いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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福島に食と農業を取り戻す ー復興に向けた五年間の取り組みー 福島大学教授 小山良太 

 東日本大震災から5年目を迎えた福島では、未曾有の原発災害の苦しみが引き続き県民生活の上にのしかかり、なかでも農林漁業者にとっては風評被害が重い足かせとなって復興の道を阻むものになっている。しかし、その後のとりくみによって、現在の福島の米や野菜から放射性物質はほとんど検出されておらず、農林漁業をとり戻し、人間と自然との営みを回復して福島を再生することは可能であることを研究者たちは発信している。生産者や協同組合とともに農地や生業の再生に向けてとりくんできた福島大学の小山良太教授に、福島の現状や作物の状況、そのなかでぶつかっている問題や復興の課題について聞いた。
 
 こやま・りょうた 1974年、東京都生まれ。福島大学経済経営学類教授、同大学うつくしまふくしま未来支援センター副センター長を務める。北海道大学大学院農学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。専門は農業経済学、協同組合学、地域政策論。共著に『福島に農林漁業をとり戻す』(2015年3月)、『農の再生と食の安全―原発事故と福島の2年』(2013年)など。

 
 全国の方方に福島の農業の現状が伝わっていない。それには大きく2つの理由がある。
 1つ目は、国が放射能のリスクばかり説明していることだ。原発事故が起こって放射性物質が降ったことに対して、「1ミリシーベルト以下であれば健康に影響はない」「20ミリシーベルトであれば大丈夫」「100ベクレル以下であれば食べて大丈夫」とか、政府の対応としては放射能のリスクばかりを説明していた。消費者なり国民が知りたいのは、どのぐらい放射性物質が降ったのか、どう汚染されているのか、どんな検査をしているのかで、簡単にいうと検査リスクが知りたかった。
 狂牛病が発生したとき、BSEの異常プリオンについて国が説明しても国民は納得しなかった。国民が知りたいのは、異常プリオンのある牛がどのぐらいいるのか、どのぐらい流通する可能性があるのか、なぜそのような牛ができてしまうのか、肉骨粉を今でも食べさせているのかということだった。それと同じだ。
 原発事故に関して日本政府が説明したことは「低線量の放射能は安全です」「食品は100ベクレルまで大丈夫」といった放射能リスクで、そもそもどんな汚染状況なのかを一切説明してこなかった。だから今回の原発事故でどれぐらい放射性物質が降ったのかはだれも知らない。放射能の科学的なことや半減期など誰も聞いてはいない。もっとも知りたいのは、どれだけ汚染されて、どうなっているのかだ。
 福島第1原発から放射性物質はこのように降った。わかるように群馬県も栃木県も宮城県南部も意外と汚染されている。しかし、こうした情報はあまり知られていない。国が放射性物質が飛散した地域について示したうえで、「このように降ったが、5年たったので○○地域では放射能は出ていません」と説明すれば国民は理解してくれる。ところが政府は放射能のリスクばかりを説明している。これが1つの問題だ。どんな検査をしているのか政府がまったく発信しないので、福島の現状が伝わっていない。
 2つ目の問題は、「福島は風評被害で大変だから応援しましょう」という情緒的なCMやイベントばかりがやられていることだ。そもそも五年たった現在、何人が避難しているのか知っているだろうか。福島では20万人避難していたのが12万人になり、そのうち双葉八町村が九万人とか、中通りが何人いるか、農家が何万人いるとか、そのような説明はない。そしてマスコミは1人の被災者に注目を集めて「大変だ」「苦労している」というものばかり流している。原発被害を津波被害と一緒にして流したりもする。しかし津波と原発は違う。津波被害にあった地域は帰ることができるが、放射能被害はさまざまな問題を引き起こすからだ。この五年間の情報発信のスタンスに問題があると思っている。
 「ここは作付けをしていない」「作付けをしているところは吸収抑制対策をしたり、全量全袋検査をしている」と説明すれば、汚染が高いところではつくっていないのだとわかる。汚染が高い双葉や浪江町でも試験的に農作物をつくっているが、それは全農地の1万分の1ぐらいだ。しかも全国で流通もしていない。そのような点を説明していないからみなが不安になる。
 福島の農家は試験的な一部地域を除いて制限区域では農作物をつくっていない。全面的につくっているのは中通り地域だ。中通り地域の人人は、どれだけ汚染されたかを土壌を測定して見ている。これをやっているのは福島県だけだ。放射能の問題は消費者にリスクを負わせないために入口対策と出口対策の2つが必要だ。例えばBSEのときを思い出してもらいたい。入口対策は異常プリオンの原因になる肉骨粉を食べさせないということだ。出口対策は偽装されないようにどういう流通をしたのか、トレーサビリティ(過程)を全て管理することだ。市場に出荷する前に、安全な餌で安全につくられた牛だと証明することが出口対策だ。入口対策と出口対策の両方で安全を確認して、初めて消費者は安心する。今ではBSEを気にして国産牛を食べない人はいない。それは安全が確認できるからだ。

 安全対策発信せぬ政府 伝わらぬ農家の努力

 ところが今やっている政府による原発災害の放射能汚染対策には、入口対策が明確に位置づけられていないし、現場では自主的にとりくんでいるものの、その様子はほとんど発信されない。事故後、福島県は土壌汚染に向き合ってきた。そして結果に合わせて吸収抑制対策をしている。セシウムはカリウムをまくと吸収を抑制できるため、福島県では全農地にカリウムをまいている。入口の時点で吸収しない対策をしたうえで全量全袋検査(出口対策)をしている。野菜も一農家、一品目ごとに必ず検査している。このような対策をやっているのは福島県だけだ。そして対策をとっている事を消費者に発信している。しかし全国的にはなかなか大大的に報道してもらえていない。それはなぜか。この対策をとっているのが福島県だけだからだ。
 先日、韓国で東北PRのイベントが中止になる出来事があった。韓国の人からすると日本から発信される情報がない。福島でおこなわれている対策の情報を正確に流せば多くの韓国民は理解できるはずだが、日本政府は福島でどんな検査をしているのかをなにも説明していない。英語版、韓国語版などでの発信もしていない。5年前の福島第1原発の事故に関しては、国会事故調査会、政府事故調査会、民間事故調査会が事故報告書を出した。しかし「原子力災害」としての5年間の報告書はどこも1度も出していない。国際的な情報発信もしないまま韓国や台湾に「輸出を再開してくれ」といっても無理なのは当然だ。原子力災害、放射能汚染対策が五年間でどうなったのかを説明しないから国際的な信頼がなくなる。チェルノブイリ事故でも報告書は書いている。旧ソ連でも、ベラルーシ、ウクライナでも書いている。それらの報告書には、避難している人が一年後に何人戻ったか、汚染地域の人人の健康調査の結果、農産物の検査でどれぐらい線量が下がってきたのか、どういう対策をしているのか、除染はどれだけ進んだのか、どれぐらい予算を使ったのか   など詳しく記している。
 それら世界と比較しても、今回の事故とかかわって日本は相当な対策をやってきている。それをなぜ政府が発信しないのかと思う。復興庁が書いているのは地震・津波が中心で、日本政府として原子力災害についての総括をしていない。原子力発電所の事故とかかわったものや廃炉に向けたとりくみについてはやっているが、「原子力災害」という公害を総括していない。これは大きな問題だ。
 福島県で生産されたコメは汚染のない会津まで全量全袋検査をしている。これは国際原子力機関などからも「会津はやる必要はないではないか」といわれている。「福島県」が汚染されたわけではないのに、なぜ放射能汚染のある群馬をやらずに会津をやるのか、実際に放射能が降った地域で検査するべきではないのかーーと。しかし日本政府はやってこなかった。群馬、栃木、宮城、茨城、千葉までかかってしまうと人口も多く大変なので、福島だけが汚染されたようにしておこうという思惑があると思う。この5年の対応を見るとそうだった。福島県以外では除染も甲状腺癌の検査も、食品農産物の検査やコメの全量全袋検査もなされていない。しかし一方で会津はやる必要はないのにやっている。そして福島だけが汚染されたイメージになった。

 国は誤ちを認め総括を 風評被害消えぬ原因

 5年間を総括するというとき、そのベースとなるのはどう汚染されたかだ。そして汚染の実態に合わせて何をしたのかが事故対策になる。原子力発電所事故であれば、どう壊れてどこから放射能が漏れたのか、それをどのように止めようとしているのかが事故対策となる。ところが、どこがどのように壊れて汚染がどう広がったのかを日本政府は公表できない。公表すれば群馬や栃木、茨城はどうなっているのかとなってしまうからだ。そのようなむずかしい問題が今起こっている。
 原発事故によって汚染されたのは福島の浜通りと中通り、そして茨城の北部、栃木の北部、群馬の3分の2の地域だ。しかし、このことは日本国民は誰も知らない。汚染地図は原子力規制委員会のホームページに載っているが、どのマスコミもこれをとりあげない。しかも千葉、埼玉、東京をみると、なぜか白地図になっている。公表されたのは東京オリンピックの誘致前だった。
 ただ福島県民はこの事実を知っている。放射能の情報は福島の新聞には掲載されるし、研究者もたくさんいるので福島県民だけは毎日の詳しい情報を持っている。だから土壌の測定や、抑制対策をしなければならないこともわかるし、汚染はない会津も含めて県内すべてのコメの全量全袋検査を続けてきた。この五年間、福島の人人だけが真面目にお金をかけて対策をしてきた。
 一方で、県境をこえたからといって放射能は降らないわけではないのに、福島の県境をこえると検査はされていない実態がある。海産物についても福島のものだけが制限されているが、同じ海域に宮城の漁師も茨城の漁師も獲りにくるのに、福島で水揚げをしないということで通ってしまう。さらに、福島沿岸や沖合の魚は回遊する。これでいいのだろうか。国際的に信用されるだろうか。科学的合理性があるだろうか。この状態で福島や東日本の海産物を輸出したいといい、買わない台湾や中国や韓国を悪くいっても問題の解決にはならない。日本政府の対策の不備のおかげで日本中が風評を被っているということだ。
 私は過去の失敗を責める気などない。ただ、日本政府は5年という節目の時期にあらためてこの5年間を総括したらどうかと思っている。1~2年目は失敗したが、今はこんなに安全になっている、福島に関しては土壌測定もして、吸収抑制対策も全量全袋検査もしていると公表して、一度政府として総括したらどうかと思う。過去については放射能汚染されたものが流通し、おそらくたくさんの人が食べている。国の責任は当然大きいが不備を認めて総括するしかないと思う。「今は安全である」ということを伝えるには「あのときは危険だった」というしかない。なぜならば、福島第一原発の爆発事故のときは誰もが「日本は大丈夫か」と不安になったはずで、そのイメージは今も強烈に残っているはずだからだ。問題は、その後にどんな安全対策をしてきたのかを誰も知らないことだ。
 消費者庁のアンケートによると、福島県が安全対策をしていることについて知っているのは、国民全体の二割しかいなかった。八割の人は知らない。国民でさえこのような状況なのに、世界に理解してもらえないのは当然だ。

 全農地調べ安全可視化 吸収抑制対策の効果

 福島県の農家のみなさんはたいへんな努力をしてきた。私は県北地域の福島市でJA新ふくしま(3月1日よりJAふくしま未来に再編)とともに管内の農地全筆の汚染マップの作成を進めてきた。農地全部では9万9000筆に及ぶ。山口県と同じで、福島の水田は1枚1枚が小さく1反に満たないものがたくさんある。そのすべての水田について水口、真ん中、水尻の3カ所を測定した。終えるのに2年半かかった。この事業は国のお金も入っておらず、全員ボランティアでやり遂げた。口でいうのは簡単だが、水田10万枚の測定作業はほんとうに大変なことだ。山の向こうにある1枚の小さな水田を測定するために山を登ったりもした。政府も国も県もやらないから、すべて地域農協と生協(生活協同組合)のみなさんのべ360人に来ていただいて測定した。生協の職員さんや組合員のみなさんは「自分たちが食べるものだから」と協力を惜しまず、福島の農家として「自分たちがどういうとりくみをしているのか、その現実を見てほしい」ということで、2014年度までに全筆終わらせた。
 できあがった汚染マップをどう使っているかというと、コメに関しては福島市内で汚染度が高いのはどの地域か、出荷可能になった2012年からどの地点で基準値超えが出たのか、がわかる。放射能は目に見えず、臭いもせず色も見えない。だから可視化して正直に共有した。昨年の状態を見ても、吸収抑制対策をしているからほとんど放射能は出ていない。それが目で見てわかるようになっている。
 セシウムは時間がたてばなくなっていくものだ。とくにセシウム134は半減期が2年だから5年たった現在はだいぶ減っている。マップを見ると、それが実測値としてわかる。こうした正確な情報を目で見て、「むしろ福島のコメの方が子どもたちにとって安全なのではないか」「計っていない他県のものよりも…」と、地元給食でも使われるようになった。あるいはかかわってくれた全国の生協の方方が、福島県北のコメや農産物を買うようになってくれている。そうやって信頼をとり戻すとりくみを草の根でやってきた。大変だったが、そうしないと農家は安心して作れないし、安全なものを消費者に届けることができない。だから真面目に対応してきた。すべての農地に、お金はかかるがカリウムをまいて吸収抑制対策をしている。農家のとりくみとしてはこれ以上にない。そして福島県産のコメは年間生産量の約35万㌧、約1000万袋(1袋=30㌔㌘)をすべて全量全袋検査している。先ほどのべた入口対策と出口対策だ。
 土壌の成分分析をすると、もうカリウムをまかなくてもいい農地もあるが、念のため毎年全てにまいている。塩化カリウムとケイ酸カリウムという二種類の肥料があるが、塩化カリウムは水に溶けやすい性質を持っている。水田に撒くと溶けてなくなってしまうかわりに効きやすい。ケイ酸カリウムは土のなかに残るが作物には効きにくい。だから私たちは即効性のある塩化カリウムをまいている。しかし肥料持ちが悪いので、毎年、全農地にまいている。本当をいうとまかなくてもいい田んぼが大半だが、念には念を入れてやっている。
 
 作物に移らぬセシウム 鍵となった日本の土

 放出されたセシウムは、溶存態という形態と粒子態という2種類の形態になっている。原発事故が起きた直後のセシウムは溶存態で、簡単にいえば自由に動けるもの、空気中や水に溶けて漂っている状態だ。反対に粒子態セシウムというのは、別の粒子に吸着してしまった形態のもので、畑や水田、ブロック塀やアスファルトなどに吸着してしまうととれない。つまり、田んぼや畑のなかにあっても、粘土と吸着してしまえば作物がそのセシウムをほとんど吸えないことになる。土から作物にどのくらいセシウムが移行するのかをあらわした、移行係数というものがあるが、キュウリは移行係数が0・0001。つまり土壌が1000ベクレルであれば0・1ベクレルしかキュウリに移行することはない。作物に対する移行係数は低い。逆にいうと、土の中に入ったセシウムをキュウリは99・999%吸い上げることはできない。
 みなが一般的に作物がセシウムを吸い上げるといっていたのは、チェルノブイリ事故の話だ。チェルノブイリ事故が起きたベラルーシやウクライナの土は、日本の土とは違ってセシウムを離しやすい性質を持っている。日本の土の成分はバーミキュライト、イライト、ゼオライトなどの雲母由来の土で、ベラルーシやウクライナの土はモンモリロナイトなど非雲母由来の土だ。土は顕微鏡で見てみると、ミルフィーユのように結晶体が層状になっている。日本の雲母由来の土は結晶体が密に重なっている。一方でベラルーシなどの土は結晶体が離れて隙間があいている。だからセシウムは一度吸着しても出て行ってしまう。日本の土は一度入ると閉じてしまってとれない。日本の土と外国の土の粘土構造の違いがある。
 そしてセシウム自体はプラスの電荷を帯びており、粘土鉱物はマイナスの電荷を帯びている。セシウムがイオン化したものはプラスのイオンなので、マイナスイオンの粘土構造のなかにつかまりやすく、結晶構造のなかにとり込まれやすい。そして日本の土というのは入ると閉じる構造を持っており、とり込んだあとに離しにくい。だから、日本の粘土は空間線量は高くガンマ線は出ても、セシウム自体をとり出すことは難しい。一度粘土のなかに入ってしまうと作物の根は粘土ごとは吸えないから吸収できない。
 原発事故が起こった1年目は溶存態のセシウムが多く、田んぼや畑に降ったものが溶けた水をそのまま根から吸っていた。だから1年目は高く出ていた。しかし2年目以降は水を一旦流して再度引いているから、粘土のなかに入ってしまっていて根から吸うことはできないようになった。畑などからは一切出ていない。
 ただ水田に関しては2年目以降も1部に出ることがあった。それはなぜか。考えられるのは、水田に引いた農業用水自体にセシウムが含まれている場合や、あるいは田んぼのなかに入っている有機物質(堆肥など)が分解したときに、セシウムを放出したのではないかとみられている。夏場の水田は40度をこえるが、その時に水田に入っている枯れ葉などの有機物質の分解が促進されることがある。枯れ葉や堆肥のなかに含まれていたセシウムが分解されることによって放出されるケースもあるのではないかといわれている。イネが一番成長するのはお盆前だが、いわゆる出穂期(八月上旬)は一番有機物質が分解しやすいため、この時期に吸ってしまったのではないか   と。
 しかし、通常は土に入って5年もたってしまったセシウムはとれない。だから半減期を待つしかない。溶存態セシウムであれば吸着することはあるが、一度粒子態になったものを粘土から移行させることは不可能だ。実験室でもやっているが、硫酸で溶かしても溶けない。つまり今やっているのは吸収抑制対策だ。農地を天地返しなどすれば空間線量は下がるが本当の除染にはならない。カリウムやゼオライトをまいてもベクレル数は変わらない。だからゼネコンはもうかったかもしれないが、何兆円もかけてやってきた「除染」は必要ないと思っている。
 福島で真面目にとりくんできた人人は今、自信をもって安全性を説明できる。初めは汚染状況も汚染対策もよくわからなかったので、2011年、12年は農家は自信をなくし不安のなかで作っていた。しかし、この間のとりくみによって、他の県に比べても圧倒的に安全であることもわかっているから、今はみなが自信をもって作っている。むしろ、他県の農家からの方が計れば検出されるかもしれない。あるいは自分で測って検出されても、その事実を隠して売っている人もいるかもしれない。しかし、福島県は全量検査で隠せないからみんなが真面目にやっている。福島の方がむしろ安全だというのはそういう理由からだ。

 真の復興に踏み出す時 現状の正しい分析を

 放射能汚染対策をするのに現状分析をせずにはできない。私が汚染マップの作成を提唱したのは、現状分析をまずしてくれという意味だ。どこに放射性物質が降り、どういう人たちが避難していて、営農の再開には何がハードルになっているのか。今の対策はそのような現状分析を十分にはしていない。さらにいえば損害に対する補償も、個人賠償で1人1人に10万円を配っているだけだ。点ではなく面的な損害については何の調査もされてこなかった。たとえば生産部会や青年部、村の祭りや消防団が維持できない問題が起きているがこれも損害だ。面的な部分の損害の調査や賠償をなしにして「帰村しろ」といっても復興できるわけがない。
 重要なのは5年間たった今、現状分析をしたらどうかということだ。そのためにも放射性物質がどこにどうやって降ったのかを明らかにすることが必要だ。もしかしたら放射性物質が降っていないのに避難してしまっているのかもしれない。逆に汚染度が高いのに営農をしているかもしれない。この五年間は現状分析なしで対策をしてきているが、6年目からは復興予算も削減される。本当の復興をするために、この五年間で何ができて何ができなかったのかを整理する必要がある。そのうえで必要ない「除染」や風評対策をやめ、汚染マップの調査も福島が整備されたなら栃木、茨城もやってみたらいいと思う。現状分析なしでやると、「イベントをやってみよう」とか「CMにお金を使ってみよう」ということにしかならない。一番重要な山の除染はせずに、平場の「除染」ばかりするのも同じ事だ。
 原発に近い双葉郡については、5年間避難しつづけて作付けもできていない。通常の放射能汚染というよりは、二次的な被害によって長期間にわたって人が住んでいないし、作付けをしていないことによって損害が出てきている。避難先で新しい就職が決まったとか、進学してしまったとか、子どもが大きくなったとか、生活基盤そのものが大きな変化を余儀なくされ、二次的な被害が出てきているのが双葉八町村だ。単純に「空間線量が下がったから帰ってこい」というだけでは誰も帰ってこない。「線量が下がったので営農が再開できる」といっても、「五年間も荒らしておいて今からやるのは難しい…」という人もいる。
 そもそも原発事故前の福島県の農業者の平均年齢は69歳だった。あれから5年たっているから、普通に考えて74歳になる。そのようなところで5年間営農させていないという事実を考えないといけない。多くは離農してしまった。新しい担い手をどう確保するか、今までやっていないところで農業をやるとはどういうことなのか。そうした問題について、現実に即して解決にあたらなければ本当の対策にはならない。

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