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安全犠牲にした利益追求路線が招く惨劇 米国・ギリシャで相次いだ最悪の列車事故はなぜ起きたか

 先月、アメリカとギリシャの鉄道で最悪といわれる重大事故が発生した。現地からの報道では、2つの事故を「人的ミス」にとどめてはならず、安全よりも目前の利益を優先する鉄道会社、それを支えてきた国家的な犯罪として処罰し、鉄道政策の根本的な転換を求める世論が急速に高まっていることを伝えている。ギリシャでは事故発生直後に鉄道労働者が抗議のストライキを続けており、他産業にも波及している。各都市では学生や教師をはじめ広範な市民の抗議集会、デモ、ストライキが広がっている。

 

米オハイオ州イーストパレスチナで発生した列車脱線事故で激しく燃える車両(2月3日)

 アメリカでは2月3日夜、オハイオ州の農村で有毒物質を積んだノーフォーク・サザン鉄道の150両連結の貨物列車の50両が脱線転覆、炎上した。列車は、発がん性物質である塩化ビニールを含む多様な有毒化学物質を積んでいた。鉄道会社は爆発による噴出を避けるとして、「制御放出」でホスゲンと塩化水素を空気中に放出したため、約5000人の住民が避難させられた。ホスゲンは第1次世界大戦で兵器として使用されたことで知られる嘔吐や呼吸困難を引き起こす毒性の高いガスだ。悪臭で頭痛や喉の痛みを訴える住民もいた。

 

 住民は、列車の脱線直後に約3500匹ものサカナやカエルが死んだのを目の当たりにして衝撃を受けた。当局は「ただちに健康に影響するとはいえない」といいつつ、ボトルの水を使用するように求めていたが、事故から5日後には「空気と水の安全が確認できた」として、避難指示を解除した。住民たちは郷土の河川、農産物が毒物で汚染され、次世代にわたる健康被害への不安と怒りを募らせ、行政当局に納得のいく説明と対応を求めて交渉を続けている。

 

 専門家はこの事故が偶然ではなく、起こるべくして起きたものだと語っている。『ニューズウィーク』によれば、アメリカでは今年だけでも2カ月足らずの間に十数件の列車事故が起こっている。2月に入って、オハイオ州だけではなくオレゴン州、ノースカロライナ州、テキサス州などで脱線事故があいついでいる。それぞれの事故には有毒物質を積んだ車両が連結されていた。オレゴン州ではディーゼル燃料2000㌎が川に向かって流出するという、重大な環境汚染が危惧される事態になっている。

 

 全米では毎年平均1700回もの脱線事故が起こっているという。米国運輸省のデータでは、毎年約450万㌧の有毒化学物質が鉄道で輸送されており、1日平均1万2000両の危険物を積んだ貨車が都市や街を通過しているのだ。

 

 英紙『ガーディアン』も、オハイオ州の惨事について表面的な原因にすり替えてはならず、アメリカの鉄道開発モデルの構造的な欠陥を余すところなく露呈したという意味で警鐘を鳴らすものだと書いている。鉄道事故の背景に、鉄道業界が求めてきた規制緩和があることが浮き彫りにされている。

 

 それは直接的には、オバマ政府が2014年、原油や危険物質を運ぶ列車に「ECPブレーキ(電子制御式空気ブレーキ)」を搭載する新たな規制を導入したのに対して、全米鉄道協会が巨額の費用を投じてロビー活動をくり広げ、トランプ政府がこの規制を撤回したことである。

 

 ノーフォーク・サザン社は数十億㌦を投じて自社株買いをおこない、従業員を大量解雇し、3人の大統領に安全規制の緩和を働きかけ、列車への「電子制御空気(ECP)ブレーキ」の装備を拒んできた。鉄道専門家は「ECPブレーキが搭載されていれば、これほどの被害は出なかっただろう」と、米メディア『ザ・レバー』に語っている。

 

 事故から3週間後、現地の天然資源局は、有害化学物質によって4万4000匹の水生動物が死亡したと発表している。『ニューヨーク・タイムズ』は、地元の農家では七面鳥が呼吸器系の疾患で抗生物質を投与され、ニワトリが不安定な紫色の卵を産んだことを報じている。オハイオ州は国内でも有数の農業地帯で約7万5000の農場がある。チーズ生産は国内第1位、卵生産は第2位、トマトとカボチャが第3位にランクされており、農産物輸出への影響に危惧が高まっている。

 

旅客車と貨物車が衝突 ギリシャ

 

 ギリシャでは2月28日、首都アテネとテッサロニキを結ぶヘレニック・トレイン社の路線で旅客列車と貨物列車が正面衝突し、58人が死亡する同国鉄道事故史上最悪の痛ましい事故が発生した。旅客列車のほとんどの客車が脱線し、衝突の瞬間に爆発が発生。火災の温度は1300℃に達し、客車2両が完全に破壊・焼失、2、3両が押しつぶされた。犠牲者の多くは休暇で帰省中の大学生であり、遺体すら確認できずDNA鑑定を求められる遺族の悲しみが全国に伝わった。

 

ギリシャ北部ラリッサで発生した列車の衝突事故(2月28日)

 原因は線路のポイント切り替えミスにより、旅客列車が貨物列車の線路に侵入したことが原因だとされるが、なぜ何㌔も同じ線路を衝突するまで走っていたのか――。現場労働者は、「この区間のおもな問題は、列車を事故から守る基本的な安全手段である信号機とリモコンが機能していないことだ。たとえていうなら、わが家の前に穴があるようなもので、私たちはそれがどこにあるかを知っており、常にそこを避けているが、知らないものが落ちるのは避けられない」と語っている。

 

 また、「問題の区間では列車は時速200㌔㍍で走行することが許可されるが、その状態を示すものは何もない」といわれるように、路線の全体像が明確ではなかったことが問題になっている。事故発生直後、「丸々45分間、列車がルートのどの部分にあるかを探していた」ことに端的に示されている。

 

 ギリシャ鉄道労組は事故発生の3週間前に出した公開書簡で、これまでも頻発する事故によって「運転士の同僚と乗客の両方が差し迫った危険にさらされている」ことに抗議し、「人手不足」「不十分な保守」「電子安全システムの欠如」「責任の転嫁」を告発していた。

 

 そこでは、政府が「セキュリティは単なるコスト要因」としか考えず、「重大な欠陥は未解決のまま」にしていると批判。「彼らがワニの涙を流し、声明を発表するのを見るために、事故が起こるのを待つつもりはない」「労働者は、日常的に事故や故障を引き起こすすべての要因を過小評価し、無関心を決め込む政治指導者や労働組合指導者を非難しなければならない」と訴えていた。

 

 事故の翌日、遺族・友人、同僚らの悲しみに包まれるなか、アテネ、テッサロニキなどのギリシャの都市で、労働組合や学生団体をはじめさまざまな階層の人々が、「これは国と企業による犯罪であり隠蔽されるべきではない」「すべての死者の声になろう」「私たちの死は、彼らの利益」のスローガンを掲げて抗議行動をおこなった。学生たちは黒い旗の下で学校やキャンパスを占拠し、ろうそくでスローガンを描いた。

 

 事故を受けてギリシャ鉄道労組は2日からストに入った。当初1日の予定だったが、何百万人もの労働者の怒りは激しく、公共サービス組合連合が24時間の全国ストライキと大規模なデモを呼びかけた。鉄道労組はさらに48時間延長し、すべての路線で運行が停止した。地下鉄労働者も24時間ストに突入すると発表した。さらに、船員組合と小学校教師組合がストに入ることを明らかにしている。

 

 労働者は、ギリシャの鉄道のありさまは2015年の「分割民営化」の帰結であること、欧州委員会(EU)が「ギリシャ政府に今後5年間、鉄道インフラの維持のための資金を提供しない」と圧力をかけていることを批判。人々の生命と安全を守る不可欠の課題として「民営化政策の終了」を要求している。

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