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医学論文誌の最高権威に掲載された新型コロナ研究論文 不正発覚し取り下げの衝撃 

 新型コロナウイルスの研究が進むなかで、医学生物学分野での研究論文が爆発的な勢いで増えている。2月から6月までの間に、少なくとも1万8000件の新型コロナ関連の論文が、アメリカの論文データベースに収蔵され、1日当たり137本になったという報道もある。

 

 こうしたなかで、世界の医学論文誌の「最高権威」とされるアメリカの『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』と『ランセット』の二誌が、いったん掲載した研究論文を「不正発覚」を理由にとりさげたことが衝撃を与えている。どちらの論文もハーバード大学の研究者らによるもので、一つは高血圧の薬が新型コロナウイルス感染者を重症化させるというもの、もう一つはマラリア治療薬・ヒドロキシクロロキンが新型コロナの感染予防と治療に転用できるというものであった。

 

 いずれも注目度が高い研究で、論文発表直後から世界中の医学者・研究者がデータの信頼性に疑問を示し、いち早く研究不正が発覚した。そのため、発表から時を経ずしてとりさげという異例の事態となった。

 

 この研究不正はいずれも「データのねつ造」である。日本でも理化学研究所のSTAP細胞問題はもとより、薬品会社と大学研究機関の癒着による生命科学や医学分野でのデータねつ造による研究不正は後を絶たない。そのことが医学論文の劣化と信頼性を喪失させてきた。

 

 今回の論文撤回はそれに加えて、ITの先端技術を売り物にした「ビッグデータ」が偽りだったことが世界に衝撃を与えている。「世界中の約700の病院の電子カルテから約10万人の新型コロナ患者の医療情報を集め、統計学的な解析をおこなった」という触れ込みがまったくウソであったことが判明したのだ。しかも、論文著者の一人がそれを集めたとされる小さな医療データ会社を運営していたという。

 

 薬剤師(病院勤務)の青島周一氏が医療従事者向け『日経メディカルオンライン』(6月9日)でこの問題をとりあげている。臨床医学が科学の一分野であり、人々の命と健康にかかわる医学的判断は客観的根拠(エビデンス)に基づかなければならないのだが、「その根拠を生み出しているデータベースの妥当性に問題があるのだとすれば、どれだけ優れた疫学者や統計解析者であろうとも、結果として得られる知見は事実とかけ離れたものになってしまう」と、ことの重大性を訴えている。

 

 青島氏はここで、「新型コロナウイルス感染症(COVID―19)に関する論文を読み続ける中で感じてしまうのは、客観的知識としての質の劣化である」とのべ、4カ月間で8000件をこえる新型コロナ関連の論文が公開されたが、短期間のうちにこれほどの膨大な論文原稿を「誰がどのように査読していたのだろうと思わずにはいられない」と投げかけている。

 

 さらに、そうした「医学情報としての質の劣化」を感じた具体的な事例として、アメリカの大手製薬会社ギリアド・サイエンシズが開発したレムデシビルの臨床効果に関する二つの論文をとりあげている。

 

 一つは『ランセット』に掲載された「プラセボ(偽薬)とランダムに対照比較した試験の結果」である。この論文の前書きで引用されている22件の文献のうち、3件がプレプリント(査読を受ける前の原稿)であった。青島氏は「査読が行われていないことは、学術論文としての質が十分に担保されていないことを意味しており、掲載されている研究データの妥当性は必ずしも高くない。プレプリントは、社会的に重要な局面において、迅速な情報を提供することに役立つといえるが、科学的厳密さからかけ離れている情報も少なくない」と指摘している。さらに、このような「妥当性が十分に担保されていない情報を基に組み立てられた論理が、一流誌であるランセット誌の査読を通過するということは、医学情報の質を揺るがす決して小さくない出来事」だと、そのことの深刻さを強調している。

 

 もう一つの論文は『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に掲載されたものだが、これは「ランダムな比較試験ではなく投与前後の比較研究」であった。

 

 この研究について青島氏は「(COVID―19の)多くの症例は適切な対症治療と自然治癒によって軽快に向かう」ことから、「レムデシビルの投与前後を比較しても、薬そのものの効果を厳密には評価できない。投与前後の比較で示された臨床的改善度には、プラセボ(偽薬)効果や自然経過の影響が多分に含まれているからだ」と、臨床研究の常識を確認している。

 

 さらに、この研究は「有効性評価を目的としたもの」ではなく、「生命に関わる重篤な疾患に対して、代替療法がないなどの限定的状況で未承認薬として使用」できるようにするための研究であった。

 

 それにもかかわらず、この論文の結論には「レムデシビルを投与すれば、7割が臨床的改善を得られるような印象を受けかねない」記述があった。多くの研究者がこの論文から、「軽症ならわざわざ薬を使わなくても自然に治るのとあまり変わらない」ことを指摘している。

 

 青島氏は、「論文情報を読み解くトレーニングを積んでいない人からすれば、レムデシビルの効果を過大に評価してしまう」と批判し、このような「前後比較研究」が「世界で最も有名な臨床医学誌」が掲載したことに驚きを隠さない。

 

 山中伸弥・京大iPS細胞研究所所長は、自己の情報サイトでこのレムデシビルの臨床研究論文から、「より高度の呼吸管理が必要な患者では効果が減弱し、人工呼吸器やECMOが必要な患者では有意な効果が観察されなかった。また人種別では、白人では有意な効果があったが、黒人では効果は少なく、アジア人では効果が認められなかった」ことがわかるとして、次のようなコメントを加えている。

 

 「アメリカや日本ではこの臨床試験を根拠にレムデシビルの緊急承認を行ったと考えられる。アジア人では効果が見られなかったことは注意を要する。4月末の中国からの報告では、レムデシビルの効果は認められなかったが、人種差による可能性もある」

 

 ちなみに、アメリカ政府はレムデシビルについて、公的保険を持つ先進国政府向けの価格を患者1人あたり2340㌦(約25万円)に設定すると発表した。製造コストは1人1000円以内で済むといわれている。

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この記事へのコメント

  1. ギリアド社は、あのD・ラムズフェルトが1997年から2001年まで会長を務めていた会社ですね。ラムズフェルトは国防長官時代、暴利で知られるギリアド社の薬をペンタゴン向けに大量に買って備蓄していました。ギリアド社に有利な医学論文を発表した執筆者は、
    同社に買われた研究者ではないでしょうか。Covidに効果があったとしてクロロキンを推奨しているマルセイユのラウート教授は、ギリアド社に買われたフランスの研究者を名指ししているそうです(その動画は見ていませんが)。この会社、軍事・ビッグファーマの利権の匂いがプンプンします。属国の日本は、オスプレーと同じように、この会社の薬を買わされるのですね。

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