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安倍出身企業・神鋼ありきの入札を中止 疑惑深めた長府浄水場更新事業 311億円の巨大利権巡り

 下関市の80%の水供給を担う長府浄水場の更新事業をめぐって、6月におこなわれるはずだった業者決定・基本協定締結を目前に控えた同月23日、下関市上下水道局は入札中止の告示をおこなった。これは総額311億5000万円(税抜き)で、設計・施工からその後20年にわたる運転・維持管理を一括して委託する入札だったが、昨年8月21日の入札公告の直後から、「落札業者は神鋼環境ソリューション(神戸製鋼グループ)と大林組のJVに決まっている」という情報が業界内で流れ、競争なき入札を疑問視する声が上がっていた。下関市上下水道局は、全国でも前例がないといわれる入札中止という異例の判断を下し、2013(平成25)年の「生物接触ろ過(上向流)+膜ろ過」方式への変更以降、上下水道局内、業界内で多くの疑問が語られてきた更新事業にいったんストップをかけた。

 

下関市内の80%の水道供給を担っている長府浄水場

 入札中止の理由について市上下水道局は、「落札者決定基準に従って審査をおこなった結果、入札参加者が存在しなくなった」としている。上下水道局が提示している要求水準は最低ラインであり、それをこえるよりよい提案がなされることを期待していたという。しかし、入札参加者が提出した提案書の基礎審査(市が審査)の段階で、約430ある項目のうち複数カ所で要求水準を満たさない点があったことから失格とし、その結果、入札参加者が存在しなくなったということだ。あくまでも技術的な問題であり、下関市の水道事業の将来につけを残すことがないよう判断したという。

 

 入札参加者数などは非公表であるが、業界内では、「やはり神鋼環境ソリューションと大林組の一JVしか参加せず、入札価格は予定価格の99・9%だった」と語られている。「神鋼が自社しかいないという慢心で、誠実な対応をしなかったからのようだ」「性能未達の部分について、説得力のある書類を提出しなかったようだ」「水道局はよく決断した」という声もある一方で、「“性能未達”を理由にした入札中止は全国で初めて」ともいわれ、異例の判断に驚きが語られている。

 

 確実に落札できると見込んでいた入札が予想外の展開となり、神鋼環境ソリューションも「知識のない職員が後から些細な部分を指摘してきた」「提案書提出後のヒアリングの時点で排除しようとしていることがわかる対応だった」などと周囲に憤りを語っているとの情報もある。

 

 どのような瑕疵があったのか、なぜ入札中止の判断をしたのか、本当の理由を知るのは上下水道局のみだが、業界関係者は「原水が最初に到着する着水井の性能に問題があったのではないかといわれている。ただ、今回のような大型のPFI案件は、提案書をつくるまでに一億~二億円かかり、業者側の負担が大きいため、公開で“競争的対話”をおこない、その議事録を契約書がわりにするのが一般的だ。入札書類だけではわからない部分を質問する機会をもうけ、提案書を提出したあとに“性能未達”が起こることを避けるためだ。“性能未達”での入札中止は全国でも初めての事例ではないか」と語る。

 

 提案書の内容というよりも、当初の噂通り、神鋼+大林組の一JVしか参加しなかったことが、入札中止の大きな要因ではないかという見方の方が強い。「すでに黒い噂が立っている入札で、1年ほど前から東京の安倍事務所の秘書は、火傷するからこんな契約をするなといっていたようだ」「広島で河井夫妻が逮捕され、衆議院選も厳しい選挙が予想されるなかで、中国地方で問題を起こすなという安倍事務所の意向もあったのではないか」といった憶測も流れている。

 

 事実、業界関係者などによると、下関市上下水道局は8日ごろから、水処理メーカー約7社へのヒアリングを開始しているが、質問項目の一つは「なぜ入札に参加しなかったのか」というものだという。これにはほとんどの企業が「金額が安かったため」と回答し、「どのようにしたら参加していただけるのか」という質問に対しては、「金額を上げてもらったら」と回答した企業や、「工法自体が参加できない」と回答した企業にわかれていると語られている。こうしたことからも、一社入札にストップをかけるのが目的だったとみられている。

 

 ただ、この事業は神鋼環境ソリューションが落札する予定でここまで進んできた事業だ。持ちつ持たれつの関係もある業界のなかで、抜本的な手法の見直しがない限り、他のメーカーが神鋼にケンカを売る形で入札に参加することは難しいという指摘もある。

 

PFI導入による民間委託が事の発端

 

 下関市上下水道局は今回の更新にあたって、PFIの手法の一つであるDBO方式を採用した。DBOとはデザイン・ビルド・オペレート(設計・建設から運転・維持管理まで)を一括して民間事業者に委託し、施設の所有や資金調達については公共側がおこなう方式だ。PFI可能性調査(2018年)で、公設公営よりもコスト削減が見込める手法として「DB+O(設計・建設と運転・維持管理の分割発注)」と「DBO(設計・建設、運転・維持管理の一括発注)」を比較し、DBOがより費用が安くすむという結果が出たからだという。コスト削減の最大の要素は「職員の削減」だ。

 

 予定価格は、設計・建設工事期間と施設維持管理期間(2020年9月に予定していた事業契約締結の翌日~2048年3月)の計28年間で311億5000万円(税抜き)と、近年の下関市の大型事業のなかでも大規模かつ巨額の事業である。機械設備工事(代表企業)・土木工事・建築・電気設備の業者で一つのJVを結成して入札に参加し、落札者は建設工事が終わったのちSPC(特別目的会社)を設立して20年間、施設の維持管理を担う。入札は以下の日程で進んでいた。

 

 2019年8月21日…入札公告、入札説明書・要求水準書などの公表
 2019年9月30日~10月4日…入札参加資格確認申請書の提出
 2019年10月31日…入札参加資格確認結果の通知
 2020年4月6~9日…提案書等の提出
 2020年5月…提案書に関するヒアリング
 2020年6月…落札者決定の公表、基本協定の締結
 2020年9月…事業契約の締結

 

 一度落札すると20~30年後には設備の更新時期が来るし、その後の再更新にあたっても一度請け負った企業が有利になる。メーカーとしては着実に手にしたい案件だ。2018(平成30)年におこなったPFI可能性調査の段階では、水処理メーカー5社、建設業者4社の計9社が関心を示し、うち水処理メーカー2社、建設業者3社の計5社が、事業に参画する意向があると回答していた。

 

 しかし、この条件付き一般競争入札が公告された昨年8月21日以降、業界内で「これでは神鋼と組んだゼネコンしか入れない仕組みだ」「ゼネコンは大林組になりそうだ」といった話が出始め、神鋼が結成するJVに入れそうもない業者はすでに入札参加をあきらめているといった指摘もなされてきた。その前段から市内業者のあいだで「入札参加を試みたメーカーがあったが、“すでに神鋼で固まっている”とあきらめて帰っていった」という事例も語られていた。そうなると競争性は失われ、業者が切磋琢磨して持てる技術を駆使しながら設計・建設・運営に対する提案をしたり、業者間で競ってよりよい設備更新への知恵や情熱を注ぐといった営みが排除される。

 

 これは、事前の提案書作成までに巨額の経費を必要とするPFI方式の入札制度が抱える問題点でもある。億単位で捨て金が発生するので、大企業といえど、落札できそうもない案件からは手を引き、必然的に参加者が絞られる仕組みだ。

 

 こうした声に対して、市上下水道局は、あくまでも多くの業者の参加を得て、おおいに競争がおこなわれ、よりよい提案がなされることを期待しているとし、総合評価点を性能点8、価格点2と、技術面での評価に重点を置いた配分をしており、「特許料などの対応で価格が高い事業者であっても、提案内容によっては落札の可能性がある」と、1社入札の可能性を否定していた。

 

神鋼しかできぬろ過方式に変更

 

 長府浄水場の更新事業が神鋼ありきで進み始めたという指摘の声が上がったのは、2013(平成25)年にさかのぼる。

 

 長府浄水場は下関市の約80%の水供給を担う重要なインフラ施設だ。部分的な施設の更新事業をおこないながら、20年以上にわたる全面的な更新が検討されており、現地更新の方針が固まった2008(平成20)年以降は、水道局の技術職員を中心に、施設を稼働させ市民に水を送り届けながら、どのように施設を更新していくのか、さまざまな方法について検討を重ねた。そして2010(平成22)年段階で、現在と同じ急速ろ過方式でおこなうことを決め、具体的な工程まで公表していた。

 

 しかし、工事が本格化する直前の2013(平成25)年に突然、ろ過方式の再検討がおこなわれ、①処理水質の安全性が上がること、②建設費用の削減が可能であること、③建設期間の短縮が可能であること、④建設スペースが小さいこと、⑤将来の人口減少に対応可能であることを理由に、「生物接触ろ過+膜ろ過方式が有効である」という判断が下された。

 

 突然の計画変更に、水道局内でも疑問が出て、説明会を求める動きなどもあったといわれる。現場サイドから「トップセールスとしか考えられない急な動きだった」という声が上がっていたのと符合するように、業界内では「神鋼環境ソリューションの有名営業マンが当時の局長に直接この技術を売り込んだのだ」と、その経緯が語られている。その後約1年間(2013年10月11日~2014年12月15日)で神鋼とともに実証実験をおこない、市議会建設委員会には「生物接触ろ過+膜ろ過方式」で更新をおこなうことを説明。2016年の6月議会で処理方法の変更が報告された。この時点から神鋼環境ソリューションの落札ありきの計画がスタートしたといえる。

 

持続可能性に疑問の声

 

 しかし、長府浄水場が原水としている木屋川上流は、きれいな水にしかいない魚や生物、植物が生息していることなどから、「生物接触ろ過+膜ろ過」という処理まで必要なのか、将来の市民に負担を残す事業になりはしないかといった疑問の声が絶えなかった。全国的に見ても、「高度処理」といったとき、膜ろ過や生物接触ろ過に、オゾン処理や紫外線処理などを加えたケースが多く、「生物接触ろ過+膜ろ過」という組み合わせ自体に首をかしげる関係者も多い。下関市の場合、原水の水質なども踏まえ、「当初検討されていたように、急速ろ過方式で更新し、もし原水の水質が悪化したとき対応できるよう、紫外線処理やオゾン処理施設を後付けできるよう配管だけしておくのがもっとも適しているのではないか」と指摘する技術者もいる。

 

 コスト面で見ても、「建設費が急速ろ過方式よりも圧縮される」「職員削減でコストが削減される」点が強調されたが、今回の入札では20年間分の電気代と水は下関市が無償で提供するという優遇措置が施された契約内容だった。膜ろ過は目の細かい膜に水を通すさいに水圧をかけるため、おもな経費は電気代だといわれる。生物接触ろ過も同様に電気代が主要コストだ。大手企業にとって人件費は「東京の本社社員を派遣するのであれば、1人当り2000万~2500万円(利益込み)が経費として必要だが、地元採用する場合は1人当り300万~450万円で、大きな経費ではない」という。市が負担するもっとも主要なランニングコストの比較が適切になされないまま新技術を採用することは、将来的に市民の水道料金に跳ね返ることにもつながる。

 

 「水処理技術は各メーカーが競って開発しており、日本の技術水準は世界的にも高いものになっている。さまざまな技術があるなかで、市民が持続的に負担できる水道料金と、どこまで高度処理をおこなうのかという議論が市民や議会でもっと活発になされるべきではないか」との指摘もある。

 

 なにより、20年間もの長きにわたり民間企業に運転を委託することで、原水から家庭に水が届くまで、配水池の状況や配管の状況などを常に把握している職員の技術と蓄積を失うことが、緊急時対応への大きな障害となる点について、再検討が求められている。福島第一原発事故のさい、双葉地方広域水道企業団は、60代後半の元役場職員とダム職員OBで「ジジ部隊」を結成し、職員とともに給水と水道管を守り続けたという。

 

 それも急速ろ過方式で、現地の水道事業を知る職員で運転が可能であったからできたことだったと語られている。業務委託先の社員が来なければ運転できない浄水場にするのか、地方公共団体で運営を続け、将来にわたる人材を育成していくのか、改めて下関市の水道事業の将来について市民とともに議論を深めることが求められている。

 

公共の水守る議論必須

 

 上下水道局は、「今後のスケジュールについては未定」としている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、これへの対応も検討の俎上にのぼっているようだ。

 

 長府浄水場は旧下関市、豊浦町、菊川町と広い範囲に水を送っており、市内の80%の水を賄っている重要なインフラ施設だ。人口増加にともなって給水範囲が広がるなかで拡張を重ね、現在は1日13万立法㍍の浄水能力を持っている。しかし、人口の急速な減少と企業活動の低迷=水道料金の減収が続くなかで、老朽化した施設を更新しなければならないという課題を抱えている。全国の自治体が直面している課題であり、国の方針で水道事業の民営化も各地で進んでいる。しかし現在、新型コロナウイルス感染拡大のもと、手洗い・うがいの励行や在宅ワークの増加によって、全国的に水道水の使用量は増加しており、公衆衛生の要である水道事業の重要性がますます浮き彫りになっている。

 

 入札をストップしたのを機に、現場を担う水道職員をはじめ水道を利用する市民を巻き込んでおおいに議論を尽くし、改めて更新事業の方向性を定めていくことが求められている。

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