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ぞっとする人口減少社会の現実 「豊かな時代」に未来先細るのはなぜか

 少子高齢化社会や人口減少社会の到来が叫ばれている。団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題、18歳以下の人口が減少期に入る2018年問題など、急速に進む若い世代の減少が、医療や介護、年金制度の崩壊、教育機関の統合・倒産、労働力不足、購買力低下など、さまざまな側面から日本社会に深刻な影響を与えることが頻繁にいわれている。

 

08年をピークに坂道を転落 わかっていて対応せぬ異常さ

 

 

 明治以来人口増加が続いてきた日本社会だが、2008年をピークに減少に転じており、この事態は早くから予測されてきた。しかし、それを解決する見通しは見えない。根本に若い世代の非正規雇用化なり貧困化の問題があり、また一方で子育てや家庭生活まで含めた社会的な支援体制は旧態依然として乏しい。生命の再生産すらできない社会になっている。世界的にも「先進国」と呼ばれる国国は大なり小なり似たような状況にあり、今後人口増加が見込まれるアフリカ大陸に活路を見出す動きにもなっている。


 昨年末、厚生労働省が発表した推計で、2017年に生まれた赤ちゃんの数が94万1000人と、2年連続で100万人を下回ったことが明らかになった。統計をとり始めた1899年以降最少である。一方で、一年間に死亡した人は戦後最多の134万4000人で、自然減は昨年一年だけで約40万3000人と、過去最大の減少数となった。人口減少は11年連続だ。


 出生数が初めて100万人を割ったのは2016年だが、昨年はそれを上回る少なさとなった。25~39歳を中心とする出産適齢期の女性の減少に加え、一人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)も1・44(16年)と、人口を維持できるレベルにない。今後も出生数の減少は続くと見られている。ちなみに、結婚は約1万4000組減の60万7000組で、戦後もっとも少なかった。


 日本では明治維新以後、急激な人口増加が始まり、戦中・戦後一貫して増加を続けた。1967(昭和42)年には1億人を突破し、2008(平成20)年には1億2808万人とピークに達した。だがその後減少に転じ、今後は急激に減少していくことが見込まれている。


 真っ先に少子化の影響を受けている教育機関では、公立小・中学校、高校の統廃合に続き、2018年問題を抱える大学では、その4割で定員割れが起こっており、倒産を回避するため他大学と統合する動きも始まっている。


 国立社会保障・人口問題研究所が2015(平成27)年国勢調査結果をもとに出した推計では、総人口は国勢調査時の1億2709万人から2040年の1億1092人を経て、2053年には1億人を割り込み、50年後の2065年には8808万人になるとしている(いずれも出生中位の推計)。前回推計より若干、人口減少のスピードは緩和したが、減少し続けていくことに変わりはない。


 「増え続けてきた人口が元に戻るのだから悲観することはない」といった論調も一部あるものの、人口が8500万人規模だった戦後の1950年をみると、当時は64歳以下の人口が総人口の95%を占め、65歳以上は5%程度と年齢構成の若い社会だった。しかし、今後来る同規模の社会は、64歳以下が約6割、65歳以上が約4割という超高齢化社会だ。働き手が減少し、高齢者が増加することで、年金制度や医療、介護制度が立ちゆかなくなること、税収の減少などが危惧されている。


 すでに飲食業やコンビニなどのサービス業、建設業、運輸、介護など各産業で人手不足が深刻となっている。それを穴埋めしているのが、外国人労働だ。今やコンビニや飲食店で働く外国人店員の姿は、都市部でも地方でも珍しくない光景となっている。

 

専業主婦急激に減少  少ない非正規の既婚者

    

 労働力不足が顕在化するなかで、政府は「女性の活躍」「生涯現役」「生産性革命」など、次次にスローガンを考え出して叫んでいる。女性や高齢者、外国人を労働力として活用すること、さらにはAIなどロボットで日本社会を維持しようという。ただ、すでに女性の多くは働いており、専業主婦は急速に減少している。高齢者も年金の受給開始年齢の引き上げ、支給額の引き下げといったなかで、退職後も働く人の方が多くなっている。それでも人手不足は深刻だ。


 安倍首相は「名目GDPが過去最高になった」「人口減少でも成長できることを示した」と主張しているが、次の世代が再生産されない社会に未来を展望することはできない。人口を維持するには2・07の出生率が必要とされるが、日本では1989(平成元)年に1・57となり、以後30年にわたって2・0を割り込んだままだ。


 数百万円の奨学金という借金を背負って社会に出て行く大学生たち、非正規雇用の増加など、少子化の背景に若い世代の貧困化があることはいうまでもない。「結婚して子どもを産むなど贅沢」という感覚を持つ世代もいるのが現実だ。

 


 非正規雇用が働く人の4割にのぼっているが、正社員の平均給与が486万9000円なのに対して、非正規雇用は172万1000円だ。それは未婚率にも大きく影響している。とくに30~34歳の男性になると、正社員で結婚している者の割合が6割近くになるのに対して、派遣労働者は23・8%、パート・アルバイトになると17・1%と2割にも満たないなど、その差は顕著となっている。


 また、既婚者のなかでも、夫婦が理想とする子どもの数と実際に産む人数には開きがあり、その理由に「子育てや教育にお金がかかりすぎる」ことをあげる人がもっとも多くなっている。離婚の決定的要因となるのも経済的な問題がほとんどだ。日本社会がいかに子どもを生み育てにくい社会になっているかを示している。


 この傾向は、「先進国」といわれる諸外国も同じだ。フランス、スウェーデン、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリアの合計特殊出生率は1960年代までは2・0以上の水準だったが、70年代から80年代にかけて低下していった。フランスやスウェーデンなど、その後回復しつつある国もあり、7カ国のなかで最低なのがイタリアの1・35、次いで日本の1・45、ドイツ1・50(2015年時点)となっている。


 明治維新から150年をへて、少子化という形で急激に日本社会が縮小し始めている。歴史的な視点から、この動きを文明システムの転換期だと指摘する声もある。

 

 静岡大学の鬼頭宏氏は、日本列島の場合、縄文時代後半、平安~鎌倉時代、江戸時代中期が人口増加が停止するか、減少した時代であり、これからの人口減少は4回目だとのべている。もちろん飢饉や疫病、災害など自然に端を発する変動もあるが、多くの場合は、人口を増加させられない社会の構造的な問題が要因であったという。一つの時代を形作っていた生活様式のもとで人口は増加し、人口支持力の限界に達すると一旦増加が止まる、ないしは減少に転じる。歴史を見ると、それを打破したのは新しい資源の利用なり、新技術の採用、新しい制度への転換だったと指摘し、現在の人口減少は、過去と同様に文明システムの成熟化、産業文明の行き詰まりを反映したものだと指摘している。


 封建制の時代に比べて現代は物質的にもはるかに豊かになった。しかし、子どもを産み育てることが昔と比べても困難になっていることをあらわしている。人口は国力をそのまま映し出すといわれてきたが、この衰退傾向が資本主義各国で共通現象としてあらわれている。社会全体の未来を捉えない政治・経済の構造こそが、その桎梏(しっこく)となっていることは歴然としている。子どもを産み育てるという当たり前の営みをとり戻すために政策を転換させる行動が急務となっている。

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