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祝島 再び漁協総会を延期 

 注目されていた祝島の漁業補償金配分を巡る漁協総会の部会は、前日の16日になって山口県漁協側が「会場を借りるのを忘れていた」ことを理由に延期が発表された。8月に延期された際には、祝島の島民ら150人が波止場で県漁協幹部職員たちを取り囲んで抗議し、迫力に押された県漁協側が退散していた。今回の開催を巡っても行動意欲は盛り上がるばかりで、反対派指導部のなかから「港で抗議行動するのはマズイのではないか…」「(総会は開催させて)反対派が参加を拒否すればいい」(ボイコットしても可決される可能性あり)という意見が出されていたものの前回同様いつでも漁港に出ていけるよう待ち構えていた住民が少なくなかった。祝島の島民たちが一歩も引かぬ姿勢を貫いており、大衆行動が下から盛り上がっていることが推進勢力を慌てさせ、全国世論を激励している。
 
 福島事故省みず上関原発推進

 この日、総会の延期が祝島の組合員に知らされたのは夕方近くだった。住民たちがテレビをつけると夕方の番組で既に「総会延期」がニュースになっており、補償金を巡る攻防がいかに重視されているかを実感させるものとなった。
 「受け取らない」「カネはいらない」と拒否している漁業補償金を、中電や国策の代弁者になった県漁協本店が「受け取れ」と恫喝する。聞いたこともないようなやりとりが2008年以後繰り広げられてきた。補償金につながる漁業補償契約について、2000年に旧107共同漁業権管理委員会が妥結した際に、祝島は交渉のテーブルにすらついておらず、契約書すら手にしていない。それを中電が一方的に振り込んだカネを受け取らせたうえで書面同意を求めていくという順序が逆立ちした前代未聞の漁業権剥奪の手法となっている。
 県漁協やその背後で指揮している県当局、経産省の攻勢が執拗なのは、祝島では一度も漁業権消滅のための総会決議(3分の2同意)を上げておらず、原発にまつわる漁業補償交渉が妥結したといえないことがある。そのために電力会社は海面に手を付けられず、知事が先走って埋立許可を出したのに原発工事は進まない。祝島が拒むことによって上関原発計画は振り出しに戻り、頓挫するからにほかならない。
 こうしたなかで、一連の手続きを前面に立って推進しているのが山口県漁協本店で、「協同組合」の看板を掲げて何をやっているのか問題にしないわけにはいかない。福島第一原発が収束の兆しすら見えず、汚染水垂れ流しが深刻な問題になっている最中に海を売り飛ばし、原発誘致の積極的な協力者になっている異様さが浮き彫りになっている。漁民のための漁協ではなく、電力会社の子会社か県当局の下請機関になり下がっていること、海をカネに換金していく投機分子が登用されて、水産県を壊滅に追い込もうとしている姿が暴露されている。
 祝島の漁業補償金を巡っては、2000年に半金の5億4000万円が支払われた際、祝島は全額を返金して、そのカネは法務局に供託されていた。2010年5月に国庫への没収期限が迫るなかで、祝島では漁協総会で受け取り拒否を決議したにもかかわらず、山口県漁協本店が「仮受け」と称して引き出し、2008年に支払われた残りの半金についても同じように総会決議を無視して受け取り、今日の騒動に発展している。
 浜の総会決議を覆すような権限は本店にはないのに、国庫に没収されれば原発計画は振り出しに戻ることから、超法規をやって延長戦に持ち込んだ経緯がある。県漁協が出てこなければ、2010年時点で原発は終焉に追い込まれていたはずだった。ところが推進勢力に尻を叩かれて議決妨害をやり、その後は「受け取れ!」と繰り返し迫っている。浜の議決を尊重するどころか、何度決議を上げても無効扱いし、電力会社や原発推進勢力にとって都合の良い結果が出るまでやり直しさせる姿を見せつけてきた。
 総会決議の妨害にそもそもの問題があるにもかかわらず、その後のやりとりのなかであまり触れられないことも不可解な点となっている。「勝手に受け取れば法的手段に訴える」と主張していた祝島側も、当時の指導部はうやむやにしてしまい、今になって多くの島民が「なぜ?」と疑問を口にしている状況だ。

 浜の権限奪う漁協合併 真の協同組合復活を

 山口県漁協の総会において原発推進を決議しているわけでもないのに、中電の息がかかった森友組合長(上関町、室津漁協出身)を筆頭に、雇われ職員にすぎない者たちが全県漁民の意に反して振る舞っていく。この時期に全漁連の方針に反して原発推進を実行するのだから、全国漁業協同組合連合会を破門されてもおかしくないような言動が、首相のお膝元ではやられている。
 このなかで、山口県漁協は漁民のための組織ではなく、海を売り飛ばす団体というのなら、いったい誰のため、何のために存在しているのかが問われている。
 2005年に発足した県漁協は、50以上ある沿岸の漁協を合併させて誕生した。80年代にかけて自民党林派が使い込んだ信漁連の203億円にも上る負債を解消するために、二井県政(自民党林派)が力づくで漁業者に尻拭いを強いて、カネを奪い、生産意欲を奪って発足させたものだった。その内実は、県漁協本店たるや職員体制も含めて問題を起こした側である旧信漁連、旧県漁連が乗っ取り、浜の漁協を解体して、本店が各支店の黒字を根こそぎ吸い上げていく体制となった。
 当時、農林中金が50億円を「真水で支援する」といい、県が約25億円を貸して「支援する」といい、県議会も二井知事も「今回が最後だぞ!」と豪語してきたが、漁業者は迷惑をかけた試しなどなかった。迷惑をかけてきたのは、自民党林派関係者であり、政治家に媚びて信漁連のデタラメ経営を黙認してきた水産庁や県水産部であるのに、その責任追及は片手落ちで、逆に漁協団体の弱みを握って「支援」をぶら下げ、上関原発計画、下関の沖合人工島建設、岩国基地の沖合拡張、宇部の産廃処分場埋立など、諸諸の公共事業推進に従わせ、悪用してきた。終いには合併させて、名実共に浜から権限を剥奪していった。山口県漁協が漁業権剥奪体制の先駆けとなり、震災後に水産特区、漁業権の民間開放が打ち出された宮城県などは、山口モデルを後追いして県一漁協合併をやったほどだ。
 山口県では新たに相互扶助を基本にした協同組合を沿岸の各地に復活させ、漁業権や漁師を食い物にする「山口県漁協」については水産業そのものへの関わりを絶たせて、中電に子会社として引き取ってもらうなり、整理するなり、表舞台から退場させることの方が有益と見なされる事態となっている。
 旧信漁連、旧県漁連が名称変更したような本店が消えたところで、山口県漁業にとっては何の支障もないこと、むしろ浜の協同組合がしっかりしていさえすれば、ピンハネばかりしている上部団体など淘汰された方が、沿岸漁民にとってはるかに助かる関係となっている。山口県の沿岸漁業が壊滅に追い込まれるいわれはなく、県漁協本店こそ消えるべき存在となっていることについて、沿岸で異論を挟む者は誰もいない。
 祝島を巡る補償金騒動を通じて、そのことが一層鮮明なものになっている。

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