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福島原発20㌔圏内立ち入り禁止 補償もせず故郷から追い出す政府

 福島第1原発の事故をめぐって菅民主党政府は22日、原発から20㌔圏内を住民の立ち入りを禁じる「警戒区域」に指定した。これまでの「避難指示」よりも強制力を持ち、立ち入り禁止や退去命令に従わない場合は10万円以下の罰金、拘留もできるという罰則付き。国道の検問所では、「立ち入り制限中」の掲示板が「立入禁止」に切り替わり、警察によって道路が封鎖された。「国民主権」どころか住民の生存権をも無視したデタラメ極まる強権発動によって、帰宅を待ちわびていた住民はさらに見通しの立たない次元へと追いやられた。原発建設から始まる「棄民政策」は、事故後、改めるどころかさらにエスカレートしており、故郷を追われた住民の怒りは臨界点に達している。

 退去命令拒めば罰金や勾留

 県外や他市町の避難所での生活をよぎなくされている住民には、1世帯1人に限り最大で2時間程度の一時帰宅が認められる。防護服を着て、バスに乗り合わせ、警察の誘導で区域内に入り、手に持てる程度の「必要最小限」の荷物を運び出すことができる。だが、半径3㌔圏内は「放射線量が高い」ため対象外とされている。
 地震直後、なんの説明もない避難指示で、貯金通帳や身分証明書はおろか生活用具さえ十分に持たぬまま避難した多くの住民は、「問答無用」で1カ月半に及ぶ避難所暮らしを強いられてきた。4基の原発大災害に発展したのちも、20㌔圏内の放射線量は明らかにされず、いつ家に戻れるのか、生活をどう補償するのかについて明確な政策はなく、先の見通しが立たないままの流民状態に置かれてきた。家畜を残したままの農家をはじめ、再起に必要な機械や資料、重機などの生産財を置きっぱなしの地元企業も多く、国が一刻も早く実態を明らかにし、帰宅を許可しなければ「復興は一歩も進まない」状態だった。
 だが、政府が発表したのは、帰宅許可ではなく、より制限を強化した「立ち入り禁止」措置。しかも、枝野官房長官が「警戒区域」を発表したのは21日の午前11時すぎであり、「立ち入り禁止」実施の22日午前0時までわずか13時間という短さで、家財道具を運び出すことすらできない。政府は、「住民の安全のため」と説明するが、住民の生活や財産の保護は完全に無視しており、そこには原発周辺への立ち入りを規制したい政府の思惑しか見えてこない。機密だらけで情報隠蔽をしてきた原発だが、事ここに至ってもまだ事故の実情を隠すためなのか、またはさらに大きな破局的事態が予測されていることさえうかがわせる。いずれにせよ住民が手放すことになる家、土地、財産、家畜などについての補償、避難民に対する具体的な生活の補償すら示されないまま、故郷に戻る自由だけが奪われる格好だ。
 また、20㌔圏内には、年配者を中心にまだ数十人が残っており、これに対しては「罰則」をちらつかせた強制退去を迫ることとなる。政府からまるで「道具」のようにもてあそばれてきた8万人もの避難住民の怒りは頂点に達している。
 その後、ノー天気な顔で福島県内の避難所を「慰問」に訪れた菅首相は、「早く家に帰せ!」「こんなところに来るヒマがあったらさっさと原発を停めろ!」と住民の怒号を浴び、住民の生活、感情すら理解できず、目を泳がせながら謝罪と弁解に終始。その姿は、この国の政治の実態を全国の人人に深く実感させるものとなった。

 家畜の世話させぬうえ死骸の処理も自己責任

 「警戒区域」内には、牛3300頭、豚3万匹、ニワトリ63万羽、馬100頭などの家畜が1カ月間放置されており、大半は栄養不足で衰弱したり、死亡しているとみられている。飼い主が避難する際に放した牛だけは、なにごともなかったように走り回っている。
 福島県は25日、弱っている家畜について、飼い主の同意を得て殺処分をする方針を発表し、区域内への立ち入りを始めた。だが、国は、住民の立ち入り禁止をしており、最終的には放置されたすべての家畜が殺処分されることを意味している。
 とくに浪江町や南相馬市小高区は、阿武隈山系の豊かな高原を生かした畜産業が盛んなところで規模も大きいことで知られる。この地域の豊富な牧草を食べて育った子牛は肉質に定評があり、市場に出された後は山形県の米沢牛、岩手県の前沢牛などの高級ブランド牛として育てられてきた。最近では、口蹄疫で畜産業が大被害にあった宮崎県からも多くの買い手が訪れ、高値で取引されていたといわれる。
 原発から30㌔圏内で「緊急時避難準備区域」にされている南相馬市の畜産農家は、「牛は、1カ月は水だけでも生き抜くが、それを過ぎるとバタバタと死んでいく。丹精込めて育てた牛たちを見殺しにするほどつらいものはない。政府や役人には、その気持ちはわからないだろう」と怒りをかみしめるように語った。
 この家でも、エサ不足ですでに乳牛1頭が死に他の牛も次次に衰弱しているが、県の家畜保健所は従来通りの死骸の処理業務を拒否し、「敷地内に自分で1㍍50㌢程度の穴を掘って埋めろ」と指示している。「農家への対応はすべて“自己責任”。BSE問題であれだけ騒いで、郡山の家畜保険所に搬送して、検疫した後に青森県の処分場に埋めることが義務付けられていたが、今回はそれも反故にした。そのうえ“世話もするな”“出て行け”というのなら、全頭いますぐ国が買い上げるべきだ」と怒りを込めた。
 また、「県がやっているのは、死んだ牛に石灰をまいてビニールシートをかぶせるだけ。野に放たれた牛を追い立てて牛舎に戻すことは、役人や獣医にできるわけがない。最近は、個人の肥育農家は赤字がかさんでやっていけなくなり、農業法人や商社のインテグレーション(生産加工、販売、流通までの一貫経営体制)に参画し、1家で100頭以上の牛を預かって育てている農家もある。通常の農家でも2、30頭はいる。死んだ直後なら重機でつり上げて埋葬することもできるが、腐った牛の死骸だらけで放置されるとどうしようもなく、牛舎も使い物にならなくなる。殺処分するのならどうして埋葬までやらないのか。もう二度と農家が戻れなくさせるつもりではないか」と指摘する。
 「南相馬市や浪江町は原発交付金は一銭ももらっていないのに被害だけは被っている。牛乳も国が出荷停止した期間だけは補償されたが、その間の“風評”被害で出荷できなかった10日間の代金は補償から外された。子牛も5月に競りに出すが、30㌔圏内にいるというだけで放射能測定(スクリーニング)が義務づけられ、全農からは“よく水洗いをしておけ”と呑気な指示がきている。このあたりでは“屋内退避”になったとたんにJAも営業をやめて、職員もいなくなった。JAバンクの預金を解約しても、手続きを意図的に停めて振り込まれない。おそらく資金繰りに困った農家が一斉に農協から金を引き出しているのだと思う。月末に入り、経費の集金だけは待ったなしに迫ってくる。農家にとっては一日の猶予も許されない状況だ」と実情を話した。
 「山間部の多いこの地域では、国の減反政策のなかで、田を牧草地に変えることで飼料を自給自足し、畜産業が成り立つ条件になってきた。放射能汚染で植え付けや農作業が禁止されており、このままではすべての農業がつぶれてしまう」「自分たちは土地を離れて生活はできない。放射能汚染には、菜種やひまわりの栽培で浄化されるともいわれているが、国がいち早く対策を講じて何年かかってでも土地を元に戻してほしい」と語られている。

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