いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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働けど月収8万円のパート代  「一億総活躍社会」の現実

 「女性が輝く社会」「1億総活躍社会」などと安倍首相が叫び、「夫が50万円、妻がパートで25万円」などと答弁して世間ずれした政治の姿をさらした。アベノミクスの3年間で貧困化は急速に進み、働けど生きていけない世の中だということが、若い世代や母親たちの深い実感になっている。「超少子化だ」「対策が必要だ」と騒ぐ一方で、搾取はさらに強烈なものになり、子どもを産み育てることもできない。下関市内で各産業における労働の実態を聞いた。
 
 ヤクルト、チェーン店、スーパー

 以前ヤクルトに勤めていた女性は、離婚を機に数年前に親元へ帰ってきた。職が見つからなければ子どもを保育園に入れることができないが、保育園が決まらなければ就職できない。職を選んでいる余裕はなく、託児所(月5500円)のあるヤクルトで働き始めた。だが月の収入は8万~10万円。10万円あればいい方で、休日が多い月には6万円しか収入がないときもあった。必要な物を支払うと、月の食費にも事欠く。「働いてもまったく将来が見えなかった」という。
 子ども手当が月1万円、母子手当が月3万円あるが、4カ月に1度まとめて入ってくるので、その間に不足していた支払いに回り、ほとんど手元に残らない。金銭面でも親に支援を受けながら、夜は子どもを親元に預けてこっそり別のアルバイトをして足しにしていた(ヤクルトレディは副業を禁止されている)。しかし親も週に2度パートに出るくらいの収入で、いつまでも頼るわけにはいかないため転職を決めたという。
 ヤクルトレディには母子家庭の母親も多い。「夫がいて扶養の範囲内での小遣い稼ぎならいい仕事だが、母子家庭は親の支援がなければ生活できない」収入で、子どもの将来のために貯金するような余裕はない。やめていく人も後を絶たないが、多くのヤクルトレディたちがこれだけ安い給料でも踏ん張っているのは、「たくさんの人と知りあい、外に出ると長年のお客さんたちが声をかけてくれる」という、簡単に切り捨てることのできない信頼関係があるからだ。
 雨の日も風の日も1軒1軒1本76円のヤクルトを笑顔で販売して回るヤクルトレディは、社員ではなく個人事業主扱いだ。ヤクルトから商品を仕入れて販売し、売上の80%は会社にもっていかれ、手元に残るのは20%だ。基本給はない。月に11万円の収入を得ようと思えば50万円を売り上げねばならない。
 一番利益率が高いのが1本76円のヤクルトだ。26%(1本当り19・76円)が手元に残る。下関市内の場合、平均で1日80本という人が多いという。その場合1カ月(20日間)で1600本、収入は3万1616円。多い人で1日120本、1カ月2400本で4万7424円だ。仮にヤクルトだけで50万円を売上げようと思ったら、6579本ものヤクルトを売らなければならない(そのほか130円の野菜ジュースやタフマン、化粧品など利率は低いが、価格の高い商品もある)。多くのヤクルトレディの収入は月8万~10万円。11万円あればいい方だといわれている。
 そこから電気自動車(月7600円)、三輪車(月5000円)のリース代を会社に支払う。自分の車を使う人や三輪車を使っている人はガソリン代も自分持ちだ。頻繁にエンジンをかけたり止めたり、ドアの開け閉めなどの摩耗に対する減価償却もなければタイヤ交換も自分持ち。個人事業主なので国民健康保険も残った収入から支払う。一日販売して回り、センターに帰るとその日の売上のデータ化や、交代で掃除をするなど、さまざまな仕事も社員ではないのですべてサービス残業だ。
 ヤクルトレディ経験者は、「自分で飲食店をしている知り合いに聞くと、利益率は40%くらいと話していた。同じ個人事業主なのに20%のヤクルトとは大違い。それなのに大会に行くと、お年寄りが“ヤクルトレディさんのおかげで生きていける”というような涙の出る映像を流し、それを見てみんな“明日からまた頑張ろう”と思って帰る。“情”に訴えてくるから、低い収入で生活が厳しくてもなかなかやめられない」と話す。
 昨年10月には全世界から約1万人のヤクルトレディが東京ドームに集い、創業80周年記念の世界大会が開催された。堀澄也会長の「雨の日も風の日も夏の猛暑でも冬の凍てつくような寒さでも一軒、一軒健康を届けている」という涙ながらの言葉に、感銘を受けて帰ったレディも少なくない。「愛の訪問活動」を展開し、「“販売”ではなく健康と幸せを“届ける”」のだと、「人情」を前面にうち出すヤクルトは、その実、愛のない無情なシステムでヤクルトレディたちを搾り上げながら順調に売上を拡大している。

 全国チェーン進出 非正規ばかりが増えた

 ブラック企業の問題が表面化してきた飲食業界でも、その実態は今も続いている。フランチャイズの弁当屋やファミリーレストラン、焼き肉屋、居酒屋など、市内でも地元商店を淘汰して、全国チェーンの飲食店ばかりが目立つ。増えたのは非正規雇用ばかりで、下関市民が身を粉にして働いた利益の大半を本部が吸い上げていく。一人ずつ置いている正社員まで非正規にする方向を進めているチェーンもある。人手不足も深刻だ。
 60代の婦人は、これまで働いていた職場を定年退職してから、年金の特別支給額があまりにも少ないことを知った。年金だけでは生活できず、独身で兄弟も遠方にいることから頼る人はいない。ハローワークに通ったが、「年齢不問」と書かれているはずの企業に紹介状を持って行くと「60代はいらない」といわれた。収入が途絶えているところで職を選んでいる間はなくチェーンの弁当屋に勤め始めた。
 このチェーンでは全員が最低賃金731円のパートやアルバイトで、1年以上働いても雇用保険や健康保険もなければボーナスもない。わかっていても「仕事があるだけいい」という人たちが入ってくる。初めは1日3時間(午前10時から午後1時まで)の勤務で、月20日間(60時間)働いて手取りは4万円台だった。車を持たないため交通費が必要で、さらに決められた色の服をそろえたり、その他もろもろの出費で月3万円は消えていく。「もう少し働きたい」と話していると、しばらくして夜の仕事が入るようになった。現在は1日5時間、月100時間の勤務で手取りは7、8万円だ。店長でも200時間ほどの勤務で15、6万円あるかないかだという。
 営業時間は朝七時から夜九時頃まで。調理場を担当する人たちは朝6時から出勤してご飯を炊き、準備をする。企業などからまとまった注文が入れば、朝5時頃から出勤する場合もあるという。注文が多く体力勝負になる夜の勤務はアルバイトの学生たちが主力だ。「初めての仕事だし、65歳までの辛抱と思って前向きに仕事をしている。とにかく病気をしないこと」と話すが、その後どうやって生活していくのかという不安を常に抱えている。
 外食・中食、小売業フランチャイズのオーナー募集の要項には、「勤務時間帯を自分で決めることができ、プライベートと両立できる」「夫婦で働ける」などの文句が並んでいる。しかしフランチャイズは本部に納めるロイヤリティや人件費がかかる。できる限り人件費を圧縮しても、弁当屋の場合で利益はよくて2割程度ともいわれている。人手不足もかかわってオーナーや店長は低収入なのに寝る間もないほど働き、プライベートなどない状態だ。
 あるフランチャイズの準社員の女性(30代)は、他が全員アルバイトのため、ほとんど休みがとれない。バイトに任せることもできるが、なにか起こったときに責任を持てないので毎日朝7時に出勤して夜九時の閉店まで働く。残務処理をして帰宅するのは夜11時頃だ。売上を上げるためにはチラシのポスティングなども必要だが、とても勤務時間内にはできないので結局持ち帰っている。責任者が一人のため店のことが常に頭から離れない。こうした状態を知ってか、募集しても社員志望者はなかなか来ない。むしろバイトを掛け持ちして収入を得た方がいいという人が増えている。「新しい社員が入らなければ、今の状態では結婚も無理」と語った。
 外食チェーンで働く母子家庭の30代の母親も、身分はパートだが、人手が不足して調理とホールどちらかで一人でも休みが出ればカバーに入らなければならず、朝から昼の休憩を挟んで夜九時頃まで働くこともあるという。家では小学校4年生と中学生の子ども2人が母親の帰りを待ち、遅いときには夜9時か10時から夕食を食べる状態。母親も子どもも朝起きることができず遅刻するようになり、兄弟とも不登校気味になっている。土・日は休みだが、母親は疲れて寝てしまい、どこかへ出かける機会も少ない。子どもたちは母親の肩をたたいたり、手伝いをして母親を支えている。
 こうしたなかで働く母親たちは、日日報道される虐待のニュースを目にして心を痛めながらも、「一歩間違えば自分もなりかねない」「二つ三つ仕事をして、疲れて帰ってきて子どもがいうことを聞かなければ手を上げたくなる気持ちもわかる」と切実な思いを語っている。

 スーパーやドラッグ どの部署も人手の不足

 出店競争の激しいスーパーやドラッグストアも同じだ。
 あるドラッグストアでは、市内では安い時給が少し上がったものの、今年からパート、アルバイトにも出ていたボーナスがなくなった。パートで働く女性の月収は、7万円になるかならないかだ。さらに以前は夜の時間帯は常時7人体制だったのが5人ほどに減った。夜はトイレ掃除や段ボールの片付け、冷蔵庫に入れる商品の片付けなど翌日に備えた準備に人手がとられる。店内のお客さんの対応は2、3人になり、仕事帰りの人たちが買い物に来ると息をつく間もないほど忙しくなるが、人を増やそうにも本部から許可が下りない。パートの婦人は、「夜は人は少ないのにお客さんは多い。応援を呼ばれると店長も走る。一定額以上は運送業者に委託して配達もしているが、介護施設などから大量に注文が来たときには店長が帰りに持って行くこともある。店長の人柄がよく、比較的働きやすい職場だが、店長たちは大変だ」と話す。近隣に出店してきた同業者との値下げ競争も激しくなっている。
 スーパーのパートで働く40代の母親も正社員の過酷さを心配している。自身も当初時給は730円で、最低賃金が上がったときにようやく750円になり、1日4時間、月20日働いて手取りは7万円程度だ。友人にはパートを二つ、三つ掛け持ちで働く人もいる。この地区はスーパーが集中しており、店舗間の価格競争も激しい。
 正社員のなかには午前中だけ出勤したり、昼前に帰ってまた夕方前に出勤してくるなど丸1日休んだ日はないに等しく、昼休みもとらず、食事もせずに帰るまで休みなく働いている人もいる。タイムカードを押さないまま仕事をする、残業代ゼロを先取りしたような実態が当たり前になっているという。正社員は売上目標の達成もあり、元日以外は営業しているので休みをとっても遠くには行けない。「独身だからできることで、家族がいたら奥さんや子どもの理解がなければこんな仕事は続かないと思う。自分の子どもにはこんな仕事はさせたくないと思う」と話した。
 60代の女性が働く大型商業施設では、正社員は各部門に数人ずつで、パート(月20日)とアルバイト(月15日まで)がほとんどだ。大手企業なので労基法にひっかかるような働き方はさせないが、最低賃金で、1日の働く時間がだいたい5・5時間と短く、パートで月約8万円、アルバイトでは6万円程度にしかならない。女性も5年以上働いているあいだに10円時給が上がっただけ、それも最低賃金が上がったからだった。パートはボーナスや昇給もあるが、アルバイトは時給のみだ。「若い男性アルバイトもいるが、とてもこの仕事で結婚して子どもを育てていく状態ではない」と話す。そのせいかやめていく人が多く、どれだけ募集しても人が集まらない状態が続き、どの部署も人手不足だ。売場の責任者や社員になると、昼食を食べる間もない。「オープン当初○○○人の雇用ができるといわれたが、安定して働ける職場ではなかった」と話した。
 大企業や金融資本が350兆円もの内部留保をため込むことができたのは、こうして労働者を搾取したからに他ならない。ここに高齢者や外国人労働者を導入してさらに低賃金化を進めようとしている。少子化は、若い世代が将来展望を描くことなどできない社会構造から生まれたものであり、次の世代を産み育てることもできないほど行き詰まっていることを物語っている。
 パートで得ることができる収入は25万円ではなく、首相お膝元の下関では7万~8万円が相場である。頭の中だけがデフレ脱却状態の政治家には理解できない実情がある。貧困、少子化、労働力不足、外国人労働者の拡大、さらなる搾取とすべてが連動して動いており、「1億総貧困化」社会にするものに対して、労働者の側が対抗しなければ、ますます遠慮のないものになることを突きつけている。労働運動の復活にしか展望がないことを示している。

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