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沖縄県が辺野古埋め立て承認を撤回 翁長知事が遺した「公約」貫く

埋立承認撤回について説明する謝花喜一郎(右)、富川盛武両副知事(31日、沖縄県庁)

 日米政府が進める米軍普天間基地の「辺野古移設」をめぐり沖縄県は8月31日、辺野古公有水面埋め立て承認を撤回した。これにより2013年の仲井真弘多前知事による埋め立て承認は効力を失い、国が進める辺野古基地建設工事は中断した。故・翁長雄志知事が7月27日、生前最後となった記者会見で表明し、その遺志を踏まえて職務代理者である謝花喜一郎、富川盛武両副知事のもとで、聴聞(国の弁明を聞く)などの手続きを進めてきた。法的手続きをめぐる攻防は、国の対抗措置によってふたたび裁判にゆだねられる公算が高いが、県の指導を無視して工事を強行する政府の姿勢について司法がどのような判断を下すのか、厳しい視線が注がれている。

 

 県は31日午後、工事主体である防衛省沖縄防衛局に撤回の通知文書を提出し、謝花副知事が以下のように説明した。

 

 埋立承認取消し(撤回)について 副知事読み上げ(全文)


 普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認について、本日、当該埋立承認を取り消しました。


 県は、これまで、承認後に生じた事由として、埋立承認に附した留意事項や環境保全措置に関する問題点等について、法的な観点から慎重に検討を行ってきたところですが、こうした問題点等は、取消処分の原因となる事実に該当すると判断し、本年8月9日に、沖縄防衛局に対し、聴聞を実施したところです。


 聴聞手続きにおいて、沖縄防衛局は、意見書と証拠書類を提出し、 行政庁に対して質問を行った上で、意見書に沿って意見を陳述したところです。

 

 聴聞の結果については、8月20日に主宰者から、聴聞に係る調書と報告書が提出されましたので、調書の内容と報告書に記載された主宰者の意見について十分に参酌し、予定される取消処分について検討したところです。

 

 その結果、本件埋立承認については、留意事項に基づく事前協議を行わずに工事を開始したという違反行為があり行政指導を重ねても是正しないこと、軟弱地盤、活断層、高さ制限及び返還条件などの問題が承認後に判明したこと、承認後に策定したサンゴやジュゴンなどの環境保全対策に問題があり環境保全上の支障が生じることは明らかと認められたことなどから、
 ・公有水面埋立法4条1項1号で規定する「国土利用上適正且つ合理的なること」の承認要件を充足しないことが明らかになったこと
 ・留意事項1に違反していること
 ・公有水面埋立法4条1項2号で規定する「環境保全及び災害防止に付き十分配慮せられたるものなること」の承認要件を充足しないことが明らかになったこと

 が認められ、県としては、違法な状態を放置できないという法律による行政の原理の観点から、承認取消しが相当であると判断し、本日付けで、沖縄防衛局に対し、公有水面埋立承認取消通知書を発出したところです。

 

 8月8日に逝去された翁長知事は、平成26年12月の就任から、辺野古新基地建設阻止を県政運営の柱にし、県民のために自らを投げ打ち、まさに命を削り、その実現に向け取り組んできました。

 

 今回の承認取消しは、辺野古に新基地は造らせないという翁長知事の強く、熱い思いをしっかりと受け止めた上で、埋立承認の取消処分の権限を有する者として、公有水面埋立法に基づき適正に判断したものであります。

 

 辺野古新基地建設阻止の実現に向け、今後とも全力で対応していく考えでありますので、県民の皆様のご理解とご協力をよろしくお願い致します。

 

               平成30年8月31日
               沖縄県副知事 謝花 喜一郎

 

注目される司法の独立性


 再三にわたって撤回の手続きの延長を求めてきた安倍政府は、翁長知事の急逝後、批判世論の高まりを怖れて8月17日としていた土砂投入の予定日を遅らせ、県に対して埋め立て承認撤回の判断を9月30日の知事選後に先延ばしにすることを要求していた。県がその要求に応じる構えをみせなかったため、今度は撤回による工事の中断により一日2000万円の損害賠償を沖縄県に請求する可能性をちらつかせるなど、知事選前の承認撤回に神経を尖らせてきた。


 「承認撤回」は、承認当時にはなかった「公益を損なう新たな事由」が発生したことにより「将来にわたって埋立承認の効力を失わせるもの」であり、県が持つ最も強い権限行使となる。


 撤回表明にあたり県は、国が「全体の実施設計や環境保全対策を示すこともなく公有水面埋め立て工事に着工」し、「サンゴ類を事前に移植することなく工事に着工するなど、承認を得ないで環境保全図書の記載等と異なる方法で工事を実施している」こと、防衛局の土質調査によって一部の護岸設計箇所が「軟弱地盤であり護岸の倒壊などの危険性があることが判明した」こと、「活断層の存在が専門家から指摘された」こと、「辺野古にある国立沖縄工業高等専門学校の校舎などの既存の建物等が辺野古新基地が完成した場合には米国防総省が定める高さ制限に抵触していることが判明した」ことなど18項目の問題点をまとめ、国からの「聴聞(弁明の聴取)」をへて15項目について違法性を確認した。

 

 謝花副知事は「違法な状態を放置することはできないというあくまでも法律に基づく行政の原理に基づいた行政手続きとして(撤回を)おこなった」とのべ、今後予想される法廷闘争への対応について「政府の埋め立て工事の進め方に関する不誠実さ、環境保全への配慮のなさ、辺野古新基地建設は基地負担の軽減にならないこと、そして沖縄に過重な基地負担を押しつけている理不尽さ、そういった県の主張を裁判所に対してしっかり訴えて、県の考えが認められるよう全力を尽くしていきたい」とのべた。


 2015年に翁長知事が埋め立て承認の「取り消し」をおこなったさい、防衛局はみずからを「私人」とする異次元の手法で国交相に「執行停止」を申し出て、同じ政府機関である国交相がそれを認め、「国に従わない県は違法」として提訴。最高裁は国交相の主張を認め、工事が再開された。今年3月にも、辺野古周辺での岩礁破砕許可を求めた県の訴えについて、那覇地裁はその訴えの内容を審理をすることなく「県の訴えは裁判の対象外」として却下している。地方自治の原則をことごとく無視し、権力にまかせてその場しのぎの法解釈で工事を続けてきたが、民主主義の原則を逸脱した国の対応が浮き彫りになるなかで、司法の独立性についても厳しい視線が注がれている。


 9月13日に告示が迫る沖縄知事選は、翁長知事の後継候補としてオール沖縄が推す玉城デニー氏と、自民・公明与党が推す佐喜真淳氏の事実上の一騎打ちの構図となっている。「撤回を全面的に支持する」とする玉城氏に対し、「翁長知事の遺志を継ぐ」といいながら辺野古問題に触れない佐喜真氏にも態度表明を迫るものとなる。辺野古新基地建設が最大の争点となるなかで、埋め立て承認撤回は安倍政府の欺瞞を引きはがし、米軍基地を造るために県民を愚弄して恥じない勢力に大きな痛打を与えるものとなった。

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