沖縄県うるま市の会社員で20歳の女性が元海兵隊の軍属に暴行・殺害され遺棄された事件で、戦後一貫して米軍の支配下におかれ数えきれぬ屈辱をなめてきた沖縄県民の怒りが爆発し、連日県内各地で抗議行動がおこなわれている。県民の怒りは辺野古新基地建設反対だけにとどまらず、米軍基地の全面撤去を求める大世論となっている。25日の日米首脳会談では安倍晋三の「抗議」に対しオバマが「深い哀悼の意」などとのべたが謝罪は一切おこなわず、県民の怒りは形だけの欺瞞では通用しない「基地撤去」の巨大なうねりとなっている。
すべての基地を撤去せよ 通用せぬ日米首脳会談の欺瞞
逮捕された元海兵隊で軍属のシンザト・ケネフ・フランクリンが働いていた米空軍嘉手納基地では25日、第一ゲート前で「元米兵による残虐な蛮行糾弾! 犠牲者を追悼し米軍の撤退を求める緊急集会」がおこなわれ、平日の昼間にもかかわらず県内各地から約4000人(主催者発表)の人人が詰めかけた。
嘉手納の集会に4000人 首長ら米軍に申し入れ
参加者は「全米軍基地撤去」と書かれた紙を握りしめて抗議をおこなった。
最初に殺害された女性会社員を悼み全員で黙祷したのち、オール沖縄の共同代表である名護市の稲嶺進市長が挨拶。「私たちは戦後71年間、基地に苦しめられてきた。復帰後だけでも570件余の殺人、強盗、強姦等の事件が起きており、そのたびに抗議してきた。日米両政府は“今後このようなことが決してないように”というが何一つ変わっていない。もう我慢できない」と怒りの声を上げた。そして「県民の怒りを結集し、二度とこのような事件が起こらない沖縄を勝ちとっていこう」と呼びかけた。
発言者からは、「すべての米軍基地を撤去させよう」「沖縄の声を聞け」との発言があいついだ。
このあと、アメリカのオバマ大統領や安倍首相に送る決議を採択した。決議では、「沖縄でアメリカ軍の兵士や軍属による事件や事故が後を絶たないのは、日米両政府が戦後71年間も過重なアメリカ軍基地を押しつけているからだ。県民の怒りは限界点を超えていて、これ以上、基地の重圧に耐えることはできない」とし、そのうえで普天間基地の閉鎖とともに、名護市辺野古への移設の断念など、米軍基地の大幅な整理縮小や、日米地位協定の抜本的な見直しなどを求めた。そして「早急に具体的な解決策をとらなければ、戦後最大級の“県民総ぐるみ基地撤去運動”が展開されるだろう」と読み上げられ、参加者らは基地に向かい「平和な沖縄を返せ」と怒りの声を上げた。
被害女性が住んでいたうるま市など、沖縄本島中部の10市町村の首長らも同日、政治的立場を超えて共同で抗議した。在沖米軍トップがいる、キャンプ・フォスターや在沖縄米国総領事館、外務省沖縄事務所を訪れ、綱紀粛正や日米地位協定の抜本的な改定を求めた。沖縄防衛局では、井上一徳局長に対し北中城村の新垣邦男村長が「凶悪犯罪はほぼ海兵隊が関わっている。撤退しかないという意見もある」と語り、うるま市の島袋俊夫市長は「日米地位協定が根底にあって、米兵と軍属の優位的な意識が事件の多発に繋がっているのではないか」と話した。
一方、25日の夜におこなわれた日米首脳会談では、オバマ大統領は被害女性に対する遺憾の意を表したが、一切謝罪はせず、「再発防止にできることは全てやる」とのべたが、具体的な対策は示さなかった。沖縄各地で抗議の声が上がっている日米地位協定改定については「日本の司法制度の下で正義の追及を阻むものではない」とのべ改定の意思がないことを示した。安倍首相も「地位協定は一つ一つの問題を改善し、結果を積み上げる」と語り、地位協定改定を求めることすらしなかった。また、日米首脳会談の直前には沖縄の翁長知事が安倍首相と面談し、オバマ大統領と直接面談することを求めていたが、そのことにもまったく触れず、在沖米軍基地の撤去や整理縮小などへの言及もなかった。
各自治体も抗議の決議 名護市、宜野湾市も
今回の殺人事件を受けて、沖縄県内の各自治体でも抗議の決議が上がっている。
沖縄県議会は26日の臨時本会議で、事件に抗議するとともに「在沖米海兵隊の撤退」を求める抗議決議と意見書を全会一致で可決した。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の閉鎖・撤去や県内移設断念も求めている。普天間飛行場の撤去を求めた決議は例があるが、在沖海兵隊すべての撤退要求を県議会として決めるのは、1972年の本土復帰後初めてとなる。
決議では事件について「このような蛮行は、県民の生命をないがしろにするもので、断じて許されるものではない。遺族の悔しさや悲しみははかり知れず、県民からは激しい怒りの声が噴出している」と表明。「米軍における再発防止への取り組みや軍人・軍属等に対する教育等の実効性に疑問を抱かざるを得ない」と指摘し、海兵隊の撤退と合わせて日米首脳による犯罪根絶のための協議、日米地位協定の抜本改定、米軍基地の大幅な整理縮小なども求めた。採決では、翁長知事の県政与党である社民・護憲や県民ネット、共産に加え、翁長県政と一定の距離を置く公明、維新の会も賛成した。
各自治体でも続続と抗議の決議が採決されている。現在、うるま市、名護市、那覇市、金武町、西原町、南風原町、石垣市、恩納村、沖縄市、宜野座村、宜野湾市、浦添市、豊見城市、糸満市、読谷村、嘉手納町、北谷町、北中城村、八重瀬町が決議を可決している。今後、中城村、今帰仁村なども決議案の提出を予定している。合わせて27自治体で抗議決議の動きがあり、沖縄県内41市町村のうち半数を超えた。今後、さらに動きが広がるとみられている。
女性の遺体が発見された恩納村議会では23日に臨時会を開き、日米地位協定の抜本的改定などを求める抗議決議と意見書を全会一致で可決した。決議は「これまで再三抗議要請しているにもかかわらず、事件が繰り返されることに激しい憤りを禁じ得ない」と強調。(1)事件の徹底究明と捜査への全面協力(2)米軍人・軍属などの綱紀粛正を徹底し、実効性のある再発防止策を速やかに公表(3)遺族に対する早急な謝罪と補償(4)日米地位協定を抜本的に改定 ,–などを求めた。
他の市町村議会も同日、委員会などを開いて可決に向けた調整を進めた。名護市議会では抗議決議、意見書両案に「基地の全面撤去を求める声もある」との文言を入れた。
うるま市議会は臨時会を開き、事件に対し「断じて許せるものではなく、激しい憤りを覚える」などとして、遺族への謝罪や地位協定改定などを求める抗議決議と意見書を全会一致で可決した。決議文は「将来に夢を抱く若い女性の尊い命を奪う極めて残虐で凶悪な事件だ。またしても市民が犠牲となる事件が発生したことは断じて許せるものではない」と強く抗議している。
そして(1)遺族への謝罪(2)米軍人・軍属の綱紀粛正と人権教育など実効性ある再発防止策(3)基地の整理・縮小と日米地位協定の抜本的な見直し などを要求した。
辺野古新基地建設問題が浮上している名護市は地位協定の抜本的な見直し、在沖米軍基地の整理・縮小などを求めた。
米軍普天間飛行場のある沖縄県宜野湾市議会は26日午前の臨時会で、在沖米海兵隊の大幅な削減や基地の速やかな整理縮小、日米地位協定の抜本的な改定を求める抗議決議などを、自民や公明など市政与党の賛成多数で可決した。