いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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JR北海道 公共性否定した民営化の結末 

 JR北海道の列車運行体制が崩壊状況にあることが連日報道されている。列車の整備不良や歪んだレールが多数存在することなど問題点が日を追うごとに追加で発表され、国土交通省が「監視を強める」対応となっている。国鉄分割民営化から30年近くが経過した。「赤字解消」「労働者のたるみ」などメディアを使った大キャンペーンを展開して、国営で管理していた鉄道事業を解体して私企業化してきたが、30年たってみて、その結果が、多数の死傷者を出したJR西日本の尼崎線事故となってあらわれ、北海道のような地方でも鉄道管理の能力が疑われるまでの事態へと行き着いている。この間、国労が解体されるなど労働運動の力が弱まり、鉄道輸送を担うJR職員は半減してきた。「鉄道員(ぽっぽや)」の誇りは線路の安全を守ることにあるのに、強烈な人減らしがやられ、保線を担う現場の仕事はみな下請や孫請を酷使する外注化が進むなど、利潤追求と安全担保は共存できず大きな矛盾になってきた。JR北海道の現状は、単に「JR北海道はデタラメな企業だ」というだけで解決されるような問題ではない。「郵政民営化」「水道事業の民営化」など声高に民間開放が叫ばれるなかで、その行き着く先を象徴する、構造的な問題を提起する内容を含んでいる。
 
 整備不良で頻発する大事故 JR北海道

 JR北海道の運行不備を巡る問題が、これほどとり沙汰されるきっかけになったのは、7月以後に車両の整備不良が相次いで発覚したことだった。極めつけになったのが今月19日に函館線で起きた貨物列車の脱線事故で、その後、97カ所でレール幅が基準値を超えていたにもかかわらず、補修せずに放置されていたことが明るみに出て、さらに追加調査で新たにレール幅の補修が必要で基準値を上回っている箇所が7つの線路170カ所のカーブで見つかったと発表された。
 7月には特急「北斗」のディーゼルエンジンが破損して、潤滑油をまき散らしながら走行して出火したり、快速電車「いしかりライナー」でゴムが焦げたような異臭が発生したり、特急「スーパーおおぞら」の配電盤から出火し、緊急停止装置も作動しなかった疑いが浮上したり、特急「スーパーとかち」のエンジンから白煙が上がり、ピストン排気弁が破損していたことが発覚。
 長万部(おしゃまんべ)駅では特急「スーパー北斗」が乗客の腕を乗降扉に挟んだまま発車し気づいた車掌が慌てて緊急ブレーキをかけて人身事故を逃れたこともニュースになった。通常なら乗降扉が10~15㌢ほど開いていればセンサーが感知するはずなのに、作動していなかったのが原因とされた。江差(えさし)線では普通列車の車輪が空転して立ち往生する事態が発生し、レールに砂をまいて摩擦力を高めることで脱出したが原因が分からず終い。函館本線では列車を検知するための信号を流すケーブルが落ちていたため、踏切の遮断機が完全におりない状態で普通列車が通過して問題になった。
 列車床下からの発煙などは旧型車両だけでなく、比較的新しい車両でも頻繁に起きており、老朽化が原因というよりは整備不足が主な要因として指摘されている。こうした事態が今年に入ってから急に頻発するようになったわけでもなく、2年前にはJR石勝線で特急列車が脱線してトンネル内火災が起き、車両六両が全焼し、乗客40人が病院に搬送されたこともあった。現場検証では車両側部品の脱落が多かったことが指摘された。

 「勝ち組」だけが大儲け 不採算地域犠牲に

 国鉄民営化以前には北海道では旧国鉄の従業員は1万4000人いた。それが半減して7000人体制で以前と同程度の沿線を管理し、列車を走らせている。本来なら中堅として技術継承の軸になるはずの40代がいないことや、人員削減のおかげで保線作業が行き届かず、レールの補修をしようにも部品が届かなかったり、先送りされるケースも多いことが労働者の証言からも浮き彫りになっている。
 このなかで、JR北海道の経営陣そのものの責任が大きいのはもちろんだが、既に経営基盤としても崩壊状況にあることをうかがわせている。2年前の列車事故を受けて、当時の社長が失踪して自殺したこともあった。分割したJR各社のなかでは、人口密度の高い地域で運行させているJR東海、JR東日本、JR西日本などと違って、JR北海道の場合採算の悪い地方路線を複数抱え、しかも寒冷地の鉄道管理には維持費がかかるという条件を抱えている。各社の経営基盤を示す数値を大ざっぱに見てみると、
◇JR北海道
売上 821億円
従業員 7000人
沿線 2500㌔
◇JR東日本
売上 2兆7000億円
従業員 5万9000人
沿線 7500㌔
◇JR東海
売上 1兆5000億円
従業員 1万8000人
沿線 2000㌔
◇JR西日本 
売上 1兆3000億円
従業員 2万7000人
沿線 5000㌔
◇JR九州
売上 3400億円
従業員 9500人
沿線 2300㌔
◇JR四国
売上 500億円
従業員 2600人
沿線 850㌔
 となっている。株式が上場され、完全民営化されているのがドル箱の都市部を抱えているJR東海、JR東日本、JR西日本の3社で、その他は株式については独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構国鉄清算事業本部が100%保有する形態をとっている。「負け組JR」扱いされている3社の赤字部分については「経営安定化基金」などで国に依存しながらの経営となっている。JR北海道はそのうちの1社だ。
 もうかる沿線地域のJRは、3社で毎年800億円近い配当金を株主に提供する企業へと変貌し、残りの不採算路線を任されたお荷物JRは切り離されて、沿線の整備すらカネが回らない状況になっている。国鉄時代であれば、都市部の利益を地方の不採算路線に回すことが可能だったものが、単に民営化するだけでなく別会社として分割したことで、ドル箱地域の利益だけは一握りの経営陣や株主に吸い上げられる仕組みとなった。
 9兆円を投資してリニアモーターカー整備に精を出しているJRがあるかと思えば、一方で鉄道崩壊のような事態に陥っているJRがある。「勝ち組JR」の東海、東日本、西日本は鉄道事業だけでなく駅前開発や商業ビル開発など不動産商売にも本腰を入れ、行政の補助金をつかみどりするような事業をさまざまに展開。山口県だけ見ても、岩国駅、徳山駅、新山口駅、下関駅など、膨大な自治体負担が伴う駅前開発がたけなわだ。広島駅でも外資や中央の大手資本、金融機関が入り乱れた乱開発がおこなわれ、鉄道会社なのか不動産企業なのかわからないような、独特の資本として存在感を増している。

 国民守らぬ政治を象徴 新自由主義の犯罪

 いまや、鉄道だけでなく航空、トラックやバスなどの輸送手段、高速道路にいたるまで、安心して乗っていたら、知らぬまに死んでいたという事故が他人事ではない。
 昨年末には、NEXCO中日本が管理する中央自動車道の笹子トンネルで天井が崩落し、9人が犠牲となる前代未聞の事故が起きた。利潤追求の結果、107人の犠牲者を出したのが2005年の尼崎事故だった。高速バスに乗れば人件費カットのツケで客が死ななければならない。爆発事故を起こして放射能汚染をまき散らした原発を見ても、「減価償却が終わってからがもうかる」といって耐用年数の引き延ばしや再稼働をはかったりする。公共性を否定し、日本社会にとって有益であるか、安全であるかを二の次にして、反社会的な企業利益だけを追い求めていく新自由主義改革路線の犯罪性が浮き彫りになっている。
 「小さな政府」路線、すなわち新自由主義改革によって公共性のある自治体業務や施設の管理運営などを軒並み民間開放し、企業の利潤追求や競争性に委ねる動きが、行政の現場でも活発になっている。市町村の体育館や運動公園、図書館運営利権、公営住宅管理、自治体の窓口業務など枚挙にいとまがない。人件費カットでワーキングプア状態はますます広がり、公共性と切り離れた企業管理のもとで過重労働が横行するようになった。その走りだったのが国鉄民営化で誕生したJRにほかならず、効率経営で大量殺人走行をしても反省がなく、JR北海道などは分社化のいびつな構造があるにしても、鉄道管理すらおぼつかない、お粗末な状況が露見するまでになった。鉄道の安心、安全の信頼感、危険度まで地方と都市部の格差ができたのではたまったものではない。地方ほど経営が立ちゆかず、路線が廃止されるのは、郵政民営化で過疎地から郵便局が消えていく姿とも重なる。
 JR北海道を巡る問題は、国民の生命、安全など知ったことかという、デタラメな日本社会の状況を象徴するものとなっている。「またか」と思わざるを得ないような、全産業、全社会に共通する問題として捉えないわけにはいかない。政治状況としても右傾化が台頭し、尖閣問題を機に日中戦争の火の海に投げ込むことにちゅうちょがない連中があらわれている。国民生活をないがしろにし、ひたすら米国追随で売国をやる無責任さとも共通の根源となっている。
 極端な安全無視、効率経営が目立ち始めたのは90年代以後の規制緩和と小泉構造改革がおこなわれてからで、カネもうけ一本槍で社会的有用性や役割など否定して、ひたすら利潤を追い求める企業経営、自由競争に火がついた結果、考えられないような事故が頻発するようになった。公共インフラだけでなく、労働現場では工場爆発なども珍しくなくなった。そのもとで働く労働者に対して過酷な「合理化」を実施し、社会の役に立つという労働本来の目的を破壊し、労働者の誇りをじゅうりんしてきたことに最大の特徴がある。「社会のため」につくられた規制を「自分のもうけのため」に破壊し、あるいは民営化して横暴に振る舞う。いまや電力会社やJRといった親方日の丸企業ほど、その典型的な姿を暴露している。
 連合など腐りきったダラ幹集団の消滅路線を乗り越えて、対峙する強力な労働運動を復活させ、「もうけのため」に社会を犠牲にする連中を規制し、「社会のため」に力を発揮する運動を束ねていくことが、待ったなしの課題になっている。

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