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上関町議選  「町作り」vs「環境保護」のニセ争点

 上関原発建設計画を争点にした、7度目の上関町議選挙が、9日に告示を迎える。1982年の計画浮上から28年たった今回の選挙は、原発終結が問われる重大な転換点を迎えたなかでおこなわれる。昨年末、中国電力は無理を押して原子炉設置許可申請を出したが、祝島は漁業補償金受けとりを拒否し、土地問題も山積したままで工事は頓挫。行き詰まっている状況を隠蔽しながら、推進派も反対派も争点をぼかした「対決」を演じている。告示前までの情勢を見てみた。
 選挙戦は候補者同士がしのぎを削っているほかは、まるきり低調な前哨戦が繰り広げられてきた。定数12にたいして17~18陣営が名乗りを上げ、かつてない「激戦」になっておかしくないのに、「候補者が多いのに動きがない」と不思議がられている。
 「ワシに恵んでくれ」といわんばかりに親戚回りや知人行脚をやっているのが候補者本人で、まわりの町民が「○○候補のために」と動く様子がほとんど見られない。上関町の将来や、町をどうしたいのか、町民が耳を澄ませても聞こえない。もっぱら自分のため、報酬300万円プラス政務調査費、旅行費、日額旅費等が保障される議員ポスト争奪戦に明け暮れているお粗末さに、冷めた視線が注がれている。
 推進派は11人、反対派からは7人が立候補に向けた動きを見せてきた。推進派は「原発はもうできる」を既定事実にして、原発財源を当て込んだ“町づくり”を主張し、反対派の側は「スナメリを守ろう」「カンムリウミスズメを守ろう」と“環境保護”が主な主張になっている。連日投函されるチラシの量だけ見ても半端ではない。そして、町づくりか、環境保護かというピントのずれた対決に町民世論はシラケている。現実は原発が止められるところまできているのに、誰もそのことをいわず、商業マスメディアも巻き込んで架空の空中戦が展開されているからである。
 この間の最大の出来事は、祝島が漁協総会で漁業補償金の受けとりを43対15の大差で否決し、漁業権放棄を断固拒否したことだった。長島側でも反対世論が激励され、活気づいて選挙戦へと突入した。海と山の権利を没収すること、すなわち28年原発建設を押しとどめてきた最重要課題をクリアするために、中電、二井県政は執拗な切り崩しをはかってきた。ところが、はねつけられてメドがなくなった。祝島を諦めさせ、さらに地権者が二十数カ所の未買収地を手放さなければ原発ができる見込みなどないのだ。
 この数年は難題を先送りしたまま、のらりくらりの詳細調査を実施し、1昨年10月に二井知事が先走って公有水面埋立て許可を出し、中電は漁業補償金の残り半金を払って7漁協がさっさと配分をすませ、「工事開始」のパフォーマンスを繰り広げてきた。その陰で、再三にわたって祝島の漁協総会で補償金の受けとりをはかったが否決され続け、プログラムは狂って工事は頓挫。県外の工事業者も引き揚げて「できる、できる」詐欺の失敗が露呈することとなった。
 二井知事のドジな埋立て許可で、補償金は配分してしまって漁師は推進離れ。いざ工事となった時には町の発展どころか、町外の大手企業が押し掛けて、力ずくで仕事を分捕っていく姿も町民は見てしまった。商工業者でつくった事業協同組合も排除されて、中電がそそのかしてきた「原発による町づくり」が大嘘だったことも見せつけられた。「反対票は絶対に崩れない。崩れる条件が大きいのは推進票」と語られるほど、推進離れが急速に進行してきた。
 祝島の受けとり拒否で推進派には激震が走り、「原発はできる」の欺瞞が剥がれているのに、選挙戦は手直しのないまま突っ込んでいる状態。ブレーキの利かないトヨタ・プリウスのように、その後も「原電の夢」を追っている。中電職員は「カヌー族のせいで原発工事が進まないのだ」「非人道的なのだ」と釈明して回り、下請の町連協も「外部の環境保護団体が原発工事を邪魔する」と非難しはじめた。「カヌーのせいだ」になっている。推進派も反対派も祝島の漁業権問題には一言も触れず、現実の争点をいわずに「町づくり」対「環境保護」のイカサマ争点をやって、無数のチラシを投函していく。

 得票数の勝負に注目点 中電・県との斗い

 さらに選挙の重要な特徴は、町民のなかで議員や候補者への信頼が極端に乏しいことにある。「町のため」とか「町民のため」とかが形の上すらない身内選挙と化しており、「ワシに儲けさせてくれ」の選挙になっていることにみなが呆れている。候補者自身は原発も二の次で、定数12のイス取りゲームに勝ち上がろうと鼻息が荒い。
 選挙となれば「推進派の敵は推進派」といった調子で、すさまじい票の奪い合いをやりはじめた。新人が2人出てくる室津地区を飛び出して、他地区などに侵略して票集めをやりはじめる候補がいたり、それを迎え撃つ地元候補が「領土侵犯だ」とムキになってなじっていたり、あちこち基礎票を奪われて目の色を変えて飛び回っている候補などの様子が語られる。260票しかない白井田地区からは四人が出馬することもあり、「アイツら狩人みたいな顔をして他地区へ鉄砲撃ちに出かけている」「町内に土地を買ったり、柳井にマンションを買ったり羽振りが良いのだ」「議員恩給を求めている○○候補も平生に家を購入したぞ」「○○候補は仲良しだった引退議員の票ももらって、トップ当選を狙っている」等等語られる。当選した後の議長争いまで想定していたり、欲の皮が突っ張りすぎた話が乱れ飛んでいる。四代では「山谷が議員になってやったことは、自分の民宿(四階建)を建てたのと柳井にマンションを購入しただけではないか」の会話が交わされている。候補者が頼み込む様子を町民はジッと観察している。誰が落ちて誰が一番儲けたか、副次的な関心も寄せられている。
 推進派は一般町民が動かない。笛吹けど踊らずである。各陣営は兵隊がおらず本人がもっぱら懸命に回る。一方の反対派は町民世論は活性化しているのに幹部衆がちっとも動かない。祝島住民の決起まできて、さらに長島側や町内全域を対象に、票を掘りおこすような事を一つもしない。原発反対を正面から訴える町民を結集しようとしないのが毎度の特徴になっている。もっぱら乗っかるだけなのだ。これらの議員が町民の為に働いた姿を町民は見たことがない。しかし基礎票として町民のなかに35%の反対票が頑としてある状態だ。
 選挙通に言わせると、推反の議席割合は8対4、ないしは9対3になるだろうと話されている。しかし得票数・得票率がどうなるかが最大の見所となっている。過去の選挙を見てみると、前回選挙では推進の得票率が65・5%だったのにたいして反対は34・5%だった。反対票はほぼ34~35%で推移してきた。これが逆転するか拮抗まで接近するなら、原発建設は巻き返し不可能という結果を突きつけることとなる。
 町議選は、どの候補が当選するか以上に、祝島の補償金受けとり拒否、原発のめどが断たれたという情勢のなかで、原発を断念させ、中電を撤退させ、町民の団結を回復して、漁業を中心に地道な発展をはかる全町の大衆的な力を、町民のなかでいかに強めるかが鋭く問われている。中電、二井県政と町民とのたたかいであり、得票数勝負となっている。

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