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祝島の漁業潰す意図的な攻撃 半値の魚価、高い燃油

 中国電力の上関原発問題は公表から25五年となり町長選挙が今月末と迫っている。反対運動の最大拠点となってがんばってきた祝島では、「漁協が推進派に変わった」と喧伝され町民を落胆させる材料とされてきた。実態は、反対派をやってきた1部分が推進派に転じて、上関の大西委員長や県漁協派遣の支店長と結んで運営委員会を引き回しているという状態で、多数の反対が崩れているわけではない。祝島の漁協をめぐって、合併前の山戸組合長時期から、周辺の半値以下という魚価、県下1の高い燃油、そして信漁連負担、漁協赤字負担などが加わって、漁業が困難な目にあわされてきた。県漁協傘下になって経営はよくなるどころか、安い魚価、高い燃油による漁家経営はさらに困難になっている。安倍政府は岩国に対して経済制裁で米軍再編を認めさせようとしているが、祝島でも漁業をつぶし原発を認めさせるための経済制裁が意図的にやられている。

 原発認めさせる力が加わる
 山戸組合長は赤字を回避するには、県漁協への合併はやむをえないといい、それまでにあった約2000万円の欠損金は「今後も原発反対運動が続けられるように」といって島民や全町、全県、全国からカンパを集めて解消した。そして山戸氏が組合長を辞めさせられ、県漁協傘下の祝島支店となった後、安い魚価も赤字体質もいっそうひどくなった。
 現在祝島の組合員にさまざまな負担がかけられている。山口県漁協に徴収される増資や協力金8万5000円を五年間負担すること、赤字の補填分として9万5000円を負担することである。これは先月末までの期限に払えなかった組合員が20数人いる。今年4月から6六月までの3カ月で250万円の赤字を出しているのである。
 ここであらわれているのが、「反対派改めの推進派」であり、4人いる運営委員のなかで、「原発反対には将来がない」「漁業は終わりだ」「目の前に補償金があるのにもらわないのはバカだ」と主張をはじめている。先月21日に開かれた組合員集会では魚の運搬船の職員を解雇すると提案した。祝島から出荷できないようにするというもので、島の漁業をやっていけないようにすることを提案するほどとなっている。
 明らかに漁業がやっていけないようにするという力が加わっている。漁協を経営破綻させ、漁業ができないようにして反対派を崩し原発を認めさせるという力が加わっているのである。

 一本釣りの大ダイでも 1キロが700円前後
 祝島の漁民を苦しめているのが安い魚価、高い燃油代である。これは山戸組合長時代に大きな問題になったが、県漁協となっても解決しないどころかさらに進んでいる。
 一本釣り漁師の1人は、「県漁協になれば、魚の荷さばき方法も変わって、値段が上がるだろうといわれていたが、全然変化はなかった。逆に、合併してから余計に赤字が増えたように思う。仲間内では“合併などしなければよかった”と話になる。騙されたような気分だ」と、深く考え込むように語る。
 別の漁師は、「合併したすぐは、少し魚価が上がり、油代は下がったようにも思った。でも、今年に入ってから急激に魚価が落ちて、油は驚くほど跳ね上がった。出荷方法も、以前と同じと聞いてガックリだった。例年と比べ、水揚げが減っていることもあり、経費倒れになるからなかなか沖にも出られない。港にいる船が多い」と悔しそうに話した。
 一本釣り漁師のAさんは、「これを見れば、祝島の漁師が困っているのがよくわかるだろう」と仕切を見せながら話す。
 今年4月から5月の仕切を見てみると、祝島の看板魚種であるタイが圧倒的に多い。
 大ダイ(2㌔㌘前後)が1番値がいいときで1㌔当たり1100円だが、ほとんどは710円~500円の間を推移している。中ダイ(1㌔㌘未満)は730円~280円。チダイは平均して、400円ほど。小アジは510円~350円で、小小アジが400円~300円。
 大サバは比較的値がいい魚といわれるが740円程だった。
 Aさんの家には、「それ以後の仕切はない」という。「時期的な問題もあるが、あまりにも少なすぎてもらいにいく気にもならない」と話した。
 同じ一本釣り漁師のBさんの出漁1日あたりの合計金額を見てみると、3500円や4900円、5000円という数字がならぶ。1番低いときは、2400円という日もあった。漁協がすべてを取ったあと、手取りの金額だ。平均的に4000円儲けて、月に20日目一杯出漁しても8万円にしかならない。
 Bさんは、「これでは経費にほとんどとられてしまう。油をよく使う人は、一本釣りで月に4、5万円はかかる。だから、出荷するより確実に3万5000円が入る遊漁に力を入れる人が増えた。でも、遊漁の客を持っていない漁師は大変。お客を持っている年寄りも、えさの準備のエビ漕ぎを3番も4番も続けてやる体力がない。昔、祝島のタイといえば、2000円、3000円はあたりまえだった。いったいどうなっているのだろうか?」といった。

 驚く近隣海域の漁民 「あり得ない値段」
 祝島の魚価を聞いて、ビックリしているのは、同じ海域や近隣の海域で魚をとっている漁師たちだ。「うちで中間から最低ランクの値が、祝島では1番いい魚についている」「同じ海域でもあるし、釣りの魚でそんなに差がつくはずはないのだが?」と一様に、首を傾げている。
 祝島と同じく、一本釣りが多い大畠漁協の関係者は「タイは、1番値がいいときで2000円程になる。通常この時期は1200円台を前後している。大ダイが700円台になることはない。祝島の魚が安いと以前も話になっていたが、あまりにも可哀想な値段だ」と語る。
 大畠漁協で扱う魚は、基本的に浜でしめてトロ箱につめてから、漁連のトラックを使って出荷している。「取りに来てくれ」の電話1本で、いつでも駆けつけてくるのだという。
 取引先の、『広島水産株式会社』から得意先各位あてに毎日届く「販売価格報告書」によれば、4月から5月にかけて天然物のタイの中値が、1200円~1300円ほどを推移している。1番低いときで970円台がついた日もあるが「そんなことはほとんどない」という。高値は、4200~2100円を前後し、2000円を切ることはほとんどなかった。市場で最も低い価格となる安値が600円~315円だった。
 漁協の関係者は、「水揚げ量は、昔と比べて減った。官官接待がなくなってから、タイやアワビなど高級品の値段が昔から比べ落ちたのは事実。かわりに、メバルやカワハギなどが上がった。それでも、通常釣りのタイであれば1200円はいく」といった。
 周防大島町でゴチ網を営む漁師は、「網の魚でも可能な限り生かす工夫をして出荷しているため、釣りに近い値をつけてもらっている」といいながら売上げ仕切り書を見せてくれた。魚は、町内の仲買に委託して『広島魚市株式会社』に出荷している。
 4月~5月にかけての仕切り書を見ると、大ダイはつねに1㌔1800円台を推移している。1番値がいいときが2300円で、「この日は安かった」という5月28日に850円をつけた。中ダイは1500円~1200円を前後しており、最高で1800円になった日もある。タイは1500円~900円で、1番いいときが1600円、低いときで600円をつけている。
 「大型連休明けは、いつでもドサッと落ちる」という5月8日でも、大ダイが1300円、中ダイが1000円、タイが600円であった。他の魚種類を見ると、チコダイ(チダイ)の大は600円、中が500円程。カワハギは、大が800円、中が500円~600。オコゼが常時2000円を超え、ホウボウは600円~1000円。スズキが600円~900円だった。
 漁師は「パック(死んだタイ)でも、200円や400円の値がつく。こっちは網で祝島は一本釣りなのに」と驚きを隠せない。市場で箱代や氷代、手数料、漁師本人も「意味不明」という「その他」の料金を引かれ、仲買に運賃を1割2分渡しても、1日に平均して1万2000円は確実に稼いでいる。
 東和町の一本釣り漁師に聞いても「タイは平均して1200~1300円はいっている。600円、700円というのは、ありえない数字だ」といった。

 安すぎる魚価の秘密 不可解な出荷方式
 祝島の島内では、「どこでも安いのだろう」とか「輸入が増えたからしかたがないのだろうか」ともいわれているが、それ以上に安いのだ。
 大畠や大島の漁師たちは、「常識的な出荷をすれば、同じ値段になるはずだ」「一本釣りで工夫をすれば、もっと値を上げることもできる」と口をそろえて語る。柳井の市場関係者も、「ずっと昔、祝島の魚がうちに入っていたこともあった。時間の都合で取り扱いがなくなって残念だ。今でも、大ダイは平均的に1200~1300円の値はつくはず」と話す。
 祝島の魚の超安値の秘密は、漁協の買取販売方式にあると以前から指摘されてきた。祝島では、漁師が取ってきた魚を浜で漁協が買い取り、市場まで出荷している。よその漁協がたいていやっている受託販売(手数料をとって市場までの出荷を漁協がおこなう)からするとまれな形だ。しかも漁協が取る手数料は市場手数料も含めて27%と目玉が飛び出すような数字だ。
 買い取られた魚は、まとめて漁協が所有する運搬船で室津まで運んで、チャーターしたトラックに積み福山まで出荷される。トラックのチャーター先は、(有)山口水産輸送(山口県室積漁港)。その後魚の大部分は、4時間から5時間かけて運ばれ、福山の卸売り市場にある島吉本店にまとめて出荷されている。
 室津での積み込みを見ると、タイやカワハギ、タコ、サザエなど生きのいい魚が、次次と船の生け簀から水槽に移されていく。みんな活魚ばかり。綺麗に箱詰めにされたアジやシス、タイも130箱はあり、積み替えだけで1時間近くがかかった。それでも「少ない方」なのだという。魚の姿から見て、市場でよそより安いということはありえないことだ。
 祝島の年寄りの多くは、「島吉は昔は値が良かった」と振り返っているが、近年は超安値。近隣漁協が祝島より高い値で柳井や岩国、広島の市場に出しているのに、安値のうんと遠い福山までなぜ出しているのか。福山までのトラックチャーター料は1回につき4万円ともいわれる。月に20日出荷すれば、トラック代だけで80万円はかかっていることになる。
 この魚価問題は山戸組合長の時期に問題となった。「漁協が相当に抜いているのだ」というのが町内の評価であった。ところが、山戸氏が解任された県漁協支店になってからも、同じ出荷方式と安い魚価状況は継続されている。

 燃油代も県下一高値 A重油は1リットル86円
 安すぎる魚価に加え、漁師を苦しめているのが全県1高い燃料油だ。7月13日付で全家庭へ漁協から配られた燃料代一覧によると、A重油が1㍑あたり86円。島の漁師の3分の2近くが使う油種だ。免税軽油は同じく1㍑あたり95円だ。
 祝島では漁協だけが油を一手に扱っていることから、燃料の高騰は必需品の軽トラやスクーター、耕耘機、風呂を沸かすボイラーに至るまで、全島民の生活も圧迫している。風呂のボイラーなどで使う灯油が18㍑あたり1820円。ガソリンは1㍑166円もしている。
 ちなみに大畠漁協では、民間からの購入でA重油は82円。(漁協としてはA重油を推奨して扱っているが、参考として軽油は87円90銭ほどだという)。
 大島郡の安下庄支店では、A重油が75円、軽油が87円。東和町支店では、軽油が90円となっている。もともと油が高かった東和町では、最近軽油が93円にまで値上がりし、安下庄との違いに「どうなってるんだ!」と問題になっていたばかり。「うちよりもっと高いところがあったのか」と漁師はビックリしていた。
 日本海側では、祝島と同じ離島である萩の大島支店で、軽油が78円、A重油が75円であった。話を聞いた関係者は、「瀬戸内側はえらく高いですね!」と驚いている。
 近隣の漁民が語っているのは、魚価の問題でも、一本釣りなら直接に料亭と取引するとか、さまざまに努力すればやり方があるが、そういう姿勢がないのだということである。またそれほど魚の販売で漁協の取り分を多くしながらどうして赤字が増えるのかという疑問である。ここには漁民が困って手を挙げるようにし向ける意図的な力が働いているということである。
 祝島の漁業をつぶすことが好都合と見なすものは、原発計画を進める中電である。県漁協も原発補償金によだれを垂らす状態である。そして大きく漁協合併を推進し、さまざまな負担金を漁民にかぶせ、さらに祝島の経営の内容を知る県の水産行政がバックにいてやられているという関係である。反対派を切り崩し原発計画を認めさせるためにわざと漁協をつぶし、漁家経営をやっていけないようにしているのだ。
 「反対派」の看板を掛けながら、このような漁業破壊の漁協経営がやられていたとして山戸組合長への批判が強いものとなった。その山戸氏を組合長から解任した県漁協の側が、山戸氏の疑惑を解明するのではなく逆に隠蔽して、同じ仕掛けを輪をかけて進めている。
 安い魚価などの問題は、新しく反対派から推進派に転じた部分が容認し、古い推進派漁民の側は問題にするというなかで、反対派の漁民の多数はいいにくいという仕掛けもある。
 安倍政府は経済制裁が得意である。米軍再編に頑強に反対する岩国に対しては、予算を大幅にカットして財政をつぶして容認を迫っている。市民に「良好な住宅団地を創設する」といって騙し、愛宕山を基地沖合拡張のための土砂取りに使ってあとは250億円にものぼる赤字をかぶせて、米軍再編容認と米軍住宅建設を狙う。祝島の漁協への経済制裁であり、それは全町の漁業もつぶし、町民生活つぶしの制裁政治と同じである。

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