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チェルノブイリ事故上回る危険 最悪の事態想定し対策とれ

 東日本大地震に端を発した原発災害は、時間とともに深刻度を増している。林立した原発が次次に異常事態に陥り、爆発や炎上が連鎖的に起きている。さらに、複数の原子炉が制御不能となり、格納容器の破裂によって高濃度の放射能がまき散らされ、全国へ拡散している。それは地震と津波ですべてを失い、逃げることもできない被災地の人人を危機にさらすだけでなく、東日本をはじめ日本全国の運命と関わるものであり、世界的災害に発展する極めて深刻な事態となっている。だが、日本政府やマスコミからは、「たいしたことはない」との説明のみで、次次に起こる災害に備えるための情報がまったく示されない。起こりうる最大被害の可能性を明らかにし、その対策をとることが急務となっている。
 福島第1、第2原発(東京電力)は、冷却機能が喪失したことによって加速度的に事態を悪化させている。
 原子炉を停止する場合、炉内の核分裂反応を抑制するために「制御棒」が挿入されるが、核燃料棒内では崩壊熱がつづくため高い熱を発する。そのため、炉内に冷却水を循環させて冷やし続けなければならない。
 だが、11日の地震では、10基のうち、原子炉内の温度も圧力も低く安定した「冷温停止」が確認されたのは福島第2原発の3号機だけ。定期検査のため停止中だった4、5、6号機を除き、残り6基は炉心を冷やすすべがなく、政府は史上初となる緊急事態宣言を発令した。
 はじめに福島第1原発の2号機(46万㌔㍗)で冷却機能が喪失し、燃料棒が冷却水から露出した。炉内の気圧を下げるため炉内の気体(放射能を含む)を放出する弁を開くと同時に、炉心を冷却するための海水を注入。だが原子炉建屋が水素爆発で吹き飛んだ。政府も東電も「炉心を覆う格納容器は無傷」と報告した。
 つづいて3号機(78・4万㌔㍗)が炎と黒煙を上げて爆発。1号機と同じく原子炉建屋が崩壊した。爆発によって給水作業員11人が負傷し、そのうち6人から放射性物質の付着が確認され、東電社員2人が行方不明となっている。
 その後、海水注入とともに、格納容器の弁を開けて炉内の蒸気を放出。ここで使用されているプルサーマル用MOX燃料(再処理された使用済み核燃料)は、通常のウラン燃料よりも高熱で放射能も多く、プルトニウムや超ウラン核種を多量に含んでいる。
 そして今度は2号機の圧力容器内の水位が下がり、水に浸かっていなければいけない燃料棒が数時間にわたって完全に露出。そのままでは核燃料(ウランやプルトニウムを含む固体)が高温になり、覆っている合金被覆管を溶かし、2700度まで達すると核燃料そのものが溶け始める。
 これを放置すると大量の中性子が炉内に充満し、止まっていた核分裂反応がふたたびおこる「再臨界」(核爆発)に達する可能性がある。これは格納容器どころか周辺のすべてを吹き飛ばし、炉内にたまった放射性物質を広範囲にまき散らすことになる。
 また、溶けた核燃料が落下すると、鋼鉄製の圧力容器を突き破る。それが格納容器に溜まった水に落ちれば、水蒸気爆発をおこし、格納容器そのものを吹き飛ばすことも考えられる。いずれもチェルノブイリと同じ最悪のシナリオだ。
 放出弁も開かず危機的になった2号機では、これまで水などのフィルターにかけて放出していた炉内の気体を、フィルターを通さず直に外気へ放出し始めた。さらに2号機は、15日朝、爆発とともに格納容器の壁の一部が破損、高濃度の放射能物質が大量に放出された。この時点で、政府や東電が「制御できている」と主張してきた「閉じ込める」機能は完全に崩れた。
 その後、福島第1原発周辺では、一般人が1年に浴びる基準値の400倍にあたる放射線量を計測。東電は現地所長判断で直接作業に関わる作業員(50人程度)を除く、すべての職員を現場から退避させた。
 また、地震時には定期点検中で停止中だったはずの4号機(78・5㌔㍗)の使用済み核燃料プールの水位が低下し、高温の燃料棒が露出。発生した水素が爆発し、火災となった。数十年分の使用済み核燃料が保管されたこのプールはそれぞれの原子炉建屋内にあり、建屋外壁が吹き飛んでいる1号機、3号機も危険な状態にある。
 福島原発周辺の放射能は上昇しつづけ、すでに仙台、茨城、千葉、東京でも通常値の数倍の放射線量が測定された。放射線量が致死量を超えれば、冷却作業中の作業員も全員退避せざるを得ず、複数の原発が制御できぬまま放置され暴走する。史上かつてない大災害へと突入する可能性が高まっている。

 300㌔圏内が高汚染地域  チェルノブイリ事故

 史上最悪とされるチェルノブイリ原発事故は、保守点検中の原子炉で実験中に原子炉が制御不能となり、炉心が溶融、核爆発へとつながった。
 4基の原発のうち爆発したのは4号炉(出力100万㌔㍗)で、広島型原爆のおよそ500倍の放射能物質がまき散らされた。直接の死亡者は作業員・救助隊員の数十名だが、ガンなどの疾病を含めるとその数は数十万とも数百万ともいわれる。福島原発で緊急事態となった6基の出力エネルギーは533万㌔㍗であり、チェルノブイリ原発の五倍に相当する。今回、炉心溶融がはじまっている福島第1原発2号機(78・4万㌔ワット)、3号機(同)の2基だけでもチェルノブイリ原発を上回り、これが溶融、爆発すればチェルノブイリ以上の被害を考えざるを得ない。
 チェルノブイリ事故では、原発から30㌔圏内から住民約13万5000人と何十万頭という家畜が避難し、25年たったいまでも居住禁止区域になっている。3年後には、さらに300㌔も離れた地域に高汚染地域が広がっていることが明らかになり、11万人が移住した。放射能汚染で500を超える町や村がゴーストタウンとなり、約40万人が故郷を失った。
 また、原発から放出されたヨウ素131による甲状腺ガンが急増。とくに子どもの発生率が大人の100倍も高い。原発から100㌔以上離れているベラルーシ南部のゴメリ州でも、91年以降に世界平均の100倍をこえる発生率となった。同州では今も、汚染された6000平方㌔で住むことも農作物をつくることもできない状態が続いている。
 さらに、セシウム137による被曝はより深刻。放射能量が半減するまでの期間(半減期)が30年と長く、遠くまで飛び、食物にもとりこまれやすい。汚染された大地で育った野菜や植物は根からセシウムを吸い上げ、根や葉に凝縮される。それを人間や家畜が食べると体内に蓄積され内部被曝をもたらす。とくに女性の場合、卵巣に蓄積されやすく、生まれてくる子どもにも深刻な影響を与えるという。
 このセシウムは、現地から600㌔離れた地域でも多量に検出され、さらには数週間でヨーロッパ各地へ広がり、一カ月後には北半球のほぼ全域で観測された。約8000㌔離れた日本でも、雨水から放射能が観測され、その後野菜・水・母乳から検出されている。
 さらに強力なストロンチウム90の半減期は28年、プルトニウム239に至っては2万4100年である。これらが人体に付着、吸収されれば、細胞や血液中の遺伝子が破壊されてガンや白血病を発病し、土壌や地下水脈に吸収されれば、半永久的に居住も立ち入りもできなくなる。
 長年にわたる放射能の目に見えない影響に対する精神的苦痛に加え、子子孫孫にまで影響する健康被害は25年たった今でも重大な問題となっている。
 チェルノブイリ事故の汚染距離を福島原発にあてはめると、高汚染地域の300㌔圏内には福島、宮城、岩手、山形、秋田、新潟、茨城、群馬、栃木、埼玉、さらに東京、神奈川に至る首都圏も含まれる。600㌔圏内になれば、北は北海道、西は京都までの東日本全体に放射性物質が拡散することになる。
 この未曾有の事態に対して、菅政府の閣僚、官僚などは、「心配する必要はない」の態度に終始している。だが、「安心」といったと思えば爆発がおこり、「人体に影響なし」といった後に放射能数値が急激に上がる。
 そもそも国の防災対策の不備が、地震と津波の甚大な被害につながったのであり、原発災害にいたっては歴代政府が「絶対安全」とだまして推進してきた結末である。国民の生命を守るため、考えられる最大の被害を明らかにし、全国民でその危機を共有し、できる限りの対策を取らなければ政府とはいえない。
 各国政府やメディアの動きは事態の深刻さを物語っている。米国務省は、すでに在日大使館業務を東京から他の場所へ移管させ、自国民には日本への渡航自粛を要請。在日フランス大使館は、首都圏のフランス人に関東平野を離れるよう勧告した。
 チェルノブイリを経験したロシアは最も神経をとがらせ、各メディアは原発問題を大きく報道している。「日本政府からの信頼できる情報が少なすぎる」との声が強く、放射能汚染がロシア極東地域にまで広がる危機感が国内に広がっている。
 カナダ政府は、東北地方や首都圏への立ち入り自粛を勧告し、イギリスやドイツ外務省も、在留自国民に対して被災地からの避難、首都圏でも滞在の是非を検討するよう求めている。
 このなかで日本政府の統治能力のなさ、政府としての社会的責任がまるでない姿が浮き彫りになっている。公的企業である東電、政府見解を追認するだけのマスコミや御用学者も同様で、わがこととして心配している全国の人人の感情とは明らかに別世界である。

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