だけの行動では勝てない。


  ゴミ袋値下げや満珠荘の運動でも、全市に広げて10万人署名をやりきった。地元と全市を結びつける役を担うため、市民の会も市内あちこちで街頭宣伝を強めようと意気込んでいる。低周波は夜間は山なりになって市街地に及ぶと学者も指摘しているし、実際には他人事ではない。全市に影響をもたらす。 


  上関でも祝島が身体をはって踏ん張ってきたが、「祝島をどうしてくれるのか!」という地域エゴでは勝てない。第二の福島にするな、瀬戸内海沿岸を守れという使命感が住民のなかにはみなぎっているし、反省もなく新規立地を動かす政治に対し全国の思いを代弁してたたかっている。
 運動を広げることが一番強い。手出しできないくらいに広げる必要がある。各個撃破でつぶすくらいは国策だったらやる。人口3000人の上関なんて、町民1人1人の血縁関係や就職先など調べあげて、大学を卒業するぐらいの孫がいれば就職の斡旋をしたり、あの手この手で懐柔してきた。電力会社やゼネコン、日立などの原子力メーカーが金力や権力をフル動員して、選挙になると下請企業に至るまで名簿を提出させて全国から攻勢がかかる。そうして「地元の政策選択により推進します」という構造がつくられる。


  住民生活なんかどうなってもいい、というのが政治全般に貫かれている。東北の被災地は放置され、NHKが「花は咲く」の唱歌をごり押しするばかりで、現地にはぺんぺん草が生い茂って復興は何も進んでいない。原発も14万人の避難民はそのままで、一方ではほとぼりが冷めたと思って原発再稼働や原発輸出が動き始めた。低周波の影響については、つくられる側以上につくる側がわかっているものだ。大企業のもうけのためには住民がどんな目にあおうと関係ないという性質を暴露している。国民を貧困状態に追いこんだうえに海外進出しているのが大企業で、国際競争力にうち勝つといって多民族国家を叫び始めた。出て行った海外の権益を守るために自衛隊を出動させ、「死んでこい」という。集団的自衛権というのは国家財政が破綻して軍事力を縮小させている米軍の身代わりというだけで、そうした戦争に国民を投げこむ政治のあり方が象徴している。税金は巻き上げるばかりで、みなムダな箱物や道路に注ぎこんでゼネコンが食い物にする。国民の生命や暮らしなど眼中にはなく、もっぱら大企業天国のために政治が奉仕していく。ことは洋上風力発電だが、現在の政治、経済の縮図で、これとのたたかいが迫られている。

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