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破局的な原発大災害 福島第一原発で爆発や炉心溶融

  11日に起きた東北地方太平洋沖を震源とする大地震は、日本列島を未曾有の惨事に陥れている。マグニチュード9・0、最大震度7という、国内では観測史上最大規模、世界でも史上4番目といわれ、震源付近の東北地方をはじめ、北海道、関東、東海、北陸の東日本全域を巻き込んだ大震災となっている。大規模な揺れに加え、広範囲にわたって高さ最大10㍍を超す津波が沿岸部の町もろとものみ込み、壊滅的な打撃を与えた。宮城県知事は県内の死者数が万人単位になるとのべた。だが、確認するすべもない全地域の行方不明者を含めると犠牲者の数はそれをさらに上回る規模となる。そして今、最も恐れられているのは、太平洋側に林立する原子力発電所の異常事態である。福島第1・第2原発10基のうち6基に緊急事態宣言が発せられた。破局的な原発大災害の危機がつくり出されている。
 もっとも深刻な事態に陥っている福島第1原発1号機は、地震時に自動停止したものの、交流電源も喪失し、炉心を冷やす冷却水の循環が不可能になった。さらに、緊急用ディーゼル発電機も作動しなかったため「最後の砦」といわれる緊急炉心冷却装置(ECCS)が機能せず、原子炉圧力容器内の水が極度に減少。本来、水に浸かって冷やされるべき燃料棒がむき出しになり、炉内の温度は2800度にまで上昇し、炉心が溶け出して大量の放射能物質が放出される炉心溶融(メルトダウン)の事態となった。
 政府からは「正確な情報にもとづいて落ち着いて行動を」「想定の範囲内であり、弁を開けて蒸気を放出すれば問題ない」といってなんの具体的情報も提示されぬなか、12日午後3時すぎには1号機の原子炉建屋が白煙を上げて爆発し、外壁が崩壊。全国、世界を震撼させた。
 爆発から2時間半後の午後6時にようやく会見した原子力安全・保安院も、炉心が損傷や溶解している可能性を暗に認めながら、「映像以上の情報がない」「どこが爆発したのかもわからない」としどろもどろで説明ができない。枝野官房長官も「なんらかの爆発的事象である」「現時点では10㌔圏内からの待避ということを超えて万全の策を取らなければならないという状況ではない」とさらなる避難対策の必要性を否定した。避難範囲が半径20㌔に拡大されたのは、1号機の爆発からすでに三時間も経過してからだった。
 その後の会見でも、枝野長官は「爆発は建屋内にたまった水素が爆発したもので、損傷したのは外壁だけで原子炉容器が爆発したわけではない」とし、「人体に影響があるほどの放射能物質は出ていないので安心してほしい」「想定される範囲であり、原子炉格納容器は制御されている。著しく放射線の数値が上昇しているわけではない」と弁明に終始。また、冷却機能を失った1号機、3号機は、炉内の圧力を下げるために圧力容器内の蒸気を弁を操作して外気へ放出(ベント)することで「安全性を保っている」「放射能は微量」と強調した。
 しかし、原発の安全性は、炉心を覆う鋼鉄製の圧力容器、格納容器、鉄筋コンクリートの建屋の3つの壁で守られていることが前提だが、爆発によって格納容器が直接外気にさらされる無防備状態となっている。また、原発敷地内では、核分裂によってしか生じないセシウムやヨウ素などの放射性物質がすでに検出されており、それは核燃料を覆っている合金の被覆管だけでなく、燃料そのものが炉内で溶け出していることを意味する。セシウムは、半減期(放射能量が半減する時間)が30年と長く、飛散しやすく、体内にも入りやすい特徴をもち、一度汚染されれば除去することは不可能といわれる。弁を開放することで、それらの核物質が排気筒から直接外気に吐き出されており、それは「微量」「安全」などといえる状態ではない。
 専門家は、「ベントは格納容器の自殺行為」「安全どころか原発の設計をはるかにこえる事態であり、チェルノブイリを超える破局的事態に進みかねない」と警鐘を鳴らしている。チェルノブイリ事故では、広島型原爆500発分の死の灰が空中にまき散らされ、大量の死者を生み出している。
 13日になって、福島第1原発の3号機の冷却装置が機能せず、1号機と同様に燃料棒が水面からむき出しになっていることが明らかになり、海水の注入にも失敗し、高温の燃料棒が露出したまま融解している可能性が明らかになった。3号機は、1号機よりも出力規模も、核燃料の量も倍であるうえに、燃料はウランではなく、プルトニウムを使用したMOX燃料であり、この高濃度の核物質が拡散すれば史上類のない破滅的事態となると指摘されている。
 国民の安全と生命を守ることに全責任をもつのが政府であるならば、考えられる最悪の事態を想定し、国民に対して「用心せよ」と発して最大限の安全策を講じるのが当然である。だが政府閣僚から原子力安全・保安院の役人の会見は、一貫して事後報告と「安心せよ」「たいしたことはない」の釈明と情報封じ込めである。会見で醸し出す雰囲気からして、危機意識、責任感が乏しく、生命の危険にさらされている被災地の住民をはじめ、固唾をのんで見守っている全国民の感情とは明らかに別世界である。

 世界的に被害及ぶ問題  海外メディア危機感

 この事態についての客観性をもった反応は、むしろ海外政府やメディアのなかに見ることができる。
 米CNNテレビは、原発爆発を受けて緊急報道をおこない、「核の大惨事につながる恐れもある。危機回避は時間とのたたかいだ」とする専門家の見方を引用し、「避難範囲を広げよ」と求めた。また、各紙が日本の原子力緊急事態宣言を紹介し、「冷却水がなくなれば、米国最悪の原子力事故であるスリーマイル島事故と同じメルトダウンがはじまる」と大大的に報じた。
 チェルノブイリ事故を経験したロシアでは、即座に日本に近い極東地域での大気状況の監視を強化した。メディアも「日本のチェルノブイリはロシアへの脅威か」とセンセーショナルに報じ、早急な対応をしなければチェルノブイリ級の被害を出すことを指摘している。
 イギリスのBBC放送は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故や、米スリーマイル島原発事故と重ね、「チェルノブイリ事故に似てきた」とする識者の発言を紹介し、爆発映像を繰り返し放映。フランス政府が「関東平野から待避せよ」と在日大使館へ指令を出しているという情報もある。
 ロイター通信も、原子炉格納容器から蒸気を放出したことなどに触れながらも、「危険が去ったとは到底いえない」と指摘している。各国メディアは、日本政府の情報に懐疑的であり、政府が「10㌔圏内から避難すれば安全」などといっているのと対照的に世界的に被害が及ぶ問題として危機感を露わにしている。
 被災地一帯は全国でも有数の「原発銀座」であり、福島第1(六基)、第2原発(4基)、宮城県の女川原発(3基)、茨城県東海村の東海第二原発(1基)、青森県の東通原発(1基)、六ヶ所村の原子燃料サイクル施設など原子力施設が林立している。一つの異常事態でも大問題だが、各施設の多重故障によって、炉心溶融が同時多発的におこり、連鎖的に被害が広がる可能性が指摘されている。その事態になれば、東北地方はおろか、首都圏も含めて広範囲が放射能で汚染され、想像を絶する悲劇的な惨事となる。

 放射能をあびた住民も 原発被害は人災

 菅政府が「逃げられない人は建物内で待機せよ」とノー天気なことをいっている間に、13日午前、半径10㌔圏内に残されていた双葉厚生病院の患者や職員、老人施設に入居していた住民ら190人の被曝が明らかになっている。また福島原発の作業員が大量の放射能をあびていると見られ、すでに死者も出ている。13日8時時点で、10㌔圏内には80人、20㌔圏内では6万人が残っており、住民の間では「避難せよというがどこに逃げたらいいのかさえわからない」「逃げる方法すらない」と混乱しており、公的機関の誘導が機能していない。
 これに対しても、政府は現地の自治体まかせで具体的な対策を示さず、「(被曝した)本人が体調に異常はないといっている」ことを理由に「被害は軽微」と主張している。しかし日本人は広島、長崎の深刻な経験を忘れることはできない。放射能は人間の核細胞を破壊し、ある程度の期間を経てがんや白血病という致命的な病を誘発するものであり、自覚症状だけで判断できるものではない。さらに、放出された核物質は、家屋や農作物を汚染し、風に乗って数百㌔も飛散し、上空に上がったものも雨が降れば土壌を長期に汚染する。
 地震は天災だが、原発被害は明らかな人災である。歴代政府は「原発は安全」「クリーンなエネルギー」と大宣伝して地震列島日本の海岸線に五四基もの原発を建てまくったあげく、実際に事故が起きると、危機的な事態を隠蔽していまだに「大したことはない」といい続け、避難しようとする人人を足どめさせ、さらに被害を拡大しようとしている。万事アメリカのいいなりで国益を守る意識さえ喪失し、目先のもうけ第一で「あとは野となれ」の極度に腐敗した日本の政治家や官僚らの統治能力のなさが、事態をより深刻なものにしているのである。
 地震・津波被災地の手の施しようのない実態を目の当たりにし、全国の人人がわがこととして心配している。現地では、役場ごと津波に飲み込まれた地域や役場職員、業者なども犠牲になっており、救援や避難住民の保護体制が取れておらず、一刻も早い救援体制の確立が必要となっている。言葉も通じない米軍や海外の救援チームをあてにするまえに、全国の失業者をふくめ、労働者や建設業者、医療関係者、輸送業者、漁業者などに号令をかけるなら、事態を打開する大きな力になることは疑いない。目下の危機的状況打開とともに日本社会を根本的に立て直す実体ある力が強まるのは必至の趨勢にある

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