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アショア計画撤回求める阿武町民の会 会員1300人に(人口3000人のうち)

署名以上に重い全町民の意志

 

阿武町宇田地区を一軒ずつ訪問する福賀の女性たち(3月5日)

 陸上自衛隊むつみ演習場にイージス・アショアを配備する計画をめぐり、演習場に隣接する阿武町では、郷土の未来を揺るがすこの計画に対して町民の粘り強い反対運動が勢いを増している。2月には阿武町福賀地区の住民を中心にして「イージス・アショア配備に反対する阿武町民の会」(吉岡勝会長)が発足した。福賀地区の380人(20歳以上の住民の72・9%)の会員で出発したが、発足から2カ月余りで会員は全町内に広がり、人口約3300人の町において有権者の半数に迫る約1300人に到達している。設立当初から「阿武町民全体の問題として奈古、宇田に広げていく」ことを目的にし、3月初旬から会の役員である福賀地区の農事組合法人の関係者や女性グループのメンバー、子育て世代の40代の農業者などが奈古、宇田地域を個別訪問したり知人、友人を通じて会員を募って回り、町民同士の信頼関係の上に人から人へと広がった。「阿武町の豊かな自然やこれまで築き上げてきた農業、漁業を守りたい」という町民一人一人の純粋な思いを束ねる地道な運動となっている。

 

 町民の会では「阿武町は人口減少や後継者不足等が深刻化するなかで、地道に“選ばれる町づくり”を推進してきたが、イージス・アショアの配備はあまりにも大きなリスクであり、防衛省の説明は、住民の思いに寄りそわない一方的な押しつけに過ぎない」「私たちは、この地を愛し、この地を次世代につなぐ使命がある。それは、農地を耕し、今日まで努力し続けてくださった先人たちに対する私たちの責任でもある」「そのため、地方創生の根底を揺るがし、故郷を次世代に繋げていくための妨げの要因となる、イージス・アショアの陸上自衛隊むつみ演習場への配備計画の撤回を強く要望する」との思いを広く訴えてきた。

 

 会員を広げる活動は、3月5日に福賀の女性たちが宇田地区を一軒ずつ訪ねて回った行動を皮切りに始まった。50~70代の町民から保育園や小・中学校に子どもを通わせる30代、40代へと、世代をこえ、地域をこえ、1カ月余りで一気に広がった。冬が明けて本格的な農業の季節が始まるなか、役員たちは農作業のかたわら地域を回っている。「反対表明をしている花田町長をバックアップできるよう町民の意志を示す必要がある」「これまで築き上げてきた産業や人のつながりを守っていきたい」「美しい郷土や農地を次の世代につなぎたい」という思いを伝えて歩くなかで、奈古や宇田の住民たちも「誰かがこういう運動をするのを待っていた」「福賀の問題ではなく、みんなの問題として考える必要がある」と意志を示し、入会が進んでいる。署名運動とは違い、町民の会の会員を募る活動は重みがあるもので、「これは阿武町を守る町民の会だ」という住民もいる。役員たちは確信を深めながら「まだ行けていない地区を歩こう」「1500人まで持っていこう」と語っている。

 

 福賀地区で農業を営む40代の男性は、仕事を終えた夕食時に奈古や宇田地区のPTA関係者の家を一軒ずつ回っている。「花田町長が反対の意志を表明していることもあり、イージス・アショアに反対する町民の会の趣旨が伝わりやすかった。“福賀の問題ではなくみんなの問題として考えないといけないね”といわれる方もいた。自分たちも会員は1000人いけばいいだろうと考えていたが、短期間で1300人に達したことは驚きだ。阿武町全体で反対の意志を示していけるように、これからも会員を募って上積みをして、県や国にも伝えたい」と強い意志を語る。

 

 男性は一度町を離れたが二十数年前に阿武町に戻って農業を営んでおり、「なぜここに配備なのかという思いだ。演習場周辺で農業や畜産を営むわれわれにとっては降って湧いたような話で、死活問題となる。阿武町を選んで他県から移住してきた同年代の農業者も同じ思いだろう。現役世代は少ないが、次の世代にバトンを渡していかないといけないという気持ちは強い。イージス・アショアは世界的にもあまり前例がないので、どんなことが起こるか想像もつかない。むつみ演習場が国の土地であるというだけで計画を安易に進めることに憤りを感じている」と語っている。

 

 阿武町でもっとも人口が多い奈古地区の60代の男性は、地域を一軒ずつ回ったという。「自分が住む集落を回るとほぼ全員が協力してくれた。これまでイージス・アショアについてはどこかよそごとという空気もあった。だが誰もこんな田舎にミサイル基地が来てほしいとは思わない。私はこれからを担う子どもにも意見を聞いてほしいと思っている。これからの阿武町をどうするかにかかわる問題だからだ。近所の小学六年生に意見を聞いてみると“ミサイル基地はいらない”とはっきり意志を示していた。私たち世代も田舎の良さを生かしてのんびり暮らしたいと思っている。地方に人口が増えるよう“地方創生”と国がいっているのに、人が寄りつかないようなミサイル基地計画を持ち込むのは矛盾している」と指摘した。

 

会員になってもらうためにお願いして回る住民たち(3月)

 また自民党の田中文夫県議が「イージス・アショアが来れば奈古から福田に道路が通り、奈古に自衛隊宿舎ができて人口が増えて経済効果がある」といっていることも話題になっており、「みんな自然豊かな故郷で静かに暮らしたいだけだ。経済効果などアメとムチの使い分けで、考える次元が違う。今回、福賀の友人が熱心に頑張っているので協力した。町民が一枚岩になっていくことが、町会議員や県会議員を縛る力になっていくのではないか」と語る人もいた。

 

 このようなイージス・アショア配備反対の世論は、県議選結果にも反映した。誘致運動の先頭に立った田中文夫氏の阿武町での得票は、4年前の1133票から675票へと大幅に減り、萩市を含めた得票数も前回比で2200票減となった。選挙期間中、地元選出の2人の自民党県議は、イージス・アショア配備については一切ふれず、個人演説会などでも質問を受け付けなかったことが話題になっている。

 

 奈古の別の男性は、「近所を一軒ずつ回った。福賀地区、とくに宇生賀(うぶか)の人にとっては家の頭上にミサイル基地が建つようなものだ。同じ立場であればわれわれも反対するだろう。奈古は10㌔以上離れてはいるが、レーダーの範囲は奈古や宇田をすっぽりと覆うことになる。今おこなっている活動は、イージス・アショアに反対する町民の会への入会をお願いするもので署名よりも重みがある。この会は“阿武町を守る町民の会”でもあると思う」と語る。また「福賀地区には農業を志す30代、40代の若者が県外から移住している。なぜ福賀を選んだのか。それは農地を守るために県下で一番最初に法人化を実施し、地域全体でおこなう農業に魅力を感じているからだ。また豊かな自然環境のなかで子どもを育てたいという思いがあるからだろう」と語った。

 

 福賀地区の農事組合法人ではコメや大豆、ほうれん草、スイカなどの他に薬草や酒米の栽培にとりくんでいる。先祖から引き継いだ農地を守り、維持していくために常に研究を続け、新しい農作物にも積極的にとりくむ姿勢が、農業を志す若者にも魅力的に映っているという。

 

 福賀地区の住民たちは「防衛省がイージス・アショアの危険性や電磁波の影響についてはっきり説明できず、“安全です。大丈夫です”という説明も絵に描いた餅だ。そんな戦争の武器を設置することを誰が歓迎するだろうか。そもそもイージス・アショアは日本の防衛のためではなく、アメリカの防衛のためだ。一度建ててしまったら負の遺産になる。子や孫たちのために今、私たちが動かないといけない。町を守るために一枚岩になっていけることが嬉しい」と語っている。

 

 福賀地区の住民が呼びかけて発足した町民の会は、全町民を巻き込んだ運動として急速に広がっている。会では役員会を開き今後の活動方向を検討するとともに、近日中に町民の会として花田町長と面会することや、山口県や防衛省に陳情することなども視野に入れて動いている。

 

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