いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

大川原化工機事件とは何か 警察・検察がでっち上げた度外れた冤罪事件 政治に忖度し出世欲で事実を捏造

国家賠償請求訴訟の判決後に「勝訴」と書かれた紙を掲げる大川原化工機の大川原正明社長(昨年12月27日、東京地裁前)

 生物兵器の製造に転用できる機器を無許可で中国に輸出したとして逮捕、起訴され、その後一転して起訴がとり消された大川原化工機(横浜市)の社長らが、東京都と国に損害賠償を求めていた訴訟の一審判決が、昨年12月27日、東京地裁で出された。判決は、警視庁公安部の逮捕と、東京地検の勾留請求・起訴をいずれも違法と認め、都と国に計1億6000万円の賠償を命じた。一方、これを認めたくない都と国は1月10日、控訴した。今回の事件は、日本の警察、検察、裁判所がいかなるものかを浮き彫りにしている。

 

 今回の事件は、大川原化工機が自社製の噴霧乾燥機をドイツ大手化学メーカーの中国子会社に輸出したことが、外為法上の輸出管理規制に違反するとして、同社社長の大川原正明、取締役の島田順司、顧問の相嶋静夫の3氏が2020年3月に逮捕、起訴されたものだ。

 

大川原化工機の密閉型スプレードライヤ

 噴霧乾燥機とは、液体などを熱風中に噴霧して溶媒を蒸発させて粉末を得る装置で、インスタントコーヒーやインスタント食品の粉末スープ、製薬産業の乾燥粉体の調整などに幅広く使われている。大川原化工機はこの技術の日本におけるリーディングカンパニーで、国内だけでなく中国や東南アジア、欧米などに輸出してきた。

 

 この噴霧乾燥機が、生物化学兵器の製造に転用される恐れのあるものとして規制対象になったのは、2012年のことだ。規制対象になる噴霧乾燥機の条件は、病原性微生物を生きたまま粉体化することが可能であることに加え、三つの条件をすべて満たすものと規定された。

 

 そのうちの一つの条件が、「定置した状態で内部の滅菌または殺菌をすることができるもの」だった。つまり、装置を分解せずにそのままの状態で、内部の病原性微生物を殺し尽くすことができなければ、菌が外部に拡散してしまい、生物化学兵器の製造に使えないからだ。大川原化工機の噴霧乾燥機は、滅菌ができるほど高い温度になる構造ではなく、滅菌は不可能だった。

 

 ところが、公安による見込み捜査は2017年頃から開始され、同社の役職員48人に対してのべ26四回に及ぶ任意の取り調べがおこなわれた。公安は、同社が中国の軍需企業とのつながりがあると想定して家宅捜索もおこなったが、もちろん証拠は出なかった。

 

 2020年3月に逮捕された3人は、一貫して無罪を主張し続けたが、勾留は11カ月にも及んだ。勾留中に体調を崩し胃がんであることがわかった相嶋氏は、保釈請求を7回もおこなったが拒否され、2021年2月に死亡した。保釈を拒否したのは裁判所だ。

 

 しかし同年8月、東京地検が「同社の噴霧乾燥機が法規制の対象になるとの立証ができない」という理由で、一転して起訴を取り消し、「全面敗北」を宣言した。

 

偽調書作成し、嘘で恫喝した公安

 

 今回の東京地裁の判決は、第一に、公安の任意聴取で同社の複数の従業員が「うちの噴霧乾燥機は滅菌に必要な温度に達しない構造だ」と具体的に説明したのに、実験して確認することなく逮捕したこと、検察も公安の捜査をチェックせずに起訴したことは違法だとした。

 

 第二に、公安の取り調べも違法とした。担当する警部補は、被疑者をだますようにして供述調書を作成したり、弁解録取書(逮捕直後の取り調べ調書)では被疑者が発言していない内容を書いて署名・押印させた。

 

 ただし判決は、逮捕・起訴の根拠となった経産省の輸出規制省令を公安がねじ曲げて解釈し、捜査機関が事件を捏造したとする同社側の主張は退けた。

 

 一方、大川原化工機の代理人弁護士は、この裁判の経過を詳しく発信している。そこから次のことが明らかになっている。

 

 捜査の中心にいた警部補は、島田順司氏の任意取り調べを35回おこない、供述調書を書いている。その調書は、警部補が取り調べの前に作成していたもので、捜査機関に有利な虚偽の事実が散りばめられていた。そして、島田氏が誤りを1カ所指摘するたびに調書を取り上げるなど、内容を十分に吟味することを妨害した。

 

 取り調べでは、「菌が少しでも死ねば殺菌に該当する」という独自の見解を断定的にのべたり、「大川原化工機の噴霧乾燥機が中国のあってはならない場所に納入されていたのが発覚した」などのウソで島田氏を恫喝した。

 

 逮捕後の弁解録取書では、「大川原氏らと共謀し、輸出規制に該当する不安を抱えながら無許可で輸出した」という事実と異なる文章を事前につくっておき、島田氏が削除するよう求めると、修正しないまま、修正したように装って署名・押印を求めた。気づいた島田氏は、「警察がまさかこんなことをするとは信じられない」と強く抗議した。

 

 これについては、昨年6月におこなわれた証人尋問でも明確になっている。原告側弁護士から「経産省が解釈を決めていなかったことに乗じて、公安部が事件をでっちあげた。違いますか?」と聞かれると、別の警部補は「まあ、捏造ですね」「逮捕・勾留の必要性はなかったと思います」「幹部が捏造しても、さらに上の立場の人が防げた可能性がある。すでに捜査員からの内部告発が出ていたのだから」と答えた。

 

 続けて弁護士が「立件する方向になった経緯は?」と聞くと、「捜査員の個人的な欲だと思う」「立件しなければならない客観的な事実はないのに、大量に捜査をしたということは、捜査幹部にそういう欲があったとしか考えられません。定年を視野に、どこまで上に上がれるのか考えたということです」とのべた。

 

 3人が逮捕された当時、アメリカにこびへつらう安倍政権が中国を念頭に置いた「経済安保」の旗を振り、警察官僚・北村滋がトップの国家安全保障局にその司令塔である「経済班」が新設された。そのもとで警察や検察、裁判所が安倍政権を忖度して捏造をおこない、みずからの出世のために一般市民の生活を踏みにじってはばからなかった。他方で東京地検特捜部は、政治資金規正法違反が明白な安倍派幹部の立件を見送っている。今回の事件についても、徹底的な検証がされなければ国民は誰も納得しない。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。